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黒猫堂古書店物語  作者: 美汐
第五話 招待状
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招待状12

「双子というのは、見た目はそっくりでも、本当はいろいろな面で違いがあります。それはもちろん性格や嗜好といったものもそうですが、身体的な面に関してもそれはあるんです」


「それは、そのとおりでしょうね。それぞれ違う一人の人間なのですから」


 神谷は茜の言おうとしていることをはかりかねていたが、とりあえず、静かに彼女の言葉に耳を傾けた。


「同じ双子として生まれながら、わたしと葵には決定的な違いがありました。そしてそれは二人の人生を大きく違う方向へと向かわせるような残酷なものだったんです」


 茜は次の言葉を言うのがつらいとでも言うように表情を曇らせ、深く息をついていた。そうして落ち着くと、彼女はこう言った。


「葵は心臓に重い疾患を持っていました。反対にわたしはとても健康に育ち、ほとんどこれといった病気とは縁のない子供でした」


 それを聞いた神谷は、ようやく得心がいった。

 茜と葵の二人の関係。いびつに見える彼女たち。

 そこには生まれついての哀しい因縁が存在している。


「葵は昔はほとんど病院に入院していて、外で普通に過ごすわたしとは正反対の生活を送っていました。双子なのに、どうして葵ばかりがつらい目に遭うのか。両親はいつもそう言っていました」


 茜の手の中のタオルが千切れそうなほどに、強く握り締められている。神谷もそれを見て、胸苦しい気持ちになった。


「幼いころ、わたしは入退院を繰り返す葵を見ていて、可哀想だなと思っていました。だから、可哀想な葵のためにわたしはなにかをしてあげようと考えたのです。わたしは入院している葵が退屈しないようにと、学校や外であったことをたくさん教えてあげました。友達とした楽しかった遊びや、興味のわいた勉強のこと、さらには葵が行けなかった遠足のことまで。そのころのわたしは葵がその話を聞いて喜んでくれているとばかり思いこんでいたのです。それが、幼さゆえの傲慢だとも気づかずに」


 神谷には、今の話でだいたいのことが推測できた。二人の双子の姉妹がどうしてこんなふうになってしまったのか。葵の屈折した性格と、それに対する茜の態度。どちらが悪いわけでもない。不幸な行き違いによって、二人はこんなふうになってしまった。


「昔、葵がわたしに言ってきたことがあるんです。『茜は生まれたときに丈夫な体をもらえたんだから、代わりにあたしに茜の大事なものをちょうだいね』って。そのときはふざけて冗談でも言っているんだくらいに思っていました。でも、葵は本気でした。誕生日やクリスマスのプレゼントも、葵はわたしから奪いました。わたしが気に入っていた文房具やCDも持ち出すようになりました。わたしには、葵がなぜそんなことをするのかがわかりませんでした。けれど、両親は葵はつらい思いをしてきたのだから、許してあげなさいとわたしに言いました。わたしはそれに一旦は納得して、葵がわたしからいろいろなものを奪うことを仕方のないことだと考えることにしたんです。だけど……」


 茜はそこで言葉を切った。肩をわなわなと震わせてなにかを耐えているようにも見える。


「あなたは葵さんの病気は自分のせいなのだと、そう思っているのですか?」


 神谷の問いに、茜はぐっと言葉を詰まらせた。それから押し殺すような声で言った。


「それは……そうかもしれません。わたしが健康な体を持って生まれてきたということは、葵の言うとおり、わたしがそちらのほうの体を取ったということで、そうでないほうの体を与えられてしまった葵は、わたしの代わりに不幸を背負って生まれてきたようなものですから……」


 茜の返答に、神谷はゆっくりと首を横に振った。


「それは不可抗力で起こったことであって、あなたのせいなどではありえません。そして、葵さんのその行為は完全な逆恨みです。魂はそれぞれ平等に与えられている。たまたま茜さんは健康に育ち、葵さんは体が弱かった。それだけのことです。葵さんが幼いころのことであなたを恨んでいるのだとしても、それはやりすぎです」


 神谷はそう言ったが、茜は頷かなかった。


「葵は昔と比べればだいぶ体も丈夫になりましたが、それでもやはりよく病気をしたりします。両親はいまだに葵のことばかりを気にかけています。そんなふうにして育った葵は、わがままになりました。だけどやっぱり葵の気持ちを考えたら、それは仕方のないことなのかなと思ってしまうんです。普通に学校に行って友達と遊んだり、部活の仲間とスポーツで汗を流したり。休みの日には友達同士で買い物やカラオケに行ったり。そういうわたしが普通に享受してきた経験を、葵はなにひとつすることができなかったんですから」


 神谷は、ちゃぶ台の上に置いた自分の手が震えていることに気がついた。ぐっとその拳を固く握り締めて、やるせなさを堪えた。


「では、今回の件もその仕方のないことだったわけなんですね。あなた宛てに届いた手紙を勝手に奪って、それを条件に代わりにあなたの大事なものを奪おうとしていた」


 松坂茜は力なく、「はい」とだけ返事をした。


 そんな理不尽なことを許していいのだろうか。葵は身体的な弱さだけでなく、精神面においても未熟だと言わざるを得ない。けれど、他の家族はそんな葵を哀れに思い、甘やかして育ててしまったのだ。

 双子の姉妹といえども、それぞれは別々の人間であり、尊重されなければいけない。松坂茜が理不尽を耐える必要など、なにもありはしないのだ。


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