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第二十三話

 タイタンナックルに進化してすぐ、やってきた冒険者たちからグングニルを遠ざけ、彼らにムーベンをぶつけた。

 どうなったかはどうでもいい。時間を稼ぐことが最優先だ。確かにムーベンは強力ではあるが、数に限りがある。ストックが切れた場合、戦うのは俺だ。


 といっても、ムーベンを使ったのだから、相手が全滅していてもおかしくはない。むしろ人間が、あのムーベンを耐えられるだなんて俺には微塵も思えない。


 『君、早く!』

 彼らを巻き込んだ爆発を見ていると、先に行かせたグングニルに呼ばれたので急いで三階層へと降りた。


 光を放つ水晶を砕きながら走る。


 『人型の姿なんだから、跳ねるんじゃなくて二本の脚で走らないと!そっちの方が早いんじゃない!?』

 前を行くグングニルにそう言われ、フロックだった時の癖が染みついていたことに気が付いた。岩である前に人間だった俺が、人間である前に岩だった俺に変わったのだろうか。とても恥ずかしい。

 それに、進化をして変わったのは見た目だけではなかった。まだレベルが一だったのに、水晶をいとも簡単に破壊することができたのだ。


 少し押しただけで水晶が折れるほどだ。両肩を左右に向けたまま上げる。離れたところにある左右の腕もまた、体から離したところに浮かせる。

 いわゆるラリアットというものだろうか。俺にはそんな知識が一切ないのでわからない。しかし、どういうわけか「ブーーーン」と言いたくなる。

 

 左右に伸ばした腕を、走っている自分の体に並行させて動かせる。洞窟の壁に沿って腕を動かし、水晶を殴っていく。

 久しぶりなので、体のバランスがとりにくかったが、転ばないようになんとか耐えている。


 (絶対転がったほうが楽なんだよな…)

 生前の姿と同じ人型になったというのに悔しい。


 何度か探索は行ったが、所詮は洞窟。目印らしいものがない。

 ただ、結構な距離は走った。人間よりも速く走れていたというのであれば、彼らから十分な距離はとれたはずだ。


 『どうしよっか?流石に進化したばかりでレベルもリセットされちゃってるから、あの冒険者とは戦いにくいよね。でも、前よりかは硬くなっているように見えるし……』

 

 「人型になって、より細かい動きができるようになったはずだから、もっと楽に戦えるはずなんだ。あのゴーレムであっても、ムーベンであっても、もしかしたらトランスキンも。」


 『僕ではこれからレベルを上げて行ったとしても、物質系にはやっぱり決定打に欠けるはずだから、これからは君のレベル上げの手伝いをさせてもらうよ。と言っても、トランスキンくらいしか僕の倒せていた魔物はいないんだけどね。』

 逃げることに使っていた道とは別の道の方へ、魔物の探索のために歩き出した。


 ゴーレムであろうとミナーレイソンであろうと、トランスキンであろうとムーベンを使えば簡単に倒せる。それが出来なくとも、両手を自由に動かせるのだから、無理やりゴーレムのお腹にある口を開けられるだろうし、ミナーレイソンの口も開けられる。押さえつけることもできる。

 石化の毒霧も持っているので、ムーベンを捕食することもできる。


 ……もしかして、俺ってこのダンジョンでも結構上位にいるんじゃないか?

 この下の階層にどんな化け物がいるかはわからないが、少なくとも毒霧とムーベンの通じない魔物がいるとは想像できない。


 周りを見回しながら、グングニルと共に注意深く歩いていると、ゴーレムの背中を発見することができた。

 いくつも水晶の生えた大きな背中が、ゆっくりと二本の脚で移動をしていたのだ。


 『やっと見つけられたね!』

 

 「そうだね。でも、あんなに光る水晶が生えているのに中々見つけられなかったというのも変な話だよね。」

 正面を向いていても頭部の魔石が目立つはずだ。それに壁に擬態していたとしても、あの光る水晶までは隠せないはずなのだ。


 『それだけ擬態が上手いんだよ。』

 俺のいた世界にはいなかった魔物という生き物だし、ダンジョンの中だし、俺の常識では測れないんだろうけど。

 

