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第五話

編集しました。

誤字修正を行いました。

(無視→虫、見つけ安い→見つけ易い)

行間を開けました。


 ピルバットとの戦いが終わり、進化を果たし、押し寄せる魔物たちも無事やり過ごせた。それから、俺はまた洞窟内を探索していた。


 変なことに、あれ以来戦いというもの自体が一切なくなっていた。

洞窟内を移動しては、岩を食べ、移動しては岩を食べを繰り返していた。


 そんなある時、洞窟内では聞きなれない不快な音が聞こえてきた。耳の近くをハエやハチが飛んでいたりする時に聞こえる羽音のような音だ。


 ブーーンと、太めの羽音を響かせながら音がだんだんと近づいてくる。


 (ひいいいい!!俺、虫はそこまで好きじゃないんだよな!!こないでくれ!!)

 道の隅っこの方へ行って、壁や地面の岩と同化する。音が過ぎあるのを待つ。


 すぐ近くを音が通り過ぎていく。見てはいないが感覚からいって、その羽音の正体はそれなりに大きい。音が通り過ぎて行ったのを確認してから、通って行った方向を見てみた。


 洞窟内なので暗いのは当然だが、今さらながら言うが、もう目が慣れている。

 薄らと発光した昆虫が空を飛んでいた。シンスモバットの急降下してきた時くらいの速度で飛んでいた。


 (カナブンか?クワガタっぽいし、カブトムシっぽくもある。うーん。カブトムシは好きだ。どこに向かってるのか気になるし、こっそり追いかけてみるか。)

 そもそも、洞窟内にあんな虫がいるのもおかしいし、あんなに目立つ生き物がいたらもっと昔に見つけられていた筈だ。そんなに昔からいたわけじゃないけどな。


 右腕を空中に浮かせたまま、それを連れて転がるをして追いかける。進化しようとしまいと、これが俺のできる一番早い移動方法だからだ。それに、これを使わなければ、まともに追いかけられるとは思えなかった。


 しばらく一定の距離を保ちながら、光る虫を追いかけていると、地下へと続く階段を見つけてしまった。


 (…あれ?あっさり見つかっちゃったぞ?)

 洞窟内を探索することの意味もまだ見いだせていなかったが、次の階層へ行ける階段を見つけてしまったので、とりあえず探索を続行するとしよう。


 階段を下りるかどうか迷っている間に虫を見逃してしまった。光っていたので見つけ易いだろうと思って追い続けていたが、発光のオンとオフは自分の意思でできる物だったようで、突然光を消して飛んでいた。といっても、暗闇に目が慣れていた俺には追うことくらい簡単だったんだけどな。

 

 (さて。階段を下りるか下りないか。先に見つけた方に進むって言ってたような気もするから、進むべきなんだろうけど、この下の魔物がさらに強くてピルバット以上の奴がうじゃうじゃいたら、流石に太刀打ちできない。)

 かといって、戦う意思のない、純粋無垢に岩を食べているフロックを襲う気も起きない。


 (よし、進むか。)

 探索の目的はないが、強くなることと、洞窟の奥に何かがあることを信じて進もうと思う。


 幸いにも、階段の一段一段の幅が広かったので、ピョンピョン跳ねながら下りて行った。もし幅がせまかったらすぐに足を滑らせて、セルフジェットコースターを嗜む羽目になっていた。階段が怖い。


 無事に下の階に到着できた。

 階段を下りた先で、すぐに立ち止まり、洞窟内を見回してみた。


 上の階よりも道幅が広いと感じた程度で、他に変わったところが見受けられなかった。

 あ、フロックがいないのか。何か物足りないなと思っていたが、ようやくその原因が判明した。

 

 (なんか、緊張するな。)

 学校で、上級生の階に来てしまった時と同じような気分だ。心臓がないのでバクバクいうものがないが、俺の頭の中では確かに鼓動が早くなっている。


 勇気を振り絞り、一歩踏み出してみると、案外簡単に進むことができた。緊張していたとか言っていたが、実はそんなにしていなかったのかもしれない。もとより、右も左もわからない洞窟に生まれたのだ。 一階下へ行ったからといってどうだという話なのだ。


