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第二十二話

 たった十分ではあれ、今のダンジョン暮らしでの時間の経つ速度がいまいちわかっていないので、のんびりと時間が経つのを待つよりも何かしら動いた方がいいと思ったので、魔物を探すためにまた探索していた。

 俺のバレットの速度や、転がる速度には自信があるので、それを使っていると十分でかなりの連打数や移動距離を出せてしまうはずだ。ちんたら待つのは余りにももったいない。


 ここで一つ、気になったことがある。ムーベンボムは俺の攻撃ではない。ただ体内にあるムーベンを使っているだけだ。それでも経験値が入ってきた。つまり、俺はムーベンという武器を使ったことになるのだろう。

 だったら、グングニルにムーベンボムを持たせて敵に投げてもらえば、グングニルに経験値が入るんじゃないか?


 俺は今、進化が可能なレベルに至っている。これ以上上げる必要があるのかどうかは分からないが、とりあえず進化はできる。

 グングニルにも進化してもらいたいじゃないか。できるのかどうかは分からないが。


 「グングニルはさ、後何レベくらいで進化できるの?」

 少し直球すぎたかな。まあ、回りくどい言い方をして伝わらないよりかはましか。グングニルに限って伝わらないなんてことはないと思うが。


 『え?僕はもう進化しないよ。幼虫からさなぎに、それから今のグングニルになったんだから、僕はもう成長しないよ?』

 ああ、確かにその通りだった。カブトムシから進化なんかなかった。ただ、魔物だからもしかしたらと思っていたが、そこは現実的なのか。


 「魔物だからそれは関係ないかなって思ってたんだけど、がっつりあったね。」

 そう言うと、前を飛んでいたグングニルがピタリと止まり、振り返った。


 『そうそう、前々から気になってたんだけどさ。君、何かおかしいよね。ダンジョンで生まれた魔物なのに、知りすぎているというかさ。今もそれは関係ないって言ってたけど、あたかも成虫になる虫の変態を知っていたみたいな口ぶりだったよね。』

 ……あ、やっちゃった。

 いや、俺が元々人間で気が付いたら魔物になってたとか、前世の記憶があるとかって言っちゃってもいいのか?駄目なことなんてあるのか?

 

 「ああ、俺は元々、多分だけどこことは別の世界?に住んでた人間だから。」


 『人間が魔物に……グールだったり、吸血鬼の眷属、マタンゴに寄生された人間だったり例はあるけど、流石にダンジョンのフロックになるなんてありえないよ。いや、でもそれ以外あり得ないし……あはは、やっぱり君は変わってるね!』

 変わっているとは失敬な。可笑しそうに言うけど、こっちは何も嬉しくないぞ。

 

 この世界には、グールとか吸血鬼なんかもいるのか。ファンタジーだから有り得なくもないけど、なんか怖いな。

 いや、俺は岩だから感染もしなけりゃ血も吸われないけど。


 「まあまあ、ほんの少し知識のあるフロックって思ってくれたらいいから。」

 難しいことを考えず、お互いに簡単にでも理解しておけばいい。


 『いやいや、それがおかしいんだよ?』

 とても愉快そうに笑っている。なんか悔しい。

 

 『まあいっか!』

 グングニルはそう言って、また進み始めた。

 いつ頃からか水晶を食べることをやめていたので、俺たちが進む先も、進んできた後ろの道も水晶で照らされている。

 暗闇でも目が効くこの体ではあるが、明るいことにこしたことはない。何故か光があるというだけでも安心できる。


 そうこうしていると、ついに頭の中に『岩の圧縮に成功しました。』という言葉が聞こえた。


 「グングニル!この辺りで進化してもいいかな?」

 よりにもよって、だが洞窟内の十字路にいた。空いた道が多くどこからでも魔物がやってきそうだ。でも四つも道があると、道が広がっているように感じて、進化がしやすそうだと思った。


 『え、ここ?進化したらレベルがリセットされっちゃうし、僕だけじゃ守れないよ?』

 だったらどうしよう。

 

