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第七話

 レベル上げが始まった。

 相手は、二体の岩蜥蜴だ。

 岩蜥蜴は確かに強そうだし、目の前に立つと冷や汗が流れるくらいに緊張させられる。ピルバットと同じくらいに、俺はこいつに危機感を抱いている。しかし、先ほどカブトムシが一撃で沈めていたところを見ているし、俺も危機感を抱いていたピルバットを無事に倒せた。怖いけれど案外戦うことはできるのではないかと思っている。


 最初から飛ばしすぎだとは思ったが、それでもまあ何とかなるだろうと軽く思う気持ちがあった。


 軽く思っていたからと言っても、力押しで勝てるとか、そう思っていたわけではない。岩が生えており、皮膚自体十分に硬そうに見えた。体格の大きさから言っても、力押しはまず不可能と言える。


 生前にテレビで見たワニであっても、お腹の方は柔らかそうだった。それと同じように、岩蜥蜴もお腹は柔らかいのではないかと思った。しかし、脚の短さから、お腹の方へもぐりこむ隙間はなかった。お腹を狙うのであれば、岩蜥蜴に大きく上を向かせるか、仰向けになるように転がせる必要がある。


 口の中に右手(岩)をぶち込むのも決定打になるのではないかと思った。しかし、岩を食べているということは、体内に岩が刺さっても大丈夫なように独特な進化をしているという可能性もある。リスクが高すぎる。


 俺は、転がせるために行動を開始した。

 二体の岩蜥蜴の動きに集中し、避け続ける。攻撃手段がないのだから避けるしかない。片方の岩蜥蜴が体に生えた岩を飛ばしてきた。運よく、近くにもう一体の岩蜥蜴がいたので、回り込み、盾にした。


 飛んできた岩の速度から、避けられたことが本当に運が良かったと思えるくらいだったというのに、盾となった岩蜥蜴にはそれほどダメージが入らなかったようだった。

 余裕で避けられるようになるまで、攻撃を受ける必要がある。気を付けないといけないだなんて怖がってはいたが、俺たちフロック種は岩のスペシャリストと言ってもおかしくはない。だって、岩から生まれ、岩を削って食べて、そして岩で進化をするのだから。今更、岩がぶつかるなんてことに恐れる必要などない。

 そう意気込んで、俺は真正面から受けることにした。しかし、よくよく考えてみてほしい。人間だって、ゴムを膨らませた弾を真正面から受けることに恐怖を感じるはずだ。もっと言えば、目薬だ。目薬を満足にさせないという人も多いはずだ。


 (あ、駄目だ。怖い。)

 転生してから、よく戦うことがあった。今ではその感覚に慣れることもできた。しかし、圧倒的な速さで来られるなんてことはなかった。シンスモバットであっても、俺の方が早い。岩蜥蜴の飛ばす岩は、俺よりも早いのだ。


 『何を怖がっているの?速さだけで、勝負はつかないよ。テクニックや攻撃力だって関係しているんだ。良く見て、時にはぶつかって研究しないと。君はそいつよりも器用なように見えるし、僕に着いてこれるほどの速度と忍耐力はあるんだ。ああ、そうそう。そいつの噛みつく攻撃には気を付けた方がいいと思うよ。なんせ、そいつの食べる物は岩なんだから。』

 空中に固定されているように、静かに飛んでいるカブトムシがアドバイスをくれる。


 怖いに決まっているだろう。自分よりも明らかに強そうな魔物が二体もいるのだから。それでも、俺の方が器用だという言葉には励まされた。瞬間的な速度が重要なので、忍耐力は必要なのかどうかわからない。


 (器用さ、か。右手で、飛んできた岩を弾けれたら…)

 攻撃を受け、どの攻撃を避けて、どの攻撃を弾くか見定めるのもいいな。もしも、弾き続けて、右手が壊れてしまったら最悪だ。


 「グルルルル!」

 片方の岩蜥蜴が喉を鳴らす。それと共に、体に生えた岩を飛ばして来る。大きい岩と小さい岩。数は小さい岩の方が多かった。大きい岩にぶつかる度胸はないので、それを弾くことにした。小さい岩は体で受ける。


