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第二十五話

 両手の土龍の爪によって、ダンジョン内の壁を次々と掘り進めていく。長い時間壁の中にいることもあったし、掘り進める作業に慣れてしまうと心にも余裕ができてきて、俺もグングニルも暇になってしまっていた。


 いくつめかはわからないが壁を掘り進めていると、頭の中にある声が響いてきた。

 といっても、こんなところで俺に話しかけてくれる者なんてグングニルか神の声くらいだけだけど。


 『特殊スキル:変形シリーズの土龍の爪が強化されました。本来の土龍の爪と比較した際の完成度が二十パーセントだったところ、先ほど三十パーセントに到達しました。より完成度を高める為には、使用し続けることと変形させて強化させることが必要です。』

 俺が土龍の爪ができたと喜んでいたけど、実物と比べるとかなり劣っていたのか。確かに、ドラゴンの手を岩だけで作り出せるとは思えないし、そもそも生き物の手に岩が付いているなんておかしいもんな。


 『どうしたの?』

 心底暇そうにしているグングニルが、少し様子が変わってしまっていただろう俺に話しかけてきた。


 「さっき、この手が強化されたよって神の声が聞こえたんだけど、よくよく考えてみるとこの手ってどこまで変形させても岩なんだろうなって思ってさ」


 『なるほどね。でも君の体が岩だったおかげで、疲れ知らずで働き続けられているよね。もし君の体が他の魔物みたいに肉で出来てあったら、確かに鍛えられて筋肉がついていくんだろうけど、食事が必要だったり休息が必要だったり、ペナルティは有るんだよ。それに、君の加速して殴り続ける連打だったり、壊れてもすぐに修復できる力だったりは岩だからこそできるんだよ。』

 疲れ知らずで働き続けられる、休息が必要ない体か。普通の物質系の魔物だったらそれでいいんだろうけど、人間としての心が備わっているんだから少しは休息がほしいな。

 岩の体だからこそ修復し放題だし、加速し放題だというのは本当に最強でずるいと思う。その点は認めよう。


 ただ、使い続けたところで鍛えられる筋肉がないし、土龍の爪の完成度が百パーセントになることがないんだろうなと思うと、岩の体は少し惜しいと思ってしまう。


 『あ、そうそう。その筋肉みたいにより成長し続けることは厳しいんだろうけど、君の場合は、捕食したものを自分の体に混ぜ込めるし、鉄鉱石だったり魔晶石が手に入ったらもっともっと強化されていくんじゃない?魔鉄とか硬い石なんていたらでもあるし。こんなに岩を掘ってたら、ただの岩だけじゃなくて他の物だって捕食してるかもしれないよ?』

 その通りかもしれない。単に岩を捕食した、岩で体を作ったなどなど、岩がどうのとしか言ってこず、鉱石については一切触れてこなかった。


 「捕食してるかもしれないね!!」

 思い立ったが吉日、自分ではよくわからないので神の声に聞いてみる。


 『現在貯蓄されている岩を分析しました。魔岩が約六十五パーセント、魔鉄が二十パーセント、魔水晶十パーセント、魔結晶が五パーセント。捕食した鉄の剣は含まれていません。』

 ふむ、鉄の剣の鉄くらいしかわからん。


 「捕食してる岩の全部に、魔ってついてあるんだけどそれってどういうこと?」


 『全部!?ま、まあここはダンジョンだもんね、おかしくないよね。うん。えっとね、その「魔」は、ざっくりで言うと魔素をたくさん含んでいることを表しているんだ。魔素を含んでいると、魔力になじみやすかったり属性を与えられたりできるんだ。僕もよくはわかっていないんだけどね、人間たちの中でも、ただの鉄の剣と魔鉄の剣とでは価値が全く違うみたいなんだ。だから、多分なんだけど、普通の岩や鉄よりも硬くて優れているんじゃないかな?』

 いまいちその魔素についても、まだ理解できているわけじゃないから何とも言えないけど、要するに良い岩や鉄なんかをたっぷり持っているってことなんだよな。


 「今までその岩の内容物っていうの?それらを意識していなかったから、俺の体にはまだ魔鉄とかは使われていないってことなのかな。使っても消えるってわけでもないし、やってみるか!」

 魔結晶は、その魔素っていうのが結晶化した物だろうから、魔鉄に合わせればより硬くなるんじゃないか?属性については、単なる岩である俺には付けられないだろうから保留として、とりあえず、俺の両手に魔鉄を付けてみるか!


