第三話
編集しました。
...を...に変えました。
行間を開けました。
岩の貯蓄量をキログラムで表すのは少なすぎる、数字で表す必要性があるのか、と思い数字を撤廃しますることにしました。
高速で飛んできた蝙蝠は、その勢いを緩めないまま突進してきた。
進化している時に繰り出して来ていたのか、蝙蝠の威圧によって、俺は身動き一つ取れないまま、その攻撃を真正面から受けることになった。
ドンッ!!
いつものことながら、衝撃はあれど痛みは一切としてない。衝撃によって後方へ吹き飛ばされる。蝙蝠が岩に突進したにしては衝撃が大きいのだが、それでもそれほどのダメージを受けた気がしなかった。
「...グフッ!なんだ、その硬さは!!」
スピードはえげつないが、攻撃力と防御力はまだそれほど高くはないのかもしれない。俺の感覚では、フロックの体当たりと同等の物だった。
(もしかして、弱い?でも、威圧感は圧倒的なものだ。まだ攻撃手段なんかには慣れれてないのかもな。今までに戦ってきた相手が、同種の柔らかい蝙蝠ばっかりだったおかげと思ったら、勝ち目はあるのかもしれないな。)
攻撃を受けたおかげか、威圧が解けている。
俺たちみたいなそれほど大きくない体の魔物からすれば、洞窟内は確かに広いが、蝙蝠が自由に飛び回るには少し狭い。そして、投擲をするにはちょうどいいくらいだ。その上、相手はフロックほど固くない。
「ッチ!まあ、攻撃はこれだけではない!」
耳を動かし、両耳を俺の方へ向けた。「キイイイイイイイン!!」甲高い音が聞こえた。しかし、岩の体に鼓膜はない。ただ五月蠅いとしか思わなかった。
「な、なんともない...だと!?」
明らかに戸惑っている様子だ。
まだ相手には、俺に人と同じ意識があって、物を考えることができるとは知られていない。それに、投擲の技も知られていない。手札はこっちの方が多いはずだ。
防御力や、状態異常に対する耐性は、相手が進化した存在だとしても負ける気はしない。と言っても、勝てる気もしなかった。
俺の本性や能力は、相手に知られていないが、それと同じくらいに俺も相手の頃を知らないのだ。それに、嫌な予感がしている。
相手の防御力の無さを信じて、攻撃に徹し、畳み掛けるか、何とか目を盗んで逃げるか。
嫌な予感はするが、心に余裕はできた。そもそも、失敗しても痛みを感じない。
「キキッ!これでお前も終わりだ!ブラッドガン!!」
蝙蝠の前方に、小さな赤い水の塊が現れた。進化した時にこいつを囲っていた赤い水に似ている。
発動させたその赤い水は、銃弾のように飛んできた。といっても、視認できるくらいの速度だ。
全力で避けようと動いたおかげて、体の端っこを掠める程度で済んだ。しかし、避けきることはできなかった。思った以上に威力があったようで、掠めた程度だったはずなのに軽く飛ばされた。赤い水で濡れてしまったところが壁にぶつかり、少し砕けてしまった。
「キキッ!どうだ!少しずれた様だが、それでもこれほどの威力だ!!」
たった一撃であっても、かける程度だったこの体を破壊されてしまった。もしも、最初の威圧で動けないときに、発動させられていたらと思うと怖くなってくる。
発動までの時間によって、攻撃手段が変わってくる。短い時間に何発も打てるとするならば、安易に近づくことができない。
「まだまだ行くぞ!!キキキッ!」
複数の弾を同時に打つことも、マシンガンの様に連続で打つこともできないようで、どちらかというとショットガンなイメージだ。
ダンッ!ダンッ!ダンッ!
