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15.王都へ行く

 お父様が王都へ行く日がやってきた。私とターニャも一緒に馬車に乗り込む。王都までの道のりは長いが、お父様もターニャも馬車の揺れは平気なようで、私だけズルして魔法でお尻の下にクッションを敷く。


「ターニャは王都へ行ったことはあるのですか?」


 私が訪ねるとターニャは首を縦に振った。


「ええ、お嬢様。何度か旦那様とご一緒させて頂きました。王都には素敵なお店もたくさんございますわよ。面会が終わったら一緒に買い物をいたしましょう。あら、でも王都にはフェルメールのような美味しいパンはないかもしれませんね」


 うふふ、とターニャが笑う。そう、フェルメールの街ではパン職人さん達が頑張ったおかげで、街中にも美味しいパンが溢れるようになっていた。今ではちょっとした名物になっていて、よその街からもパン目当てで訪れる人がたくさんいるらしい。


「パンがないのは残念ですね、でも買い物は楽しみです」


 王都に着いたらお父様はお仕事に出かけ、私達は宿に泊まる。そして次の日にお父様の上司の方と面会する予定になっている。面会が終わるとお父様はまたお仕事があるので私達は宿に泊まり、お父様の仕事が終わるのを待って一緒に帰ることになっていた。


「お父様、お会いする上司の方というのはどのような方なのですか?」


「ああ、ギルベルト団長はうちの騎士団の団長でな、ハインリヒ公爵家の若い当主様だ」


 ハインリヒ公爵家は代々騎士の家系でちょうど数年前に代替わりしたばかりだということだった。代替わりに際して主に東部国境付近の防衛にあたる第十三騎士団が新設されその団長に抜擢された。そのギルベルト団長によってお父様も小隊長に任命されたのだそうだ。


 新設された第十三かん、いや騎士団…お父様、凄いじゃないですか!この世界にアニメが無いのが残念でならない。この喜びが誰にも伝わらないではないか…

 一人でにへらと頬を緩めているとお父様が不思議そうに私の顔を覗き込んできた。


「大丈夫か?アイン。その、ギルベルト団長は部下にも気さくな方だから心配しなくても大丈夫だぞ」


「はい…公爵様とはずいぶん偉い方なのですね」


 確か私の住むフェルメールの街の領主様でも侯爵だったような気がする。公爵はそれよりも爵位が上なのだ。緊張はするがもしも公爵様が東洋系の黒髪で若く、少しぼんやりとした人だったらきっと私の腹筋は崩壊するに違いない。


「王都に着くまでまだだいぶ時間があるから、ゆっくり休んでいなさい」


 馬車の揺れは魔法のクッションのおかげで心地よく、私はいつの間にか眠っていた。



 目が覚めると、ちょうど遠くに王都が見え始めた。


「ターニャ、あれが王都かしら?」


「そのようですね、お嬢様。ずいぶんぐっすりとお休みになられて…お嬢様は馬車の揺れは平気なのですね」


 よかったです、というターニャに、私はへへっと曖昧な笑みを浮かべて王都の入口に目を向ける。やはりフェルメールの街と同様に周りをぐるり壁で覆っている。


「フェルメールから三名ですね、ようこそ王都へ。どうぞごゆっくり」


 私達は街に入るための簡単な手続きを終え宿に向かう。


「お父様?ここは下町でしょうか。やはりフェルメールよりも人が多いですね」


 街には市場のような露店が並び、たくさんの人で賑わっていた。


「もう少し行った先に宿がある。父さんは宿に着いたら王宮へ向かうからアイン達は今日はゆっくり休んでいるといい。宿の近くには冒険者ギルドもあるから中には物騒なのもいる。外に出る時は気を付けるんだぞ」


 ターニャ、頼んだぞ、とお父様が念を押す。冒険者ギルドか…私は冒険者ギルドには関わらないでおこうと決めている。変なフラグは立てないに越したことは無い。それでなくともフェルメールの街では商人ギルドと関係を持ってしまった。冒険者ギルドには絶対に近寄らない。


