プロローグ
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...を...に変えました。
行間を開けました。
いつも通りの朝、いつも通り学校に遅れると騒ぎながら家を出る。いつも通り、面白くもない授業を受けて、友達と馬鹿みたいに話して、そして、いつも通り家に帰る。特別嫌なこともなければ、嬉しいこともない。
大学に進学するとか高卒で就職するかだとか考えないといけない訳だけど、面倒...じゃなくて、今のようないつも通りの日常が変わることが嫌なのかもしれない。
なにもかもがぼんやりとしたまま、一年二年と過ごしてきた。いや、もっと前からだったのかもしれないな。
いつも通りの帰り道を、ボーっとしながら一人で歩く。
すると、見覚えのない猫が悠々と道を歩いていた。
猫の顔なんて全く覚えていないし、そもそも興味すらない。しかし、何故かその猫には魅力というのか、目を引くものがあった。特別他の猫と違うようには思えないのだが、何故か目が行く。
偉そうな顔をしたその猫は、そのまま車道に出た。車が来ているというのに、だ。目が見えていないとか、どこか不自由があるようには見えない。
「お、おい!車!車来てるぞ!?」
伝わるとは到底思えないが、そう叫んでいた。そして、何も考えないまま走り出していた。
車の運転手は、俺の方を見て驚いたような顔をしていた。猫を轢くのはいいのかよ。
「ねこッ!車来てるって言っただろうが!!」
轢かれそうになっていた猫を掴み上げた。俺も轢かれたいわけではない。急いで歩道へ戻らなければならない。
「...あ、終わった。」
気づいた頃には、もう車が目の前まで来ていた。
痛みは一瞬で消えた。すぐに意識がなくなったからだ―――
いつも通りの朝だが、いつもよりも体が怠い。
昨日の夜に今日の学校の用意をした記憶がない。今日は何の授業があるんだったかな。
『...お前、神であるこの私があんなものに当たると思ったのか?馬鹿な奴だ。』
機嫌の悪そうな女性の声が聞こえた。母親の声ではない。もちろんだが、父親でもない。
...そういえば、自分の部屋だと思っていたけど知らない場所だった。寝ぼけていたにもほどがある。ベッドは同じだが、他のものが一切ないのだ。
『散歩中に人の子を巻き込んで、その上、命を絶えさせてしまうとは...』
ブツブツと何かを呟いている。
...窓もない。電気もない。白い部屋に俺の家のベッドがあるだけだ。意識がはっきりとしているけれど、夢には違いないはず。しかし、時間が経つと共に記憶が戻ってくる。
そもそも昨日家に帰ってすらなくないか?確かにボーっとしたまま家へ帰るなんてことはよくあるけど、家に着いた記憶がないのはおかしい。記憶にあるのは、車道に出た変な猫を助けて車に轢かれたことだ。
猫が車に轢かれるなんてことは何度か聞いたことはあるが、基本的に猫は賢くて、俊敏なんじゃなかったか?あのくらいの距離からでも、猫だったら車に轢かれずに道を渡り切っていたのかもしれない。
...無駄死にしたというわけじゃないよな。猫にとっても余計なお世話だったってことでもないよな。
『そうだ!余計なお世話だったのだ!』
謎の声が同調してくる。
『どうしてくれるんだ!巻き込んで殺したともなると、父上に...!!』
「助けたつもりだった猫は実は神様で、助けたつもりが自己満足だったってことか?」
『うるさい!!そうだ!全部お前が悪い!!』
いつの間にか膝の上に乗っていた猫が、ものすごい形相で睨んできている。
「そんなこと言われたってさ!道歩いていた猫が神様だったとかそんなこと普通は思わないだろうが!!」
逆切れにもほどがある。好き放題怒鳴られたって困る。それに、こいつが神様だなんて考えられない。
『...うぐ!!ぎゃ、逆切れするな!!これだから人の子は!!』
「...そんなことよりもだ!俺、死んだのか?何回も死んだみたいなこと言ってたけどさ!」
『そうだ!死んだんだよ!生き返らせて、何もなかったってことにしたいけど、そうしたら父上にばれるし、どうしろっていうんだ!!』
お父さんに怒られたくないって、この神様とやらも人と大して変わらないな。だからと言って、生き返ることもできなければ、俺だって困る。
『なんだその優しい顔は!!...そうだ!異世界に飛ばしてやるよ!父上にばれないように、ほんの一瞬だけ異世界とリンクさせて、そうだ。よし!そうしよう!!』
異世界に飛ばすだって!?まだこの世界に未練ありありだぞ!?まだ十代だし、高校卒業もしていないし、彼女もまだいないし、何もかもが中途半端なままだ!
