第二話
編集しました。
...を...に変えました。
行間を開けました。
初めて同族を殺した。気分は、殺人でもしたような気分だ。しかし、こんな世界だったら仕方がないと思う。そう割り切っておきたい。
それ以上に、自分自身に驚いたことがある。
確かにあの石を食べたら強くなった気がした。食べられるのなら、いくらでも食べたい。しかし、倒した同族を食べるのは人格を疑う。それも、平然と食べたのだ。
ゴンッ!!
初めて戦い、相手を倒した後すぐに他の奴がやってきた。そして、今はそいつと戦っていた。心にはさっき以上の余裕が生まれていた。だから、こんなことも考えることができていたんだと思う。
(命を奪うことについて考えておきながら、他のことを考えながらというのはあまりにも失礼だな。そっちの方が悪い気がする。)
それでも、頭の中には好奇心やら疑問やらが湧いてくる。
たとえば、裏側の石には絶対に特別な意味があるはずだ。だから、それを集中して攻撃してみるのはどうだろうか...とか、頭突きのために飛んできた頭をそのまま食べてみる...とかだ。
(宙に浮いてきている物体なわけだし、横から体当たりをしたら簡単に飛んでいくんじゃないか?...試したい。)
高校生の好奇心というのは怖いものだ。自分でもそう思う。相手もまた生きているんだぞ。
(いや、これは効率的な相手の倒し方であったり、自分の弱点について改めて考えるチャンスなんじゃないのか?)
考えている間にも、相手の頭突きは飛んでくる。
まず、試してみるのは横からの体当たりで軌道を大きく逸らす上に、さっきみたいに壁にぶち当てる。
(来いッ!)
今回は、すぐに避けられるように意識する。
相手の頭突きが俺の近くまでやってきたときに、横へ避け、すぐに体当たりを食らわす。
勢いよく壁にぶつかる。倒したか!と思った次の瞬間、壁の方からスピンをかけて俺の方へ飛んできた。たしかにその攻撃方法もあった。思いもしなかった。
スピンをかけた攻撃は、通常の頭突きよりも圧倒的に早く、油断をしていた俺にも十分すぎる物だった。
(ウグッ!!結構効いたな...!)
今度は俺が壁にぶつけられた。
スピードは確かに速かったし、スピンをかけられたら、横から体当たりを食らわせることだってあまりしたいとは思えない。しかし、この場合、上と下ががら空きだ。ただ、てっぺんがとがっているやつが相手だったら上からの攻撃も厳しかっただろう。
俺にダメージを食らわせたことを理解できたのか、もう一度スピン攻撃が迫ってくる。
軽く跳ねて、前に回って相手の上面を叩けばいい。頭の中ではするべき行動が決まっている。
(くそ!やっぱりこの速さになると、一発じゃ厳しいか!!)
跳ねて前に回ったところはよかったが、空振りに終わった。
俺の行動を見て学んだのか、次の行動は違っていた。驚くべきことにフェイントをかけてきた。俺の右側を狙ってきているかと思いきや、突然天井側へ飛んでいき、高速で上から落ちてきた。
それでも、俺の行う行動は立ったの二択だ。上から攻撃し地面にたたき落とすか、横からの体当たりで壁にぶち当てるかだ。
(いや、今から避けて攻撃に徹するのは難しいか?だったら、ほんの少しまで引き付けて、床にぶつけさせるのもありだ。)
床にぶつけることを理想に、もしものために、横からの体当たりができるように体制には気を付けるか。
勢いよく高速回転をした相手の上部は天井から俺目掛けて落ちてくる。それを、俺は寸でのところで避けてやった。勢いはそのままで、相手は地面に突き刺さった。避けられるとは思っていなかったらしい。
避けられるかどうかではなく、攻撃をいかにしてぶつけるか...しか考えていなかったようだ。
ぴくりともしなくなったが、怖いので体当たりをしておく。
『相手のフロックを倒しました。経験値を取得しました。レベルアップしました。レベルが一になりました。世界にあなたの存在が定着しました。ステータス閲覧が可能になりました。』
...世界に俺の存在が定着した?レベルが上がって一になったってどういうことだ?ということは今まで零だったってことか?
