第二十九話
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「こんなとこまでバカでかい斧持ってきちまったがよお、お前も嫌だろ?飛び道具ではこっちには勝ち目がねえし、大斧じゃあ攻撃しにくい。もっとゾクゾクする戦い、求めてんだろ?俺にはわかるぜ?お前、勝てるけど面倒な輩としか戦っていないだろ?ここにはそんな奴しかいねえしよ?」
仲間だった物の近くに落ちてある片手剣を拾い上げる。
「俺は人間だ。ちっとばかし厄介ではあるが、岩ほど硬いわけじゃない。慣れちゃあお終いだが、その前にぶっ殺せばいい。それだけじゃ駄目だ。死を実感しねえとゾクゾク出来ねえ。だから、ここで俺はお前にイイものをくれてやるよ。」
両手に持った片手剣を、思い切り自分の胸に突き刺す。痛いが、そもそもその痛みというものに慣れてしまっているので何とも思わない。
胸からへその下あたりまで切って行き、すぐに剣を投げ捨て、傷口に手を突っ込み中を漁る。
痛いどころか気分が悪くなってくるけど、遠の昔にそれも慣れている。意識が飛ぶこともない。慣れているのだから。
「ガフッ!ギヒヒッ!!オレは、おマエに戦いってモンを...教えてやル!!生き物との、殺し合いが、如何に気持ちいいかを、如何に楽シイかを!!!」
硬いものを、体内にはあってはならない異質な硬さの物を掴み、無理やり引き抜く。
血に濡れた、真っ黒な斧だ。
俺の体は、最善の状態になろうと傷口を勝手に修復していく。
手に入れてしまった最悪なスキルと、最強の武器。俺のスキルは、この武器を失うことを最善とは思わなかったようだ。
しかし、その力は凶悪すぎて、俺は持っていたくなかった。それでも放すことをスキルは許さない。体から離さず、使わない。俺は無理やり自分の体内へと入れたのだ。痛いし気持ちの悪い、頭がおかしくなりそうだったがすぐに慣れてしまう。
仲間が死んだ。家族が、友達が、知り合いが。多くの物を殺されたし、死んでいった。
だというのに、俺は何故平気でいられる?
不安はない。悔しくも、悲しくもない。だが、疑問はある。感情はまだある。
金が欲しい、全てがほしい。
仲間の死を、人の死を悲しみたい。人間らしくありたい。
戦わないといけない。
もういいだろ。
「お前は、異例だ。賢い。だから、俺に......死をくれ。」
葛藤はなくなり、何もかもが頭の中から抜け落ちていく。戦い、相手を殺し、グングニルを見つけ、冒険者ギルドに売りさばく。
仲間はもういらないだろう。足手まといだ。邪魔だ。
最善の状態で、最善の方法で相手を壊そう。
『スキル:可能性が発動しました。』
頭の中に声が聞こえてきた。何の声だろうか。聞いたことがない。
いや、どうでもいいことか。
『感情が分裂しました。』
「は?」
次の瞬間、俺の右手が勝手に動き、持っていた斧で自分の両足を切り落とした。
何も理解できないまま崩れ落ちる。
一瞬にして間合いを詰めてきた、岩の子供が、その体に見合わないほどの巨大な手で俺の左手を切り飛ばした。
その手は、ドラゴンの手に似ているが全てが美しい銀色をしていた。魔力の流れから、魔鉄であることを理解した。
子供の体に浮かんでいるように見える美しい緑色の線が、強く発光している。魔鉄の巨大な龍の手もまた同じ色に発光しだす。
目にもとまらぬ速さで俺の体を貫く。
早く慣れないと、死んでしまう。俺の体が壊れてしまう。
また、その手の速度が上がる。
一撃ごとにその速度が上がっていき、俺に慣れる暇を与えないまま、何度も何度も貫かれていく。
「よかった。」
自分の口から、意識していない言葉が漏れる。
「うわ、まだしゃべるのかよ。お前、もう頭しか残ってないぞ。」
子供は俺に向かってそういった。
頭だけでも生きているのか。早くなんとかこの状況に慣れて、最善の状態にならないと。
「お前、死ぬって時に恐いくらいの怒り顔浮かべたり、幸せそうな笑顔を浮かべたり、気持ち悪いぞ。どっちがお前なんだよ。」
相手は手を止めている。しかし、発光はより強く、両手もぶれている様に見える。それでも、その動きを見て慣れればいいんだ。
いや、本当の俺って何なんだ。
「俺は子供だからさ、その幸せそうな方が本物だって思っておくわ。なんかよくわからないけど、今まで頑張ったな。」
手がブれた。それは俺の頭を狙って、一瞬で......
