茜、陶器市に行く6
昼食を済ませ、茜たちは再び露店を回り始めた。茜たちが次に立ち寄った露店には、たくさんの動物の置物が並んでいた。兎や猫、象や馬や鳥の形をしたものなど、大小様々な置物が置いてあり、どれも可愛らしいものばかりだった。ここなら白い象の品物もあるかもしれないと立ち止まってみることにしたのだが、残念ながら白い象ではなく違う色の象の置物しか置かれていなかった。しかし、意外にも珠恵の様子に暗い影はなかった。
「これ可愛い! ちょっと自分用に欲しくなっちゃった」
珠恵は休憩を挟んで復活したのか、そんなことを言う余裕も出てきたようだ。それに、今まで皿や茶碗が中心の店ばかりを見てきたので、こうした置物も新鮮に見えるのかもしれない。茜もそれらの置物にとても惹かれていた。
「ホントだ。わたしも欲しいかも」
珠恵の持っているのは蛙の形の小さな置物で、茜はそれの猫バージョンのものを手に取っていた。
「わたしこういう小さい置物とか集めるの好きなんだー。今は特に蛙を集めてるの」
「へえ。そうなんだ」
珠恵にも意外な可愛い趣味があるんだなと思っていると、店員の女性が話しかけてきた。
「その小さいのは箸置きなんですよ。可愛いでしょう」
「え! これ箸置きなんだ。じゃあ、こっちの猫のやつも?」
「そうなんです。でも箸置きで使わなくても、置物として飾っていただいても楽しめると思いますよ」
「へえー。そう言われれば箸置きに見えてきた。置物だっていう先入観が見事に打ち崩されたわ」
珠恵がそうつぶやいた瞬間、茜は、はっとした。
「じゃあ、これください」
珠恵はそう言って、蛙の箸置きを二つ店員の女性に渡した。
「はい。お包みしますので、少々お待ち下さいね」
店員が蛙の箸置きを包んでいる間、茜は置物と思っていた箸置きの置かれてある場所をじっと見つめていた。
「ん? 茜、黙り込んじゃって、どうかした?」
珠恵の呼びかけに、茜は深く頷いてから言った。
「珠恵。もしかして、わたしたちなにか大きな間違いをしていたのかもしれない」
「間違い?」
「もしかしたらわたしたちは、その先入観に囚われていたのかも」
その閃きは、きっと間違ってはいない。茜は確信に近いものを感じていた。
きっとそうだ。だからいくら探しても見つからなかったんだ。
「先入観? どういうこと?」
「お待たせしました」
店員が珠恵に箸置きの入った袋を手渡す。珠恵が店員に代金を支払うのを見届けてすぐに、茜は珠恵の手を取った。
「あの人に訊けばなにかわかるかも!」
「え? なに? あの人って誰?」
茜はそれにはすぐには答えずに、まずはその人のいるところへと急ぎ足で向かっていった。




