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ニ話:シトリ


 森を抜けると村が見えてきた。


「あそこが、ラサース村です」


 ラサース村。

隣を歩く巨乳神官、正確にはプリーストのNPCでミオというらしい。

 剣士をファイターのゲンジ、女魔術師はメイジのシャーリィ(貧乳)だ。


 黒ずくめはアサシンのシオン。 

一瞬で仮面の魔族の後ろを取った動き。 あれはアサシンのスキルだろうか?

 聞いてみたいけど、めっちゃ無口で話しかけるなオーラが半端ない。

NPCに遠慮するなんて馬鹿みたいな話だが、好感度システムだったり最近のVRMMOではAIの進歩が凄いのだ。

 彼らをこの世界の住人と意識しないで接すると、痛い目を見ることもある。


「おっと」


「すみません……!」


 いいこともある。

俺の手の上のコルルに夢中で躓きそうになったミオを支える。

 柔らかい感触。 不思議ないい匂い、女の子の匂いだ!

 

 NPCだっていいじゃないか……。


ピロロン。


「お!」


 思っていたよりも大きな村だ。 

周りを木の柵で囲まれ、畑で作業をしている人たちが見える。 

 木製のゲートをくぐりラサース村へと入った。

メッセージの着信音。 きっとチュートリアルの完了を知らせるものだ。


+++++++++++++++++++++++++++++


★チュートリアルクリア★


おめでとうございます。

引き続きコルルオンラインをお楽しみください。


報酬添付:アイテムポーチ


++++++++++++++++++++++++++++


 シンプルな内容と期待の持てる報酬。

アイテムボックスがあるのにアイテムポーチとは如何に?

 添付をタッチすると目の前に茶色い腰に巻くタイプのポーチが現れた。


「アイテムポーチですね。 十種類のアイテムを入れて置ける便利なマジックアイテムです」

 

 ミオはポーチを見て淡々と説明する。

 メニューで見れるアイテムボックスは何種類でも入る。 重量制限はあるのだけど。 

試しにHPポーションを十個いれてみよう。


「ふむふむ」


 ポーチに手を入れると何が入っているのか分かる。

意識しながら手を出すとアイテムを取り出せる仕組みのようだ。


「戦闘中だと便利かな?」


 メニューからアイテムボックスを選択してアイテムを探して……。

激しい戦闘中では大変かもしれない。 これはいい報酬だな。


「お前もそう思うか?」


「……」


 揺れるタマゴ。

瞼のように開いたヒビから金色の瞳がYESと言っている気がした。




 冒険者ギルド。


「クエスト達成お疲れ様です」


「よっしゃ!」


 ゲンジたちは無事にクエスト達成と認められたらしい。

祭壇壊されたし、魔族逃がしたけど、達成なんだね?


「しかし、魔族ですか……。 最近は頻繁に目撃情報が上がっていますね。 やはり、コルルを狙っているというのは真実のようですか……」


 なにやら眼鏡を掛けた冒険者ギルドの受付嬢がボソボソと喋っている。

フラグかなぁ。 さらなるイベントの。


「コルルはもう孵化したのですね! 予定よりもだいぶ早いですが、安心しました」


 姿はタマゴのままだけどね。


「もう名前は付けましたか? 名前を付けることでコルルとの契約が完了します」


 契約? 怖い契約じゃないよね?

契約について聞くと眼鏡を直した受付嬢に睨まれる。


「コルルを育て最高位の守護獣へと進化させることです。 きちんと聖典は読みましたか? まさか神殿に行ったことがないので?」


「ないです」


「それはいけません! すぐに行ってください。 いいですね? 行かないと天罰が下りますよ!!」


 信者怖い……。

ゲームの設定とか読まないタイプなんだよね。 PVとかスキップするし。

俺は神殿に必ず行くと伝え、その場を逃げるように後にした。


 ゲンジたちと別れた俺は村を歩きながら名前を考えていた。 

神殿はいつか行けばいいや。 すぐに行くとは俺は言ってないし。


「名前、なまえかぁ~~」


 思い浮かぶのは、タマゴマン、タマタマ、エッグマン。

エッグマンとかいいんじゃないか!?


「おわっ!?」


 まるで否定するように激しく揺れるタマゴ。

金色の瞳に睨まれる。


「んー。 じゃシトリとか?」


 黄水晶のシトリンから。 タマゴから離れるとそれくらいしか思い浮かばない。


「おお、気に入ったか!」


 ジャンプした!

手の上で大きく跳ねたタマゴ。

頑張れば歩けるんじゃないか? 楽してる??


