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反撃

「おいおいなんだー? マグメルの奴等かー?」

 対象をプロジェクト傘下の他部隊に受け渡すために手配したコンテナ船のブリッジの中で大きな揺れを感じ、ポーン小隊の隊長ビリーは通信士を務めるモリス上等兵に質問する。

「いえ、周辺警備に当たらせていたポーンディーからの報告を聞く限り、超能力者ではなく銃などで武装した男達の集団だと」

「銃だとー? まさか、マフィアの類? て事は逆鱗の連中かもしれんなー」

 うーん面倒だー、と腕を組んで溜め息をつくビリー。

「損害状況はどうなっているー?」

「は、ポーンディーは三名負傷、ポーンイーはリーダーを含む二名が負傷、ポーンジーは連絡つかず、現在はポーンエフが迎撃に当たっているようです」

「んーまずいなー、ここでのドンパチは予定外だったなー」

「ディーとイーのリーダーからそれぞれ救援要請、機能する戦力が不足しているとの事」

「んー……困ったー、面倒だー」

 彼等ポーン小隊の主たる任務は、母国の政府が立ち上げた超能力研究を目的とするプロジェクトが求める突出した才を持つ超能力者の確保及び輸送である。

 この国で確認されたエリシアという少女の持つ、他に類を見ないとされる強力なサイコキネシスについての報告書はプロジェクト参加者の研究欲をそそり、最重要人物として確保を急ぐようポーン小隊に命令が下っていた。

 お偉い方が欲しくて仕方がない研究材料の少女をようやく捕まえる事が出来、後はアウロンから離れた別の地域に駐在する友軍の部隊に身柄を引き渡せばアウロンという異国の都市での任務は一先ず終了する筈だったが、最後の最後でハプニングが発生してしまい、ビリーは気分が良くないようだった。

「隊長、我々が援軍に向かいましょうか」

 そこへブリッジの防衛を任されて傍に控えていたポーンエーの班長が、ビリーに耳打ちするようにして、無機質な声で尋ねてきた。

「いやー、行かせるなら艦尾防衛させているシー班だなー。だが少し待てー、どうにも腑に落ちんなー」

「何がです」

「襲撃されるにしても、なんでこの船まで攻撃が及ぶところまで攻め込まれてるんだー? 敵襲の通信が入ったのとタイミングもほぼ同じで、ディー・イー・エフの初動が明らかに遅れている。ジーがあっという間に殲滅させられて、そこから侵入されたかー?」

 関係者以外は立ち入れない湾港の各所に班を配置させ、マグメルのような敵対勢力がエリシアを取り返しにきても即応出来るようにしていたのに、敵が来たという報告がエリシアの乗る船を敵に攻撃されたのと同時では、小隊を分散させて警戒させていた意味がない。

 ビリーには仮にも母国を離れ非合法な任務にあたる事を義務付けられた自分達の部下がそこまで間抜けとは思えず、すぐに違和感を覚えていたのだ。

「隊長、通信です。ポーンイーからの通信機なんですが……」

 例え仲間に死者が出たという報告さえ動揺せずに伝えてくる冷静沈着なモリス上等兵が珍しく歯切れ悪い言い方をしたので、ビリーはすぐさま立ち上がって彼のインカムを奪い応答に出る。

「こちらビリー、どうした?」

『……イギスは他に敵が来ないか見ておいて欲しいね……ん~? あぁ繋がった、あなたはこの欧米人の兵士のリーダーか誰かですかね? どうにも機械類は苦手でして、いつも手間取ってしまうな』

 耳に飛び込んできたのは部下の声による母国語ではなく、聞き覚えのないゆったりとした大人の男の声で発せられたこの国の言語であった。 

「……誰ですかねー、人のものを勝手に使うのは良くないデスヨー」

 ビリーはすぐに相手と言語を合わせ、慣れない喋り方で受け答えをする。

『んん~、自分はマルチリンガルなんですから合わせてくれなくてもいいんですが、まぁどうでもいいでしょう。あなたはこの港に潜んでいた物騒な連中の長ですかね?』

「さてどうでしょうネー、ただこの通信機を使っているという事は、その物騒な連中に何らかの危害を加えたと考えてもよろしいのデスネー?」

『んんん~、私は無駄が嫌いなので素直にそうだと答えさせてもらいます。その上で私はあなた方武装勢力に対して一つ通達させてもらいます』

 通信相手の男は話の内容から察するにこの港の近くにいるのだろうが、銃声が飛び交うこの異常地帯と化した湾港にいるにも関わらず落ち着き払っており、表社会の人間ではないというのが分かった。