鬼の形相を浮かべると、次には幸せそうな笑顔に変わる。
人間だったはずの、パーティのボスは首だけの状態でもなお生きていた。
戦闘を求めておきながら、「死をくれ」だなんて発言をする。よくわからないやつだったが、こんなファンタジーな世界だ。俺には到底理解できないような闇を抱えていたんだろう。
グングニルを狙っていた冒険者パーティは、これをもって全滅させることができた。
「ここの人間って、こんな人が多いのかな。」
そんなことをつぶやきながら、彼らの体を捕食する。持ちろん黒い斧もだ。
そして、グングニルの元へと戻っていく。
『だ、大丈夫だった!?』
心配そうにやってくるグングニルに、「なんとか!」と答え、壁に背を持たれながら床に座る。
『疲れちゃった...?』
俺の顔を覗き込むグングニルを見て、俺は決心する。
「冒険者パーティを倒したら伝えておきたいことがあるって言ったと思うんだけど、それ、今から言うな」
あの人間の闇に触れてしまった所為か、少し感傷的になっている自分がいる。
『う、うん』
緊張したようにうなずく。
「俺さ、実は......人間なんだ。」
言った。言ってやった。
俺は、グングニル、お前をつけ狙うやつらと同じ人間なんだって。魔物と敵対する人間なんだって言ってやった。
覚悟は決めていた。
しかし、言ってから気づいた。
言うこと自体にも確かに勇気は必要だ。自分の本当のことを話すだなんてとても勇気のいることだと思う。しかし、それだけじゃない。
自分が、魔物と敵対している種族である人間だって言うことは、仲間だと友達だと思っていたグングニルを騙していたと暴露するのと同じなはずだ。拒絶されて当たり前だ。
答えはわかっている。拒絶される。この世界で仲良く慣れた初めての相手なのに、俺は騙してしまっていたんだ。
不安が胸いっぱいに広がり、まともにグングニルの方も見れず、地面を見つめたまま彼の返答を待つ。
『うん。話してくれてありがとう。でもね、そうだったのか…とかびっくりできないんだよね。』
「……え?」
頭の中が真っ白になった。
不安でいっぱいだった俺の頭の中には、彼の言葉への疑問が充満し始めていた。
意を決して伝えたことを聞いて、びっくりできない。仲間だと思っていた魔物が実は人間だった、それでもびっくりできない。そもそも、魔物が自分を人間だと言っていることに対してもびっくりできない。
なんでびっくりできないの…?
『自分のやってきたことや言ってきたことを思い出してみて?ダンジョンで突然生まれた石ころが考えられることかな?ずっとずっと思っていたんだ。両手両足ができたのに何の違和感もなく扱っていたり、土龍の爪を作り上げたり。物質系が物事を考えて言葉を発するって時点で、誰だって普通の魔物だとは思えないよ。』
「俺ってそんなにおかしい…?」
『それ!その、ボクだったり俺だったり、自分の呼び方も変えているし、しっかりとした性格もある!誰かが作ったゴーレムが遠隔操作で……なんて高度な技術はこの世にはないんだし!』
俺は、人間でありながら魔物の姿になっていて、更にその魔物としてもおかしい存在だったのか。
「でも、ほら。俺、人間だよ?」
『うん。……えっと、それで?』
グングニルの反応に唖然としてしまう。
下がっていた頭も前を向くように上がっており、グングニルの姿をしっかりととらえている。
『あはは!流石に僕も、魔物だったら誰とでもいっしょに冒険をするってわけじゃないよ?危険な魔物だったらなるべく近づかないし、あっても戦闘くらいだよ。君の中身を知って、それで今も一緒に冒険しているんじゃないか。ああ、でも見た目が人間だったら僕と君との関係は始まりもしなかっただろうけどね。好んで人間とお近づきになりたいって魔物はそういないし。』
要するに、今はもう中身が魔物だろうと人間だろうとどっちでもいいってことなのか?