 コロコロ転がりながら、二階層目の探索を開始する。

 とりあえず、目標は新しい魔物だ。

 

 (気が付いたら目が回らなくなってるな。成長してるってことだよな。)

 独り、気分を良くしながら洞窟内を転がっていく。


 すると、あることに気が付いた。


 (あれ、魔物が見当たらないな。五分は走ったつもりなんだけどな。)

 止まって、改めて周りを見回してみる。やはり蝙蝠一匹見当たらない。


 (変だな。敵意とかそんなものはないけど、うっすらと生き物がいる気はするんだけどな。)

 上で、嫌という程フロックと出会い、フロックを見つける技能というか生き物と岩との見分けというのか、探知能力が身についていた。フロック限定の物ではなく、生き物全体に反応するようで蝙蝠だって見ずとも見つけることができていた。ただ、広い距離にわたって効果があるわけではなく、半径一メートルから二メートルくらいまでの距離までしか効果がない。

 それでも、フロックのような岩と大して変わらないものも見つけることができるので、制度は高いと思っている。


 そんな俺の探知が、うっすらとだが生き物を探知していた。それでも、魔物を一体も目視で見つけられないでいる。違和感はあるのに見つけられない。流石に気持ち悪い。

 

 (まあ、戦わなくて済むならそれでいいけど、生き物と会わないとなんだか寂しいな。)

 

 ――ガリガリッ!ゴリゴリッ!

 岩を砕く音が聞こえてきた。俺も岩を食べる魔物なので、この音には聞き覚えがあった。

 

 ――ゴトッ!ガラガラガラ!

岩が地面に落ちるような音が聞こえる。これは、フロックと戦った時とかに耳にするし、跳ねたときなんかにも、ゴトゴトと鳴ったりする。


 (何かいるのか…?)

 音のした方へ転がって行ってみる。ばれない様に、極力音を立てないように意識してみる。ここまで魔物を探したのに見つからないということは、個々の魔物にはばれたくない理由があるのだろうと思っている。

 角を曲がってみると、大柄の蜥蜴を見つけることができた。体の色が壁の岩の色に酷似しており、壁に張り付いたら見つけるのは困難だろう。

 その蜥蜴(仮に岩蜥蜴と呼んでおく)は、壁をかじっており、ガリガリと噛み砕いて飲み込むと、尾に付いた岩や背中に生えた岩がゴロゴロと落ちているように見えた。


 大きな岩が生えている場所以外は、小さな岩がついており鱗の様になっているが、生えていない、体表が露わになっているところもある。パッと見た感じは岩が生えた硬いトカゲのようなのだが、その皮膚自体は柔らかそうだった。


 (蜥蜴か?ヤモリのようにも見えるし。大差ないか。同じ同じ。)

 角から覗き込むようにしてその様を見ている。こういった隠密のような行動も、入り組んだ洞窟故にしやすいのだ。道自体は広いくせに、アリの巣のように入り組んでいる。


 (人の体でも簡単に入れそうだな。ただ、洞窟自体が広い迷路のようになっているから、道に迷っちゃったら…。よかった。岩を食べられる体に生まれてて。)


 ――ブウウウウン!!

 虫の羽音の音だ。洞窟に現れた虫なんて一匹しか知らないし、洞窟に生息するにしては場違いすぎる。

 その羽音にびっくりした岩蜥蜴が、食事をやめた。そして音のする方に顔を向けた。


 音がしたのは、俺の後ろからだ。

 俺は確かにカブトムシが好きだ。かっこいい。小学生のような理由だが、男というのはカブトムシが好きな生き物なので仕方がない。明確な理由なんてものはなく、ただ好きなのだ。しかし、それでも俺にはどうしても苦手なところがあった。

 

 (そう!カブトムシは虫なのだ!!それも、空を飛ぶ!!羽音が嫌だ!!)

