強くてニューハーフ
部屋一杯の幾何学的な魔法陣の前で6人の魔法使いが詠唱を重ねていた。
多重聖堂詠唱
魔法詠唱の中でも最も難易度が高いと言われている詠唱。
それを完全にこなすのは彼らが国最高の魔法使いである印。
浪々と高まっていく魔力。発光が強くなる魔法陣。
その効果はただ一つ、『異世界より勇者を召喚する』為の物。
『来たれ、来たれ、異界の環より』
『捧げよ、捧げよ、魔力を捧げよ』
『落ちよ、落ちよ、此処に墜ちよ』
一陣の風が吹きすさび、光が室内を覆った。
光が収まるとそこには白と黒の衣装を身にまとった筋骨隆々の偉大夫が立っていた。
倒れこむ魔法使いを他所に、王女は彼に近づいていく。
「俺を呼んだのは貴殿らか?」
「はい、よくぞいらっしゃってくださいました。国王陛下との謁見を・・・」
「了解した『ご主人様』。早速行こうではないか」
整然と伸びる赤絨毯、両脇には近衛兵が整然と並ぶ。
そこを堂々と進む彼、服装こそ場違いではあるが
その所作はまさしく貴さを感じさせる物。
王も久々に見る完璧な礼儀であった。
「勇者よ、実は魔王が復活して困っておる。
数多の勇士が挑んでは虫けらのように散っていった。
虫のいい話ではあるがどうか助けてはもらえないだろうか」
「否。なぜならこの身はご主人様の世話をするためのメイドであるからだ!」
ざわつく謁見の間。近衛達も各々武器を構える。
彼はどこからかすっとホウキを取り出す。
いつ出したかわからないほど自然な動作で誰も反応できなかった。
「そんな危険な物を人に向けるとは躾がなっとらん!」
ばっとひらひらのゴシックメイド服をはためかせながら彼は近衛兵を薙ぎ払った。
あっという間に謁見の間は死屍累々。
銀色の兵士達が壁に装飾のように埋まってしまっていた。
皆が硬直する中、彼は王女を俵掴みにするとのっしのっしと去っていった。
「さぁ『ご主人様』。ご奉仕の時間と行こうかフハハハハ!」
「えっちょっ待って待ってぇ~・・・」
彼の名はメイドダンディ、地上最強のメイド(男)である。