21 最南の大防衛線
◆◆◆
《ナーガル砦》――アディルファナ王国中央部に程近いこの砦は、アディルファナ王国軍によるフェイスレス防衛の要である。
その外見は石積みの高い防壁に囲まれた堅牢な造りであり、その内側には外からでも見上げる事のできる二本の監視塔が聳えている。
だが、この砦の外見で最も特徴的なモノは、堅牢な造りの防壁でも、見上げる程に高い二本の塔でもない。
フェイスレスの進行を阻む為、砦を中心に東西に伸びる“長大な防壁”こそ、この砦の最も特徴的な建造物である。
両端が東西の山の麓にまで延びるこの長大な防壁――《ナーガル大防壁》と呼ばれるこの防壁は完成からの十年間、この国の南北を分断し国内における人とフェイスレスの住処を隔てきた。
主に丸太と石材を組み合わせて造られたこの防壁は、成人男性の身長の凡そ四倍の高さがあり、それより更に背の高い櫓が防壁沿いに等間隔で設置されている。
だが、通常の国防を目的としているのであれば、これ程長い防衛線を築く必要はない。
そもそも戦略上の砦攻めの利点とは、相手の砦を奪い、それを自軍のモノとする事にある。そうして奪った砦を足がかりに次の砦の攻略へと乗り出すのだ。
敵の狙いはあくまで砦そのモノ。下手に防衛する範囲を広げてしまっては、それだけ中央本体の護りが手薄となる。
国と国とを隔てる国境線ならまだしも、国内に構築する防衛線としては、このナーガル大防壁の規模は余りにも無駄が多い。
だが、攻めて来る相手が人間で編成された軍隊ではなく、フェイスレスの集団となれば話は違う。
何故なら、フェイスレスは“疲れ”というモノを知らない。睡眠を取る事なく、食事を取る事もなく、一度向う先を定めたなら休む事なく邁進する。
故にフェイスレスは人間にとって要所である砦には目もくれず、数日間、数週間、時には数ヶ月という距離を休まず踏破し、直接本丸へと攻め込む事が可能である。
フェイスレスの進行とは、言うなれば海岸に打ち寄せる“波”のようなモノ。
波を食い止める為に海岸に一本の杭を立てた処で意味はない。波全体の進行を抑えるには、海岸線沿い全域に隙間なく杭を打ち込む必要がある。
それこそがフェイスレスの襲撃を受けた各国が最も頭を悩ませた、フェイスレス特有の“戦略”でり、その為襲撃を受けた各国では主に二つの対策が講じられた。
“国を分断する程の長大な防壁を築く”か、又は人が暮らし密集する町や村など“限られた範囲を防壁で覆ってしまう”かだ。
主流は後者の“防壁で一定範囲を覆う”方法だが、ナーガル砦のように“長大な防壁を築く”国も存在する。
無論この“防壁”とは、木材や石材等といった“物理的な障壁”に留まらない。
物理的な攻撃や防御の殆どを意に返さないフェイスレスの進行を阻むには、教会より齎された聖紋による“間接的な障壁”が必要である。
故に、フェイスレスに対抗する防壁には“物理的な障壁”と共に、必ず聖紋による“間接的な障壁”が備え付けられている。
そうしてこの二つの障壁は、発案当初より数多くのフェイスレスの進行を阻んできた。その実績は確かなモノで、各国が信頼を置くに十分な成果を築き上げた。
だからこそフェイスレスの被害に苦しむ国々では、この防衛法が常套手段として利用され続けている。
一度築き上げてしまえば、フェイスレスを寄せ付けない堅硬にして聖なる壁。しかし“例外”とは、常に人の予期しない時と場所、そして――
“最悪”な形で訪れるモノである……。
◆
ナーガル大防壁の全長は、その端から端までの移動に軍用車両で凡そ八時間を要する長さを誇っている。
それ程広い防衛線の維持と警備には、当然中央の砦だけでなく、兵の詰める“拠点”を各所に複数設置しなければならない。
その為、防壁沿いに等間隔で建てられた櫓の足元には、兵士達の為の“駐屯所”が整備されている。
