第十一話
今回は、ダンジョン内、主人公視点とはまた違った場面を書きました。
さらにブックマークをつけて下さった方が三人いらっしゃいまして、本当にうれしかったです。
前のページ同様、催促しているつもりではありません。
大陸の中央に位置するところに築かれた王国がある。その名を、クレーラルという。
そここそが、主人公を召喚した国であるのだが、今はあれから数日が経っている。
王自らが犠牲となり、召喚を行ったがやってきたのは魂のない体。しかし、そこに込められたスキルの数々は勇者にも匹敵するものばかりで、王の死を嘆いた大臣は、スキルを抜き出し、再利用できるようにする方法を研究させていた。
研究とはいえ、その方法はあまりにも早くに発見された。クレーラルが誇る大図書館に、スキルの再利用に関する書物があったのだ。高度な技術が必要となるのだが、それは不可能なことではなかった。しかし、スキル自体の譲渡ができるわけではなかった。
魔石にスキルを移し、それを装備品として作るという方法だった。
たったの数日という短い期間だったのだが、すぐにそれは完成された。
そして、五つのスキルは、五つのアイテムとして再利用されることとなったのだ。
全属性耐性はネックレスに、龍の力は杖に、物理耐性は鎧に、全装備可能はガントレット、神速はグリーブに付与されることとなった。
今、そのアイテムを、国が誇る戦士に与える儀式が行われていた。
我が父は愚か者だ。自分一人の体ではないことは重々理解しているはずだ。だというのに、己の体を代償にしてまで異世界などという得体の知れない場所から人間を呼び寄せた。我らの力がそれほどに信用できなかったのか、今はもう、その行動の真意を問うことは誰にもできない。
私――アルテラ=クレーラルは、大臣から玉座の間へ来るようにと呼び出されていた。
呼ばれたのは私だけではなく、我が妹であるアミュルス=クレーラルと近衛騎士長のグレイガスや騎士長のシュティール、そして冒険者ギルドのギルドマスターをしているヒューズマンの五人が集まっていた。
今はもう、王が亡くなってから数日経っている。
魔物が攻めて来たとかそういう訳ではなく、自分の意思で亡くなったということを知らされ、悲しみと共に、行き場のない怒りが湧いていた。
その怒りは、止められたかもしれないという自分に、一番傍にいた大臣に、近くにいたはずなのに止めることのできなかったグレイガスに向けられていた。お門違いだということは理解している。
大臣とグレイガスは、若い頃から父上と仲が良かったそうだ。大臣の真意もまたわからないのだが、二人のやつれた表情を見るに、後悔だったり悲しみだったりの感情が嫌でもう感じ取れる。
グレイガスは、日の光により輝く玉座を、目じりに涙を貯めながら見つめていた。
大臣こと、ソーベアは私たちが集まるより先に玉座の間に立っていた。
その背後には、大臣よりも少し大きめの何かが五つ立っているようで、その上から布を被せ、見えない様に施されていた。
「よく集まってくださいました。こんな時に、いえ、今だからこそ伝え、与えたい物があるのです。私は、王の意思を継ぎ、やっと完成させることに至りました…!」
大臣が話し始める。
血の気のない顔なのだが、その瞳はギラギラと光っていた。
「大臣、いやソーベアよ…!王の意思とは一体どういうことだ!何故今の今まで、俺にも黙って…!!」
グレイガスが前へ出る。
「…すまない。全て、王の意思なのだ。」
大臣は視線を落とす。
「王の意思とはどういうことだ!この俺にも伝えられなかったのか!?」
貯め込んでいた怒りに火が付いたようで、グレイガスは掴みかかる勢いで近づいていく。
そこに、ヒューズマンが割って入る。
「大臣、伝えたいこととは何だ?私も暇ではないんだ。最近、魔物が活性化していることを知らないという訳でもないだろう。」
一触即発とはこういう事態のことなのだろうか。
普段は温厚なグレイガスが、邪魔をするなと言うように、ヒューズマンを睨みつけている。
グレイガスは、その巨躯と厳つい顔で兵たちに怖がられているのだが、普段は優しいのだ。むしろ、今の様に荒れている姿は初めて見たと言っても過言ではないくらいだ。
ヒューズマンの言った魔物の活性化。王女ではあるが、騎士としても活動している私もその話は聞いている。
王が亡くなり、国全体の士気が下がっていることを知っているかのように活発化しているのだ。昨日聞いた話では、城下町まで入ってこようとしていたそうだ。
「アルテラ姉さま…」
心配そうな表情で、アミュルスが近づいてくる。
「ヒューズマンも、すまない。すぐに話しをする。」
大臣は、ヒューズマンの方を向いてそう言った。
それを聞いて、ヒューズマンは後ろに下がる。
次にグレイガスの方を向いた。真っ直ぐと見据えた。
「…グレイガス。落ち着いてくれ。今はそれどころではないのだ。」
少しは冷静になれたのか、このまま突っかかっていても、話は進まないと気づいたようで後ろへ下がり、私たちの隣へ戻る。
「王が呼び寄せたモノは、人ではなく装備品でした。その性能は、かの召喚された勇者にも劣らないものです。」
…王は、我らに不安を抱いていたのではなく、装備に不安を抱いていたということか?戦う者にとって、装備品は命を守るために最重要視されるものではあるが、それを王自らが命を代償にしてまで用意するものだろうか?
