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私、引き籠って研究がしたいだけなんです!  作者: 浅田 千恋
第五章 神聖ギュスターブ帝国
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95.魔法船団攻略戦

 六隻の鉄鋼船、その一つに甲板でデスサイズを振るうシズクさんの姿があった。敵の魔法師が放つ魔法をするりと躱すシズクさん、その仮面の下の顔は笑っている。


「ヴェル様、皆の様子はどうですか? 変わりはありませんか?」


 私の問いにヴェル様が頷きを一つ。


「其方の小隊は相変わらず化物染みているな。あそこに見える大砲の一つがシズクによって瞬く間に破壊された。あれには魔法障壁が刻まれていると思ったが、彼女のあの武器はどうなっている? 特殊な魔法でも仕込んであるのか?」


 それは…… ただの力です、ヴェル様。多分シズクさんは力任せに殴っただけだ。まあ、その力が尋常じゃないんだけど。それに私の小隊を化物扱いしてるけど、大隊長はヴェル様だよ。


「シズクさんは先程も何故か船の一番高いところで佇んでいましたから大丈夫だとは思いましたけど、船に乗り込めたのなら安心です。おっと、ベンジャミンさんの方も派手にやってますね」


 むしろ攻撃魔法を使用しないシズクさんの方が戦況は地味と言えた。だがそのシズクさんも既に姿が見えない。心臓部の魔法陣を破壊する為に船の奥へと潜ったのだろう。船の上で敵兵士を蹴散らしているのは専らナイトハルトさんとジャンヌさん、第八小隊の剣士二人だ。


「……あれも、其方の指示か?」


 あれ、とはおそらくベンジャミンさんの事だろう。ベンジャミンさんのチームには遠距離魔法を得意とする者を集めた。その為甲板の上には炎の魔法が雨の様に降り注いでいた。その雨の中を弾丸の様に飛ぶジョバンニさん…… いや、本当に飛んでるよ、あの人!


「あ、あんな戦い方は指示してません。何ですか! 何でベンジャミンさんがジョバンニさんを投げ飛ばしているのですか!」


 それはまるで人間大砲だった。ベンジャミンさんがジョバンニさんの足を掴んで力いっぱい投げ飛ばす。ジャイアントスイングだ。そして飛ばされたジョバンニさんが四方に魔法を放つ。おそらくその瞳には涙が溢れている事だろう。


「アインスターよ、その、ジョバンニは大丈夫か? あれも一応は鉄道計画の重役を担っているのであろう。程々にしてやった方がいいのではないか?」


 だから私の指示じゃありませんって、ヴェル様! そうして私達がその珍妙だが息の合った戦い方に注目していると、その隣、シズクさんの乗り込んだ船がぐらりとその重厚な巨体を傾げた。


「シズクさん、上手くいったようですね」


 魔法による船体の維持が出来なくなった鉄鋼船が沈む。一番乗りはやはりシズクさんだったか。


「ふむ、アイザックも準備が出来たようだな」


 ヴェルギリウス様の声に私も視線を動かす。並んだ二隻の鉄鋼船、それに対するアイザック先生とリチャード君達。どうやら魔法の準備が整ったようだ。


「あの魔法をリチャード君達が使えるようになるとは思いませんでした」


 私の言葉とそれは同時だった。水面に二つの真っ黒い球体が現れたかと思うと、刹那、並んだ船が同時にバランスを崩した。かつて森を一瞬にして消し去った魔法、それは奈落アビス


「先生も、そしてリチャード君達も、すっかり制御が出来ていますね。学校対抗戦で目にした時には驚きました」


 鉄鋼船の船底部を魔法陣もろともさくりとバターの様に切り取った漆黒の球体はそれ以上増殖する事は無かった。


「それでは私達も行きましょう。ヴェル様、手伝ってくれますか?」


 残る鉄鋼船は一隻、最後は私の仕事だ。


「構わぬが、何をするつもりだ?」


 ヴェル様の問いに私は魔法銃、アスラを構え、その引き金を引いた。空に閃光が走り、轟音と共に一筋の稲妻が船体を貫いた。


「ヴェル様も船に向けて魔法を放って下さい。雷魔法です」


 私は休まず引き金を引く。ヴェル様もそれに倣って引き金を引く。船には無数の落雷が降り注いだ。


「雷自体は魔法ではないから効果はある、か。だがアインスターよ、それであの船を無力化出来るものなのか?」


 無力化は出来ない。鋼鉄で覆われた船、電流はそこに流れる。航海中には落雷もあるだろうから海に電流を流す仕組みがあるかも知れない。だから電流によって危害を加える事は考えていない。鉄に電流を流す、その事に意味があるのだ。


