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黒猫堂古書店物語  作者: 美汐
第五話 招待状
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招待状8

 ドアベルが店内に鳴り響き、彼女が姿を現した。彼女の頬は、寒さのためか少し赤く染まっている。


「やっぱり外は寒いですねえ。もうすぐ雪でも降るんじゃないでしょうか」


「そうですね。クリスマスも近いですし」


「ホントですね。今年はホワイトクリスマスも期待できるかもしれませんね」


 彼女はそう言いながら、神谷のいるカウンターに近づいてきた。


「松坂さん」


 神谷がそう言うと、彼女はぴたりと足を止めた。


「はい」


 彼女は穏やかに微笑んでいた。神谷は彼女から目を離さず、カウンターに備え付けられている引き出しを静かに開けながら言った。


「少し気が早いかもしれませんが、あなたにクリスマスプレゼントがあります」


 神谷は引き出しから出したそれを、ゆっくりと彼女の目の前へと差し出す。彼女は驚いたように、目を見開いた。


「え? だって、それはまだ……」


 そう言いながらも、彼女の口角は少しずつあがっていっている。


「もういいんです。だから、受け取ってください」


 神谷がそう促すと、彼女は神谷の手からその本を受け取った。

 『はるかなる物語』、を。


「嬉しい。本当にいいんですか? まだ契約期間終わってないのに」


 彼女はその本をじっと見つめ、そして抱き締めるように腕の中に抱えた。


「ありがとうございます。わたしにとって、これ以上のプレゼントはありません」


 彼女は満面の笑顔でそう言った。神谷はそれを見て頷いて見せた。

 しかし、次に神谷が発した言葉は、そんな彼女の笑顔を凍り付かせるものだった。


「本当に?」


「え?」


「本当にそれがあなたが欲しかったものなのですか?」


 神谷はできるかぎり感情を抑えながら、そう口にした。


「……どういう、意味ですか?」


「あなたが欲しかった本は、本当はそれではない。それは同じ本ですが、松坂茜さんが切望していた本とは違うものです。しかし、そのことをあなたは気づくことができなかった」


 彼女は顔を強張らせ、胸に抱き締めていた本を、手を緩めて両手で持ち直した。そして疑うような眼差しで、その本と神谷の顔を見比べるようにして見つめた。


「なぜ気づくことができなかったのか」


 神谷はかたりと音を立てて、座っていた椅子から立ちあがった。


「なぜなら、あなたは松坂茜さんではないからです」


 彼女は驚愕の色をあらわにして、神谷了輔という人物の顔を見ていた。それは初めて会った人物に対するもののようだった。


「そうですよね。松坂葵まつざかあおいさん」


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