第一話
編集しました。
...を...に変えました。
行間を開けました。
元男子高校生の岩が通りますので退いてくださーい。
なんてことを思いながら、俺は洞窟の中を跳ねて進んでいる。
洞窟の出口を目指すべきが、洞窟の奥を目指すべきかはわからないし、どっちを進みたいかというのもないので、適当に道を進んでいるのだ。
自分が岩の生き物になったことは、変えようもない事実なので受け入れることにした。
お腹が空けばいつだって食事ができるし、体に痛覚が無いようで、地面に着地した時に躓いて転んでしまっても痛みを感じない。それでも衝撃はあるので、気持ち悪くはなる。歯を削ってしまったなんてこともあったが、石を食べていたら勝手に修復されていた。
(そういえば、あの神様、新しい体を用意しただとかスキルがどうの、俺ツエエエがどうのって言っていたけど、石ころ用意したってだけじゃないか。スキルについては確認方法がわからないし、俺ツエエエも、俺(のお腹が)ツエエエって意味なんじゃないか?)
口みたいなところから息は吐けないので、心の中でため息をつく。
適当に道をまっすぐ行っていると、T字路に出た。生前は右利きだったので、右の方へ行くことにした。まるで迷路のようで、どこを移動しているのかわからない。
道中、奥へと続く道か出口、どちらか先に見つけられた方へ行こうと決めた。
今のところ見かけた生き物は、天井にいる蝙蝠、ときたま壁に現れる蜥蜴、あとは俺と似たような岩くらいしかいない。
蝙蝠は、顔と胸元がもふもふな毛に覆われていた。それ以外は骨と皮しか無いようで、骨が浮かび上がっていた。一番目を引いたのが、その体に見合わない程の巨大な耳だ。片耳だけで頭と同じ...もしかしたら頭以上の大きさをしていた。目が見えず、音に重きを置いた姿...にしては、大きすぎると思うけどな。
蜥蜴の方は、普通の蜥蜴の体に岩が生えているような見た目で、移動する度に欠片がいくつか体から落ちていた。少し口が大きいかとも思った。
(石ばっかり食ってるけど、食べたものはどこに行っているんだろう。消化されてたりすんのかな。)
突然こんなところに送り込まれていたら不安になるだろうが、異世界へ飛ばされるということは事前に聞かされていた。自分が死んでしまったということも知っているが、何故か落ち着いており心には余裕がある。
それに、時間配分は自由に決められるのだ。食事をする時間や探索をする時間、あとは眠る時間だ。
(俺は自由だー!何にも俺を縛るものは無―い!)
.........。
(嗚呼、死ぬほど暇だ。現代人が、洞窟だとか無人島に何も持たず入ったらこうなるって、俺はテレビを見ながら何度も言っただろう!スマホが欲しい!!パソコンはないのか!?)
今日は石のやけ食いでもしなければいけないな。それに今日はいつもよりも多めに探索してみようか。
何も起こらない静かな洞窟内。たまに蝙蝠の歌声が聞こえる程度で、今のところ何も楽しいと感じない。
それからまた数日経った。数日と言っても、俺が起きて寝るまでを勝手に一日と数えているだけだが。
その数日の間に、ほんの少しだけいつもとは違うことが起きていた。
蝙蝠が、同族同士で殺し合いをしている現場に遭遇してしまったのだ。しかも、片方が死んだ瞬間、もう片方の勝った方が一瞬だけ光った気がした。ゲーマーの勘から、それがレベルアップだと直感した。その上、死体の方は数時間経つと黒い光となり弾けて消えていった。死体のあった場所には、黄緑に発光した米粒サイズの石が落ちてあった。これもまたゲーマーの勘から強化石もしくは進化石だと思った。
(綺麗な石だったから食べちゃったんだよなー。いまいち味はわからなかったけど、食べてから前よりも高く跳べるようになった気がするし。食べて正解だった。)
実際、強くなれたかどうかなんてことはゲームと違って確認できないからわからないけど、強くなれた気はする。
それと、一つ疑問がわいた。石や砂は食べることができる。あたりまえだ。しかし、この体で肉は食べることができるのだろうか。
石や砂が消化されたという感覚はない。どこに貯められているのかも知らない。
実のところ空腹感もなかった。ただ食べる生活があったから何かを食べることが当然となっていただけだ。食べてないことに不安を感じ、それを空腹だと思ったのだろう。
空腹感がないと気づいたせいで、何故同族たちはあんなにも必死に食事をしているのか気になった。食べるか寝るかしかすることがなくて暇なだけなのだろうかと、どうでもいい疑問が生まれた。
(肉を食べてみたいけど、好奇心で生き物の命を奪うわけにもいかないしな。)
そんなことを思っていた時から数日後、またも異変が起きた。
俺の同族である岩たちが喧嘩を始めたのだ。
(待てよ!あんなに仲良く石食っていたじゃないかよ!)