 岩蜥蜴の方は、岩を飛ばすことしかできない。その一方で、俺は右手を自在に操ることができる。大きな岩に向かって、バレットを発動させる。右手が高速で飛んでいく。バレットを使った場合、岩蜥蜴の攻撃同様一直線にしか飛ばせない。それでも、不便だと思わせないくらいの速度が出る。

 複数の小さい岩が俺にぶつかる。衝撃は強い。たった一撃で大きく後方へ押されてしまうほどだった。 大きくといっても感覚的なもので、実際には十数センチくらいだ。それでも、構えていたおかげか転がることはなく、本当に押されたという程度だった。


 (衝撃はさすがに強いな。それでも、欠けた気はしないな。)

 右手の方も、大きな岩に打ち勝てたようで、少しも欠けたようには見えなかった。

 それでも、何度も連続で受けるわけにはいかない。


 そうしていると、背後に現れた岩蜥蜴の気配を察知した。急いで避ける。岩蜥蜴の攻撃はそれでは終わらず、尻尾で追撃してきた。岩でできたように見える尻尾はまさに鈍器のように見える。跳ねて避けて見せたが、俺の下まで来た尻尾は何の前兆もなく弾け、勢いよく飛んできた細かい岩で俺は押し飛ばされた。


 体勢を立て直し、近くまで来た岩蜥蜴の頭目掛けてバレットを発動する。空中で下部を外した。

 上部だけだと、空中を自由に飛ぶことができるのだ。フロックの頃と比べ、よりもっと下部から離れることができた。


 俺の放ったバレットによって、岩蜥蜴は地面に顎を打った。バレットで受けたダメージと地面にぶつけたダメージは思った以上に大きかったようで、フラフラとし始めた。

 しばらくの間、混乱してくれると見て、もう片方の岩蜥蜴に意識を向けた。岩を飛ばしてきていた奴なのだが、最初に仲間を盾にされたことを覚えていたのか、躊躇して撃てなかったようだ。


 転がるで岩蜥蜴に近づき、直前で飛びあがった。岩蜥蜴は目で俺を追いかけていたので、そのまま飛び上がったのに合わせて上を向いてくれた。

 その隙を見逃しはしない。いかにも柔らかそうな顎から首にかけてを狙って、バレットを発動する。実は、右手は本体から距離を置かせていたのだ。直前に飛んだことで、岩蜥蜴の視界には俺の本体しか映っておらず、右手の行方など知らないはずだ。


 チャンスなどそれほどやってくるものでもないので、全力でバレットを撃った。

 俺が地面に着地する前には、右手が岩蜥蜴の首に突き刺さった。右手を抜くと、ゴポゴポと血が噴き出る。そして、勢いよく体制をずらし、地面に倒れこんだ。


 『相手のロックゲコを倒しました。経験値を取得しました。レベルが上がりました。レベルが六になりました。』

 岩蜥蜴はロックゲコというようだ。血に濡れた右手を高速回転させ、血を振り飛ばす。もう片方のロックゲコは、頭を振り、混乱を解いたようだ。


 首であっても頑丈だと思っていたが、まさか一撃で仕留めることができるとは思ってもいなかった。しかし、全力で打っても貫くことはできなかった。


 混乱の解けたロックゲコはこちらを睨みつけていた。


 「グシャアアアッ!!」

 叫びながら、岩を飛ばしてきた。小さい岩よりも大きな岩の方が多かった。が、それ以上に危険なものがあった。背中に生えた特別大きな岩を高速で飛ばしてきたのだ。


 特大サイズの岩は、圧倒的な速度を持っており、他の岩を追い越して向かってきた。到底避けることもできないと思えなかったし、立ち向かうこともできそうにない。


 水鉄砲で攻撃してきたところに、消防車が駆けつけてホースで追い打ちをかけてきているような、それほどまでにスケールの差があるようだった。


 しかし、一瞬で目の前まで迫ってきていた岩は、これまた一瞬にして砕け散ってしまった。


 『さっきのは危なかったね!さすがにひやひやしたよ!』

 カブトムシが、特大岩を貫いて破壊したようなのだ。

 カブトムシの圧倒的な力を思い知ってしまい、唖然としている。頭で理解していたことでも、改めて身をもって知ってしまうと理解が追い付かなくなってしまう。


 『ほら、とどめをさしなよ!』

 ロックゲコの方も、自分の最強の攻撃を一瞬で散らされてしまい、呆然としてしまっていた。カブトムシの言葉で、俺の方が先に意識を取り戻し、攻撃にかかる。全力で転がり、体当たりを食らわす。いきなりの攻撃に満足に構えることもできず、体勢を崩して腹を見せてしまう。ソレを見逃さず、俺は右手で貫いた。


