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第二十話

 後頭部を殴ったのが俺だと気づいた大蛇は、最初、獲物として見ていたグングニルには一切目もくれず、まっすぐに俺を睨みつけてきている。


 弱点とも言える頭部をこちらに見せているし、蛇の大きな図体では戦いにくいだろうと馬鹿にしていたが、蛇に睨まれたカエルのように体が動かなくなっており、絶賛危機である。

 石化の攻撃ではないはずだ。だって、俺の体が元々岩なわけだし、俺の目の前に置いた肉片もまだ生肉の状態だ。それに、石化の攻撃は毒だと聞いていた。


 『ど、どうしたの!?』

 すぐに異変に気が付いたグングニルが声をかけてくる。


 「体が動かないんだよ!」

 体は動かない物の、体内の物は動いた。体を動かさないスキルならば使えるのかもしれない。


 『石化以外の攻撃か?威圧系か何かかな?物質系の君には精神系や状態異常に鈍感だから気づかなかったとか?なんにせよ、僕が時間稼ぎするよ!』


 「だめだ!俺が戦う!!石化に耐えられるのは俺だし、状態異常を回復させる手段なんて俺にはないんだ!!」

 

 『でも、動けないんじゃ何もできないじゃん!!』

 いや、待てよ。俺が攻撃出来て、更にグングニルの盾にもなれる方法ならあったぞ!!

 

 「俺の上部を掴んで飛んでくれないか!?それで、裏側を蛇に向けて、盾みたいに構えてほしい!」

 

 『裏側って君の弱点じゃ……いや、わかった!』

 グングニルは俺の上部をガッチリと掴み、飛んだ。ユーフォ―キャッチャの景品になった気分だ。

 お願いしてなんだけど、五十センチの岩を掴んで飛ぶカブトムシってすごいな。


 俺の上部の裏側が大蛇の方へ向けられた。

 驚くことに、グングニルは俺を掴んでいるのにも関わらず、揺れることなく空中にピタリと止まった。


 「構えててよ!!」

 そう言い、俺は体内に貯められた頑丈な岩を大蛇目掛けて吐き出していく。その反動によって、少し後方へ動いた気がするが、グングニルは耐えていた。

 

 岩の大きさは優に俺の体と同じくらいの物で、小さいものでも四十センチはある。


 「まだまだ行くぞ!加速!!バレット!!連打!!」

 高速で飛ばされて行き、大蛇も大きなダメージをおって行った。当たらずに飛んで行った岩も、奥の方で積み重なって行き、大蛇の動きを妨げていく。


 『っぐぅ!!まだまだ続きそう……?』

 グングニルも辛そうだ。

 加速するバレットの連打は、いかにも強そうだと思わせられた大蛇とて想像もつかぬ攻撃だったようで、逃げようとしている。すでに頭は凸凹になっており、至る所から血が出ている。


 「これで最後だ!!」

 最初の攻撃の時から、体内で太めの頑丈な槍を体内で作っており、やっと完成した。できる限り鋭くしたので、いくら蛇とはいえただでは済まない。


 「フシュルルルッ!!グッシャアアアアアアア!!!!!」

 大きな声をだし、全力で威嚇をしてきた。

 しかし、俺には何の効果も無い。すでに動けなくなっているし、石化の毒を吐いていたとしても俺には効かない。


 「……ああ、そうだ!!毒の吸収もとい捕食を開始したい!グングニルは、蛇の頭部を狙えるように近づいて行ってほしい!」


 『毒霧の捕食を開始します。』

 任せた!!


 『捕食に失敗しました。』

 えええ!?


 『捕食の準備を整えました。すぐに開始できます。』

 お、おう!ありがとう!!


 『わかった!!毒攻撃はどうにかしてもらうからね!?』

 そのまま近づいていく。

 大蛇の口の中に向けて撃つとか素人みたいな考えはしない。巨大なものを丸呑みできるって昔テレビで見たので、体内から貫くなんてことはできないと思う。


 口を開いている今はまだ、攻撃をするタイミングではない。


 グングニルが俺を掴んだままゆっくりと近づいていく。

 すると、大蛇はギロっと目を見開き睨みつけてくる。

 恐怖の宿った目ではあるが、そこには殺意や怒気なども含まれており、一瞬にして俺の体が冷たくなった気がした。背筋が凍ったようだ。


 しかし、大蛇の敗因は自分で作ったも同然の物だ。

 もしも、俺が自由に動けられたのであれば、その威嚇で動きは止まっていただろうし、更に恐怖から動けなくなっていただろう。


 (本当に、仲間に感謝だよ。)



 フシュウゥゥゥゥゥッ!!!!!



