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第二十六話

 強化され、土龍の爪の魔鉄バージョンとなった両手を使って粘土を掘るように壁を掘っていく。すぐに壁は貫通させられ、隣の道へ移ることができた。


 冒険者の魔力をうっすらと肌で感じる。肌といっても岩だけど。


 『ここを通ったみたいだね。』

 グングニルの言う通りで、冒険者らは確かにさっきここを通った。気がする。それに、近くに彼らがいるような気もする。魔力を探知した、前世ではありえない方法だから、いまだに「気がする」と漠然とした言い方しかできない。


 『それじゃあ、行こっか。しつこい冒険者たちを倒しに。』

 そう言って進み始めたグングニルを呼び止めた。


 「この近くに二階層に続く階段があったと思うんだ。奇襲だったら、もっとそれっぽくしないと。」

 何度か来た道だったら、洞窟内とはいえ少しは覚えているもんだ。記憶の通りに、冒険者たちの行っただろう道とは反対方向へ進んでいく。

 すぐに階段の場所につく。記憶が正しいとかそれ以上に、もっと明確な分かりやすいものがあったのだ。


 やはり、冒険者らは傷を負っている。

 よく見ると、地面に血が落ちてあったのだ。そしてその先に階段があった。ダンジョンの効果なのかはわからないが、その血液も薄くなってしまっていたが、ちゃんと階段にたどり着くことができたのでよしとする。


 階段を上がって行き、三階層の道の天井の上あたりに来ると、壁を掘りだした。


 「洞窟の上からだなんて、誰が想像できるよ?道に出ることはないだろうけど、奇襲は成功するはずだから、少しの間だけ我慢しててね。あと、高速で飛ぶ準備をして置いて。」

 そう言って、さっきまでしていた壁を掘る作業を思い出す。

 加速しながら高速で目的地の上に行くのだ。今なら、走りながらでも掘ることができる。イメージトレーニングをして、最初から走っていく。


 『あれ、その場合、ムーベンに変えた手を使うって戦法は意味ないんじゃない?帰って違和感を与えるんじゃない?』


 「ムーベンはちゃんといる魔物だから大丈夫だよ。貯蓄した岩の中に魔結晶というのがあったんだ。多分そういったものが魔石となって魔物になるんだと思うんだ。つまり、このダンジョンだと、壁から魔物が生まれるなんてことはなにもおかしいことではないんだよ。だから、天井からムーベンが落ちてきてもおかしくはないんだよ。多分。」

 さも、良く知っていますよといった雰囲気で説明したが、多分だということには変わりがない。


 『そこまで考えていたんだね......わかった!全部任せるよ!飛ぶ準備はいつだってできてるよ!』

 それでは、行きます!!


 うおおおおおお!!!!と、大声を出しながら進みたいところだけど、奇襲の意味がなくなるので黙って作業をすることにする。

 全力で両手に力を込め、掘り進める。岩を、壁を掘っているような感覚はなく、柔らかいものを掘り進めているような感覚だ。それに、剥がれたところから捕食されていくので、とても静かに作業できている。

 

 『この辺りからは、音をたてないように静かに行こう!』

 もうすぐ冒険者パーティの一番後ろに追いつく。下から、どこまでの音が聞こえてくるのかがわからないのが問題だ。慎重に歩いたところで、下は岩なので多少なりとも音は立ててしまう。


 「いや、いいこと思いついたぞ。」

 そう言って、掘り進める手を止めて立ち止まった。


 『え、ど、どうしたの?』

 心配そうに尋ねてくる。


 「グングニルは俺の背中に引っ付いていてくれ。どう注意しても、羽音だけはおさえられないからね。俺は、下半身を残して上半身を浮かせて進む。この体にフロックの名残があるんだったら、それができるはずなんだ。浮いていれば、物音に注意しなくてもいいようになるんだ。」

