横入り
「あ! まさか撥ねたのですか!」
「馬鹿な事言わないでくださいよぉ、寸前でドリフトしてビビらせただけですからぁ」
運転手タテワキの言葉を聞いても安心出来なかったマルグリテは、窓の外で倒れたばかりの褐色肌の少女が特に怪我を負っている様子もなくジャンプするように起き上がるのを見てようやく胸を撫で下ろした。
「早くお乗りになって!」
そして後部座席に乗っていた彼女はドアを開けて上半身を車外に出しながら、車のすぐ傍で怯えるように尻餅をついている亜麻色の長髪の少女にそう声をかけた。
「えっ……」
「追われているのでしょう? ならば急いで!」
初めはきょとんとしていた少女も、追手らしき他の男達が慌てて彼女に近寄ろうとしてきているのに気付いて、なし崩し的にスポーツカーの後部座席に乗り込んだ。
「タテワキ、出してください!」
マルグリテがドアを閉めながら叫ぶと、「あいよ」と軽く返事をして運転手タテワキは強くアクセルを踏み込みタイヤを吹かせ、バックで急発進して駐車場を飛び出し、方向転換してから公道を走り抜けていく。
「あ、あの! あなた達は……?」
後部座席に前のめりになるような体勢で乗り込んでいた亜麻色の髪の少女は、数回駐車場の方へ視線を向けてから隣に座る金髪の少女マルグリテと運転手タテワキに恐る恐る尋ねる。
「ふふふ、急かされたとはいえ、素性の知れない者の車に乗り込むとは不用心ですよ。あなた」
「えっ……」
「それだけあなたが追いつめられていたという事なのでしょう、ワタクシもそうだと直感してあの場に飛び込むようにタテワキに指示を出したのですから」
「簡単に言ってくれますねぇ」
マルグリテとタテワキは座席を挟んで軽く笑いあい、亜麻色の髪の少女の顔がさらに困惑に包まれる。
「あぁ、申し訳ありません。あなたが何者かに追いかけられているのを偶然見かけましたの、助けて差し上げようと余計なおせっかいをさせていただいたつもりだったのですが、ご迷惑でしたでしょうか?」
「い、いえ! そんな事は……」
そこまで言って声を窄め、何か心残りでもあるように再度後ろの窓から駐車場があった方を眺める亜麻色の髪の少女。
そんな彼女を少し眺めてから、マルグリテは口元を若干吊り上げながら、
「あなたが追われていた理由、当ててみてもよろしいでしょうか?」
「え……どういう事ですか?」
「ワタクシ、目撃してしまったのです。あなたの周りで、少々不可思議な現象が発生したのを」
マルグリテの言葉に最初は意味が分からないといった様子の少女だったが、数秒置いてから意味を理解したようにハッとして、みるみる顔を青ざめさせていく。
駅前での騒ぎの時、マルグリテの乗るスポーツカーは交差点へと繋がる道を走っていた、騒ぎのせいで渋滞が発生して車が止まり、興味本位で窓から騒ぎの起きている方を見た時、偶然彼女は目撃してしまったのだ。
亜麻色の髪の少女と彼女の連れらしき青年が敵対していた褐色の少女の持つ機関銃が、まるで見えない圧力に押し潰されるようにひとりでに捻じ曲がってしまったのを。
「あの現象、まるであなたの叫びに呼応するように発生していました。直感による推論に過ぎませんが、見当違いでしょうか」
「それはっ……んっ!」
言葉を詰まらせ、バツが悪いようなリアクションを取る亜麻色の髪の少女。
その反応を見てマルグリテはいやらしい笑みをじわじわと表に露出させて、こう続けた。
「よろしければ、何が起こったのかお教えになってくださいませんか? ワタクシは興味を持ったものにはとことん関わっていく人間なものですので」