 大蛇は、俺に睨みついたまま口から霧状の何かを吐き出した。

 口は開いたままだ。残念ながら作った岩は撃とうにも撃てない。


 『石化の毒だよ!!』


 「任せろ!!」


 『捕食を開始します。』

 毒の霧は、渦を巻きながら俺の口の中へと入っていく。


 『うわ、すごいね。何でも食べちゃうんだ…』

 少し引いてないか?感心するとこなのに、引いちゃってるんじゃない?

 というか、毒霧って食べても大丈夫だったのか?体内に貯蓄されている肉も石になってしまいそうだ。

 肉以外に石化されて困るものはないので、デメリットというほどの物はないのでまあいいけど。


 石化の攻撃でさえ阻止されてしまっているので、大蛇も唖然としているはずだ。


 毒霧を出し切ったのか、口を閉じた。


 「行くぞ!!」

 グングニルにそう言って、体内で作った槍を加速とバレットで撃ちだした。

 高速で飛んでいく石槍は、吸い込まれていくかのように大蛇の眉間に刺さって行き、すぐに倒れ込んだ。


 『相手のミナーレイソンを倒しました。経験値を取得しました。レベルが二十になりました。スキル: ロックスピアーを取得しました。スキル:石化の毒霧、状態異常:石化の付与の取得に失敗しました。』


 「よっしゃ!!!」

 心の中で大きくガッツポーズをとる。

 三階層へきて、正面から戦って勝ったのはこのミナーレイソンという魔物が初めてだった。


 『うわッ!ちょっと!いきなり動かないでよ!』

 怒られてしまったが、この高まる気持ちは収まらない。


 『もう、下すからね!』

 そう言って、地面に落ちてある下部の上にスポッと納められた。


 『口から吐き出してた岩と大蛇の死体を食べちゃって!』

 邪魔だから。そう言われて、俺はすぐに捕食しにかかる。調子に乗りすぎたら厳しいツッコミをお見舞いされてしまいそうだった。


 倒した今でも全貌は見えないが、取りあえず噛みついてみる。


 『ミナーレイソンの死体の捕食を開始します。』


 『約一分かかります。』


 ……噛みついたまま、一分も待てと?長くないか?


 『ど、どうしたの?』

 大蛇にかぶりついたまま停止した俺を、グングニルは心配そうに窺う。


 『も、もしかして、石化の効果は肉に強くついてあったとか!?待ってて!その体を何とか切り刻んでみるから!!』

 暗い洞窟内がぼんやり小さな緑の光に照らされた。


 「待って!大丈夫!大丈夫だから!!」

 かぶりついたまま話す。人間の体ではできない芸当だ。


 捕食中に、対象に何らかの影響が出たらどうなるかが分からなくて怖い。


 『そ、そっか!ならよかった!!』

 そのまま、何も起こらないまま時間が経っていく。



 一分経過。


 『捕食が完了しました。ミナーレイソンはムーべンを捕食しており、ムーベンの死体も捕食できました。ミナーレイソンを解剖しました。状態異常:石化の毒霧を生成する器官を使用し、スキル:石化の毒霧、状態異常:石化の付与を取得しました。』

 勝手に解剖してくれて、そこからスキルを作っただと!?それに、ムーベンとかいう聞き覚えのない魔物まで見つけてくれるし、神の声って死ぬほど優秀だな!!


 「石化の状態異常、手に入れちゃった。」

 グングニルの方を向き、呟いた。


 『え?せ、石化ってそいつの物だよね。スキルを、奪ったの?そんなことできちゃうの!?』

 グングニルよ。君の驚きは分かる。良くわかる。だって俺も訳が分からないもん。


 「さっきの蛇はミナーレイソンって言って、そいつの食べたムーベンって魔物ももらっちゃった。」


 『き、君には驚かされてばっかりだよ。』

 俺も自分に驚かされてばっかりだ。

 それにしても、ムーベンってなんだ。ここの魔物だってことしかわからない。


 「ムーベンって魔物は聞いたことある?」

 早速聞いてみる。グングニルの方が博識なわけだし、困ったときのグングニルだ。


 『ムーベンか。うーん。聞いたことが無いな。多分、ダンジョン特有の魔物じゃない?外の魔物の全部を知っているってわけじゃないけど、ダンジョン内に入ることなんてそう無いからね。ダンジョン内で聞き覚えのない魔物がいたら、特有の物を一番に疑うものなんだ。』

