表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/36

八話:釣り


 殺気。

迫りくるオーガレイダーから感じるたしかな殺気に、俺は一歩後ずさる。

 視線の分からない鉄仮面がこちらを見ている気がする。


「……後ろに隠れてる?」


「いや」


 死ぬのも嫌だが、寄生はもっと嫌だ。

シトリのように鼓舞スキルもないのだ。 ほんとうに役立たずになってしまう。


 俺は木の棒を握りしめ、一歩前に出た。


「……無理しないでね」


「はい!」


 命大事に!! 


 角の生えた凶悪顔のオーガレイダー。

灰色の体皮に個々で少し違う服装をしている。

 しかしどの個体も両手に武器を持っている。

片刃の短剣は僅かに湾曲し、それなりに切れ味はありそうだ。

 少なくとも木の棒よりかは。


「がぁるあ!!」


「っ……」


 地を蹴るオーガレイダー。

激しい咆哮を上げ、前傾姿勢のまま突っ込んでくる。


「コンティルライト、パニッシュサークル」


 レフィーさんの詠唱に、地面に淡い光の線が浮き上がる。

それに俺の体を淡い光が断続的に光っている。

 サポートスキル。 何の効果か不明だが、シトリの鼓舞のように全体のヘイトを溜めたようだ。 オーガレイダーたちがレフィーさんに向かい一直線で突き進む。


「レフィーさん!」


 盾を構える鉄仮面。

どっしりと、盾に刻まれた顔がオーガレイダーたちを睨みつけた。



「――ッ!?」


 激突――閃光――雷鳴。


「がるあっ!?」


 次いで聞こえるオーガレイダーたちの叫び声。

奴らの間を連鎖するように純白の光が走る。

 レフィーさんが小さなハンマーで殴る度だ。


「……」


 殴る、殴る、殴る。

盾で敵を止め、ひたすらハンマーで殴る。

 その度上がる雷鳴と閃光に、オーガレイダーたちは倒されていく。


「魔法なのか?」


 正体不明の雷撃が場を蹂躙していく。


「ガルアアアア!!」


 それでも怒りの咆哮を上げ突撃を繰り返すオーガレイダー。

何度目かの攻撃を、レフィーさんの持つひし形の盾がブロックしたとき。 その中心に描かれる顔の文様が光った。


「うわっ!?」


 回避。

思わずの行動。

 光った顔から光線(ビーム)が放たれたのだ。 びっくりして思わず回避した。


「めっちゃ派手だな……」


 戦場は雷鳴と閃光。 それに時たま薙ぎ払うように光のビームが繰り出される。 レフィーさん本人は小さいハンマーで殴り盾でブロックしているだけなのだが。 戦場はモンスターの悲鳴も合わさり、ド派手である。


「……釣ってきてくれる?」


「……はい」


 ボケっと立ってた俺に指令が下る。

釣ってきて、とは離れている敵を集めてこいということ。

足の速い者が集めたり、遠距離で攻撃して集める場合もある。

 今回は戦闘の役に立たないので集めてこいということだ。



「ぬああああああ!!」


 俺は走る。

崩れた遺跡を駆け巡り、オーガレイダーたちに追われながら。


「「「がぁるあ!!」」」


 両手に短剣を持つ鬼と鬼ごっこ。

 

 戦闘中のレフィーさんのところまで行けば勝手に雷撃がタゲを取ってくれる。

ひたすらフィールドを駆け巡り、モンスターを引っ張ってくる簡単なお仕事。

 連続するレベルアップの通知音。 シトリが跳ねて応援しているのが見える。


 それに足が凄く速い。

レフィーさんに貰ったバフのおかげだろうか?