仲裁に入ってみるも、完全に無視だ。それどころか俺に矛先が向いた。
(待て待て!話せばわかるって!)
これまでずっと移動し続けていたので、同じようなところでずっと石を食っていた奴らとは違い俺は俊敏だ。まっすぐ飛んでくる頭部であっても簡単に避けられる。
周りからは岩同士がぶつかった音が聞こえる。そして、砕け散った同族もたくさんいた。
(話したことがなくても同じ釜の飯食った仲じゃないか!!)
避けるだけで、攻撃に徹することができないでいた。
俺に向かって頭突きをしてきていた奴が他の奴に絡まれた。俺は自由になったが、未だ現状を理解できずにいる。
目の前では同族同士が喧嘩ではなく殺し合いをしている。
俺は自分の、岩の姿に慣れてしまったせいか、この種族に愛着がわいてしまっていた。
(説明書!説明書をくれ!岩の魔物の説明書だ!)
そういえば、蝙蝠とか蜥蜴もいたはずだ。彼らはどうなっているんだろう。
洞窟の天井の方へ意識をやるが、そこには何もいなかった。蝙蝠が一匹もいない。たまにしか現れなかったとはいえ、蜥蜴も見つけることができなかった。
どうにもおかしい。同族がおかしくなったのではないようだ。
今、この洞窟の中で何が起きているんだ...!?
バキバキと岩の崩れる音がする。結構前から聞こえていた音だが、一向になりやむ気配がない。音の発生源はわかる。同族同士の殺し合いだ。ただ、何故それが起こっているのかはわからない。そして、それは目の前に起こっているというだけでなく、俺もまた巻き込まれている。
俺にはまだ覚悟がない。一度は死んだし、独りで何日も過ごしたし、精神的には幾分かは強くなれたと自負している。それでも、戦う覚悟もないし、その上殺すなど考えることさえできない。
(戦わないと死ぬってのはわかるけど、俺たち同族だろ!)
逃げる、避ける能力はついて行く。相手の動きは相も変わらずノロマ。しかし、それだけでは何も変わらない。そんなことはわかっている。
避けている途中、小石に躓いてしまい、体勢を崩してしまう。いつものことで痛みは感じないが、一気に悪寒が走った。
(まずいまずいまずい!!避けないと!死ぬ!!)
動く速さには同族間でも自信はあったが、こうして動きを止める羽目になったら、話は違う。長い時間ずっと使い続けていたこの体であったはずなのに、焦りすぎて感覚を忘れてしまった。人間だった頃のように、地面に手をついて腹筋や、脚を使って起き上がろうとする。もちろんそんな感覚はなく、あくまでそうしている気分でいるだけだ。
俺を追っていた奴の頭突きはすでに飛んできており、俺は避けることができずにいる。
ガンッ!!と、重たい衝撃が俺の体を襲う。脳はないはずなのだが、大きく揺らされた。
(衝撃はすごいのに、痛みは感じない...か。頭がフラフラする...。)
しかし、一撃で死ぬことはないと知ったおかげか、冷静にはなれた。倒れた体を、自由に動く頭部で起こす。
(人間の頃の感覚はまだちゃんと残っていたんだな。どんだけ前に使い終わったと思っているんだ?)