ステータス閲覧ができるようになったのはいいが、どうやってみるのか。
(とりあえず、突き刺さったやつ引っこ抜けるかな。石食べたい。)
跳ねることはできるが浮くことができないので、引っこ抜くことはできないことに気付いた。石が見えるようであれば、そこまでかぶりつくか。
突き刺さった上部の周りを一周してみる。すると、裏側にギリギリ石が残っていた。
(よかった。食べるか。)
跳ねて、そのままかぶりついた。歯の強靭さのおかげで、バキバキと噛み砕くことができた。
『魔石を吸収しました。強度、跳躍力が少し上がりました。』
さっきも食べたはずなのに、今みたいに音声はなかったぞ?あと強化石とかではなかったみたいだ。魔石か。武器と混ぜれば効果を付与できるってイメージがある。
(ステータス見てみたいな。周りに敵は...一体だけか。結構な距離があるみたいだし、無視でいいかな?)
ステータスの確認。ここには画面も何もないから、ゲームとは違う。
(『ステータス閲覧』『ステータスオープン』『ステータス』『キャラ設定』)
思いつく限りの物を思い浮かべる。すると、そのうちのどれかが反応したようで、目の前に透明の紙が現れた。透明ではあるが画面の歪みのような違和感があるのでそこに何かがあることは一目瞭然だ。
『種族:フロック レベル:1
属性:無属性
スキル:体当たり,頭突き,噛みつく,噛み砕く,回避
特殊スキル:完全言語,可能性
称号:転生者,召喚者,体を失った者,同族殺し,同族食らい
スキル(取得失敗):ころがる,投擲
種族説明:ダンジョンの岩が魔素を吸って、魔物化した。小さな岩や砂を食うが、別段食事の必要性はなく、意味もなく食べている。食べたものは体内にある異空間に飛ばされている。異空間にある岩はいつ役に立つのだろうか。』
(...ステータスって書いておきながら、パラメーターは書いていないじゃないか。それに、種族説明の最後、何故疑問形で終わっている!?スキルについては納得がいく。しかし、特殊スキルの欄、たった二つしかないじゃないか。あの神様、結構多めにくれたはずだぞ。覚えていないけど。どうにもおかしい。それにその持っているやつもよくわからない上に、戦闘には向いていなさそうだ。称号...。転生者なのはわかる。転生されてきたからな。直前の記憶もある。召喚者ってなんだ。それに体を失った者だ。人から岩になったらそう言われるのか?同族系は...仕方がなかったんだよ!取得失敗か。惜しいところまでいっていたのかな。)
正直言って、自分のステータスの内容が微妙だ。
そもそも、完全言語って、俺自身も話せないとだめだろ。俺、話せないぞ。それに話す相手もいない。
もう少し、深い情報を知りたいな。無理なのかな。
透明の紙をジーッと見つめてみたが何も変わらなかった。
『鑑定を発動します。しかし、鑑定を覚えていませんでした。』
...言わなくてもわかるわ!!
...災難である。
ステータス閲覧をした後、レベル上げと共に覚え損ねた技の練習をしていた。
転がるについては、移動の手段としても使えそうなので、そうやって慣れようと思った。投擲は同族であるフロックには全く効かないようなので、何度も練習をすることができた。
レベルというものが実在する、ステータス閲覧もすることができる。それらを知ってから、同族との戦いを魔物との戦いだと、ゲームでの戦いのように感じてしまっていた。しかし、それを行っている今はまだそのことには気づけていなかった。
(体力の表記がないから、やっぱり不安だな。攻撃力も防御力も書いていないから、戦闘スタイルもいまいちわかっていないし。)
感覚的に、岩である自分は硬いとは思っているし、岩を噛み砕く顎の強さにだって自信はある。しかし、それらは元が一般人だったからそう思えるだけで、実はモンスター界では金平糖程度の硬さしかないということも考えられてしまう。
まあ、今はそう不安に思わなくてもいいと思う。何故かというと、この二日間、俺はまだこの洞窟内で負けたことがないからだ。それに、レベルが零だったあの頃と比べ、今は三になっている。洞窟最強も名乗れるんじゃないのか?
レベル上げの方は順調だ。フロックばかり倒しているため、戦い方は完全に慣れてしまっている。あの蝙蝠や蜥蜴とも戦ってみたい。対処法だってすでに考えている。
(今日は蝙蝠を探してみるか!)
