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第九話

アクセス数が1000を超えました!

ありがとうございます!!

 体内で人間の頭部を作られると聞き、最初は便利そうだと思った。何せ、話すことが可能になるのだから。そして心を躍らせて、作ってくれと頼んだ。しかし、よくよく考えてみると気持ち悪いと思えてしまった。


 『作成を開始します。完了まで、およそ一時間かかります。細部まで作成します。作成中は、体内の空間を使用することはできません。』

 そう言われた次の瞬間、食欲がなくなったというか食事に対する嫌悪感が芽生えてしまった。


 『さっきから固まっているけど、どうしたの?』

 カブトムシが俺の顔を窺おうと、低い位置にまで下がった。

 現状をどう伝えようか。好意から進化条件を達成させることに付き合ってくれるのだ。何も伝えない訳にもいかない。しかし、無駄に時間を過ごすなんてことはもっとあってはならないことだ。


 カブトムシも今はあまり窺えないが、焦っていた姿が記憶にある。何に警戒しているのかはわからないが、危機を察知したならすぐに判断することができるはずだ。


 『うーん。言葉で伝えないと伝わらないくらいの難しいことがあったのかな。この辺りだったらすぐに下に行けるし、下に行くためには少しでもレベルを上げた方がいい。何をするにしても、レベル上げは必須だよ。僕たち魔物は人間ほど器用じゃないからね。』


 (優しい…!こういう時って、なんて言ったらいいんだっけ?イケメン!抱いて!!だったっけ?まさに抱いてって感じだな!)

 レベルを上げてもっと強くなって、カブトムシの力になりたい。そう思わせられた。今はまだ足手まといでしかない。むしろ何故、こんなことに付き合ってくれているのか不安になるほどだ。


 『早速レベルを上げよっか!』

 その言葉に、ピョンピョンと跳ねて答えた。


 今更ながら、気づいたことがある。とても今更なことだ。

 この二階層で生まれる魔物は、すでに進化を果たした魔物ばかりだ。ビッグフロックことマストロックも、最初からその姿で壁から生えてくるのだ。その上、最初からある程度の戦闘能力がある。

 何故か、全然気にしてこなかったのだが、フロック種とは違う、肉を持った魔物の場合は岩から生まれるのではなく、突然小さな岩の欠片が緑色の魔石に変色し、それを中心に影が集まり、影が形を作ってそこで魔物が誕生するようなのだ。


 それに、ここの魔物の誕生の頻度が結構早い。魔物を倒してから数分後には新しい魔物が誕生するようだ。それについては、カブトムシが、


 『ここのマスターは、相当な量の魔力を持っているようだね。』

 と言っていた。その言葉から察するに、マスターとやらの力がこの洞窟もといダンジョンに大きく影響しているのだろう。


 俺が、そのマスターというものを知らないと見たのか、カブトムシが丁寧に説明してくれた。俺はレベル上げのために戦っている途中なんだけどな。


 『この世界には、ここ以外にもいくつかダンジョンがあるんだよ。そこには、それぞれダンジョンマスターという称号を持った魔物が最深部にいるんだ。何をきっかけにそのダンジョンが生まれるのかはまだ誰も分かっていないんだよ。でも、ダンジョンの存在については、面白い一説があってね。』

 そこで一旦区切った。そして、俺が今行っている戦闘が終わるのを待ち、再度話し始めた。


 『実は、魔物の王を生み出すためのシステムだって話なんだよ。』

 その言葉に、体が固まってしまった。

 魔物の王って、あれだろ。魔王ってやつだろ?