ピロロン。


++++++++++++++++++++++++++++++++


コルルと契約を結びました。 

最高位の守護獣を目指しコルルオンラインの世界を冒険しましょう。


※契約者である貴方にはコルルの食事や世話をする義務が課せられます。

コルルを不当に扱った場合、神様から厳罰に処されるので注意しましょう。


+++++++++++++++++++++++++++++++



 神様=運営ですね、分かります。

  


◇◆◇



「シトリ・ステータス」


―――――――――――――――

名前:シトリ

種族:守護獣 卵型

レベル:1


HP:10

MP:10


力:1

体力:1

敏捷:1

器用:1

知力:1

精神:1

SP:0


スキル:【幸運Lv.1】【鼓舞Lv.1】【ふるふるLv.1】

スキルポイント:0


物理攻撃力:1

魔法攻撃力:1

クリティカル:2倍

攻撃速度:1


物理防御:0%

対火炎属性:0%

対風雷属性:0%

対水氷属性:0%

対土岩属性:0%

ダメージ軽減:0%


―――――――――――――――



「おお……」


 これは……酷い。

シトリさん実は歩けるけど楽してる疑惑を解消するため、ステータスを見てみたのだけど。

 雑魚すぎるだろ……。


「おわっ、≪ふるふる≫やめてっ!」


 落っことしちゃう。

死んじゃうんじゃないか? ステ低すぎて。

 ご機嫌斜めな金色の瞳に睨まれる。


「しかし、どうしよ」


 ちょっと村の外でもいって戦闘してみようかと思ったのだが、これではできない。

持ちながら戦うわけにもいかないし、そばに置いておいたら狙われるかもしれない。


「幸運と鼓舞も完全にサポート系だな」


 スキルをタップすると詳細が見れる。

 【幸運Lv.1】はアイテムドロップ率と量を増加してくれる。 

これ、どの程度かにもよるけど、チートなんじゃないか? まぁレアなスキルならだけど。

 【鼓舞Lv.1】は味方の能力を上昇してくれる。 サポート系。

 

 一応【ふるふるLv.1】も確認する。


――――――――――――――――――――

【ふるふるLv.1】

ふるふる震える。 ぶるぶるではない。

見ている者を癒す効果があるかもしれない。

他スキル併用時、特殊効果を発動する。

――――――――――――――――――――


「あれ、意外と多いな」


 どうせふるふる震えるぐらいしか書いてないと思ったのに。

特殊効果……か。 気になるね!




「人が増えてきた……?」

 

 村を歩いていると急に人が増えてきた。

それもNPCではないPCプレイヤーキャラクターだ。

始まりの村にふさわしくない、華美な装備を着ている者も多い。


 少し開けた広場。 神殿も近くにある。


「初心者支援ギルドでーす! 興味のある方は是非どうぞーー!」


「『ガンガン逝こうぜ』ではメンバー募集中!!」


 観光地の呼び込みの如く、あるいは大学サークルの新入生争奪合戦のような光景が広場で繰り広げられている。

ギルドの新規プレイヤー勧誘のようだ。 そういえば一周年記念とかなんとかで、宣伝をたくさんやってたな。

 月額五千円が新規だと一か月無料とか、特典アイテムとか。  

俺以外にも新規ぽい恰好をした人が結構いるのはそのせいかもしれない。

 

「君ッ! どうかなぁ!! うちのギルドにどう!? どうかなあああ!?」


「いやいや、そんな弱小ギルドやめてうちに来いよぉ! ふへへ、可愛がってやるぜぇ!?」


 必死すぎて怖い……。

ケバイ派手な女とマッチョな武闘家の勧誘。

 俺は逃げるように、その場を離れた。


「あぁ~~行っちゃったぁ。 結構かわいい顔してたのにぃ……。 あんたのせいよクソゴリラ!!」


「うるせぇ、若作りババァ!! お前の化粧が濃いからだっつの。 せっかく俺好みだったのによぉ……。 お、あいつもいい尻してやがるぜぇ……!!」


 遠く離れた俺の耳には、新規のプレイヤーたちの悲鳴は聞こえなかった。



◇◆◇



 見晴らしの良い草原。

村の中ではどこからか流れていたノスタルジックな音楽も無くなり、静かな時が流れている。


「勢いで出てきちゃったけど……。 木の棒しかないんだが?」


 ゲームのフィールド。 

村から出れば当然モンスターが出てくる。

初期村の側だからそんな強い敵は出てこないと思うけれど。


「モブがいない……?」


 しばらく歩いたが、モンスターに遭遇しない。

モブのいないゲームなんて成立するのだろうか。

 

 シトリを抱きかかえながら、ゆっくりと草原を進んでいく。

マップを開き自身の歩いた場所や近くの場所が記されていくのを眺めて。

 しばらく散歩をしていくと。


「お……?」


 塔だ。

縦に長い塔を見つける。


――――――――――――――――――――――――――――

カークタス 副塔Ⅲ (三階層)


所有:不可タイプ

入場料:無料

バトルタイム:無し

PK:不可

―――――――――――――――――――――――――――――


 マップに表示された情報に、俺はそれがダンジョンだと気づいた。


「冒険者か? そんな装備でダンジョンに潜るつもりなのか?」


 塔まで行ってみると、入り口には槍を構えた兵士が立っている。

そういえば、冒険者ギルドで登録とかしてないけど。 俺は冒険者なのか?


「契約者……かな?」


 俺はシトリを見せながら、兵士に答えた。


「契約者……。 失礼しました。 どうぞお通りください」


 通っていいらしい。

木の棒片手にでかいタマゴを抱えた村人装備だからな。

 兵士の目が死んでいたのも無理はない。


 俺はそんな装備で、このゲーム最初のダンジョンへと進んでいった。






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