 そんなことを考えていると。


――吹き飛ばされた。


「――ふべっ!?」


 強烈な一撃。

 地面を転がるウチにHPバーは全損。

このゲーム最初の死亡の瞬間だ。


「……ボス沸くから気をつけて」


「遅いですよぉーー……」


 レフィーさんの近くまで転がると光の粒子となった。

その状態のまま、現状は浮遊している状態だ。

 近くの安全地帯で復活しますか? とウィンドウが現れる。


「……復活させるから、待ってて」


 会話もできない。

ただただ、レフィーさんがオーガレイダーを殴るのを見ているだけだ。


 俺を殺した奴。

普通のオーガレイダーよりも倍以上大きいボス。


『オーガレイダー首領・スファギ』


 手には大きな棘付き棍棒。

頭の角は大きく、体も筋肉が盛り上がっている。

 服装も少し派手で雰囲気もボスの風格を漂わせていた。


「リザレクション」


 くぐもった声。

レフィーさんの復活の呪文が響く。

 俺はコールで転移した時のような感覚に包まれ、その場に復活を果たした。


「あ……ありがとうございます」


「ん……ヒールライト」


 エメラルドのエフェクトが体を包み。

減少していたHPを回復してくれる。

これは。


「レフィーさんてプリーストだったんですね?」


「うん」


 巨乳神官ちゃんが使ってたスキル。

清楚な神官服を押し上げる巨乳を持つプリーストのNPC、ミオのことだ。

 チュートリアルで傷ついた俺の体を癒してくれた。 

女性らしいフォルムで俺を誘惑していたミオのことだ。


「……なに?」


「いえ、なんでもないです」


 鉄仮面の重装備ってなんだよぉ。

あっ、ジロジロ見ちゃったけど。 セクハラ警告とか出てたのかな?


「ボス狩る」


 そういうと最初のバフを掛けなおし始めた。

俺も死んでしまったからバフが消えてる。 それに死亡ペナルティが……。


「経験値50%ロスト……?」


 戦慄のデスぺナ。

50%ってきつすぎないか?

 能力の減少とか、装備のロストはないようだけど。


「神殿で祈りを捧げると……戻るよ。 お布施がいるけど……」


 世知辛いね!



◇◆◇



 シャビル五階層のボス『オーガレイダー首領・スファギ』。

俺にたった一撃で初デスをもたらした憎い奴。

 その強敵を前にしてもレフィーさんに焦りの様子はない。


「……釣ってきて」


「ふぁ!?」


 俺の焦りは伝わらない。


「くぅ……」


 鉄仮面は全てをブロックするというのか。

諦めた俺は慎重にボス――スファギの前に歩み寄る。


「!!」


 頑張って! とシトリが飛び跳ねた気がした。


「うっ」


 そのせいだろうか、明後日の方向を向いていたスファギがこちらを向く。

赤い瞳の中の縦長黒目に見つめられる。

 

「「……」」


 そんな装備で大丈夫か? いえ、ダメです。

スファギとそんなアイコンタクトを交わした気がした。


「ガルアアアアアアア!!」


「――気のせいっ!?」


 全力疾走。

釣り役である俺は全力でレフィーさんの元へ走る。

 PTを組んでいなければただのボスMPK。

しかし、PTを組んでいればPTプレイだ!


――バァン!!


 轟音。


 振るわれた棍棒をレフィーさんの盾がブロックする。

 灰色の大鬼と鉄仮面の重歩兵。

体格差は明らかだが、レフィーさんはボスの重い一撃を止めて見せた。 


 盾から放たれる光線。

スファギの体を直撃する。


「ガルァアアア!!」


 皮膚を焦がすのも構わず、棍棒を再度振り回すスファギ。

ダンッ、ダンッと盾でブロックするレフィーさん。

 光線は必ず出るわけではないようだ。


「んっ!」


 鮮やかな純白の雷撃が走る。

レフィーさんが片手に持つ小さなハンマーで攻撃するごとに。

 スファギの棍棒のブロックも、雷撃は突き抜け体を焦がす。


 ブロック不可。


 鉄仮面の重歩兵はひたすらにハンマーを振るう。


『ガルルル!!』


 今までと違うスファギの遠吠え。

甲高くどこか必死なそれは、仲間を呼ぶための物だった。


「増援!」


「HPが減ると呼ぶ……」


 建物から現れる増援にも鉄仮面に動揺はない。


「コンティルライト、パニッシュサークル」

 

 淡々と呪文を唱える。

高まるヘイトに群がる増援。


「釣る手間が減っていい……」


 焼肉って焼くのめんどう。 殺到するオーガレイダーを見てそんな感じで言い放つ。

そして黙々と殴り始める。 


「そろそろ沸き始めるから……釣ってきて……」


「えぇ? まだボス倒してないですよ!?」


「まとめた方が……効率がいい……」


「……」


 狩りは続く。

ボスを倒しても、ボスが再度沸いても続いていく。


「うああああああーー!」


「「「がぁるあ!!」」」


 俺は釣り続ける……。




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