 ああ、そんなことを話している暇はなかったんだった。ゴーレムは、まだ俺たちに気付かずに前を歩いてくれている。今のうちに手を打たなければ。


 「グングニル、止まってて!」

 そう言って、体内からムーベンを取り出して投げつける。

 

 何かが近づいているということを察知したのか、ゴーレムは立ち止まって頭部をグルリと回して後ろを向いた。

 近づいている物がムーベンだと理解し、頭部の魔石からビームを放とうとするも遅かったようで爆発に巻き込まれていった。


 やったかと思ったが、水晶が爆発の衝撃を抑えたのか、バラバラにすることはできていなかった。そのため、体勢を崩させて転ばせることはできたものの、口を開かせることまではできていなかったのだ。


 俺は、倒れたゴーレムの口元に飛び乗り、歯の隙間に手刀の形をとった両手を差し込んだ。


 この岩の体に筋肉はないので、どこに力を入れればいいのかはわからないが、それでも手を動かすことはできるので、ゴーレムの口を無理やり開くために何とか手を動かしてみた。

 ゴーレムの口は堅く、開きにくかったが、それで俺はあることに気が付いた。

 この体には、確かに筋肉が無く力を入れることもできない。それでも、しっかりとゴーレムの口を開くことはできている。


 人間の体で言うと、今の俺の体は常に力が込められている状態のようだ。

 そして、その俺の力でゴーレムの口が少しずつ開こうとしているので、力の強さは俺の方が少しだけ上回っていることがわかる。

 力を入れているつもりもないので、息が上がるとかそう言ったことも無いし、そもそも酸素を必要としていない体なので、何かを心配に思うところが一つもない。


 俺は、限界の力を永続的に出し続けることができる。疲れることも無いし、空腹感も何もないので、本当に永続的に続けることができる。

 今回のゴーレムの口だって、俺にとっては力が必要なのではなく時間が必要なのだ。


 ただ、その時間稼ぎも相手が動かなければ楽なのだが、生き物なのだから動いて当然だ。

 ゴーレムは上に乗っかった俺を落とそうと、両手で殴り掛かってくる。

 このタイタンナックルという魔物のいいところをまたしても見つけてしまった。


 平衡して物事をいくつも考えることができると、ゴーレムの口を開かせる手と時間稼ぎにゴーレムと戦う本体とで役割分担ができるのだ。


 ゴーレムの片手をグングニルが引き寄せてくれ、もう片方の手と両腕のない俺との時間稼ぎの戦いが始めることができた。

 ゴーレムの口に置いた手の事を忘れてしまいそうになるが、チラチラと見ることで意識から排除せずに、彼の手と戦えた。


 跳ねることと、新しく覚えたスキル:キックとをなんとか使う。手が無いだけでバランスがとりにくく、また人間ほど滑らかな動きができないので戦いにくく感じたが、それでもフロックの時なんかよりかは自由が効いた気がした。