 『両手の土龍の爪を強化しますか?強化の際は、両手を使用することができなくなります。』

 雑談や分析は作業しながらでもできるのに、強化はできないのか。でも、思い立ったが吉日と言うし。


 「この壁を壊したら少しだけ強化する時間貰ってもいいかな」


 『お!魔鉄を使うの?ずっと働き詰めだったし、ついでに休憩もしようよ!目的地にだってすぐ近くまで来られた訳だし!』

 許可も下りたし、休憩だってできるようだ。


 加速も使って壁を掘り進めていく。目的地である冒険者たちの場所はすぐ近くだ。傷を負った所為か、彼らの移動速度が遅いのがありがたい。

 

 「よし、休憩にしよう!」

 あれから数分後に、壁を貫通させることができた。向こうの道には、魔物や冒険者がいなかったので安心して休憩することができる。


 『この壁の向こうかな。』

 貫通させた穴をくぐって隣の道に移り、反対側の壁の方へ行ったグングニルはそう言った。

 

 「冒険者たち、かなり近いな。壁一枚挟んだ向こうにいる気がする。」

 どこかにこちら側と向こうの道とを繋ぐ穴があったら、俺とグングニルの奇襲大作戦が失敗してしまう。

 すぐに手の強化をしておかなくては。


 『両手の土龍の爪を強化しますか?』

 もちろんお願いします。


 『強化できるまで三分かかります。』

 その言葉とともに、俺の両手が一瞬で消えた。


 三分間か、地味に長いな。敵が来ないか警戒を強めておかなくては...


 「三分間両手が使えなくなったんだけど、冒険者たち、大丈夫かな。」

 今こっちへ来られると、かなり困る。体のどこからでもムーベンは放てるけど、両手がないのは大きい。少なくともムーベンを投げることはできない。それにパンチもできないし、盾としても使えない。

 慣れないキックは、戦い慣れているだろう冒険者を相手にするには流石に不安しかない。


 神の声さん、鉄を先端に付けた魔岩の槍も作っておいて。

 そう伝えて、戦略を練ることにする。


 「グングニルさん。私、いいことを思いつきました。」


 『......駄目だよ。流石に魔物とはいえ、生き物としての尊厳というものもあって、戦う相手にも敬意を表さないといけないんだ。』

 まだ何も言っていないのに却下されてしまった。


 「聞くだけ、ほんの少し聞くだけでいいからさ!」

 「少しだけだよ?」と話は聞いてくれるみたいだ。ありがたい。流石グングニル様だ。


 「ムーベンの破壊力については、一度食らわせたからあいつらも良く分かっていると思うんだ。でも、少なくとも両手の使えない今の俺には、ムーベン以上の攻撃は持ち合わせていない。それを対策されてしまう可能性だってある。そこで提案するんだけど、一時的にだけど、俺の片手をムーベンと同じ形にしてあいつらに放つ。爆弾を放たれると、あいつらも警戒するはずなんだ。でも、俺はその手を爆発させない。手が地面に落ちたとき、少しその手を欠けたように見せて、とっても小さくした指を気づかれないように四方八方に転げさせていくんだ。いくら小さくしたといっても俺の手だ。そこから石化の毒霧を放ってやるんだよ。爆発に警戒していると、状態以上にまでは気が利かなくなるはずなんだ。石化はすこしだけでもいい。混乱するのが狙いなんだよ。筋肉や体がどうであろうと、石化した石ッころには変わりはない、指をムーベンに変えて爆発させれば木っ端みじんさ!」


 『......悪魔!君は盗賊か何かなの?魔物だよね?物質系の!所詮虫と岩だから、頭も回らないだろうと油断しているかもしれない相手に......もう、本当に悪魔!』

 罵倒しているようにも聞こえる、でも否定しているようには聞こえなかった。


 『でも、相手がもしも生き残っていたらどうするの?水属性の魔法を放って来たらもう終わりだよ?その対策も考えておかないとだめだよ。倒せなかった時のことを余分に考えておいてもいいはずなんだ。』

 あれ、結構乗り気じゃないか?


