表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫堂古書店物語  作者: 美汐
第二話 黒猫堂、万引きに遭う
15/58

黒猫堂、万引きに遭う11

 黒猫堂に戻ると、花屋の主人の前川が店の前に立っていた。


「前川さん。すみません。戻りました」


「おう。おかえり。さっきの走り、なかなかだったよ。そういえば了輔くん、昔はよく一等賞取ってきてたもんなー。まだまだ足はなまってなかったようだ」


 前川はわっはっはと笑った。しかし神谷はまた返す言葉に困った風情で、頭を掻いていた。どうやら前川が黒猫堂の留守を預かっていたらしい。


「で、この子は?」


 前川は少年のことを見つめた。どうやら前川は、神谷の追っていたのがこの少年だとはわかっていないようだった。当の少年は先程からずっと俯いたままで、帽子の鍔で顔を隠すようにしている。


「うちのお客人ですよ」


 神谷はそう言うと、店内に少年を引き連れて入っていった。


「で、万引き犯はどうしたの? 捕まえられたんだよね?」


 外に残された茜に前川がそう訊いてきた。茜は返答に一瞬詰まったが、神谷がああ言ったことを考えて、「さあ」とだけ答えておいた。

 店内に入ると、神谷と少年は奥のレジカウンターの前で立っていた。茜は扉を閉め、二人に近づいていく。


「約束を破ってしまいましたね」


 店内に響いたその声は、静かだった。怒っているわけではない。けれど、逆にそのほうが怖く感じられた。


「もうしないと、きみはその口で言ったはずです。それはこの店でなくとも同じ。未遂だからといって許されるわけではない。今度こそ、きみの罪は親御さんにばれてしまう」


 少年は店内に入っても俯いたままで、顔をあげようとしない。


「むしろ、きみはそれを望んで、再び万引きという行為を繰り返してしまったのではないですか? 今回逃げる途中で盗品を道に捨てたことにしても、特に高価でもない中古のコミックを盗んだことにしても、商品そのものが欲しかったというよりも、その行為をするということに意味があったように思います」


 茜ははっとした。確かにそうだ。少年の行為は悪質ではあるが、盗んだものへの執着はあまりないように思える。実際一度は盗んだはずのコミックは返しに来たし、野球の硬球はすでに店主の元に戻っている。


「きみは本当は誰に怒っているんでしょうか。誰に感情をぶつけたいと思っているんでしょうか?」


 少年の口から嗚咽のようなものが漏れた。神谷が野球帽の上から少年の頭に手を乗せると、それは大きなものに変わっていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