 それから数何分後、時間はかけたが、ゴーレムの口を開かせることに成功した。そして、隙間に見えた魔石を難なく殴って破壊した。


 『相手のゴーレムを倒しました。経験値を取得しました。レベルが上がりました。レベルが七になりました。』


 一気に七まで上がってしまった。新しいスキルはないようだが、これで更に攻撃力なんかが上がったと思う。

 ゴーレムの体だって一口で捕食出来たりと、一つの進化で随分と成長できるものだ


 その後、トランスキンと出会えた。

 柔らかい皮膚で、ゴーレムとは違って手刀も抉りこむことはできる、ムーベンで爆発させた。

 ミナーレイソンとも出会えた。円錐型にした右手のアッパーによって上顎から穴をあけて脳を貫いた。

 ムーベンはいつも通り捕食した。

 ミナーレイソンはそれっきりだったが、ゴーレムとトランスキンをもう一体ずつ倒せたことで、俺のレベルは十四になっていた。

 やはり、一の頃とは比べ物にならないくらいの力になっていた。ゴーレムの口を開く速度や、そもそもの移動速度などが増していた。

 驚くのはそんなことだけではない。


 スローックだった頃、一瞬にして何度も俺の体を殺せていたあのムーベンも、今の体ではたった一回の修復で間に合うようになっていたのだ。


 『もう感じ取れてるとは思うんだけど、もう三階層にあの冒険者たちが来ているよ。でもその気配が薄いから人数が少ないのか、気配遮断の魔法を使っているんだと思う。どうする?さっきの一瞬では何人いたかとかわからなかったんだけど、迎えに行く?』

 

 「あー……待って。岩を食べておきたいな。修復と変形の分の岩をもう少しためておきたいんだ。」

 

 『わかった!食べ終わったら呼んでね!』

 そう言ってグングニルは飛んだまま、俺の捕食風景を眺めていた。

 

 進化したことによって、俺の体に口らしい口が無くなってしまった。それの証拠に、フロックの上顎にくっついているはずの魔石が胸元に出ている。

 だったらどこに俺の口があるのか。


 フロックの口と、体内だと思っていたあの異空間。あれは、本来別々のモノだったのかもしれない。タイタンナックルにはその口でしか異空間に繋がりのないフロックと違い、自由に異空間を発生させられる。


 要するに、タイタンナックルに口はない。


 殴ったり、器型にした片手で引っかくように壁を掘っていく。


 異空間を開くのは至って簡単だ。


 以前に、フロックだったかスローックだったかのときに下部が無くなって捕食ができなくなった時に、捕食をするかどうか神の声に問われたことがあった。

 上部が捕食したい対象に被さっているだけで、質問されるけど捕食することはできた。


 手をかざす、もしくはタッチする。それだけで捕食することができるのだ。それも神の声の質問なしで、だ。だから、岩を削って捕食をするまでの流れがスムーズになっている。


 「そうだ!」

 捕食をしていると、いいことを思いついてしまった。


 『どうしたの?』

 

 「よくぞ聞いてくれた!グングニルほど魔力探知は上手くできないけど、大まかな位置は探れたから、そっちの方角へ壁を掘って突撃していったら相手もびっくりで奇襲もできるんじゃない!?」

 どこからでもムーベンを放てるわけだしな。


 『え、今から壁を掘っていくの?流石に、ダンジョンの洞窟の壁を掘って進むなんてありえないよ。』

 流石にそれは…と、呆れかえるグングニルを見て、任せろ!と親指を立ててみせる。

 両手を、スコップのような形に変形させる。多分モグラの手に近いんだろうと思う。もっと動物や虫の勉強をしておくべきだった。

 

 勢いよく壁を掘り続ける。普通のスコップだったらカンカン言うだけで掘れないだろうが、俺の手は違う。そもそも人間の腕とも違う。グングニルにありえないと言わせたこの壁であっても、俺の手をもってすれば穴を開けられる。


 数分間、削って捕食を繰り返す。

 スコップだと薄すぎるかと、少し太くしたり、爪のようにしたりと改良に改良を重ね、ついに俺の努力はスキルに響いてくれた。そして、それと同時に壁を貫通できた。


 『特殊スキルに変形シリーズが追加されました。変形シリーズに「土龍(どりゅう)の爪」が追加されました。』


 『……なんか、反応困っちゃうなー』


 向こうの通路が見える穴の横に立ち、手をグングニルに見せつけた。

 



 お読みいただき、ありがとうございます!


 総合アクセス数やブックマークが増えていき、とくにブックマークが増えて行っていることがとてもうれしいです。

 最近、ブルーライトを浴び過ぎた影響か、元々かはわかりませんが、「頭がおかしいタイム」が短い頻度で行われており、中々文章を打ち込むことができていません。

 主人公の戦う準備も十分できましたし、そろそろ三階層も卒業してもいい頃合いですね。


 次回の投稿は、十一月十九日、十二時の予定です。お楽しみに!

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