茜、陶器市に行く2
そして次の日曜日がやってきた。燈月通り商店街にはいつもはない活気が取り戻され、辺りは多くの人々で賑わいを見せていた。露店も焼き物の店ばかりではなく、食べ物の屋台やボールすくいのようなお店も並んでいる。色とりどりの屋台のテントが建ち並び、目にも鮮やかだった。
お祭りだ。
そんな当たり前なことを思いながら、茜は露店の並ぶ通りを順繰りに見ていった。
この辺りは昔から窯元が多くあることから陶磁器産業が盛んで、市もそれを街の名物として大々的に謳っている。一時期不況の波でそうした地場産業も低迷が続いていたが、最近はまた少しずつ景気もよくなってきているようだ。昔からの伝統や地元の産業を護ろうとする街の人々の努力のおかげで、こうした祭りも存続しているのだろう。
昔から変わらない。ずっとそこにあるもの。そういうものに、人々は安心したりする。この祭りも、そうした変わらずあり続けるという人々の思いでできているのかもしれない。露店に並ぶ焼き物を眺めながら、茜はそんなことを思うのだった。
いろんな露店をぶらぶらと見て回っていると、横から誰かに声をかけられた。
「あれ? もしかして、茜?」
「え?」
茜はきょとんとしてそちらを振り向くと、茜の顔を見たその人物は途端にぱーっと表情を明るくした。
「やっぱり茜だー! すっごい久しぶりじゃん!」
茜はその人物の顔をよく見て、ようやくそれが誰かに気がついた。
「あ! 珠恵? 久しぶりー!」
森口珠恵。茜の高校時代の同級生である。卒業してから会うことも滅多になくなってしまったが、高校時代は仲のよかった友達だった。
「こんなところで会うなんて、すごい奇遇だねー。茜、元気にしてた?」
「うん。まあぼちぼちね」
懐かしい顔に出会えて、茜は嬉しかった。大人になった彼女は見違えるほど綺麗になっていて、声をかけられなければ気づかずに通り過ぎていたかもしれない。華やかなワンピースとジャケットで身を包み、髪はロングにして巻いてある。化粧も上手になって、本物の大人の女性になっていた。いつまでも幼い自分とは大違いだ。
「珠恵も陶器とか買いに来たの?」
「うん。まあそうなんだけど……」
と、珠恵は言い淀んだ。
「珠恵?」
「あのさー、変なこと言うけど、笑わないで聞いてくれる?」
珠恵がいきなりそんなことを言い出したので、茜は面食らった。なにを言うつもりなのだろう。そう思っていると、彼女はなにやら珍妙な顔つきになってこう言った。
「なんか、白い象さんのセットになった焼き物を探してるんだけど、そんなのどこに売ってるか知ってる?」
「へ? なにそれ」
「だよね。わけわかんないよね」
「白い象さん? なんかのキャラクター?」
「うん。たぶんそうだと思うんだけど」
「知らないなー。珠恵、そのキャラが好きなの?」
「違う違う。わたしが欲しいんじゃなくて、人に頼まれたものなの」
「そうなんだ。じゃあその人が変わってるのかな」
「うーん。そういうわけでもないんだけど」
と珠恵は困った顔をした。
「朝から結構探し回ってたんだけど、そんなのどこにもなくて。今日中に見つけないといけないんだよね」
なにやら事情がありそうだ。しかし、きっとそんな変わった品物はここにはないような気がする。
「でもその人は陶器市に行けばきっとあるはずだって言ってて。嘘をついたりするような人でもないから、きっとどこかのお店にはあると思うんだ」
「ふうん」
茜はあらためて露店の並ぶ通りを眺めた。この人のごった返す中で、そんなあるかどうかもよくわからないものを探すのはかなり骨が折れそうだ。
「ところで相談なんだけど、茜って今暇? てゆうか、暇だよね。絶対」
やばい。そういえば、珠恵はこういう子だった。
「探すの、手伝ってくれない?」