 『相手のロックゲコを倒しました。経験値を取得しました。レベルが上がりました。レベルが七になりました。』

 ロックゲコの最強を涼しい顔で上回るカブトムシの前では、全力で戦っていた俺が小さな子供のように感じ、みじめに感じてしまった。


 『初めて自分と同等の魔物と戦ったのにあっさり勝てちゃったね!もっと苦戦するかと思っていたのに、戦いの才能があるのかもしれないね!それじゃあ、もっと戦ってレベルお上げよっか!』

 そういって、また洞窟内の来た道を戻っていく。

 それを追いかけるために、急いでロックゲコ二体分の体を食べた。


 次に現れたのは、ごつごつと厳つくなったフロックの上位互換だ。その姿に俺は唖然としてしまった。 足が生えていたのだ。足と言っても、下部の下にいくつかの岩が生えているだけなのだが、あのスライムの岩版のような姿から大きく進化しているのだ。


 スローックは腕が、こいつには足が、そういう進化の分岐だったのかもしれない。数秒間だけ、夢中になってその姿を見た。


 脚が生えているからと言っても、今回は一体なので、落ち着いて相手の動きを観察することができる。

 多分、このフロックの上位互換こそが、俺のなるべき進化だったのかもしれない。もう遅い話ではあるが、こいつかスローックか、どちらに進化した方がよかったのか見定めようと思う。いや、どちらかが劣っているとかそういうわけではないのだが、ただ純粋に同じフロックからなったもの同士だ。いろいろ気になることがあるのだ。


 フロックの上位互換、これからはビッグフロックと呼んでおくか。事実、フロックや俺よりも少し大きいわけだしな。


 ビッグフロックは、その巨体からは想像もつかないくらいの跳躍で距離を詰めてきた。大きめの岩が自分で跳躍することに対しての驚きは、一切としてないのだが、その距離には驚かされる。


 地面に着地する瞬間、上部が回転して右横へと飛んでいく。その上部は高速で回転しながら壁にぶつかり、砕けた岩がその衝撃で飛んでくる。しかし、その岩はロックゲコの攻撃程の威力がないように窺えたので、右手を高速で回転させて、俺の方まで来た物を弾き飛ばしていく。


 さすがにこんなものを攻撃として行ったとは思えない。何か意図があるはずだ。そう思い、ビッグフロックの姿を凝視する。

 俺の想像していた通りで、さっき壁にぶつかったのには別の意味があったようだった。壁にぶつかって砕くのではなく、器用に刃の部分のみをぶつけ、大きな岩を削り出していたのだった。


 (岩が大きいからと言っても、どう使うかで効果は変わるはずだ。投擲が使えるようなサイズにも見えないし、ただ押すだけとも思えない。どう動くんだ?)

 警戒していると、ビッグフロックの上部は、地面に着地してあった下部と重なり、上下揃った状態でその岩に噛みついた。

 行動こそ隙だらけなのだが、壁を削るほどの歯の頑丈さを目の当たりにすると、仕掛けることに躊躇してしまった。


 ビッグフロックに噛みつかれた岩は、一瞬で砕け散り、消え去ってしまった。食べたということは一目でわかるのだが、サイズがサイズだ。呆気にとられてしまう。


 進化ひとつでこんなに変わるものなのかと、驚きが隠せない。


 (どう仕掛けようか。明らかにフロックよりも頑丈になっているはずだし、頑丈さが取り柄の物質系というやつだ。動物ではないから、柔らかいところなんてものもない。)

 フロックの弱点と言えば、上部の裏に露出してある魔石だ。フロックマスターである俺に間違いはない。しかし、そこを狙うにしても、あの頑丈な歯が邪魔だ。久しぶりに投擲を使ってみるか?


 そう思い、俺もビッグフロックと同じく壁に体当たりをする。そして削れた中くらいの岩を頭突きで跳ねさせて、縦に回転するその勢いで飛ばしてみた。


 当たるかとそう思った時、ビッグフロックはこちらを向いて、口を開けていた。


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