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第八話

編集しました。

岩の貯蓄量、魔石の貯蓄量を数字で表すことをやめました。

これからは岩の量も多くなっていくので、数字が大きくややこしくなってしまいそうだったのと諸々の理由から、足りる足りないのざっくりした表現にすることにしました。

口を開けたまま、俺の飛ばした岩を待つビッグフロック。

まさか俺はビッグフロックに餌付けでもしようとしていたのか?そう錯覚させられる光景だった。


――しかし、次の瞬間。


『君!危ないッ!!』

カブトムシの叫び声が聞こえた。

そして、ほんの一瞬、ガンッと鈍い音が聞こえた気がした。

俺の目は、瞬きを必要としない代物だ。だからこそ、全て目撃することができた。


口を開いたビッグフロックは、その上部と下部の間の空間に黒い渦のようなものを作り出すと、そこから数えきれないくらいの岩が、弾丸のように打ち出してきていたのだ。その速度は、俺の右手を高速で撃ちだす技であるバレットくらいのものだった。

あのカブトムシでさえ焦って声を荒げるほどに、この攻撃は危険なようだ。しかし、避ける余裕はなかった。


ガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!!!!!!!


真正面から、何十発ものバレットを喰らってしまう。

長く続く激しい爆発音で、カブトムシの声は聞こえない。


 ガガガッ!!!バキッ!!ガガガガガガガガガガガッ!!!!!!!

 

 激しい音の中、変わった音が聞こえた気がするがそれどころではない。痛みはない。爆発音が鼓膜を破壊するレベルで鳴り響いているが、しかしそれ以上に体に伝わる衝撃が問題だ。押されるとか転がされるとかそう言ったものではない。最初の一撃目で空中へ飛ばされる。そこから連続で続くバレットによって、浮いたまま後方へ弾かれているのだ。

 痛みはないはずだが、その衝撃で一瞬意識を奪われてしまう。

 意識は戻ったが、未だ朦朧としている。連続で続いていた攻撃も数秒もすれば収まっていた。捨てられた空き缶の様に、情けなく地面に落ちてしまう。受け身を取る余裕もなかった。


 『君!君ッ!!駄目だ!ここで死んではいけない!!』

 カブトムシが何か叫んでいるが、よくわからない。


 ――数分後、俺は意識を取り戻した。久しぶりに眠った気がする。

 

 『よかった!本当に良かった!』

 カブトムシが近くへやってくる。虫ではあるのだが、その感情が読み取れた。


 『ごめんね!まさか、あいつにあんな技があるとは思ってもいなかったんだ!』

 徐々に記憶が戻ってくる。ビッグフロックと戦っていた。そして、一瞬で負けてしまったのだ。


 『だから、僕が見て得た情報を教えるよ。あと、もっと手伝おうと思う!まずね、マストロックのあの 連続した弾丸攻撃には穴があって、まず一つ目がチャージする必要があるというところなんだよ。チャージしている好きに倒すのが理想だよ。二つ目は、一つの方向にしか打てないというところだ。動き続けていれば避けられると思うよ。とりあえず、そのマストロックも食べちゃってよ!とりあえず、レベルだけでも上げていこっか!』

 マストロック…?周りを見てみると、ビッグフロックが倒れていた。

 なるほど。カブトムシは、ビッグフロックを倒したことで、名前を知ったんだな。ビッグフロックではなく、マストロックっていうんだな。


 『レベルを上げたら戦闘能力が全体的に上がるはずだから、あげられるだけ上げたら力任せでも勝てる様になるはずだからね。』

 さっきテクニックに秀でているとかそう言ったことを言ってくれていたのだが、言っていることがコロッと変わってしまった。

 とりあえず、マストロックを食べるとしよう。

 

 (あれ?地面が近く感じるな。)

 もともと小さいわけだが、更に体が小さくなったように感じる。

 もしかすると、さっきの攻撃で体を削られてしまったのだろう。食べて回復をしなければ。

 マストロックの死体を食べ、壁を削って食べる。マストロックの撃ちだしてきたものも綺麗に食べておく。

 