 魔王を生み出すためのシステム。システムについてはよくわからないのだが、人が作った物だとは思えない。俺の知っている魔王という存在は、人間にも神にも敵対する存在だ。もし人間がそのシステムを作ったところで、神が黙っているとは思えない。

 

 『まあ、そういう説ってだけであって真実がどうかはわからないんだけどね。でも、今地上にいる魔王は、いきなりお城と一緒に現れたって話なんだ。ダンジョンがお城型で現れたって言われていたし、結局は魔王が魔王なのか、ダンジョンマスターなのかはわからないんだよね。でも、そいつは近くにあった国を滅ぼして、領地を増やしたって話なんだよ。だから、僕は魔王は魔王なんだと思うんだよ。』

 お城型のダンジョン(仮)と共に魔王が地上に現れて、近くの国を滅ぼした。そのくらいに、地上に関わっているのだったら、ダンジョンの魔物というよりかは地上の魔物という感じだ。

 俺が知っている世界は、このダンジョンの一階層と二階層だけだ。これからまた下の階層へ行く予定ではあるが、それでもこのダンジョン内であることには変わらない。


 『君は、ここでもっと強くなっていって、それでどうするのかな。実力でダンジョンマスターになるなんて話は聞いたことがないし。いや、そもそもダンジョンマスターに会ってどうするのかな。』

 ここでもっと強くなってどこに向かって行くのかはまだ頭になかった。今はただ、カブトムシの力になることしか頭にはなかったのだから。

 それに、ダンジョンマスターと会ってどうする…か。


 『ああ、ごめん!こんなときに変なこと言っちゃったね!』

 俺が悩み始めたことに気付いたのか、俺が動かないことに気付いたのか、すぐに謝ってきた。

 今でなくとも、これから先どうするのかを考えておかなければならない。


 そして、またレベル上げは再開された。悩みの種ができたせいか、何度か相手の攻撃を受けてしまったが、着々と経験値は溜まって行っている。

 何体目かの魔物と対峙している時、頭の中に声が響いてきた。


 『人間の頭部の作成に成功しました。言葉を発することが可能になりました。スキル:言語、発声を取得しました。』

 疲れることがないので、ひたすらに魔物と戦っていたので時間を忘れていたのだが、気が付けば一時間程経っていたようだった。

 待ちに待ったものをやっと手に入れることができた。これで、やっと話すことができる。


 意識を集中してみれば、何の根拠もないが、喉のような感覚ができていた。それはかなり違和感のあるもので、口が二つあるという気持ちの悪いものになっていた。口が二つあるという違和感はあるが、感覚的に別物だと感じることができる。練習をすれば、もしかしたら自由に話すことができるかもしれない。

 …未だ、上部と下部のこの体に慣れ切れていないというのも原因だろう。


 「ア…ア…」

 なんとか発声することはできた。唇や舌の感覚があるので、なんとか発音も上手くできそうだ。


 『…え?今、何か聞こえなかった?』

 そう言って、カブトムシが辺りを見回す。


 「ア…イ、ウ…エオ…ガ…ガ…ッカ。ッカ…カ…….」

 あ行の発音は完ぺきだ。しかし、カ行が難しい。何が難しいって、口を開けたまま、ほぼ同じ感覚のもう一つの口で話さなければならないのだ。変に力が入ってしまう。

 無理にでも、感覚は別物だと体に教え込まなければならない。


 『えっ?えっ!?何?人の気配はないし、他の魔物の気配もしないよ!?』

 カブトムシは更に焦り出す。

 そうだ。右手で口を固定すればいい。そしてそのまま話し続けるのだ。

 右手を食べないように意識して、上顎と下顎の間に立てて挟む。


 「アイウエオ…クー、クー…カ…キ…」

 カ行のイメージを付けさせる。口を閉じたり開いたりするのは得意なので、今回はクを使うことにした。そしてそのまま、他の発音練習もしてみる。そしてその途中に、


 『もしかして、君が話しているのかい…?』

 と、ついにばれてしまった。

 流石に、口に右手を入れるなんて動作をしてしまえばバレテしまっても仕方がないか。

 俺はカブトムシの方を向いた。右手のせいで最初から口は開いているが、体内で言えば、口を開いたという表現がいいだろう。


 「アア、オエ…ガ、アナ…シタ。」

 久しぶりだからか、それとも単純に難しいのか、未だ満足に話すことができない。


 『え、な、何があったの?どうしたの!?』

 目を丸くして尋ねてくる。

 口内の感覚を細部まで研ぎ澄まさせる。舌の感覚や歯の感覚、唇の感覚など。唾液は出ないと思っていたが何やら水分はあるようだ。味覚がないし、見ることも叶わない体内なので気にしないでおく。