『ん~、我々は逆鱗という名を冠する、このアウロンに身を置く団体でありましてね。アウロンに害を成すものを排斥し平穏をもたらすために日々奔走する自警団なんですよね』

「はっはっは、面白い言い方をしますナー。世間ではマフィアと呼ばれる犯罪組織を上位互換すればそんな表現になるんですカネー」

『……我々は法を無視した者の集まりです。我々を繋ぐのは血と信頼、目に見えず触れる事も出来ない、淡く脆い関係性が我々逆鱗を構成しているんですよね』

 なので、と言って一度言葉を切ってから、通信相手の男はこう告げる。

『ですので繋がった仲間の命が危険に脅かされる事を我々は許さない、脆い結束だからこそ、繋がりを強めるために我々は妥協と容赦を捨てている。なので今からあなたに伝えるのは要求でも命令でもなく、通達になりますね。聞かされるだけ聞いて変更は求められない、只の通達です』

「……」

『私は逆鱗のカポ・レジーネ、アウロン統括を承るワンと申します。その権限に於いて部下、いや仲間にこういった命令を出しました。我らがボスの愛娘の乗る車を襲撃し、彼女を負傷させた無礼かつ畜生な連中にお礼を返してあげろとね』

 長年軍人として働き、何度も表舞台に出ない汚れ仕事や戦闘行為に参加し生き残ってきたビリーにとって、国家規模でもない限り犯罪者などに怯える事はないと思っていた。マフィアも単に金儲けのために群れて犯罪を繰り返す下種の集まりとしか考えていなかった。

 だが今彼の耳に聞こえてきたマフィアの男の言葉には、心臓にナイフを突き立てるようなひたすらな冷酷さが潜んでいるように思えて、無意識に身震いしてしまった自分が情けなく感じた。

「はっはっはー、交渉ですらない赤の他人の言葉など、ボールパークでの野次よりも耳障りなので本来なら聞き流すのですがネー、自分達に火の粉がかかるのなら振り払わせてもらいますヨー。見知らぬ犯罪者の方々」

『んん~、払える程度の火ならば良いですがね』

 ワンと名乗った男は嘲笑を含んだ声で言葉を返すと、一方的に通信を切断した。

 ビリーは通信が切られると同時にインカムをモリス上等兵に返し、後方に控えていたポーンエー班の面々へと向き直ってから間髪入れずにこう告げる。

「ここの守備は良いから、お前達は船外で襲撃者を潰して来てくれー」

「了解しました。敵は何者なのですか?」

「うん? 別に大した相手じゃないさー。車のドアを壊された事にお冠らしくてなー、仕返しって奴だー」

「という事は、昼間対象を確保するべく襲撃した、逆鱗なるマフィアですか?」

 エー班の班長の言葉にビリーは頷く代わりに、隊長としての命令を再度言い放つ。

「隠密が大前提の我々が表社会で騒ぎを落とすと、こうやって噛みついてくる『一般市民』も出てきてしまう。この機会に自分達がどれだけ『普通ではない』人間かという事を自覚し、その上で仕事に徹してくれたまえー。相手は超能力も何も使えない、言う事だけは大袈裟なゴロツキだー。対象に関わってしまった彼等の不運に慈悲を与えてやるようにー」

 さぁ行った行った、とビリーが手を叩くと、ポーンエー班の面々は無言のまま命令された通りに襲撃者の迎撃に向かうべくブリッジを後にする。

「……小市民の血を流すのは、個人的には避けたいんだがねー」

 少数の通信兵のみが残った中、ビリーは持前のへらへらした笑みを崩さないまま、一人呟く。

 別に見知らぬ野郎に煽られて機嫌を損ねた訳ではない、ポーン小隊は感情の介在しない非道な任務をこなすための存在、個人的な感情を持ち込む訳がない。

 ただ、自分達が非正規な戦闘を行うと知っていながら真正面から喧嘩を吹っかけられた事、そしてその相手が同じ特殊部隊などではなく法を無視して地上げや脅しなどで利益を貪るマフィアという意地汚い連中が集まった犯罪組織だという事にやや面を食らい、嘲りの念を抱いたのだ。

(逆鱗、ねー。本来ならそんな自警団気取りの輩に撃っていい弾なんて、軍から受け取ってはいないんだけどなー)

 エリシアという超能力者を巡って相まみえる事となった異国の特殊部隊とマフィア、その不可思議な組み合わせの勢力による騒動の渦中に自分が立っているという事実がおかしくて、ビリーは部下にバレないように苦笑するのであった。


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