招待状1
北風が店の窓をぴしぴしと叩く音が響いている。十二月に入り、本格的な寒さがこの燈月通り商店街にも到来していた。黒猫堂古書店の店内にある暖房設備は、かなり年季の入ったエアコンと、レジカウンター内の足元に設置してある小型の電気ストーブだけだった。エアコンの効きはお世辞にもいいとは言い難く、寒がりの松坂茜にとってこの仕事場はあまりいい環境ではなかった。しかしこの店の経営状態からして、新しいエアコンに買い換えるような余裕もないだろうことは容易に想像がつくので、茜はそれを我慢することにした。
それに、寒くても本に囲まれていられるだけで幸せなのだ。茜は店内にところ狭しと並べられている本たちを眺めることで、心を温めるのだった。
「そういえばもうすぐクリスマスですよね」
神谷と二人、カウンター内で通販の梱包作業をしているときに、茜はそんなことを言った。商店街の店にもツリーやクリスマスの飾りつけが増えてきている。もうそんな時期になったのだ。
「ああ、そういえばそうでしたね」
「このお店は他のお店みたいに、クリスマスの飾りとかつけたりしないんですか?」
「クリスマスツリーとかですか? 置かないですね。というか、置くようなスペースがそもそもありません」
確かにこの店の中はただでさえ大きな本棚で占領されていて、通路は狭い。入り口付近も人が通れるのがやっとという状況なのだから、そんなものを置いたら邪魔で仕方がないだろう。
「確かに大きなクリスマスツリーはさすがに無理ですね。でもなんか雰囲気だけでもいいからやってみたいと思いません?」
茜がそう言うと、神谷は困ったように頭を指で掻いて見せたが、にこりと笑ってくれた。
「僕はちょっとそういうのは得意ではありませんが、松坂さんにいいアイデアがあるというなら自由にやってもらっても構いませんよ」
「いいんですか? じゃあ今度材料とかも探してやってみますね」
茜はその飾り付けのことを想像して、楽しくなってきた。自由にやってもいいとお墨付きをもらえたのだ。これは腕を振るうしかない。
早速翌日、材料を持って茜は黒猫堂古書店に出勤した。
茜の持ってきた材料を見て、神谷は首を傾げた。
「なんですか? これ」
神谷がそう言うのも仕方がない。茜が持ってきた材料は、色のついたセロファンに、段ボールの切れ端、木の枝や葉っぱ、なにかの木の実といったものだった。
「できるだけお金のかからない材料でやろうと思いまして。でも、意外とこんなのでもそれなりのものが作れちゃったりするんですよ」
神谷は目をぱちくりさせていたが、「それでは楽しみにしています」と言って外へと出かけていった。
茜は早速そのあとから作業に取りかかった。




