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第十九話

 爆発に巻き込まれる中、一足先にグングニルは逃げていた。


 『修復を開始します。』

問われることも無く、突然修復が始まる。つまりは、そのくらいに損傷がひどかったのだろう。

 一瞬何も見えなくなっていたし、目も破壊されていたのかと思うと、恐怖しかない。


 蜘蛛のいた壁は、広範囲に大きく抉れ、天井からも岩が落ちて来ていた。


 『君!流石に、さっきのはやりすぎだよ!!』

 一瞬で逃げて行っていたグングニルが、プンスカと怒りながら戻ってきた。


 「ごめん……」

 

 『そんなに落ち込まれたら……うん。もういいよ。』

 呆れられてしまっただろうか。

 

 「あ、そうだ!さっきのクモ倒したのに、経験値が入らなかったんだよ。」

 こういう時は話題を逸らすに限る。


 『え?うーん、なんでだろ?』

 経験値のない魔物という線はないだろうか。いや、会ってほしくないからいない。

 そもそも倒していなかったというのはどうだろう。右手を通してわかった感覚は、クモの体の柔らかさだった。


 「自爆って、倒した相手に経験値が入るのかな。」

 

 『自爆だから、倒したって判定にならないとか?僕も分からないな。』

 疑問が湧いてしまったら、実践するしかない。

 

 「もう一度やってみたら『もう少し考えて。』ごめんなさい。」

 グングニルが怒っている。


 『一旦落ち着いて。』

 

 『それにしても、感情が無いって言われてる物質系の君が、そんなに慌てるって、本当に変わった話だよね。』

 そう言われても困る。確かに、他のフロックたちと話したことはなかったけど、俺が出会った魔物の種類も数も少ない。

 

 「外の事とか知らないし、俺には何もわからないよ。それより、これからどうする?レベル上げと上の人間と戦うの。」

 今回あったことのように、人間と戦うことに何の抵抗も無い。感情や知識など、前世の物を引き継げていると思っていたけど、魔物になったことで何か変わってしまったのだろうか。

 冷静に考えてみても、何も感じないのであればよかったと思ってしまう。今は魔物だから、一瞬でも抵抗や戸惑いがあれば死んでしまうからだ。


 『今回の相手は不意打ちのようなもので勝てたから、人間の力の強さについて、君はまだ理解できていない。命の保証もないし、上の連中が降りてくるまでレベル上げをしようよ。理想は、さっきのゴーレムを正面から倒す、だ。』

 ゴーレムを正面から……

 言ってしまえば、ゴーレムは俺の上位互換のようなものだ。

 攻撃の自動追尾や、体の硬さ、巨大化する手。そしてビーム。それらは、今の俺では遠く及ばなかった。素早さで勝ってはいたが、攻撃が効かなければ意味が無い。


 何度も何度も弱点に攻撃を与えることで倒せはしたが、同じ物質系の、同じダンジョンの魔物として、そこまでの力の差はあってはならない。


 「一体だけなのに、一つ二つレベルが上がるしね。できるだけここでレベルを上げて、進化まで近づけようと思う。」


 『よし!それじゃあ、さっきの爆発で落ちた岩を食べちゃって!さあ、行くぞ!!』

 気分を変えて、レベル上げをすることになった。グングニルも、無理やりテンションを上げているようだ。だったら、俺も転生を上げて行こうと思う。


 軽やかに飛んで、高速で地面に落ちた岩を食べていく。俺が一人、工事現場や採掘所にいたら最高に役立つと思うな。

 思った以上の岩の量ではあったが、ものの数分で食べ切れた。


 もしも俺が、巨大なフロックになれたら、ダンジョンごと食べられるのかもしれない。


 「お待たせ!」

そう言って、グングニルと並行してダンジョン内を歩き始める。


 「この階層には、シンスモバットとかピルバットみたいな柔らかい奴はいるのかな。いるんだったら、岩系よりも倒しやすいんだけどね。」

 物質系のダンジョンなのだから仕方がないとも言えるが、ダンジョンと言えど洞窟なのだから、いてもおかしくない。

 この世界に詳しくないせいで、洞窟だってことに重きを置くのか、ダンジョンだということを前提に考えなければならないのか、よくわかっていない。


 『まあ、それも物質系の厄介なところだからね。この階層だったら、ゴーレムよりも柔らかそうなものは、蛇か爆弾クモくらいかな。トランスキンもいたけど、君には柔らかすぎると思うんだ。』