 そうこうしているうちに宿に着く。宿に泊まる手続きを済ませ、お父様はお仕事に行ってしまった。騎士団の本部は王宮に隣接しており、そこに顔を出すようだ。


「お嬢様、お腹がすきましたでしょう?少し早いですけれど夕飯にいたしましょうか」


 そういえばもう夕方だというのに朝から何も食べていなかった。お父様とターニャは私が寝ている間にお弁当を食べたらしい。


「そう言われればお腹がすきました。夕ご飯を先に食べましょう」


 宿の一階は食堂になっており、私達はそこで食事をとることにした。出てきた料理はフェルメールの食堂とあまり変わりはないが少し値段が高い。久しぶりに食べたカチカチパンにちょっと懐かしさを覚えながら私達は部屋に入った。


 明日はお父様の上司のハインリヒ公爵と面会があるため、ターニャは私のドレスを整えるのに忙しく、私は一人で持ってきた魔法の研究ノートに目を通す。魔法学校に入学したいという熱意を伝えるため、ノートの一部を持ってきたのだ。

 こうやって纏めたものを見返してみると結構たくさんの魔法陣を書き留めたものだと改めて思う。規模や範囲が違うだけのものもたくさんあるので魔法の種類はそれほど多くないかもしれないがそのおかげで魔法陣に書かれた文字や記号もだいぶ読めるようになってきた。


 でもほとんどが私のオリジナルなんだよな…


 最初に魔法の本に書かれていた魔法陣を覚えて以来、既存の魔法陣を覚えることはしていない。資料が少ないのもあるが、長い呪文を唱えないといけないために面倒なのだ。

 それに既存の魔法陣に書かれた内容は例えば火の魔法であっても私の使うファイアーなどの魔法のものと全く違っていて未だに読解が困難なのだ。魔法学校に行ったら覚えなくちゃいけないんだろうなぁ…


「…イン。……アイン!」


 ふわっ!あっ、お父様だ。


「アイン!ずいぶんと熱中しているようだが…」


 いつの間にかお父様が宿に戻ってきていた。ターニャもすっかり明日の準備を終えているようだ。


「すいません、お父様。明日の準備をしておりました」


「うむ、明日は予定通り面会してくれるそうだ。朝一緒に王宮へ行くぞ」


 だから今日はもう休みなさい、とお父様に言われ私は散らばったノートを片付け始めた。



 翌朝、私とお父様で王宮に向かう。ターニャに手伝ってもらって着替えを終え、私とお父様は馬車に乗り込んだ。王宮は貴族街を抜けた先にあり少し遠いし、私のこの恰好では非常に歩きにくいのだ。


「やっぱりアインには紅い服が良く似合うな」


 お父様が満足そうに頷く。ターニャも、とってもお綺麗ですよ、と私を見送ってくれた。


 王都の貴族街はフェルメールのそれと比べるととても広い。貴族の数が多いのだろう。お父様達王国騎士の宿舎もこの貴族街にあり、普段はそこに泊まるらしい。

 貴族街を抜けると王宮が見えてきた。私は王宮というからソフトクリームのような建物を想像していたが実際は奥に四角い城が建っておりその前に三階建てのアパートのような建物が二つ並んでいるのだった。それらをぐるり城壁が囲む。


「さあ、着いたぞ」


 お父様に促されて手前の建物の一つに入る。ここが騎士団の本部らしい。外見こそ簡素な四角い建物だったが、中はそれなりに煌びやかな造りになっていた。私達は階段を上がって三階に向かう。


 一階は仕切りの無いオープンスペースになっており、騎士たちはここに集まるようだ。二階には会議室のような部屋がいくつかあり、私達が向かう三階は各団長の個室になっている。一番奥の部屋がギルベルト団長の部屋らしい。第十三騎士団とドアにプレートが掛けられていた。

 お父様がドアをノックして中に入る。私も緊張しながら後に続いた。

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