 発生はできるので、あとは口の動きだけだと思うので、何とか細かいところまで意識して口を動かそうと思う。これで少しはましになるはずだ。


 『あれ?さっきまで話せなかったよね?あれれ?』

 カブトムシは、俺の口の中をのぞき見てくる。

 口内を見たところで何もないはずだ。あったとしても魔石くらいだろう。


 「マダ…ウマク、ハナセハシナイケド…」


 『ってことはさっき話せるようになったってことだよね!?変なものでも食べちゃった!?』

 失敬な。岩か魔物しか食べないぞ。

 それにしても、かなり集中してみれば案外話せるみたいだ。まだ生前の感覚が残っているようで、イントネーションも上手くできていると思う。


 「ツタエタイ、コトガ、アル。」

 そう。話せることの感動よりも先に伝えておかないといけないことがある。


 「オレ、ノ、レベルハ、ジュウヨン二ナッタ。シンカハ、ニジュウゴ、イジョウ、ラシイ。ソレニ、モット、イワヲタベナイト、イケナイヨウダ。」

 俺の伝えたいことはこのことだ。やっと伝えることができた。


 『あ、ああ。ありがとう。え、それを伝えるために話せるようになったの!?うーん。そっか。結構戦っていたけど、ここからはあんまり上がりにくくなってるようだね。ここでの戦いにも余裕があるようだし。』

 

 「…ダッタラ、モウ、サキニススム?」

 足手まといにならないとは言えないけど、俺のためにこんなところで時間を食うわけにもいかない。


 『大丈夫?ここでは余裕があっても、下ではどうかはわからないよ?』

 心配そうに聞いてくる。

 何かと付き合ってくれていたから勘違いをしてしまっていたが、カブトムシはレベル上げに付き合ってくれたってだけだ。ただついて行っていたというだけの俺に興味を持ってだ。


 「チカラハツイタ、ハズダ。コレイジョウ、ココデジカンヲサカセタクナイ。」


 『そう、だね。よし、下に行くか!覚悟はできているんだね?』

 最終確認だよ!そう言っているようだ。

 これから先、どんな強い魔物が現れるかはわからない。しかし、それは一階からここに来たときにはすでに済んでいる話だ。

 それに、一階層やここには俺と同じ種族の魔物がいない。異質な進化を遂げた俺には居場所がないはずだ。そもそも、俺の中には人間の魂がある。俺の居場所はこんな洞窟ではない。

 だから、カブトムシの問いに答える言葉なんて一つしかない。


 「モチロン、デキテイルトモ!」

 そう言うと、カブトムシの迷っているような雰囲気が晴れたように見えた。


 しかし、次の瞬間、その雰囲気がガラッと変わってしまった。


 『…大変だ!確認もできたし、ちゃんと鍛えることもできたからよかった!!急いで下に行くよ!思った以上に時間がなかったようだった!!』

 そして、すぐに奥の方へと飛んで行ってしまった。

 あまりにも突然の事だったのだが、すぐに転がってついて行った。目的地が分かっているので、見失っても大丈夫だ。


 それにしても、何に気付いてあんなに焦っていたんだろうか。





『種族:スローック レベル:十四

  属性:無属性

  スキル:体当たり,頭突き,噛みつく,噛み砕く,回避,ころがる,投擲,バレット,言語,発声

  特殊スキル:完全言語,可能性

  称号:転生者,召喚者,体を失った者,同族殺し,同族食らい,特殊進化者

  スキル(取得失敗):魔力探知,内部生成

  

  種族説明:フロックの特異な進化体。目撃例が極めて少なく、むしろ存在の有無すら疑われている。魔石を利用し、自由に動かせる浮遊した岩を持つ。高速で撃ちだすと、フロックとはいえ砕くことも可能である。』




マストロック

挿絵(By みてみん)

ロックゲコ

挿絵(By みてみん)

ピルバット

挿絵(By みてみん)

スコフォーン

挿絵(By みてみん)



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