『私にもほんの少し、一割くらい非がある。それに突然異世界に飛ばされるのも不安があるはずだ。特別大サービスだ!いいものをやろう!!』
何かしらいいものをくれるようだが、これはゲームではないし、夢でも遊びでもないことも分かってしまっている。これは現実だ。俺が欲しいのはいつも通りの日常だ。
『...あ、そろそろ仕事の時間だ。急いで用意するからな!体は新しいものを用意してやった!全属性耐性と、龍の力、物理耐性、全装備可能、神速は体の方に付与させた!絶対言語と可能性は魂の方になくてはならないものだから、異世界へ行く途中までにゆっくりなじませろ!!体も同じだ!!マジチートだから、オレツエエエで満喫しろ!!!』
そう言って俺の膝の上から床へ飛び降り、俺の方へ振り返った。
『じゃあ、私は仕事があるのでな。この辺りでお別れと...ん?何だ?異世界側からのリンクだと!?ここにか!?これは、召喚魔法か!?』
騒いでいることには変わりがないが、明らかに声色が違っていた。かなり焦っているようだ。意識が朦朧としてきた。さっきまではっきりとしていたのに、だ。眠たいな。
『待て!まだ、体とのリンクが―――ッ!!』
眠気に抗うことができず、そのまま意識が途切れた。
―――少し時間は遡る。
とある世界で、魔王という存在が地上に現れたことにより、人類は数を減らしていた。
ある日、ある国の王が、勇者を召喚する儀式を行った。
異世界からやってきた人間には、特別な力があると言い伝えられていたためである。そして、それは真実であった。
言い伝えというのは、召喚された勇者はみなその世界で仲間と出会い、厳しい冒険の果てに魔王を倒し人々に平和をもたらしたと言うものだ。
しかしその王に召喚された彼は、仲間にした女性らとのんびりと冒険をしていた。戦えば強い。かの魔王とだっていい勝負をするはずなのだが、いかんせん彼には勇者として、英雄としての自覚がなかった。
そのせいで、魔物は減るばかりか増える一方であった。確かに彼によって強い魔物は数を減らしたが、根本的なところは何も変わっていない。
このままではいけない。別の勇者を召喚しなければ。そう思った別の国の王が、城の地下にある広場だった場所で召喚の儀式を行おうとしていた。
そこには巨大な魔方陣が描かれており、その中央には光り輝く石が積み上げられていた。魔石である。
魔石とは、魔素から誕生する魔物の核の事だ。魔素は自然界にある魔力のようなもので、つまりは、魔素の結晶体は魔力の塊でもあるのだ。
その魔方陣を囲むように多くの魔法使いが立っている。
そこへ、二人の人物が声を荒げてやってきた。一人は華美な服に身を包み口ひげを生やした男。もう一人は白装束に身を包んだ男である。白装束の男から放たれる気迫は、凡人の物とは明らかに違い、風格があった。
「陛下!召喚の儀式などお止め下さい!!召喚の儀式には膨大な魔力が必要になるのですよ!!」
「大臣!何度も聞き何度も答えたことだがもう一度言う!儀式をせねば人類はいずれ滅んでしまうだろう!!なれば、この我がこの命を懸けてでも儀式を成功させねばならないのだ!」
「ですが...!!命を対価にされるのは納得いきません!!」
大臣は何か月も前から儀式の準備をしていた王を、今なお説得していた。しかし、やはり王の決意はみじんも揺らがない。
儀式に必要な魔力を、王が自らの命を神に捧げることで購おうとしているのだ。
「大臣、お前も頭の固い奴だ。説得しようとしたところで、もう今さらであろう。」
「そのようなこと...!!」
「時間だ。我は魔力と化し、この儀式を成功へと導く!皆のもの、待たせた!」
王は召喚のための魔法陣の中央へ向かった。中央に着くのと同時に、魔方陣は眩く光り始めた。
「陛下...!」
大臣は、光に包まれていく王を見つめる。周りにいた魔法使いの額からは滝のような汗が流れ始めていた。
―――気が付けば、真っ暗な洞窟の中にいた。ぼこぼことした岩の壁、周りには勝手に動き出す岩の塊がいた。天井には蝙蝠がいる。地面は近いが、寝転がっている感覚はない。地面の冷たさが伝わってくる。
体が思うように動かない。
動いていた岩たちには、綺麗に光る眼のようなものが付いていた。体はハンバーガーのパンの様に二つに分かれていて、地面に落ちている小さな岩を挟むようにして食べていた。その体に関節は見られず、どういう構造をしているのかわからない。
...どうやら俺は本当に異世界に来てしまったようだ。
岩をも噛み砕くあの体。もしもここに人間――俺がいると気づかれたら、簡単に喰われてしまう。しかし、やはりどうにも体が思うように動かない。
手をついて地面を這って逃げようと思ったけれど、そもそも手の感覚がない。起き上がろうにも、脚の感覚もない。いや、体全体の感覚がない。それでも地面に触れているという感覚はあるし、物を見ることも、こうしてものを考えることもできている。
...待て待て。まあ、待て。地面はもちろん固いが、何故か、俺の体もかたい気がする。肉の弾力が一切ない。
違うと思いたい。俺は周りにいる岩たちと同じ体をしているとか、そんなことはないと信じたい。
信じたいからこそ、行動するべきだ。あの岩たちとは違うということを確かめてみなければならない。
まず、跳ねることができるかどうか、だ。集中してみたら、アバウトにだが自分の体がどういった物なのかが分かった。だから、力を入れて適当に跳ねてみる。
ちなみにだが、自分の感覚では俺の体は岩たちと同じだった。しかしそんな適当な感覚を信じるわけにはいかない。俺は人間なのだから。
単刀直入に言おう。跳ねることはできた。それに、口を開けることもできた。体は上部と下部に分かれることができ、自由に動かせるのは上部である。不思議な感覚だが、下部から上部を離すように動かすことで口を開けることができるのだ。しかし、下部からは一定の距離以上を離れることができないようなので、移動する際は合体した方がいいのだろう。
外れた上部から見た俺の姿は、さっきから何度も見ていた動く岩と同じものだった。つまり俺は岩だ。
...なんだよ岩って!!バーチャルゲームでもしている気分だったけど、流石に冷静になったぞ!