冷静になりすぎて、恥ずかしさがこみ上げてくる。
(とりあえず、今のこの状況をどうやって終わらせるかを考えるか。いや、考える必要もないか。)
今さっき、俺は攻撃をされた。相手に感情があるかはわからないが、殺意があったはずだ。まだ戦う覚悟がどうのと言っているのも馬鹿らしく感じてきた。迷っていた筈が、今では胸のつっかえも取れてすっきりした。
(俺は、戦う!)
攻撃方法を考えないと...!頭突きもあり得るが、頭への衝撃は馬鹿にならない。
冷静に相手の攻撃を避けながら、考え出す。
そして、攻撃方法がいくつか思い浮かんだ。
(まずは勢いをつけて転がって体当たりをする。跳ねる以外移動手段は実行したことがないから厳しそうだ。噛みつくのはどうだ?他の岩と同じくらいの硬さだったら、この攻撃は大きなものになる。最後に、石を飛ばす攻撃だ。これも立派な攻撃で、さらに中距離攻撃だ。石をヘディングして、浮いた石を相手に向かって弾き飛ばす。石を投げるところから挑戦するか!)
近くに落ちてあった手ごろな石を咥える。そして、それを上に投げる。そこで問題が生じた。
(上部は頭突きのために飛び回っている。下部を狙うべきか?ダメージという概念すらわからないし...)
時間もないし、頭が引っ込んだ隙をついて、その上部を狙ってみるか。
避けながらヘディングを続け、そして落ちてきた石をかなりの勢いをつけて弾き飛ばした。弾かれた石はそのまま相手にぶつかった。しかし、よろける程度で終わってしまった。
(体が岩だから、防御力には秀でているのか。考えてみればわかることだったな。)
続いて、かみつく攻撃...、と行きたかったけど、どのタイミングでかみつけばいいのだろうか。誰か「今です!」とか言ってくれないかな。
(勢いをつけたところで、この体は転がることができるのか?詰んでないか?黙って頭突きか体当たりをしろというのか?)
考えていた攻撃のすべては没にした。そして、俺は体当たりをすることにした。頭突きよりも重い一撃が出せるはずだ。
(行くぞ!覚悟しやがれ!!)
今度は相手の頭突きを避けない。俺は真正面から体当たりをする。
(うおおおおおおッ!!!!)
タイミングを見て、思いっきり地面を蹴って跳ねる。
ガゴッ!!
さっきとは比べようもないくらいの衝撃がやってくる。そして、お互い跳ね飛ばされる。しかし、その相手の方が勢いとく飛んで行って、洞窟の壁にぶつかった。
(頭いてえ...。)
少しフラフラするが、すぐに行動に移せるように、体勢を整える。
(...あれ?動かないぞ?)
壁にぶつかってから、相手は動かなくなった。
『相手のフロックを倒しました。経験値を獲得しました。』
頭の中に機械音のような声が聞こえた。
...倒したってことでいいんだな?フロックって、俺たちの種族の名前か?経験値が入ったってことは、この間のレベルアップについても完全に納得ができた。
(そうだ、あの光る石はないか?)
そう思い、動くことのない上部の方へ向かった。そして、上部を裏返したりして確認する。上部の構造は自分では見れないから、新鮮味があった。
(...これか?)
上部の裏側に、米粒サイズの光る石があった。
完全に挟まっているようで、俺の歯で削って取ろうとして中々取れない。
(また来た!)
先ほどの相手の石をいじっていると、他のところからまたやってきた。
(この石はどうしよう...!)
相手が攻撃をして来るまでには考えておきたい。
上部含んで食べてしまえば、楽だろうけど、こいつは同族だ。死んだらただの岩の様にしか見えないけど...
...時間がない。どうしようか。
そうこうしていると、やってきたフロックだったかが戦闘態勢に着いた。
(...食べる!!)
同じくらいのサイズだったけど、噛みついてやった。
思ったほど固くはなく、普通の岩より少し硬いという程度だった。
(よし、次はお前だ!)
やってきたやつの方へ振り返った。