そうして、俺は転がって洞窟内を探索し始めた。転がっていたら周りも見えないんじゃないかと思ったが、案外そういうわけでもなく、ちゃんと周りを見ることができている。魔物の体や魔素、魔力などについての知識は一切ないので何故それができるのかが分からない。
これは考察でしかないけど、魔素から生まれたという俺たちフロックは、魔力にも敏感に反応することができていて、いわゆる魔力探知が素で発動しているのかもしれない。つまり、俺に死角はない。魔物の学者さんに聞いてみたいところだ。
転がるも、それなりに慣れてきており、高速で移動しながらも他のフロックを避けることができている。
「キキッ!」
かなり小さい声だったけど、聞き逃すことはなかった。
「キキキッ!!」
声のした方へ急いでいくと、そこは行き止まりになっていた。何十匹もの蝙蝠が地面に落ちており、その上を慌ただしく飛ぶ一匹の蝙蝠がいた。
そいつは一匹だけだったが、どうにも様子がおかしい。
仲間をやられたことに対して、悔しがっているようでもないし、逆に何十匹も倒したことに対して喜んでいるというわけでもない。
そいつは、苦しそうにしていた。一心不乱に翼をばたつかせ、同じ場所をグルグルと回っていた。
考察してみると、蝙蝠には実は呪いや、混乱、毒などの状態異常を付与した技があり、戦って勝ったけど、状態異常が残ってしまった。その苦しみから、バサバサと飛んでいる。
地面に落ちている蝙蝠たちには、まだ魔石が残っているのだろうか。
状態異常だったら、どっちにせよすぐに死ぬだろうと決めつけ、視線を地面の方へ移した。
もしも、全部に魔石が残っていたら、食べておいた方が絶対に得だ。しかし、まだ肉を食べたことがないので、肉ごと食べることに不安がある。
「キキッ!!キーッ!!」
さて、どうしようか。そう思っていると、飛んでいた蝙蝠がより一層大きな声で鳴きだした。
バサバサと飛んでいた蝙蝠は、突然動くのをやめた。翼を動かすのをやめたのだ。だというのに、その蝙蝠は空中に浮き続けていた。不思議な現象それだけでは無く、なんと、地面に落ちてあった蝙蝠たちから、赤い霧が出てきたのだ。
俺の視界はすぐに真っ赤に染め上げられたが、これまたすぐにその霧は晴れていった。
なんだったんだ...?不思議に思いながら周りに目をやると、さっきの霧と同じ色をした丸い水の塊が空中に浮いてあった。大きさは、バランスボールくらいだ。
いつもだったら、それを見て、なんだあれは?と疑問に思うところだったが、今回は違った。疑問よりも先に、恐怖が押し寄せてきたのだ。
(...あれはヤバい!)
岩だから汗は掻かないが、冷や汗が噴き出たような感じだ。全速力で転がって、その場を離れようとした。しかし、体が言うことを聞かなかった。
赤い水の塊は、ぶよぶよと形を変えていた。そして、パチュンッ!と音を立てて弾けた。赤い水は、地面に落ち、一瞬にして地面に染み込んでいった。
水の塊があったところには、翼以外の全身が毛に覆われた蝙蝠がいた。
毛に包まれたその頭は、以前と比べて口元が長く伸びていた。そこには小さいが、呆れるほどに多くの歯が生えていた。体の大きさについては、少し大きくなったか?と思う程度にしか変わっていないように思えた。
そいつは、クルリと逆さを向いて、天井に掴まった。
「カタい...ノ。イマなラ、コワセそう...!』
突然、蝙蝠は話し始めた。片言で、いまいち聞き取れなかったりしたが、話し始めたということに驚きを隠せなかった。
問題は見た目ではない。コイツの放つ威圧感はとんでもないものに膨れ上がっていた。目を逸らしたところで、コイツの存在感は嫌でも感じ取れてしまう。
その上、コイツの戦闘能力は、戦わずともわかってしまうほどだ。
「アー、アー。発声には慣れてキた。」
気が付いた頃には、流暢に話し始めていた。そして、俺のいる方へ顔を向けてきた。
「そこにいることは分かっている。硬いの。と言っても、まあ、言葉を理解する脳もなさそうだな。」
こいつ、耳がいいだけでなく、言葉を理解できるほどに賢い。
「前までは、単なる岩を傷つけることすらできなかったが、今ではそんな岩も破壊することができそうだ。」
進化...確かに、レベルアップがあれば、進化もありえる。俺の知識が、この世界の進化と同じだったら、これは大変だ。
「今、お前を破壊することで、この力を証明するとしよう。そう。ここの頂点は私なのだと!」
そう言って、俺の方へ飛んできた。俺の、他の蝙蝠よりも早いと自負している転がるよりも早かった。その上、今は威圧とやらで身動きも取れない。
その瞬間、俺の人生...いや、岩生も終わったと確信した。