「召喚の儀式から数日が経っていますが、どういうことですか?」
そう聞いたシュティールの疑問もわからないでもない。装備品であれば、すぐに渡されてもいいはずだ。我らが招集されたのも、この国の実力者だったからだろう。
「はい。装備品とは言いましたが、実は強力なスキルの込められた魔石だったのです。そして、ついに武器や防具に付与させることができたのです。」
召喚の儀式で魔石が呼び出される、か。そもそも召喚の魔法自体、世に出回っている魔法でもなく、聞き慣れた物でもないので理解はないのだが、召喚をして石がやってくるとは変な話だ。
「…それを、ここに集められた私たちに渡すということか?王の意思とは、それを持って魔物を駆逐し、魔王を討伐せよということか。」
ヒューズマンが顎に手を当てる。
「はい。王も、私もかの勇者には希望を抱けなかったのです。私は、王に感謝しております。今回の件だけでなく、これまでの私の人生と、この国に関しての全てにです。それは、ここに集められた皆様もその通りのはずです。この国の誇る強者たちは、王と密接に関わってきた方ばかりです。これからお渡しする装備を持ち、王に、最上の恩返しを致しましょう!」
そう言うと、後ろに置いてあった物に被せられた布を取り払った。
そこには四つのマネキンと台座が用意されてあった。
「アルテラ第一王女殿下、あなたには、こちらの脚鎧を献上いたします。神速というスキルの込められた物です。」
名前を呼ばれたので、大臣の許へと歩いていく。
大臣は、台座に置いてあった翡翠色の装飾が施されたグリーブとサバトンを手に取り、私の足元に置いた。
父上の最後のプレゼント、そう思うと前にしただけで目元が熱くなってくる。しかし、妹の前でもあるし、こういう場で感傷に浸るわけにもいかない。
脚を入れてみる。違和感を感じることはなく、履き心地もいい。そして、体が軽くなっていくような感覚がした。身体強化の魔法を受けた時のような感覚に似ているが、そんなものが比にならないくらいの効果があった。
そのまま歩いてみると、鎧を履いているというのにも関わらず、重みを一切感じることがなかった。
この感覚に慣れると、普段以上の速度を出すことができるのではないかと漠然と思わされた。
「いかがですか?」
大臣の言葉に、ふと意識が戻った。
早く慣れたいと思い、子供の様にはしゃいでいたようで、顔が熱くなってくる。
「最高の代物だ。父上の意思、このアルテラ=クレーラル、お継ぎ致します。」
私の言葉を聞き、大臣は嬉しそうに微笑んでいた。
振り返り、元いた場所に戻ろうとすると、グレイガスもまた目元に涙をため、微笑ましそうな表情で私を見ていた。
次に呼ばれたのは、妹のアミュラスだった。
心配そうに私の方をチラチラと見て来ていた。アミュラスもまだ子供だ。
「アミュラス第二王女殿下。あなた様にはこちらを。」
大臣はそう言って、龍の首の形に彫られた杖を手渡した。禍々しいような、勇ましいようなそんな杖だった
「…ソーベア叔父様、これは?」
受け取り、杖をまじまじと見つめていた。
「龍の力が込められた逸品です。聖女と慕われるアミュラス様ならば、そう思いあなた様に献上いたしました。」
聖女。アミュラスの誰にでも向けられる優しさと、放たれる柔らかい雰囲気から城下町の人や兵士たちからそう呼ばれ、慕われている。
「…まあ、聖女だなんて。絵本でも聖女と龍の物語がありましたわ。お父様の、ご期待に応えて見せますわ。」
その言葉にも大臣やグレイガスが優しい表情になっていた。かくいう私も、幼い子供だと思っていたアミュラスの言葉に、成長したのだなと感動してしまった。
次は、近衛騎士長のグレイガスだ。
荒れていたオーラは収まり、落ち着いたいつものグレイガスに戻っていた。
「近衛騎士長のグレイガス。あなたにはこの鎧を。」
そう言って、マネキンに着けられていたブレストプレイトとフォールドとを外し、手渡した。
こちらは、黒い模様が描かれていた。
グレイガスはそれを受け取り、身に着けた。
「これは…。体の奥底から力が湧きあがってくるようだ。」
「その鎧には、とても強力な物理耐性の効果が付与されております。」
強力な物理耐性。元々、グレイガスは防御力に優れていた。それをさらに底上げするとなると…。
「ふふっ。そんな堅苦しい言い方はよせ。俺も、この身に換えても王の意思を継ぐ。」
勇ましい姿がそこにあった。
私も自分の実力には自信があったのだが、その背中を見ただけでまだ適わないなと痛感されてしまう。
「シュティール。あなたにはこれを。」
金色に輝き、赤い装飾の施されたガントレットを手渡した。
シュティールはそれを受け取る。
「僕は、王に拾われた。王は、僕に優しさを、温もりを与えてくださいました。感謝をしてもし尽せないくらいです。」
受け取った物に視線を落とし、ぽつぽつと呟いた。
そして、ガントレットを装着させ、手に馴染ませるために手を動かす。
「その籠手には、全装備可能というスキルが付与されています。」
「…そうか。これで、僕の操れる武器が増える!王よ。これで、あなたを意思を…!」
シュティールは、魔法を操る戦士だ。魔法で武器を操り、様々な攻撃を連続して繰り出すのだ。しかし、得意な武器と不得意な武器とがあり、それによって魔法で操るにしても満足にいかないものがあった。
これで、より多くの武器を操ることが可能になったはずだ。
次はギルドマスターである。
私は、彼が父上とそれほど親密な関係だったとは知らなかった。そもそも、私は彼の素性を一切知らない。だから、何故彼がここにいるのか疑問が湧いていた私は、彼を探るために視線を向けた。