 グングニルでさえ知らないか。まあ、ダンジョン内なわけだしおかしくはないってことなのかな。


 「あ!石化の攻撃を使えば、爆弾クモも倒せるんじゃないか!?上の人間も余裕だろうし!」

 自分の天才的な発想には驚きを通り越して呆れさえ感じてしまう。いやあ、困った物だ。


 『おお!早速使えるね!それに、石化させちゃえば岩を食べるってことにもなるし、肉を食べていくよりかは断然いいと思うな!』

 確かにそうだ。わざわざ壁を削らずとも、岩の貯蓄量を増やすことができる。

 そうすれば、レベル上げと岩の捕食とを並行して行えるだろうし、進化がぐっと楽になるはずだ。


 『それじゃあ、引き続きレベル上げをするか!いや、その前にミナーレイソンだっけ?あいつに放った岩も食べちゃって!』

 そう言われて、死体のあった方へ視線を移す。

 死体分の感覚は開いてあるが、巨大な岩が積み重なってしまっており、完全に道をふさいでいた。


 「ごめん!すぐ食べるよ!」

 某掃除機のように、最高の吸引力で岩を捕食していく。

 こんなに食べているというのにもかかわらず、お腹が満たされないのはどうにも変な気分だ。満たされない食欲と言ってしまえば恐怖を感じさせられるな。


 俺の放っていた岩や、それによって削られたり抉られたりして地面に落ちた岩を全て捕食し終わり、俺たちは次へ進もうとしていた。


 「まずは、爆弾クモに挑戦だから、グングニルのおとり作戦はナシだよ。」

 そう言って、洞窟内の探索が始まった。



 注意深く周りを見て、魔力探知も行って道を歩いていると、すぐに爆弾クモを発見することができた。


 石化を使うため、グングニルには少し離れたところで見ているように頼んでおいた。


 先手必勝だと、すぐに攻撃にかかる。

 石化の付与の仕方がわからないので、取りあえずは捕食していた毒霧を吐き出すことにしてみた。

 効果はすぐに出て、クモ数匹を石にすることができた。


 クモは、体長三十センチくらいなので、多分見逃すことはないだろう。


 大蛇は結構な量、毒霧を吐いていたようで、六体のクモを石に換えてもまだまだ残っていた。


 『どう?爆発しなさそう?』

 遠くから尋ねてくるが、「まだわからない」と返すほかない。

 石化させたが、経験値は入ってこなかったので、ただ動きを止める技と解釈すればいいだろう。

 すぐに修復ができる様に準備をし、石化したクモにバレットを撃ちこんだ。


 バキッ


 肉を抉るような感触はないし、石の断面は周りの部分と同じ色で、爆発しそうな状態は見えなかった。そして、


 『相手のムーベンを倒しました。経験値を取得しました。』

 ムーベンの正体と、爆発しない事実の両方を確認できた。


 「爆発しないみたいだよ!」

 一体倒したところで、グングニルに伝えた。


 『よかった!で、本当にそっちに行っても大丈夫なの?』

 怪しんでいるようだ。

 まあ、爆発させたり鬼畜戦法使ったり、毒霧食ったりと心配な要素はあるからな。俺が悪いか。


 「引き続き石化した奴倒すから、大丈夫だって確認できたらこっちにおいでよ。」

 そう言って、石化したムーベンを破壊していく。


 全部で五体だったようで、すぐに全部破壊出来た。


 『相手のムーベンの群れを倒しました。経験値を取得しました。レベルが二十二になりました。体内のムーベンを吐き、爆弾攻撃ができます。』

 レベルが上がった上に、助言までもらってしまった。


 「ああ、本当に大丈夫だったんだね。」


 『もう。俺はそんなに危険人物じゃないぞ。』

 少し拗ねた。


 二十話もお読みいただき、ありがとうございます!


 十話、二十話ときりのいい数字になると何か嬉しい気持ちになりますよね。


 次回は、十月二十二日の十二時に上げます!

 お楽しみに!!

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