二回目も、掠める程度のダメージを受けたが、それ以降はそれなりに慣れてきた。
「岩のくせに、ちょこまかと!!!」
流石に俺も攻撃しないと、単なる死にゲーになってしまう。ただ避けて死ぬ、そんな無駄死には嫌だ。
赤い水の弾、技名から血だと思われるソレを避けながら、手ごろな石を咥える。
以前にやったように、石を上に投げてそれを弾き飛ばす。しかし、その間に血の弾を撃たれては避けていた意味もなくなってしまう。そのために、避けながら弾けるように、投げる石の数を増やそうと思う。
大量の石を口に含めた時には、敵の弾丸も、最小限の動きで避けることができるようになっていた。
口に含んでいた大量の石を、空中に放り投げた。四方に飛んだ石の内のどれか一つを、蝙蝠に向かって弾いた。
そして、飛んでいた蝙蝠の体を掠めることに成功した。
「な、なんだ!?何をした!!」
少し、血の弾が早くなったと思う。それでも、気のせいかもしれないという程度の物なので、上から落ちてくる石をもう一度上へ弾いて、避け、蝙蝠の方へ弾き飛ばすという超テクニカルな動きができた。
生前よりも圧倒的に運動神経がよくなっていることなど、明白だ。
バランスを崩した蝙蝠は地面に落ちてきた。そして、それを見逃す俺ではない。
最近、転がるを使いまくっていたおかげで、体に美しい丸みが付いてきていたのだが、さっき少しだけだが砕かれてしまったので、転がるが遅くなってしまっていた。それでも、跳ねて動くよりかは転がったほうが早い。
全力で転がって行き、落ちてきた蝙蝠に体当たりを食らわしてやった。そして、弾かれた蝙蝠は洞窟の壁にぶつかり、地面に落ちた。
岩をも容易く噛み砕く俺の噛みつくで、とどめとしようか。そうして、俺は口を大きく開いた。
「キキッ!!キュァアアアアアアアア!!!!」
突然、倒れていた蝙蝠が鳴きだした。その大きく甲高い声は、洞窟内に大きく響き渡った。しかし、俺の体に異常はなかった。またもや状態異常を使ってきたのだろうか。最後のあがきだと思ったが、ダメージにはならなかったようだ。
そんな俺の余裕の表情も一瞬にして凍りついた。後方から、何やら騒々しい音が聞こえてきたのだ。その音は徐々に徐々に近づいてきているようだった。
「...キキッ!魔物を呼び寄せた!これで、お前も!...お前は、他の岩と違うようだな?単なる岩如きに石を投げる芸当ができるものか!それでもここまでだ!!」
後ろから聞こえてきた音は、魔物たちが走ってきている音だというのか。それに、さっきの声と同じくらいに、その足音は響いているし、数も馬鹿にはならないだろう。
「どのくらい集まるだろうな?キキキッ!私が死のうと、ここに集まることは確実だ!キキキッ!!」
この場所は、かなり入り組んだ先にあった。そんな場所に、全ての魔物が集まれるとは思えない。何割かは迷子になりそうだ。それに、こいつを倒せば、集まってきているのもやめるかもしれない。
そう思ったが、少なくとも後者は無いらしい。
足音は更に近づいてきていた。もう少しで、たどりついてしまう。
考えなければならない。どんな技を使って呼んだのかや、対処法を。
案外今回もいけるんじゃないかと楽観的に思う俺もいた。
進化を果たした魔物とだって戦うことができたので、俺の心には、自信が満ち溢れていた。相手の持っているスキルに不安はあったが、俺には攻撃が全然効いていなかった。それに、痛みを感じないというのも、心の余裕に繋がっているのだと思う。
騒音を立てながら、たくさんの魔物が俺の元へ向かってきている。俺を慕ってとかそういうわけではなく、敵意むき出しの状態で全力疾走してきているのだ。
それでもなお、俺には余裕があった。確かに怖いという気持ちはある。俺だって進化をしているわけではないし、戦闘能力自体に余裕もないはずだ。
「ほら。やってきたぞ!一匹二匹と、やっとここにたどり着いてきた。」
地べたに横たわった蝙蝠は、笑みを浮かべている。
やってきたのは蝙蝠だ。進化前のようなので、今目の前にいる奴よりかは弱い。蝙蝠程度に、岩よりも硬い俺に攻撃を食らわせられるはずがない。
