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黒猫堂古書店物語  作者: 美汐
第二話 黒猫堂、万引きに遭う
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黒猫堂、万引きに遭う4

 あの野球帽にはRという文字が書かれてあった。文月小学校の頭文字ではもちろんない。きっとチーム名なのだろう。それをもとに、昼の休憩時間を利用して商店街の人たちに聞き込みをしてみると、すぐに答えは見つかった。


「ああ、たぶん燈月ひづきレッドホークスじゃないかな。この辺の子供たちの入ってる少年野球チームだよ。毎週土曜日か日曜日に小学校のグランドでやってるから、行けばその捜してる子に会えるんじゃないかな」


 金物屋のおじさんがそう教えてくれた。土曜日は茜は会社に行かなければならない日だった。できれば会社を休める日曜日に活動をしてくれていると助かるなと思いながら、茜は黒猫堂へと戻っていった。

 黒猫堂へ戻ると、店主の神谷はレジカウンター内に座っていた。ひざにミケを乗せたまま、なにやらパソコンでの作業に没頭している。


「戻りました」と茜が言うと、神谷はぱっと顔をあげた。


「ああ。お帰りなさい」


「なにしてるんですか?」


 茜はレジカウンターの内側のほうに回り、神谷が見ていたノートパソコンの画面をのぞいてみた。


「通販業務ですよ。かなりメールなんかもたまっていたので、今急いでチェックしていたところです」


「通販もやってるんですか?」


「ええ。昔は店舗でしか売っていませんでしたけど、数年前から通販も始めました。今ではこちらのほうの業務のが忙しいくらいです。ホームページも作って運営してるんですよ。こんな感じで」


 神谷はそう言うと、画面をクリックして『黒猫堂古書店』のホームページを見せてくれた。そこから通販も頼めるようになっているらしい。

 なるほど、たしかに今の時代、ネットの通販のが儲かるのかもしれない。ボタンひとつでなんでも買えてしまう世の中だ。わざわざ店に足を運ぶお客も減ってきたのだろう。


「でも、なんか地味ですね」


 ぽつりと口を突いてそんな言葉が出てきてしまった。神谷が驚いたように茜を見返してくる。


「あ、ごめんなさい。このホームページの画面がってことです。すみません。失礼なこと言って」


「いいですよ。構いません。地味ですか。なるほど、言われてみれば確かにそのとおりかもしれませんね」


「わたしが古書店を知らないからそう思うのかもしれないですけど」


「いえ、そういう意見はありがたいです。僕一人でやっているものですから、それがいいのかどうか目が曇っていてわからないのです。新しい意見を聞かせていただけると、僕の目も覚めます。なるほど、このホームページは地味、なんですね」


 地味という言葉を連呼されて、茜は胸にちくちくとげを刺されているような気分になった。もう少し言葉を選ぶべきだった。


「あの、わたし結構こういうの得意なので、時間があるときにちょっと構ってみてもいいですか? もちろん差し支えなければですけど」


 茜が試しにそう言ってみると、神谷は予想以上に喜んだ。


「それは助かります。どうにも僕はセンスというものがないので。是非ともやってみてください」


 茜は神谷のそんな反応にちょっと面食らった。そんなに喜ばれるとは思っていなかったのだ。


「あ、はい。じゃあやらせてもらいます」


 そう返事をすると、ミケがニャーと鳴いて茜の足元を擦り抜けていった。


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