 そうして、俺は背中にグングニルを張り付けた状態で、上半身と両手だけでさらに壁を掘っていった。


 『この辺りだよ。』

 ちょうど冒険者らの上に来ただろうか。しかし、それだとムーベンを送るには余裕がなさすぎる。彼らの最前列のさらに数メートル前に行かないといけない。


 大分前から緊張していた。大人にイタズラを仕掛けるときなんかとは比べ物にならないくらいだ。見つかって失敗してしまうことに不安があるわけではない。

 考え始めると、不安が頭の中いっぱいに広がっていく。勝つか負けるかの心配もあるが、大勢の人間を殺すことになるという、罪悪感のようなものに対する不安だ。今は魔物ではあるが、中身はまだ人間のつもりだ。一度人を殺してしまったから、立派な人間だとか胸を張っていうことはできないが、それでも一応は人間なのだ。


 『どうしたの?大丈夫?』

 グングニルの声は、頭の中に直接響いてくる。それのおかげで、聞き逃すこともないし、耳に入ってこないなんてこともない。

 彼の声で、ほんの少しは気が紛れたのかもしれない。


 両手に力を入れて壁を掘っていく。


 『下に冒険者たちがいる、魔力探知ではわかっているんだけど、声も何も聞こえないから少し不安になるね。』

 いつの間にか、俺の魔力探知がかなり広い範囲まで使えるようになっていたが、それでも近くにある者の方がより鮮明に感じ取れる。まだ三階層の魔物は探知しづらいが、相手が人間だったら話は別で、魔力の流れや見えないはずの対象が人型であるところまでわかってしまう。


 頭で考えると、多分俺たちの下に目的の相手がいる。感覚で言うと、俺たちの下には五人ほどの人間がいる。こんな世界に来てしまったんだ。もともとバカな俺は、その感覚に任せるのが一番なんだろう。

 勝てると思ったから戦う、それでいいだろう。


 冒険者らを追い抜いて五メートルくらいだろうか。両手を十センチくらいにまで小さくして、ムーベン一匹くらいなら通れるだろうと思える穴を掘っていく。

 すぐに貫通させることができ、一旦両手を俺たちのいる足場に戻した。そして、両手を合わせた状態でムーベンに変形させる。

 ムーベンの手足は合計で八本だ。口元についた小さな手のような物を合わせると十本になり、俺の両手の指と同じ数になる。


 ムーベンの形になった俺の両手を穴からゆっくりと落とした。


 「魔物が生まれるみたいだぜ?三階層までくりゃ、経験値もいいだろうよ。」

冒険者の中の誰かが、俺の両手に気が付いた。


 「あのクソガキとグングニルをぶっ殺すためだ。完全に生まれるまで待とうぜ」


 「俺は賛成だ。全員あの子供みたいな魔物の一撃で怪我してる。これで以上入り組んだ道を歩くのは得策とは思えない。」


 「......すまねえな、ルック。俺がへましちまったせいで」

 意識はこっちに向いてくれている。それに、彼らは三階層の魔物の経験値が良いと言っていた。ということは、彼らは三階層くらいが適した冒険者なのだろう。


 「うるせえぞ!!さっさとグングニル捕まえて帰りゃあいいだけだろうが!魔物なんざ、待たずともわんさか出てくるだろうが!!」

 聞き覚えのある声だ。確か、彼らのボスだろうか。

 このままでは俺の手が無駄に終わってしまう。


 「ま、待ってくれ!あ、ああ、あの魔物!あのガキが投げてきたやつと、お、同じじゃないか!?」

 この声もまた聞き覚えがあるな。と言っても、ボスかボスじゃないかくらいしかわからないんだけど。


 「ああ?......お前ら!!散らばれ!!!」

 ボスが突然大きな声を上げた。ムーベンに気が付いてくれたのだろうか。見えないのがつらいが、俺たちから見える位置って相手側からも見えてしまうんだよな。

 

 頃合いだろうか。壁から生まれるようにしてムーベンを落とす。


 「身体強化、守備強化を全力で唱えろ!!ルックは回復魔法の準備だ!ビネールは風魔法を準備しろ!爆発に間に合わねえようなら、守りを固めておけ!!!」

 なに?風魔法だと!?毒霧対策に持って来いじゃないか!!