「岩には水だよな?キキキッ!」
さらにその顔を笑みで歪ませる。
岩に水をかけたら、崩れやすくなるのは確かだ。水は、さっきこいつが使ってきた水鉄砲のように血液がある。しかし、俺の体に染み込ませて崩すほどの水なんて、用意できないんじゃないか。
とりあえず、これから集まる魔物の大群のために蝙蝠たちを倒しておくか。特に進化しているやつは倒す必要がある。
雑魚たちの攻撃は効かないも同然なので無視をする方向で、先に進化しているやつを倒すことにしよう。
そうこうしている内に、魔物の数は増えていく。蝙蝠は十匹は超えているだろう。それにフロックたちも現れ始めた。
「キキッ!あいつらに背中を向けていいのか?」
フロックの体当たりは、結構衝撃が来るが、蝙蝠たちには何も気を使う必要はない。
口を開き、噛みつこうとする。
(そういえば、肉を食うのはかなり久しぶりだな。岩の味とか何も感じなかったし、やっぱり味はないのかな。)
口を開けたまま、倒れかかるようにして、蝙蝠にかぶりつく。
「待て待て!!まあ、落ち着け!!俺はまだ死にたくない!さっき進化したばかりだぞ!?あれだ!私だったら、集まってきている魔物たちを止めることができる!私を殺したところで、集まってきているあいつらは散っていかないんだぞ!?考えろ!私を殺す必要なんてないだろ!?お前だって死にたくないはずだ!!」
よく回る舌だ。殺しにかかってきたくせに、甘えたことをいうな...。一思いに終わらせてやるか。しかし、世界は俺に厳しいようだった。
ドンッ!ベチッ!!ベチッ!!ゴンッ!!
背後から蝙蝠たちが体当たりを食らわせて来ていた。
勢いを殺さずに、捨て身の勢いできていたようで、蝙蝠たちはぶつかったと共に地面に横たわっていく。
「グギャッ!!クッ!岩風情がああああ!!!!」
蝙蝠らに押されたせいで、噛もうと構えていた俺は蝙蝠の体にほんの少しだけ歯を刺していた。下部と離ればなれになったまま、俺(上部)は地面にいた。もちろんだが、目線はかなり低かった。
そんな俺の視界に移りこんできたのは、真っ赤な血に濡れた俺の下部だった。そして、その周りには血に濡れた蝙蝠が何匹も倒れていた
(捨て身タックルで、俺に血をかけて来ているのか!!)
そして、その血に濡れた俺の下部にフロックが飛び乗ってきた。それは一匹だけではなく、何匹も何匹も連続して乗っかってきていたのだ。もちろんそこにはフロックだけでなく、蝙蝠たちもいた。俺の下部を下敷きに、そこに即席の石の塔ができてしまった。
「キキキ!!見ろお!お前の体はもう潰れているだろう!!私を殺そうとするからだ!!!キキキキ!!」
俺の感覚では、下部にはそれほど大事な役割はなかった。それでも、下がなければ口にならないので、何も噛みつくことができないだろう。体当たりの重みも減った。しかし、痛みを感じないので、下部がなくなったということに対しての認識が薄い。正直、蝙蝠の肉のじゅうたんの方がショックを感じる。
「くそっ!いい加減放せ!!」
俺の歯が刺さっている所から流れ出る血は、こんなに小さな体のどこにあるんだというくらいに出て来ていた。
コイツの反応から、体力の方もガンガンすり減っているんだろう。やるなら今しかない。
歯にくっつけたまま、こいつを持ち上げることができるのであれば、そのまま地面に叩き付けることができるし、それだと結構な威力を出すことができそうだ。もし、歯にくっつけたままというのができなかったとしたら、そのときは何度も歯を突き立ててやればいい。
「...な、何を!?グゲッ!」
持ち上げようとしたら、歯から抜け落ちてしまった。返しがないから当然とも思えるが、これもまあ想定内だ。
「おい!お前ら!早く私を助けろッ!!」
蝙蝠やフロックはまだまだ集まってきているようだ。下部が潰れていく場面を見てしまったので、なんやかんや不安があった。下部は、まあ仕方がないと割り切れてしまったが、上部は洒落にならない。上部が潰れるということは、死に直結しているのだ。
時間がないようだ。早く済まさなければならない。
(うおおおおおおッ!!)