 『よし!じゃあ、進もっか!』

 そういって、また戻っていく。ロックゲコが現れたのだが、すぐにカブトムシがその頭部に体当たりを食らわせる。

 現れた瞬間に、ロックゲコは気絶してしまう。そしてその頭部を掴み、羽根を羽ばたかせて、ロックゲコを裏返しにした。


 『とどめ刺しちゃって!』

 そう言って、カブトムシは一匹で更に奥へと潜っていく。

 一方的だな…と、躊躇する気持ちはあるが、強くならないといけないという意識があるので、やってしまおうと思う。

 柔らかいお腹をさらしたロックゲコに、バレットを打ち込む。一撃で仕留める。


 『相手のロックゲコを倒しました。』

 どうやらレベルは上がらなかったようだった。

 ロックゲコの死体を食べ、カブトムシの行った後を転がるで追いかけていく。


 「な、なんだ…!?」

 俺が倒した奴よりも一回りほど大きなピルバットが、地面に倒れていた。その周りを見ると、他のピルバットも倒れていた。さらに奥には上部だけになり逆さになったマストロックがいた。ロックゲコも倒れているようだった。

 カブトムシの行動に恐怖を抱きだすが、好意からやっていると思うとやるせない気持ちになってくる。

 片っ端から瀕死の魔物たちを屠っていく。


 『相手のロックゲコを倒しました。経験値を取得しました。レベルが上がりました。レベルが九になりました。』

 何体も倒していると、ついに九まで上がった。しかし、戦ってあげたという自覚がなく、達成感を感じ取れずにいた。


 『その様子はレベルが上がったみたいだね!それじゃあ、そろそろ下へ向かおうか!途中に道に、また魔物が復活しているはずだから、次からは自分で戦ってみてね!』

 そういって、また踵を返し、飛んで行ってしまう。

 それを追うために、俺も走り始める。


 はじめて来たときは気づかなかったが、今ではマストロックやロックゲコがそこに隠れているか気づけるようになっていた。レベルが上がったおかげなのか、魔物の探知の範囲や効果が上がっているのだ。


 天井に張り付いた魔物を右手で打ち落とす。ロックゲコが地面に落ちてくる。まさか気づかれるとも思っていなかったようで、上を向いた体制のまま落ちてきてしまっていた。地面に落ちる前に、右手で腹を貫く。一瞬で絶命してしまったロックゲコを口を開けて待ち、俺の上に着た瞬間に、ロックゲコが消える。捕食したということだ。

 その要領で、マストロックなども倒していく。


 そこで、うっすらと魔物の存在を探知できた。フロックやマストロック以上に気配がない魔物がいたのだ。

 注意していなかったら、確実に見落としていたと思われる。

 見つけてしまったが最後、狙うしかない。その魔物のいる方向下右手を飛ばしてみる。その魔物は俊敏なようで、余裕を持って右手を避けていた。


 この洞窟で見つけた魔物で二体目の虫系統の魔物だった。クモのようなサソリのような気持ちの悪い見た目をした魔物なのだ。尾には毒針が付いているように見えた。毒は怖いのだが、よく考えてみると、岩に毒が効くとは到底思えないのだ。


 壁に体当たりをして、砕けた岩を投擲で飛ばし、虫の魔物を誘導する。そして、右手で潰した。


 『相手のスコフォーンを倒しました。経験値を取得しました。レベルが上がりました。レベルが十にありました。進化可能レベルになりました。進化しますか?』

 俺は進化ができるレベルになってしまったようだ。


 『進化の条件を確認しますか?』

 とりあえず、確認はしておきたいな。

 

 (確認するぞ!)

 心の中で答えると、ずらずらと数字を述べられる。


 『進化条件未達成:レベル二十五、岩の貯蓄量、魔石の貯蓄量。』

 そういえば、レベル上げと魔物の捕食に夢中になりすぎて、岩の捕食を怠っていたな。

 いや、それ以上に不可解なところがある。いや、不可解なところしかない。全てが進化条件未達成なのだ。

 

 『特殊スキル:可能性によって、進化に分岐ができます。分岐した進化は現在のレベルで行えます。行いますか?』

 進化レベルも変わるものなんだな。進化可能レベルが高い方が強いとかあるのかな。

 そう言えば、この間は勝手にスキルを使われていたみたいだけど、今度は質問形式になっていた。

今でも進化ができる魔物というのも興味があるので、選択肢は増えるだけ増やした方がいいと思うし、面白そうだから分岐だけでもさせておくとしよう。


 そう思ったが、そもそも名前が分からなかったら意味がない。進化条件を教えられても夢が膨らむばかりだ。名前までは分からないものなのか?