 グングニルのように貫くことに特化している魔物だったら、あのヌメヌメしたようなトランスキンでも貫けるんだけどな。俺の右手とか歯は、鋭いけど金属ほどでもない。


 「だったら、トランスキンはグングニルに任せるよ。確か、蛇は石化の魔法が使えるみたいだし、俺に任せてくれ!」

 

 『そっか。君は物質系だから、石化も効かないのか。わかったよ!僕もどうにか力になるからね!』

 

 そうこうしていると、爆弾クモを見つけた。

 グングニルもそれを見つけて、立ち止まり、俺の方を見た。立ち止まったと言っても飛んでいるんだけどな。


 『君、駄目だよ。』

 まだ何も言っていないし、しようともしていないのに釘を刺される。


 「俺もちゃんと学んでるよ。」

 そう言って、また歩き始める。

 魔物の擬態能力が高いのか、中々魔物が見当たらない。


 『外部から来た者には、ダンジョン内の魔物は敵対心剥き出しで迎えてくれるっていうのに、この階層の魔物は来てくれないね。』

 まあ、擬態能力があるのに、バンバン襲い掛かってくるというのもおかしい話だ。でも、隠れて、ゆっくりと近づいてくるだなんてことはあり得る。


 「ここの魔物は隠れるのが上手いからね。そう簡単に姿は見せてくれないんじゃない?」

 

 『だったら、僕がおとりになればいいってことだよね。』

 そう言って、少し先まで飛んでいき、地面に着地した。


 「グングニル!流石にそれはダメだよ!」

 そう言って、止めに入ろうとするも


 『君は少し離れて待ってて。僕は自分の速さには自信があるんだよ。』

 見えない敵を探すよりかは、自分の立場を使っておびき出す方が効率はいい。だからと言って、おとりになるというのは納得できない。

 

 だからといって、止めに入るのもできない。

 ここで止めに入ったら、グングニルを信用していないということになるからだ。


 地面に降りたグングニルは、ゆっくりと歩いている。

 

 物質系の魔物など、何も考えられないような奴らは、外部からやってきた者への敵対心と岩を食べることくらいしか頭にないはずなので、より動きが遅くなったグングニルは良い標的になるはずだ。

 物質でなくとも、それほど頭のよくない魔物ならば簡単に引っかかってくれる。


 数分後。すぐに、グングニルを狙った魔物が現れた。


 「トランスキンだ!」

 聞こえるくらいの大きな声で知らせ、動けなくなるようにとトランスキンの脚目掛けてバレットを放つ。

 上手く直撃したものの、砕くことができず、逃げ出そうとしていた。


 『ナイスだよ!』

 しかし、痛みはあるようで、普段の速度を出せなかったようだ。

 トランスキンの動きは早かったが、グングニルからは逃げられない。


 すぐにトランスキンの頭部をグングニルは貫いて行った。

 トランスキンの死体を一口で食べる。


 『次々いくよ!』

 そう言うも、俺たちがするのはただ待つことだけだ。


 次の魔物はなかなか現れなかった。

 十数分ほど経った頃、グングニルを挟んだ俺の向かい側の道から、大きな蛇が現れた。


 「蛇だ!逃げて!!」

 大きな声で伝えると、すぐに頭部目掛けてバレットを放った。避けてもいいし、ぶつかってもいい。

 俺は、蛇が石化の魔法を使う前に、グングニルを逃げさせる必要があるのだ。

 グングニルは、俺の方へ飛んできていた。他に逃げる道が無いのだから仕方がない。俺が硬い壁になってやる。


 俺の放ったバレットを寸でのところで避け、視線を俺の方へ向けた。

 石化の魔法というものにも興味はあったので、さっき倒したトランスキンの肉を地面へ落とした。

 