勢いをつけて、地面にいる蝙蝠に歯を突き刺す。
「やめろおおおッ!!!!痛い!!痛い痛い痛い痛い!!!!」
唐突に罪悪感がやってきた。言葉を発する生き物を殺すことにここまで抵抗を感じるとは思ってもいなかった。いや、そもそも思うこともないと思うが。
あまりにも余裕がありすぎた。硬すぎるこの体には、相手の攻撃があまり効かなかった。それに、感じるのは衝撃だけで痛みはなかった。そのせいで、ゲーム感覚が残っていたし、もっと言えばテレビを見ている程度の感覚しかなかった。
恐怖と痛みに歪めた表情と、叫び声が頭の中をグルグルと回る。
(やばい!!早くとどめを刺さないと...!!)
「痛い...!いやだ!死にたくない!!」
ボロボロになった体を引きずって逃げようとしているが、ほんの少ししか移動できないようだ。動く体力がもう残っていないのだろう。体がピクピクと痙攣している。
時間がないことは分かっている。しなければいけないことも分かっている。
集まってきていた魔物たちは下部の方へ突撃し続けていたが、ついに俺の方へ標的を変えたようだ。
(迷うな!考えるな!!今、俺が生き残るために必要なことだ!殺さなければ死ぬ!前に決断で来たんじゃないのか!?)
「やめろ...!やめろ!やめろやめろ...!!」
声が聞こえるたびに、恐怖が膨らんでいく。しかし、次の瞬間、自分の歯に当たる感触に違和感を感じるものがあった。柔らかい肉の中に骨とはまた違った硬い感触を感じたのだ。
「キッ...」
小さな声を漏らし、動きが止まった。そして、すぐさま頭の中に声が聞こえる・
『相手のピルバットを倒しました。経験値を取得しました。レベルが上がりました。レベルが五になりました。進化可能レベルになりました。進化しますか?』
この蝙蝠はピルバットっていうんだな。何の覚悟もないままに、命を奪ってしまったけど、今更だって割り切ることもできる。それでも、未だ罪悪感はある。
そして、声の最後に「進化」という言葉が聞こえた。やってしまったという後悔を抱きながらも、聞き逃すことはなかった。
痛みは感じないが、絶望的だとわかるこの展開をやり過ごせる、勝てる兆しが見えたのだ。
(ああ!する!進化するぞ!!)
心の中でだが、声に答える。
『進化を開始します。』
体の奥底から力がみなぎってくる気がした。
『進化に失敗しました。進化の条件を確認しますか?』
(...え?レベルが五になったから進化できるんじゃないのか?他に条件があるのか?もちろん確認するぞ!)
『進化条件達成:レベル五、進化条件未達成:岩の貯蓄量。岩の貯蓄量が足りません。』
もっともっと岩を食べろってことなのか?足りないってどのくらいだよ。
(それはそうと、どうしよう。下部がなければ岩を食べることもできないぞ?)
『特殊スキル:可能性が発動しました。進化先が二つになりました。進化条件を確認しますか?』
(なぬ?まさかの展開か?もちろん確認するぞ!)