 ひえええ!と、俺は、またも洞窟の壁に擬態する。俺自体が岩だから、その場に居座るだけで擬態はできるのだが、壁に張り付いて隠れたふりをする。


 音は徐々に近づいてくる。すると、前方(岩蜥蜴)から敵意を感じた。俺に対するものではないが、感じ取れてしまった。

 どうやら岩蜥蜴は、カブトムシに威嚇しているようだ。しかし、カブトムシからはそんな敵意も何も感じ取れない。むしろ焦りのようなものが感じ取れた。

 

 (随分と気配にも敏感になったし、感情にも敏感になったな。)

 隠れて、鳥肌を立たせながら自分に感心している。

 虫の羽音は自分のすぐそばを横切った。そして、岩蜥蜴の方へ向かっていく。実力は未だ掴めていないので何とも言えないが、虫にしては大きいカブトムシと明らかに大きい岩蜥蜴では分が悪すぎる。


 『あれ?おかしいな。こっちでもないし!』

 一瞬、どこからか声が聞こえてきた。羽音で遮られたので、うっすらとしか聞き取れなかったが確かに声が聞こえた。

 

 「グルルルルルルッ!」

 岩蜥蜴が喉を鳴らす。

 動物の生態は詳しくないのだが、嫌な予感がした。

 

 「グシャアアアア!!!」

 洞窟に響きわたるほどの鳴き声を発した。ピルバットのような魔物を呼び寄せる類の物ではないことはわかった。嫌な予感もしなかったし。多分、ただの鳴き声だ。


 大きな声で鳴いたすぐあと、俺の近くに岩が飛んできた。それなりに鋭いように見える。放物線を描いて飛ぶのとは違い、真っすぐ貫くように飛んでいるので、俺でも当たったらただでは済まなそうだ。少なくとも、後方へ飛ばされそうだ。

 ちらりと見てみると、岩蜥蜴がカブトムシに向かって、体に生えたいくつもの岩を飛ばしていた。どうやら、そのうちのいくつかが俺の方にも流れてきたのだろう。


 カブトムシは見事に、それらを避ける。というか、カブトムシ側には岩蜥蜴を敵として見てすらいないようにも見てとれる。

 

 「シャアアアア!!」

 岩蜥蜴は、もう一度鳴いた。大きく口を開けたまま、カブトムシの動きを見つめている。そして、動きを読み取ったのか、口から岩の塊を飛ばした。


 岩蜥蜴は中々に頭が切れるようで、俺にはすでに、カブトムシが岩にぶつかり、地面へ落ちていくビジョンが見えていた。

 

 (うーん。ここに来る階段まで道案内してくれたから助けるというのも間違ってはないんだけど、そもそも道案内してくれたわけでもないだろうし。でも、カブトムシが一方的に殺される場面は、一人の男として見たくもないし。)

 二体が戦う場面を見て、何もせずじっとしている自分に何かを感じていた。良くわからない感情だ。助けたいとかそういう気持ちも一切ない。


 そう思っていると、カブトムシは突然光り始めた。


 『鬱陶しいな…!』

 そしてそのまま、岩蜥蜴に突撃していった。

 カブトムシは、その角で持ち上げて投げ捨てるイメージが強かった。だから、こうして二体の戦いを見ていての体格が全然違うカブトムシには勝ち目がないと思っていた。攻撃の手段がないのだから。


 しかし、よくよく見てみると、そのカブトムシは俺の知っているカブトムシとは違っていた。そもそも、カブトムシですらなかった。

 フォルムはカブトムシやクワガタムシのようなものだが、頭にある角は相手を持ち上げたりできるような物には見えなかった。それは、槍のような刃物のような鋭いもののように見えた。


 身体から光を放ちながら、カブトムシは岩蜥蜴を貫いた。それも、一度だけではなく何度も貫いていく。


 『…無駄な体力使ったじゃないか。いや、こんなことしている暇なんてなかった!』

 そう言って、カブトムシは奥の方へと飛び去って行った。

 

 …ん?

 さっき、喋らなかったか?


 ああ、勿論、岩蜥蜴の死体とその周辺に落ちてあった岩は美味しくいただきましたよ。魔石はフロックとは比べ物にならないくらいに大きかった。あくまで、フロックと比べてだが。


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