 穴からは、地面に落ちていくムーベンだけしか見えない。


 「クソが!!!」

 悪態をつきながら、身体強化を行っているようだった。

 彼らのまとっている魔力の質が変わったのでわかった。一人だけ、違った魔力を感じるが、攻撃魔法とは思えない。雰囲気が、攻撃のための物とは思えなかったのだ。

 つまり、その違和感を感じたやつがルックなのだろう。


 地面にぶつかるムーベンの音が聞こえた。

わざと砕けさせて散らばっていく指に意識をやる。


 魔力探知で、彼らがどこに散らばっているのかはわかっている。砕けさせた指は全部で十本で、そこについた関節が三十個だ。三十個もの関節が、冒険者らの足元に散らばっていく。


 「な、なんだ?爆発しないのか?」


 「違う魔物だったんじゃねえのか?なあ、クエックさんよお?」


 「い、いや!ぜ、絶対こいつだった!お、覚えているんだからな!!」

 余裕があるようで話していた。


 「まだ生きているかもしれねえ。ビネール、水魔法でもかけて爆発を阻止しろ。」

 ボスの言葉に、一つの魔力が動いた。さっきは、風の魔法を用意しようとすらしていなかったのでわからなかったが、ようやくわかった。


 それでは、毒霧行きます。


 散らばった小さな関節が形を変える。イメージしたものはお香だ。前世で何度か見たものだが、今作ったものはあくまで形が似ているというだけだ。


 「なあ、さっきそこの石ころ、動かなかったか?」


 「どこかで大型の魔物が動いているんだろう。三階層だから、そのくらいの魔物がいてもおかしくはない」

 ルックの声だろう。俺の関節に気が付いたやつの名前はわからない。

 それよりも、こんな真っ暗なダンジョンで小さな石ころに気が付くなんて、大した人間だな。一瞬焦ってしまった。


 お香の形になった関節、計三十個からうっすらと石化の毒霧を放ち始める。すぐに気づかれて、逃げられるかもしれないので、うっすらしたものから始めた。


 「お頭、この魔物、岩でできているみたいで、水吸ってやがりますよ。」

 ビネールが俺の作ったムーベンに違和感を抱き始めた。

 

 徐々に徐々に毒霧が濃くなっていっている。手を三階層に置いたまま、開けた穴に岩を詰めて栓をする。どっちにせよ相手は見えないのだから、毒霧が上がってこないうちに栓をしてもいいだろう。

 

 『じゃあ、そろそろ下に降りてもいいんじゃない?』

 

 すぐ下は石化の霧が立ち込めているので、下に降りるならもっと離れたところの方がいいだろう。

 両手は今使っているので両足を使うことにする。置いてきた両足を浮遊させた状態で俺たちのもとへ向かわせ、俺たちも両足の方へ戻っていく。

 

 多分この辺りなら大丈夫だろう。そう思えたところで、両足を合わせてドリルの形状に変化させて穴を掘った。

 様子見として俺が先に降りて、視認でしかわからないが毒霧を確認する。

 そして、俺の合図を見てグングニルが下りてくる。

 

 下半身の形状は元に戻し、俺は両手のない人型状態に戻った。

 

 少し毒霧が濃すぎたのか、濃霧と化していた。両手と指を元の人の手に戻し、お絵のすぐ隣まで戻ってこさせる。


 『土龍の爪の印象が強すぎて、なんだか久しぶりって感じだよ。』


 「石化の毒霧がすごいし、俺だけで行くからグングニルはここで待ってて。周りには十分注意しておいてね。」

 そう言って、俺は濃霧の中に入っていった。


投稿していたつもりができていませんでした!申訳ございません!!


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