 ふと、今の俺たちには安全なものを思いついた。

 言い換えれば危険ではあるが、まあそこはなんとか対処すればいい。


 「二階の階段前の広場に行こうよ!あそこなら広いし、道の二つしかない!」


 『でも人間が来るかもしれないよ?』

 少し不安そうに言われたが、それを考えない俺でもない。


 「ゴーレムの体って、でっかい岩を圧縮して小さくより固くした姿なんだよ。それで、俺はそれを持っていて、更に大きい状態に戻すこともできちゃう。まずそれで道をふさぐとして、ムーベンも設置させてってすればかなり安全なんじゃない?」

 洞窟の道を防ぐドでかい岩を、たかだか人間が数人集まった程度ではどうにもできないだろう。

 今の俺はかなり悪い顔をしているはずだ。


 『そうだね。君がそこまで言うんだったら任せるよ。二階に上がる階段は……こっちだよ!!』

 何を考えていたのかはわからないが、少し周りを見回したグングニルは、十字路の道をやってきた道を後ろとして左手側へと飛んで行った。置いて行かれないようにと俺も転がってついて行く。道中に現れたムーベンに接近し、至近距離から高濃度の石化の毒霧を当て、一瞬で石化させて食べる。

 トランスキンには、今の俺ではまだ攻撃が届かないのでグングニルに任せる。


 何を見て飛んできたのかはわからないが、ついに二階へとつながる階段の前まで来られてしまった。何か少しだけ見覚えのある道だ。


 『僕のスキル、マッピングだよ。一度来た道は頭の中でマッピングされていくんだ』

 似たようなことを前世で聞いたことがあるぞ。やたらと道に詳しい友達が同じことを言っていたかもしれない。

 マッピングか、とても便利だな。バレットみたいに、道覚えようと動いていたら取得できるのかな。難しいな……


 『うん。上の入り口にはまだ人間の気配はないよ!今のうちに上がっておかないと!』

 急いで二階へと向かって行くが、階段を下りるのは何度かやっていたけど、上がることが初めてだったことに気付いた。

 両脚跳びで階段を上がるように、つまづいてしまいそうだという不安があった。


 久しぶりの部屋が広がっていた。

 洞窟内とは思えない、煉瓦を重ねたような広い部屋だ。

 

 部屋から一本だけ伸びた道の方へと向かって行き、口を開いて巨大な岩を吐き出す。

 ゴーレムの死体を食べたことで、やっと進化ができるという状態だったのに、ここで岩を使ってしまってもいいのかと不安になったが、なんとか残っている分で進化ができるようだ。

 ただ岩を食べ続けるというだけだったので、どのくらい体内に溜まっているのかわからない。圧縮がどうのと口では言っているもよくわかっていない。

 わからないけど、それでもなんとかことが進んでくれたらそれでいい。


 「それじゃあ、早速。」

 

 『進化を開始します。』

 その声と共に、俺の体が光だし、勝手に浮き上がる。

 口が開き、右手が入ってゆく。

 

 グングニルの方から「うわっ」と、変な声が聞こえたような気がしたが気のせいだろう。


 俺の口から巨大な緑に光る石が出てきた。体内で固められた魔石だろう。高さが一メートルくらいで、今の俺よりも大きい。

 魔石の放つ光が強くなって行き、ついにはただただ眩しい光の塊になる。光はいくつもの小さな欠片に分かれて行き、俺の体を覆い尽くしてゆく。何かが当たったという感触で熱いとか痛いとかそう言う感覚はなかった。


 次に、巨大な岩がいくつも現れる。

 さっきの魔石よりも少し大きいサイズの岩がいくつか現れる。数えようと見つめてみるも、大きな岩は 俺の周りを縦や横、ななめなど好き放題に回り始め、数えさせてくれなかった。


 グルグルと回っていく内にその速度も上がって行き、ついには岩の形すら見えなくなっていった。そして、いきなりバッと離れ、停止した。


 何が起こったのかわからないが、とにかく嫌な予感がしてきた。


 「あ、いや、ちょっと待って!待って!!」

 次に何が行われるのか、ぼんやりと分かってしまった俺は、必死にお願いした。痛みは感じないけど、怖いものは怖い。


 岩は、どういう原理なのかわからないが分裂していった。

 一メートル以上あった岩が、三十センチくらいの岩四つに分かれていく。

 

 『あ、見れない!』

 グングニルは背中を見せた。薄情者め!