その内の一つ――中央のナーガル砦と防壁の東端、その丁度中間に位置する《東―26駐屯所》に現在、壁の“南方”より近付いてくる複数の“影”の姿があった。
時刻は未だ夜明け前。東方の空が朝日に備え紫色に染まり始めた頃、その影達は現れた。
夜間警備の為の篝火や常夜灯は既に消され、周囲には未だ夜の帳が薄く滞留している。
それでもその影達の姿は、夜明け前の薄闇の中でも映える漆黒として、まるで空間に開いた穴のように浮かび上がっていた。
“フェイスレス”――全人類に一度は滅びを覚悟させた人間の天敵が、現在自らの進行を阻む憎き壁へと向け、憎悪の宿る紅き瞳を輝かせながら迫り来る。
影の数は六体。その輪郭は明瞭とせず、まるで霞か煙のような人型をしたソレは、一見すると二本の足を使って大地を歩いているように見える。
しかし夜明け前、鳥すら鳴き出す前の静寂が支配するこの時間帯ですら、ソレ等の足音が響く事はない。
その足取りは決して速いとは言えず、揺らめくような心許ないものだが、影たちは確実に防壁へと向け進行していた。
“実体が無い”と言われるフェイスレスに、物理的な防壁は何ら意味を成さない。
あの影がこのまま歩を進めれば、ヤツ等は防壁を破壊する事も乗り越える事もせず、容易く壁の向こう側へと通り抜け、その先にいる人の生命を躊躇せずに刈り取るだろう。
だが、その様子をただ指を咥えて静観するほど、今の人類は無力ではない。惨めな敗走を余儀なくされ、悔恨の涙と共に握った拳から血を流してた頃とは違うのだ。
例え鋼の刃で切り裂けなくとも、例え鉄の盾で阻めずとも、今の人類にはフェイスレスに対抗し、その喉元に突き立てる事のできる“牙”がある。
「十字弓兵隊っ! 番えっ!」
フェイスレスの集団が防壁に一定の距離にまで近付いたのを見計らい、防壁の上に組まれた足場の上より、夜明け前の静謐な空気を打ち破る号令が轟く。
足場の上にいるのは、厚い防寒使用の軍服に身を包んだ、屈強なるアディルファナ王国軍の十字弓兵隊。
横一列にズラリと立ち並ぶ彼らの手には、一様に大型の十字弓が握られている。
「構えっ!」
たった一人の号令に、弓兵達は矢の番え終わった十字弓を地面と水平に構える。
余程訓練されているのだろう。統率の取れたその動きにブレはなく、兵士達は全体がまるで一つの生物の如く機敏に動いた。
「狙えっ!」
十字弓へと番えられた矢の先端が、一斉に眼前のフェイスレスへと向けられる。
目標までの距離は凡そ五十メートル。フェイスレスの群れへと狙いを定めると、弓兵達は十字弓のグリップ側面にあるトリガーに親指を掛け、ソレを下へと引き落とす。
すると、番えられた矢の切っ先である“矢尻”の部分に、徐々に蒼いアストラルの光が宿り始めた。
フェイスレスから国を護る国軍の扱う武具には、皆一様に聖紋が用いられている。
グリップ側面のトリガーを引き落とす事により、十字弓本体に組み込まれた“アストラル鉱石”から、矢尻に描き込まれた聖紋へとアストラルが供給される仕組みとなっているのだ。
要するに彼ら十字弓兵隊の使用する十字弓もまた、れっきとした“聖紋機”の一種であった。
アストラルの供給を受け、矢尻に描かれた聖紋が徐々にその輝きを増して行く。
そうしてアストラルが聖紋へ十分に蓄えられると、兵の人差し指が矢を射出する引き金へと掛けられた。
「焦るな。よく狙え」
数の上、地理の上、武器の上、そして戦略の上でも彼ら兵士側が有利。だが弓を構え、狙いを定める兵士達の瞳に油断はない。
その姿は霞か煙のように朧気で、その歩みに力がなくとも、彼等はあの影達が自分達にとって如何に脅威であるかを知っている。口伝を通し、書物を通し、歴史を通して学んでいる。
奴等は蛇と変わらない。小さく、力なく、進みは遅く、しかし一度噛み付けば、即殺確実の猛毒が体内へと打ち込まれるのだ。
この国は未だ半身がその猛毒に侵されている。そして彼らの立つ防壁の後ろには、彼らが真に護るべき無辜の民が――家族が居る。