「ヴェルギリウス様、鉄に大量の電流が流れればどうなるか。そこには磁力が生まれます。今やあの船は巨大な天然磁石なのです」


 磁石は鉄を引き寄せる。その鉄とは両側でバランスを失い沈みかけている二隻の鉄鋼船なのだ。


「……船が引き寄せられていく。なるほど、そういう事か」


 ほら、ヴェル様、手を休めないで下さい。電流を流し続けなければいけませんから。そうして私が一生懸命雷を落とし続けた船は、やがて両側の船に完全に挟まれその船体を大きく傾げた。二隻の巨大な鉄の塊、その質量とそれを海に引き込もうとする水圧をなめてはいけない。それは一隻の船の魔法力を遥かに凌駕する。


「船が沈む。見事だ」


「終わりましたね、ヴェル様。これで帝国の魔法船団は片付きました。後はラプラスさんが出来る限りの救助を行ってくれる筈。それらの処置はギルベルト様に任せましょう」


 捕虜となるのか、それはわからない。ただ生き残った兵士が多ければその後の交渉も有利に進むかもしれない。


「そうだな。敵兵の人数を考えれば私の手に余る。その為にギルベルトを連れてきたのだ。後は騎士団にやってもらおう」


 ヴェルギリウス様の言葉に私も頷き、そして空に向けて一発の閃光弾を放つ。それが戦い終了の合図だった。



「……アインに一隻取られた」


 戦闘が終わって真っ先に戻って来たシズクさんがそう言って口を尖らせる。いつの間にかゆらりと姿を見せたシズクさんの動きは最早私の目では追えなかった。まるで忍者のそれだ。


「シズクさん、ご苦労様でした。魔法船団を一番早く沈めたのはシズクさんでしたよ、流石です」


「……うん」


 それにはシズクさんも嬉しそうに頷く。そうしているうちに他の仲間も私の元に集まって来た。


「隊長、遅えじゃねえか。いつも時間厳守って言ってたのによ。こりゃもうちょっと訓練を楽にしてもらわなくちゃいけねえな」


「ベンジャミンさん、私は……」

 

「ああ、いいんだ、隊長。最後はちゃんと間に合ったんだからよ。それより祝勝会の話でもしようじゃないですか」


 ベンジャミンさんが笑い、小隊の皆も笑顔で頷く。きっと皆は私がギュスターブ帝国に投降しようとしていた事を知っていた筈だ。だから私に先駆けて戦闘を開始していたのだ。それなのに何でも無かった様に、いつも通りに振舞ってくれる。その事が嬉しかった。


「アインスター君、いい仲間じゃないですか」


「はい、アイザック先生。先生もありがとうございました」


「なに、お互い様ですよ。私もアインスター君にはお世話になっていますからね。魔法の事を話せる相手がいないと私も寂しいですから」


 ぼんやりとした表情を変えず先生が笑う。うん、私でよければいつでも話し相手になるよ。


「それにリチャード君、コノハちゃん、ドロシーちゃん、デューク君にルートリッヒ君。みんなありがとう。みんな凄く強くなったんですね」


「私達もアインに負けていられないからね。私も、その、アインを、守るよ…… 大切なクラスメイトだから!」


 そう言って殊更クラスメイトというところを強調したリチャード君が照れた様に俯く。ありがとう、リチャード君。そう言ってもらえて嬉しいよ。そうだね、クラスメイトだからね。


「ありがとう、みんな。本当にありがとう」


 家族の皆やヴェルギリウス様だけではなかった。私にはこんなにも近くに一緒にいてくれる人達が沢山いたんだ。私が思っていたよりもその距離はずっと近かった。だから今は私も笑おう。皆が笑顔でいてくれている様に、私も笑顔を見せよう。そうやってこれからもここで暮らせていけるように。

【おまけ】


ベンジャミン「いやあ、アイン隊長が戻ってきて良かったなぁ!」


ジョバンニ「そうですね、ベンさんに任せると僕の身が持ちません……」


ナイトハルト「あはは、アインちゃんなら大丈夫だと思ったよ」


シズク「……アイン、早く、試合」


アイン「皆さん、すみませんでした」


ロンダーク「隊長にはこれからも指揮を執ってもらわねば困る」


「「「ロンダーク(さん)が喋った!?」」」


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次回は2月7日17:00更新です。

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― 新着の感想 ―
[一言] アインが戻ってくれてホッとしました。
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