 『進化体の名前の確認をしますか?』

 …えええ。確認できちゃうのか。もしかして、伝えないと答えてくれないものなのか?不憫すぎないか?いや、確認するけど。


 『スローックは、タイタンナックルに進化します。特殊スキル:可能性によって分岐された進化体はミミックです。ミミックへの進化は現在のレベル、貯蓄量で可能です。』


 (タイタンナックル…か。かっこいいな。ミミックも面白そうだけど、タイタンナックルなんてものを出されると困るな。俺の知っているミミックは、宝箱の形をした魔物だ。でも、タイタンナックルなんてのは聞いたことがないな。)

 先に行かせたカブトムシを、無視して進化内容に心を躍らせていた。

 タイタンナックルという名前に魅力を覚え、岩の貯蓄量が五百キログラムだということが、すでに頭からなくなっていた。


 (俺は、タイタンナックルになるぜ!待ってろ!!)

 そう思い、俺はまたカブトムシを追いかけるために、転がっていく。もちろん途中にいる魔物を倒して捕食する。

 そうして、ようやくあの変わった部屋に到着した。


 『ちょっと遅かったみたいだけど、何かあった?』

 心配そうに尋ねてくるが、悪いことはなかったので体を横に振る。進化がどうのと伝えるのは、言葉を発せない俺には不可能だ。

 そういえば、あらゆる言葉を理解する特殊スキルがあるというのに、声を発することができなかったら宝の持ち腐れな気がする。

 

 『思った以上に魔物が復活していたのかな?まあ、いっか。それで、今はいくつまでレベルを上げることができたの?』

 言葉を発せないと知っておきながら、それを聞いてくるか。いつか、どうにかして言葉を発してやる。


 『ああ、ごめんね。話せなかったね。うーん。進化していなくても、下の階層行けるかな?いや、下の階層でもギリギリ手助けする余裕はあるのかな。』

 悔しい。とても悔しい。レベルも伝えられない無能な岩にはなりたくないものだ。どうにかして、レベルを伝えたい。


 それに、俺とカブトムシとの力の差が大きく開いていて、進むかどうかは俺よりもカブトムシに決めてもらいたい。そのためにも、レベルを伝える必要がある。

 いくら達者に話せていても、魔物だ。文字の読み書きができるとは思えない。筆談は難しいだろう。それに、俺が書けるのは日本語とレベルの低い英語だ。異世界なのだから日本語が通じるとは思えない。


 そして、俺はあることに気が付いた。


 『ん?どうしたの?』

 レベルを伝えたいと訴える様に、跳ねてアピールする。

 筆談ができないし、声も発することができない。しかし、この天才高校生の頭脳の前では、解決する手段が噴水のようにあふれ出てくるのだ。

 右手を地面に、十回叩いた。今の俺のレベルと同じ数だ。


 『うーん…?もしかして、レベル?もう一度鳴らしてもらえるかな?』

 一瞬で感づいてくれた。流石だ。

 言われた通り、もう一度地面を叩く。


 『十か。進化条件のレベルって魔物によって変わったりするんだよね。でも、基本的には十から十五くらいだったはず。うーん…。』

 唸りながら、洞窟の来た道の方をじっと見つめる。

 

 『よし!まだ、もう少しだけ余裕があるみたいだ。進化してしまおっか!進化の条件は、さすがに伝えられないか。ここいらの魔物はもう一人で倒せるみたいだけど、進化したらレベルが一に戻っちゃうから、一応着いて行くからね。』

 進化の条件と言っても、倍以上レベルを上げないといけないし、岩もまだまだ足りていないし。レベルを上げるのに付き合ってもらうというのもいいんだけど、急いでいた筈だし。

 もどかしい気持ちになっていると、カブトムシが「どうしたの?」と尋ねてくる。

 進化可能レベルは倍以上だ。それを伝えておかなければならない。どうにかして言葉を発することはできないものなのか。


 例えば、体が岩だから声はだせないと思うけど、口の中の異次元空間に顔を作るとしたらどうだ。必然的に口から声が出るということにならないか?

 マストロックが口から岩を飛ばしてきたみたいに、声を出すとか。

 スローックになった時みたいに、新しい感覚神経が…なんて言われて話すことができたらな…


 『取得した肉を使用し、人間種に近い頭部を作ることができます。魔力を使用し、言葉を発することができます。ダンジョン内の場合、魔素が濃いので魔力の使用は必要ありません。ダンジョン外では、魔力の使用のほか、魔石を使用することでも可能です。』

 全く仕方ないなあ、そう言うように声が聞こえてきた。機械的な音声ではあるが、そういう風に聞こえてしまったが、そんなこと以上に、自分の苦悩が一瞬で消え去ってしまったことに驚き、呆れていた。


 流石はファンタジーだ。


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