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黒猫堂古書店物語  作者: 美汐
第五話 招待状
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招待状15

 その日の夜、茜はアパートに帰って、倉本先輩から届いた手紙を開けてみることにした。なかなか決心がつかず、それまで封を開けることができなかったのだ。

 封を開けると、そこには綺麗な紙で印刷された招待状と、手書きで書かれた手紙が入っていた。

 手紙にはこう書かれてあった。




『茜ちゃんへ。


 突然の手紙で驚いたでしょうね。随分と連絡もせずにいてごめんなさい。

 あの卒業式の日からもう随分と時が流れてしまいました。

 茜ちゃんと過ごせたあの日々は、今でもわたしにとっての宝物です。あなたと本の話をしているときが、一番のわたしの幸せでした。


 今さらこんなことを言っても信じてはもらえないかもしれませんが、わたしがあなたと距離を取ろうとしたのは、決してあなたのことが嫌になったからではありませんでした。本心では、あなたとずっと一緒にいたいと思っていたのです。

 それならばどうしてあの日、二度と会わないほうがいいなどと言ったのかとお思いでしょうね。

 あれは、実はあなたのためでもあったのです。


 あのころのわたしは、生徒会長なども務めていたこともあり、なにかと目立つ存在でした。そんなわたしと一緒にいることで、あなたが何度も嫌な目に遭ってきたことを、わたしは人から聞いて知りました。そんなことがあったことをあなたはなにも言ってくれなかったし、いつでもわたしの前では笑顔しか見せなかったから、そんなことは想像もしていませんでした。

 わたしはそのことを知って、とてもショックを受けました。大切なあなたが、わたしといることで傷ついている。そんなことはわたしには耐えられませんでした。


 だからわたしは、あなたと少しずつ距離を取ろうとしたのです。しかし、あなたといる時間はとても楽しくて、あなたの笑顔に安心して卒業までだらだらとあなたに甘えてしまいました。

 結果として、あなたというすばらしい人が、わたしの影に隠れて埋もれてしまったことについてはいまだに後悔しています。そうです。わたしといることで、あなたは人に恨まれたりするばかりでなく、あなたの存在自体を殺してしまっていました。


 そしてわたしは決断しました。卒業を機にあなたと距離を置くことを。みながあなたをわたしの影ではなく、ひとりのすばらしい女性としてとらえてくれるように。あなたの優しさや美しい感受性、人間らしさをわかってもらえるように。


 あなたに多くを語らずに離れていったのは、そのほうがうまくいくと考えたからです。憎まれて別れたほうが、あなたはわたしを早くに忘れられる。もっと自分のために生きていってくれるはずだ。そう思ったのです。

 わたしの大切な本をあなたに渡したのは、わたしからあなたへの感謝の証であり、その本があなたとわたしを出会わせてくれた、思い出の本だったからでもあります。


 しかしそんなことをしたのは本当はわたしのエゴだった。あなたに忘れられたくない。その本を見ることで、わたしのことを思い出して欲しい。わたしは心のどこかでそう思っていたのです。

 きっと優しいあなたは、あんなふうに連絡先も告げずにいなくなったわたしのことを、あの本のせいで恨みきれずにいたことでしょう。もしかすると、あの本のせいであなたは前に進めていないのかもしれない。

 それを思うと、あのときあの本を渡したことを後悔しています。


 しかし、もしあの本をあなたが今でも大事に持っていてくれているのなら、それはわたしにとってとても嬉しく、感謝さえしたい気持ちでもあります。


 さて、今ごろになってこんな手紙を書いたのは、言い訳をするためではありません。こんなことで許されるとはわたしも思っていません。このたびは、あなたにお願いごとがあってこうして筆を取ったのです。


 わたしはこのたび結婚をすることになりました。相手は職場関係で知り合った人です。

 そこで、結婚式をとり行うことになり、是非あなたにも出席してもらいたくてこうして手紙を書いた次第です。

 招待客のリストを作るときに、ふっとすぐに浮かんできたのは、他でもないあなたの顔でした。ずっと会うこともなく、一方的に関係を断ち切ったというのに、今思い出されるのは、あなたとのいい思い出ばかりです。


 茜ちゃん。もしわたしのことを許してくれるのなら、あなたに来てもらいたい。あなたに会いたいのです。我ながら、本当にわがままな願いだと思っています。

 けれども、もしあなたの手元にあの本が今でもあるのならば、結婚式で再び会えるはずだと考えています。

 誠に勝手ながら、招待状を同封させていただきました。

 あなたが出席か欠席か、どちらに丸をつけるのかは自由です。

 けれど、よい返事がくることを期待だけはさせてください。


 それではどうかご自愛を。

 再び会えることを夢見て。


                                     倉本 楓』




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