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17.魔法学校の入学準備

「それで、お父様、何かあったのですか?」


 宿に戻った私達はとりあえず遅めの昼食を食べ、部屋で話すことにした。帰り道、お父様はずっと何か考え事をしている様子で口を開かなかったので、部屋に戻ってすぐ私はお父様に尋ねた。


「ああ、実はヴェルギリウス公爵に紹介状を書いてもらうにあたって一つ条件を出されたのだ。…帰ったら母さんとも相談するが、後はアイン次第だな」


「その条件とは何なのです?」


 条件の内容がわからなければ当然話は進まない。私次第ということは私にも関係のある事なのだろう。


「公爵は次の年の入学前に行われる試験を受けるように、とおっしゃった」


 え!?どういうことだろう…本来ならば私が試験を受けて学校に入学するのは二年先のはずだ。少なくとも騎士学校へはそのような予定で準備をしていたのだ。


「それは魔法学校は騎士学校と違って6歳で入学するという事でしょうか?」


 お父様?と私が尋ねると、お父様は否と首を振った。


「魔法学校も騎士学校と同じで皆7歳で入学するはずだ。ただヴェルギリウス公爵がおっしゃるにはアインには特例で一年早く魔法学校に行くように、と。もちろん試験で入学するための実力が認められなければ、さらに一年勉強して再度試験を受けてもらうとおっしゃっておられたが…今のままでも十分に入学は可能だろうとも言っておられた」


 なんと!私にとっては早く魔法の研究ができるので願ったり叶ったりではあるが…お父様やお母様の都合はどうなのだろう。


「お父様、私は早く魔法学校に行くことは構いませんが…その、お父様やお母様にとってご迷惑になりませんか?」


 お父様は、むぅ、と言って少し考え込む。


「本音を言えば、一年も早く学校に行ってしまうのは父さんとしてはとても寂しいが…アインのためには早く魔法学校で魔法を学ぶのが良いのかもしれない。

 …わかった、母さんにはそのように話そう。だからアインは試験に受かるよう頑張って勉強しなさい」


「ヴェルギリウス公爵にも尋ねましたが試験とはどのようなものなのでしょう?お父様、騎士学校ではどのような試験なのでしょう?」


 騎士学校でも試験はあるのですよね?と私が尋ねる。


「騎士学校にも入学前に試験はある。ただ試験とは言っても体力測定のようなものと、最低限の読み書きができるかというような内容だったと思う。リヒャルトもエーリッヒも問題なかったのだからアインなら大丈夫だろう」


 それほど心配しなくていい、と笑顔で言ってくれた。試験までの期間は短いけれど魔法の研究は今まで通り続けて行って、後はこの国の常識…地理や歴史を少し見直しておけば大丈夫だろうか。全く、ヴェルギリウス所長が余計なことを最後に言うものだから…

 私達は話を終え、お父様が隣の部屋に控えていたターニャを呼んできた。


「……そういうわけだから、ターニャ。明日の朝一番で一度フェルメールに戻ることになった。楽しみにしていたところ悪いが買い物は無しだ。早速帰りの準備をしておいてくれ」


「構いませんわ、旦那様。私は今日も少し街中を見てまいりましたから」


 ターニャは私に、話がまとまってよかったですわね、と言ってくれた。



 翌日、私達は再び半日かけて馬車で家まで戻った。予定より早く戻った私達にお母様は驚いていたが、お父様が事情を話すと、アインの希望が叶ったのね、と喜んでくれた。


 お母様とターニャは私の入学まであまり日が無いこともあって急ピッチで準備を始める。新しいドレスは既に間に合っているもののそれ以外の着替えなどが足りないらしい。私はお気に入りの白衣があれば大丈夫だろうと思っていたのだが、私がそう言うとお母様にもターニャにも叱られた。


「お嬢様、いけませんよ。いくら動きやすいからといって人前であのような格好をされては。ちゃんとした服を着こなすのも貴族の務めですよ」


 そういうターニャはいつもエプロン姿なのに…解せぬ。



 一方、私は私でこそこそ街に出て、必要なインクや紙の補充をしておく。インクを入れれば使える万年筆もあるが念のためペンも少し予備を買っておく。そうして私はボルボワ商会へと向かった。


「ボルボワさん、お久しぶりです」


 私が店に入るとボルボワさんがすぐに飛んできた。


「これはこれはアインスターさん、よく来てくれました。あれから何度かオズワルトが私のところにお礼にやってきましてね。今、商人ギルドはパンの販売で大忙しなのですよ」


 相変わらずボルボワさんはニコニコとしている。私はこの街にも知り合いといえる人はボルボワさんくらいしかいないのだ。


「それでアインスターさん、今日はどのようなご用件で?」


「実は私、次の年から王都の魔法学校に行くかもしれないのです。ボルボワさんは知り合いに王都で商人をやっている方などいらっしゃいませんか?いたら教えてほしいのです」


 ボルボワさんの紹介ならそれほど悪い人もいないだろう、と思った私は王都の商人を紹介してほしいと

頼みに来たのだ。


「なんでも魔法師は杖などを使うらしく魔法学校に入学した生徒は親から必要なものを譲られるそうなのですが、私のお父様は王国騎士でしょう?魔法の事はよくわからないと思うのです。ですから王都に行ってから一通り必要なものを揃えようと思うのですが…」


 私が尋ねるとボルボワさんは驚いたような表情で、そうでしたか…それは残念ですなぁ、と寂しそうに言った。


「アインスターさんが王都に行くのはもう少し先かと思っておりましたが…商人ギルドのオズワルトもアインスターさんにもう一度話を聞きたいと、先日から申しておりましたからなぁ…いや、それはまあどうでもよいことでしたな」


 ほほほ、と商人の顔に戻ったボルボワさんが話を続ける。


「実は私の息子が王都で武器の販売をしておりまして、いやちょうど良かった、私の方からも連絡をしておきますので何卒ご贔屓にしてやって下さい」


 ボルボワさんの息子さんはダニエルさんというらしい。フェルメールの街で服飾業に成功したボルボワさんは王都にも店舗を広げるべく支店を作って息子のダニエルさんに任せた。王都では騎士や冒険者が多く、それら向けの防具の販売から武器の販売まで始めたところ、今ではそちらの方が主となっているようだった。


「王都の冒険者ギルドのすぐ近くにありますので場所はすぐにわかると思います」


 そう言ってボルボワさんは簡単な地図を書いてくれる。受け取った私はお礼を言って店を後にした。



 急ぎの準備が一通り終わった頃、学校が休みの期間に入りお兄様達も再び我が家に帰ってきた。


「いやぁ、家に帰ってくるたびアインには驚かされるなぁ…」


 肩を竦めてリヒャルトお兄様が呟く。


「どうせなら騎士学校に入学する事になれば、一年間だけでも一緒に学校に通えるんだけどね」


 次の年の終わりに卒業を迎えるリヒャルトお兄様が残念そうに微笑む。


「リヒャルトお兄様、アインが騎士学校に来たら私は妹より弱い兄ということで面目が立ちません。アインが魔法学校に行くことになって本当に良かったと私は思っているのですよ」


 あはは、とエーリッヒお兄様が笑いながら私の魔法学校行きを喜んでくれた。そしてお兄様達と入れ替わりに私は試験のために再び王都に向かうのであった。

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