 蛇は俺の方へゆっくりと近づいてきた。


 『物質系ではないけど、絶対硬いと思うよ!』

 グングニルの助言を聞く。

 蛇の皮自体硬いだろうし、体表に出た細かくも硬そうな岩を見ると、こいつも厄介な魔物なのだとわかってしまう。しかし、表面がどのくらい硬かろうとも、その肉は岩よりも柔らかいはずだ。


 バレットで飛ばした右手を、俺の方へ向け直し、蛇の後頭部を狙ってもう一度バレットを撃ちこむ。


 蛇の全長は見えない。体は太いが、ゴーレムの大きくなった右手程ではない。


 今まで大きいかかなり大きい、小さいとかそう言った適当な感覚で言っていたが、人間の姿を見たので、もう少しまともにものを測れるようになった。

 といっても、あの人間の身長がわからないので、やはり目測に過ぎないが。


 筋肉はあった物の、ガリガリだった。だったら、百六十センチの後半くらいだ。ちなみに、今の俺の体はその半分も無かった。五十センチあるかないかというくらいだろうか。


 広くもあり狭くも見えたこの洞窟の道は、高さと横幅がほとんど同じで、直径三メートルくらいだ。

 ダンジョンの洞窟自体こうなっているのか、テレビで見たような狭い洞窟というよりも、入り組んだ廊下といった方が正しい。


 全て目測ではあるものの、数字にしてみると、あのゴーレムの手の大きさに今更ながら恐怖を感じる。

 あれよりかは目の前の蛇は小さい。しかし、高さが一メートルくらいなので、俺からすれば十分に巨大であるし、ゴーレムとは違って道幅との余裕がある分、より脅威だと思わせられる。

長さは分からないが、蛇なのだから驚くくらいに長いんだろうな。



 後方からのバレットには気づかなかったようで、蛇は少し前のめりになる。そこで、軽く飛び跳ねて蛇の体を見る。暗さもあるし、道を曲がってきているのもあるので全長は見えなかったが、一つ分かったことがある。


 「グングニル。こいつ、長すぎない?」

 分かり切ってはいたものの、あまりにも長い。しかし、それは脅威ではなく、むしろ俺たちにとって有利かもしれない。


 『なんで洞窟なのに、こんなに大きいやつがいるんだろうね。あのゴーレムと言い、僕たちには三階層は少し早かったのかもしれないね。』

 二階層から三階層までの間に、実は二、五階層というのがあったのかもしれない。そう思わせられるほどに難易度が上がっている。


 「大丈夫だ!確かに強くなっているとは思うけど、弱点に気付いたんだよ!」


 『え?弱点って……あの、ゴーレムや蛇にも?』

 あのグングニルが気付いていないのか。もしかすると、俺は天才なのかもしれない。


 「ゴーレムは、転ばせることができれば文字通りの弱点が露わになる。それに、この蛇だって、確かに大きいけど、石化と噛みつくくらいしか攻撃手段はないはずだ。他にあったとしても毒を吐き出すか体当たり。体が大きい分、洞窟内だったら制限されてしまう。だから、前に突き出している頭を潰せばいい。」

 どうだと言わんばかりの顔で説明する。岩なので表情は変わらないが、気持ちは伝わるはずだ。


 『うーん……その場合、ある程度の火力は必要だろうね。少なくとも僕にはゴーレムの魔石や蛇の頭にダメージを与えるのは厳しいよ。君みたいに、砕けても無限に直せる体や、疲れることを知らない体、ダンジョンの魔力が味方してくれている体ではない限り、その作戦は難しいはずだよ。』


 「なるほど。つまり、俺は恵まれているということか!!」


 『そうだね、恵まれてるよ。』

 適当に言葉を返されてしまった。

 お読みいただきありがとうございます!


 積み重ねていかれるものではありますが、ついにアクセス数が四千を超えました!

 ブックマークをつけて読んでくださっている方には、この上ないくらいに感謝の気持ちがあります。


 主人公らは余裕そうに話してはいますが、緊迫とした状況ですよ。

 次回は、来週、二十二日に投稿させて頂きます。


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