 小さくなった岩のグループの一つずつが一斉に俺目掛けて飛んでくる。岩の速度を見るに、俺を破壊しにかかってきているようだった。バレット並みの速度だ。撃ちこまれる相手の気持ちがわかったくらいだ。

 痛みも衝撃も感じないのがむしろ怖い。


 四回連続で、四方八方からやってくるバレットに耐え抜くと、一瞬意識が遠のいた様な気がした。意識が飛んだのか、瞬きをしたのか、あくびをしていたのか、それはよくわからないくらいの物だった。

 しかし、その一瞬で、俺の視線の位置が変わったことに気が付いた。


 『進化に成功しました。貯蓄量に余裕があったので、進化を少し強力なものに換えました。スローックはタイタンナックルに進化しました。あなたの記憶と照合し、より動かしやすい体に変わりました。スキル:パンチ、キックを取得しました。』

 貯蓄量に余裕があったからサービスしてもらえたのか?だったらもっとため込んでおくべきだった。それで、俺の体が俺にとって動かしやすいものに……か。

 どうやって確認しようか。そう思って、周りを見ていると、呆然とした顔で飛んでいるグングニルが目に入ってきた。


 『き、君、その体って……』

 詳しく聞いてみると、まさに人の子供に似た体をしているらしい。同じ体と言っても、肌の色や質感はまだ岩に近いものだが。

 自分でも見れる辺りで言ってみると、腕があり、手がある。手には指が生えており、自由に開閉で来た。また、脚もあり、太もも、膝、すね等、完全に人間と同じパーツだった。


 しかし、やはり俺は元スローックなのだろう。

 腕はあるが、肩から先が無かった。二の腕が欠如してあったのだ。腕が浮いている状態だ。

 腕は自由に動かせられるし、逆にこっちの方がよかったのかもしれない。

 それに、腕や足、お腹などに魔石と同じ緑色の模様が描かれているのも格好よくて好感が持てる。


 ただ一つ欠点を上げるのならば、胸元にいかにも弱点のような大きな魔石が生えていることだ。


 「ついに進化したよ!!」

 久しぶりの人間と同じ感覚に戸惑いながらも、二つの脚で立って、空を飛ぶグングニルに話しかける。


 『人型の魔物でって、それだけで上位の魔物なんだよ!?君、本当にフロックだったの!?』

 人型だということで嫌われてしまうかもしれないとほんの一瞬不安になっていたが、その言葉に安心できた。

 

 「変わったフロックだったからね!」

 そう笑って言い返した。



 

 「ああ?何だ、このでっかい岩は?おい、本当にこっちの道で合っているんだろうな?」

 低い男の声が聞こえてきた。


 『あ、あいつだよ!あいつが僕を追ってきたパーティのボスだよ!』


 「まあまあ、少し落ち着きたまえ。」

 今すぐにでも飛んで行こうと構えるグングニルを止める。


 「私にいい考えがあるのだよ。」

 そう言って、グングニルを連れて、階段の方へと下がる。


 俺の体にフロックらしい口はなかった。だったら何を使って岩を食べればいい。そこで思いついたのが、両手を合わすことでフロックの口を再現することだ。

 そして案の定それで、ムーベンを取り出すことができた。

 左手を伸ばし、俺の吐き出した岩に触れて一瞬で捕食する。


 「なんだ!?何が起きた!?」

 ボスだと言われていた男とはまた別の声が聞こえた。

 巨大な岩が無くなったことで、相手の姿を目にすることができた。


 いかにも盗賊のような佇まいをしている。 

 中心の男は百九十センチはあるんじゃないかと思えるくらいの巨人なわけだし。


 俺は右手に持ったムーベンボムを人間たちの方へ投げつけ、掌を向けたままもう一つのムーベンをバレットで撃ちだす。

 

 「グングニル、下に逃げて。」

 笑顔でそう伝える。

 相手がまだ反応できていない内に、ムーベンは相手との距離を詰める。そして、遠目ながら爆発規模内に入ったなと思ったところで、最も近くに出していた左手の人差し指を、バレットで撃ちだした。



 ムーベンは、撃ちだされた指とぶつかり、鼓膜が破れるかという程の爆発音を響かせた。


やっと、やっと進化できました。

結局魔物の話を考えたとしても、人型になってしまいます。


タイタンナックルの見た目は、小さな男の子をイメージしています。

実は、グングニルもそういうイメージで書いています。


次回、一週間も頂いてはいるのですが、もしかしたら遅れるかもしれません。

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