 「大丈夫だよ。俺が今作っているのは、岩じゃなくて鉄の手なんだよ。鉄は水には沈むけど、水で溶けたり砕けたりはしないよね?ムーベンを警戒するんじゃなくて、真っ先に攻撃を仕掛けてきたとしても、今作っている槍があるし、足を使うこともできる。それに、こっちにはグングニルがいるんだから大丈夫だ。」

 冒険者たちの魔力が遠ざかっていくことが分かる。ここがダンジョンなだけに、魔物である俺たちを見つけることもできていないのだろうか。それは好都合だ。


 『あの爆発に巻き込まれておきながら、引き返さずに進んでくるところを見ると少し違和感を感じるんだけどね。』

 魔岩で出来た俺でさえ何度も死にかけた爆発を人間が受けたのだ。死んでもおかしくないし、むしろ死なないとおかしい。それなのに生きており、さらに先へと進んでくる。どういうことだ?この世界の人間はそんなに頑丈なのか?


 「グングニル、君の体にはそれほどの、死ぬ覚悟を持ってさえも手に入れたくなる価値があるの?」

 冒険者で、グングニルほどの魔物が警戒する人たちだ。そんなにバカみたいなことはしないはずだ。


 『どうなんだろうね。でも、実際追いかけられているし......でも、彼らにとってムーベンがそれほど驚異ではなかったということもあり得るんだよね。』

 

 「でも、俺にはムーベン以上の火力は出せない。だからと言って、ここまで来てまた下に逃げていくのも気に入らない。だから、一旦あいつらと戦って、それで無理だと思えば逃げればいい。」

 そういうと、神の声が魔岩の槍の生成が終わったと伝えてくれた。次は小さい指を付けたムーベンボム型の手を作ってくれと頼んでおいた。

 すぐに、両手が完成したという報告と共に両手が現れた。

 

 俺の捕食した岩の二十パーセントを占める鉄の量は、俺の思っていた以上にあったようで、俺の両手は銀色の魔鉄でコーティングされていた。手の甲にあたる部分には特に鉄が厚くつけられているようだ。龍の手らしくウロコのボコボコも再現されており、ツルツルではあれど岩の時以上にそれらしくなったと思う。

 

 「休憩というか作戦会議だったけど、もうそろそろ行こっか。」

 出来上がった手をグングニルに見せ、その顔をチラチラと見る。


 『うわ、魔鉄がこんなに......よく魔鉄を抽出して、こんなことができたね!生き物の手からは大分離れてしまったけど、でもそれでもかなり強くなったと思うよ!こんなに魔鉄があったら、片手剣が......四十、いや五十本以上は作れちゃうんじゃない!?』

 

 「ふっふっふっ!見よ!この手さばきを!!」

 力を込めて、壁を一掘りする。力を込めても何も変わらなかったはずなのに、なぜか力を込めたような感覚があった。そして、壁は粘土のような柔らかい感触と共に、スルッと抉り取ることができた。


 「あれ?なんか、力を込めることができた気がしたんだけど。」


 『......魔鉄は魔力を通すことができるし、採掘された場所によって込められる魔力も変わるっていうんだ。ダンジョンの魔鉄で、これほどの量だったらかなり通せるはず。だから、魔力と魔鉄が筋肉のような役割をして、力を込めたような感覚になったんじゃないかな。魔鉄も込められた魔力に呼応して使い手の思うように強化されるらしいし。』

 呆れたような言い方で教えてもらえた。素直に感動してやろうと思った時に、また呆れさせられた、そういったところだろうか。なんか申し訳ない。

 それに、魔法の筋肉か......。

 

 ヘンテコだな。


 次回、ついに冒険者パーティと戦うことになります!

 何も考えずに生み出された主人公――タイタンナックルは、最強になってしまっています。

 自分で考えて作り出したかわいいキャラクターをひどい目に合わせることが、私にはできるのでしょうか。それとも、クモ爆弾を耐え抜いた冒険者パーティが有利に戦うことになるのか。


 さてさて、話が進むにつれて設定も濃くなっていきますよ。

 漠然と、岩の魔物を主人公を書こうと思って書き始めてしまったので、穴と荒だらけになってしまいます。前と言っていることが違うな、そう思うと違和感を感じながらでも鼻で笑ってあげてください。

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