二十七話:ボスマラソン
俺は相変わらず走っていた。
「グロリス沸きまで……後三分」
「はい!!」
レフィーさんと共にダンジョンを駆ける。
移動速度上昇のバフを掛け、モブをまとめて狩りながら、ダンジョン巡り。
主塔のボスを討伐し、次のダンジョンへと移る。
「次は……イワンに十五分後……」
「それは厳しいですよぉ!?」
「アルマたちに……お願いする」
ボスの沸き時間はランダム。
とはいえ完全にランダムではないらしい。
数十種類にも及ぶパターン。 それらからレフィーさんは時間を割り出す。
「間に合った!」
ダンジョン最上階。 駆け込んできた俺たちに視線が集まる。
一人は鉄仮面に重装備。
もう一人はデカイタマゴを抱えた黒づくめ。
いったい何事だと身構え好奇の視線を送る人たち。
「ライフフォース、ウインドフォース、エナジーフォース」
そんな視線を無視してレフィーさんの詠唱が続く。
「スオードル。 飛行タイプ。 飛び上がったら範囲攻撃に気を付けて」
「分かりました!」
最小の助言。
後数十秒で沸くボスの情報を頭に叩き込む。
「来る……」
風が舞う。
ボス登場のエフェクトに、周りで狩りをしていた人たちも、俺たちがボス狩りだとようやく気付く。
コルルオンラインではボスドロップはPTを組んでいなくても、一定のダメージ割り合いを叩き出せば貰える。 だから横殴りでも問題は無い。
「ボス参戦しますね!」
「おっけー!」
とはいえ、一応声は掛けるけど。
普通は五人以上でPTを組むのが一般的だ。 二人だけだと横殴りでドロップだけ貰う寄生と思われてもしまうかもしれない。
「んっ!」
鉄仮面は手に持つ小さなハンマーを振るう。
轟く雷鳴、純白の雷光がボス『狂霊獣・スオードル』を襲う。
「うわっ!?」
連続する稲光。
周りの雑魚を巻き込み連鎖する。
驚く声を上げる共闘PTなど無視して、レフィーさんは殴り続ける。
「バックスタブ!」
ボスの背後から一撃。
さらに黒い短剣を振り回し、連撃を続ける。
少し離れたところからシトリがふるえながら飛び跳ね、鼓舞を送ってくれている。
「コンティルライト、パニッシュサークル」
地面に淡い光の線が描かれ、ボスを弱体化させ雷属性の威力を上昇させた。
「んっ」
デカイ鷲型のボスであるスオードルの巨爪。
両手のひっかき攻撃をレフィーさんの盾が防ぐ。
顔の文様が描かれた盾から、ビームが発動。
スオードルの体毛を焦がし苦渋の声を上げさせる。
「キシャアアアア!?」
「はあああああ!!」
「負けてられないぜ!」
「うらああああ」
他のPTたちもボスと戦い始める。
呆けて寄生だと思われても困るだろうしね!
「時間開くから……反復クエ行く」
「はいーー」
サクッとボスを倒し、それだけ言うと鉄仮面は消えた。
送られてきたコールで俺もサッと消えた。
「なんだったんだ?」
「さぁ?」
ボスだけ倒しサッと帰っていく。
そんな奇抜な恰好の二人組の噂が掲示板に流れ始めるのだった。
◇◆◇
反復クエスト。
それは地獄の始まり。
「ああ……飽きた……」
狩る。狩る。狩る。
狩り豚の如く、豚を狩る。
「ブヒィイイイイイイ!!」
「ぐえっ!?」
精霊の泉周辺に大繁殖した豚型モンスター。
木の実や根っこを食い荒らし、森の木々を傷つけ、フンをまき散らす。
そんな肥え太った豚型モンスター『大繁殖した・トンクー』を乱獲中である。
「ノリオ……油断禁物……」
「はい……」
森の中は死角が多い。
藪から突進してきたトンクーに吹き飛ばされる。
俺の尻に豚鼻スタンプが押された。 これはデバフなのだが、レフィーさんのスキルでも解除できない、厄介なデバフだ。
「臭い……」
「すいません……」
豚の臭いがする……。
VRで臭い付与のデバフは最凶じゃないか?
「休憩……温泉行こ?」
「!」
訂正。
「はいっ!!」
最高じゃないか?