「それって、俺たちはまだ友達で一緒にダンジョン攻略ができるってえことなのか…?」
『友達……?うん、うん!そうだよ!魔物にはあんまり使われないような言葉だけど、確かに僕たちは友達だ!それに、今更君が人間だろうと魔物だろうとどうでもいいんだよ!あ、でも君の中身がその体型通りの人間だったんなら、余計に人間が怖くなっちゃうな…。君、とっても残虐だし。』
不安になって、心配して損した気分だ。でもそれ以上に安心したし、うれしい。
「ありがとう!よし、じゃあ引き続きダンジョン探索するか!」
拳を握りしめて立ち上がる。
『元気が戻ったようでよかったよ。僕を追ってきたやつらも全滅させられたみたいだし、ゆっくり探索していこうね。』
そうして、休憩もあまりしないまま、ゆっくりした足取りで下へと続く階段を探し始めた。
何故だかはわからない。そういう運命だといえばすべて片付いてしまいそうだが、もしもこれが運命だというのであれば、俺はこの新しい人生を恨みそうだ。
最初はこの世界への転生。そして、ピルバットとの戦闘。マストロックやゴーレム、冒険者。様々な敵と戦ってピンチに陥ってきた。しかし、それは必ずしも勝てないと思わせられる相手だったわけじゃない。
俺とグングニルが、多分来ていないと思った道を片っ端から探索していると、突然嫌な予感がした。魔物の気配がするとか、複数のゴーレムがやってきたとかそういったわけじゃない。何もいないことは見てもわかるし、魔力探知でもわかる。
『最高速度で壁を掘って行ってッ!!』
グングニルの叫ぶような声に反射するように俺の体は動いて、適当な方角に壁を掘り進めていく。
加速を連続させるのにも関わらず、嫌な予感からは逃れられない。
もしかして、俺の体内のムーベンが爆発するとかか…?
ふとそう思ったが、頭の中に『ムーベンは石化された状態を保っています。』という声が聞こえたので違うのだろう。だったらなんだ?捕食した冒険者のスキルが俺に移ったとか、持っていた黒い斧が呪われていたとかか?
自分の中にあるものをひたすらに疑っていく。
『来ます。衝撃に備えてください。』
その声と共に、足場がぐらぐらを揺れ始める。
前世でも感じたことのないほどの大きな地震だ。
『大丈夫!?』
グングニルが心配そうに見てくる。
ああ、グングニルは浮いてるもんな…
長い時間地震は続いている。収まるどころかどんどんと大きくなっているような気がする。地震への恐怖もそうだが、それ以上に近づいてきている何かに対する恐怖の方が大きい。
無い心臓がバクバクと暴れまわっているんじゃないかってくらいに緊張している。
「……来るッ!!」
俺の経っている場所からほんの数メートル離れたところの地面が、バターのように溶けて消えていった。そして、開いた穴から普通の人間と同じような手が生えてきた。
「お前のことを探していたんだ。タイタンナックルとか言ったか?俺は『壊れぬ者』の称号を与えられたこのダンジョンのダンジョンマスターだ。いうなればお前の親、というところだ。」
人型をしているが、人間とは圧倒的に次元が違う。放っている威圧感や、存在感、何もかもが圧倒的すぎる。立っているだけでもやっとな状態で、筋肉も何もない岩の体なはずなのにブルブルと震えてしまっている。
ダンジョンマスターを名乗る男は、人型のカブトムシのような見た目をしており、頭部には角が生えていた。体もごつごつしているところとツルツルしているところがある。筋肉ではなく、その形をかたどった岩のように見える。両手は大きく肥大しており、俺の使う土龍の爪に少し似ていた。
「そう警戒するな。お前みたいな面白いやつが現れたおかげで、俺はほんの少しは暇をつぶせているんだ。そんな思えに伝えておいてやろうと思って、わざわざここまで上がってきてやった。」
「近々、俺はこのダンジョンを出る。」
そう言った瞬間、グングニルが大きく震え始めた。顔色はわからないが酷くおびえていることが分かる。
「その時、どうするかはお前次第だ。」
何も理解ができないまま、男は穴へと飛び込んだ。
『……外に出るって、でも……』
グングニルはぼそりと何かを呟いていた。




