第零話
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光に包まれていく王様を、大臣は静かに見つめていた。
どの王様よりも国民を愛し、愛されていた優しい王様だった。普段ならば異世界の人間を頼るなど、行うはずがない。しかし、あまりにも被害が多すぎた。そのことに王様は心を痛め、何日も満足に眠ることができずにいた。
異世界から来たという勇者も、満足に働いてはもらえなかった。城の兵も、騎士も魔王の手の者らによって数を減らしていた。
召喚の儀式を行うことにした理由は、それだけで十分だった。
魔方陣から解き放たれる光は、より一層眩さを増していく。そして数分もすれば光はやっと収まった。 そこには、魔方陣も、積み上げられた魔石の山も、王様もいなくなっていた。しかし、その代わりに中央に、一人の男が倒れていた。
「儀式は、儀式は成功した!陛下!儀式は成功しましたぞ!あなた様は、この世界を救うことになった!おい、誰か!そこの男を解放してやれ!」
大臣は大変喜んだ。王様の自ら捧げたその命によって勇者が召喚され、そしてその勇者は魔王を倒しに行くことになるのだ。
周りにいた魔法使いらは、立っていることもできずに膝から崩れ落ちていた。召喚魔法のために彼らも魔力を費やしていたのだ。
大臣の声で、兵士たちが集まってきて、倒れている男の元へ向かっていた。
しかし、男を囲った兵士らの様子がどうにもおかしかった。
「どうした?何があった?」
大臣は兵士たちの方へ近づいた。
「大臣殿、大変申し上げにくいのですが...」
兵士らの作った円の中、男のすぐ側に膝をついていた兵士が言いづらそうにしている。彼は、兵士の中でも最も力が強く、最も頭の切れる男だ。そして、今は数を減らした兵士ら全員を束ねる兵士長を務めている。
「なんだ?申して見よ、兵士長。」
大臣は、兵士らを押しのけて、男の姿を目の当たりにする。
顔は整っており、肉付きもよく、すらりとした体。どこかの王子と言われればそう信じてしまうくらいの魅力がその男にはあった。しかし、その姿に違和感を感じた。
「こんなこと、あってよいものなのか...?おい、誰か!コイツを起こせ!起こしたものには大量の金貨をやろう!わしの財産でもなんでもくれてやる!」
大臣は、その違和感がどこからくるのかを理解してしまった。だが、それを認めることができない。できるはずがない。
周りの兵士らも、何も言わず、ただ地面を見つめていた。魔法使いらはざわざわとしているだけだった。
「大臣殿!」
兵士長が声を荒げた。
「兵士長、これはあまりにも残酷すぎないか?」
兵士長は顔を上げ、大臣の顔を見た。絶望に染まっていた。血の気が引いており、一気に老けたように見える。震えた両手で目を覆った。
「大臣殿、これが、現実なのです。召喚の儀式は...、失敗に終わりました。召喚された者は、すでに死んでおります!」
ざわざわとしていた魔法使いらの声も一瞬にしてなくなってしまった。
その静かな時間は続いた。
黙っていた大臣が、ぽつりと声を出した。
「...魔法使いの中に、鑑定を使える物はおらぬか?」
「わ、私が使えます!」
若い男の魔法使いが、脚を震わせながら立ち上がり、大臣の元へ歩いていく。
「大臣殿、彼もまた召喚によって魔力をほとんど使い果たしております。」
兵士長が口をはさむが、大臣は耳を傾けなかった。
「これを鑑定して見せよ。」
さっきまで光を失っていたその瞳は、いつしかギラギラと輝いていた。
「はっ!」
魔法使いは、その男の死体を鑑定した。
残り魔力も少なく、魔法使いはフラフラとしていた。それでも、鑑定を続けた。
「だ、大臣様!この体は...間違いなく勇者の物です!!」
そして、読み取った情報を大臣に伝えた。
肉体には魂がなく、体力や魔力、そもそものステータスが存在していなかった。しかし、その肉体に宿ったスキルは尋常ではなかった。
「この肉体に宿ったスキルは、全属性耐性と、龍の力、物理耐性、全装備可能、神速の五つです!どれも、かの勇者の力に匹敵するかもしれません!!」
「ほう...!そうか。神は、我らに勇者ではなく武器をお与えになったのか。皆の物!よく聞け!」
怪しい笑みを浮かべた大臣は、大きな声でこう言った。
「これから、この体からスキルを抜き出すことにする!この国にあるすべての叡智をかけ、それを可能とせよ!!それが、王への最高の恩返しだ!!」
そうして、その肉体はバラバラに分けられ、スキルを抜き出し、5種の武器や防具に混ぜられた。
そして、この国に五人の英雄が誕生することとなった。