ならば之より先の未来、この国から毒を抜く事はあっても、これ以上の毒を広げる事は一滴たりとも有ってはならない。
彼ら精強なるアディルファナ王国軍がこの防壁を守護する限り、あの影たちがこの防壁より先に進む事はないのだ。
「放てっ!」
瞬間、トリガーに掛けられた兵士達の指が引かれ、先端にアストラルの加護を宿した矢が一斉に宙へと放たれる。
ヒュッという短い風切りを鳴らし、星の消えた空に軌跡を描く十数筋の蒼い輝きが、緩い弧を描きながらフェイスレスの集団へと降り注いだ。
「――――」
六つの影へと降り注いだ十本以上の矢は、そのどれもが余さず影の身体を射抜き、その身に矢に因るモノとは思えない大穴を穿った。
その大穴により原型を崩されたフェイスレスは、断末魔の叫びを上げる事も、その身を大地に横たえる間もなく、まるで夜明け前の薄闇へ溶けるかのように消えて行く。
ただ奴等の紅く輝く瞳だけは、最後に消えるその瞬間まで、燃える憎悪を宿し続けていた。
「敵、残存なし! 殲滅確認!」
こうして、夜明け前に始まったフェイスレスとの戦闘は、今回も人類側の勝利で幕を閉じた。
呆気ない勝利に思える――だが、この“勝利”へと辿り着く為に、人類は数多くの同胞の死体を積み上げてきた。
これ以上、その死体を増やす訳にはいかない。如何に容易い勝利であったとしても、最後まで慢心も油断もあっては成らない。
「……よし、戦闘終了!」
途端、それまで張り詰めていた場の空気が緩んだ。
兵士達の口から白く大きな息が漏れ、冬の早朝に凍った空気が束の間の温かみを帯びる。
「矢の回収は陽が昇ってからとする。今回の係りは把握しているな?」
「「「はっ」」」
現在、領土の半分を失っているアディルファナ王国は、深刻な資源不足に悩まされている。その為、今しがた使用した矢の一本も無駄には出来ない。
シャフト部分は木製でまだ変えが利くが、矢尻は貴重な鉄で出来ており、その表面には緻密な聖紋が描かれている。
金型から打ち出される量産品とはいえ、コレが無ければフェイスレスに対抗する事は不可能といって良い。矢一本の損失が、後に大きな戦力の低下に繋がりかねないのである。
「各自、通常配置に戻れ……“余り浮かれるなよ”」
「「「了解っ」」」
そうして武器を収めた兵士達は、各々自らに与えられた元の配置へと戻って行く。
その場に残ったのは、最初からその場での見張りを任されていた二人の兵士のみとなった。
「……なぁおい」
「ん? 何だ」
基本、見張り中の私語は厳禁である。
なので、それまで辺りに居た他の兵士が散った頃合いを見計らい、残った二人組みの一人がもう一人の相方に声を掛けた。
「さっき隊長が言ってたよな、“余り浮かれるな”ってよ。アレってどういう意味なんだ? いつもはそんな事言わねーのに」
「何だお前、“例の話”聞いてないのか?」
「何だよソレ?」
「ほらアレだよ。最近話題になってる《肉と野菜のミルク煮込み》ってヤツだよ」
「……ああ、アレか」
その名前の料理には聞き覚えがあった。
というより、このナーガル大防壁に配備されている兵士の中で、その名前を知らない者は最近入ってきた新米兵士くらいなモノである。
今から一、二年ほど前、ここより北のレディウスという宿場町で、とある変わった料理が客に出されるようになった――それが、《肉と野菜のミルク煮込み》である。
最初その噂を聞いた頃は、肉と野菜をミルクで煮た料理なんてどうせ美味くはないだろうと、兵士の大部分がタカを括っていた。
しかし時が経つにつれ、その料理に対する評価は兵士達の間で真っ二つに割れる事になる。
その内容は極端で、片方は『矢張り不味かった』と主張し、もう片方は『予想より遥かに美味かった』と語るのだ。
その口論は次第に熱を帯び、危うく乱闘騒ぎにまで発展しかけた話題として、一時は砦内で戒厳令までが敷かれる自体となった程である。
今は多少落ち着きを取り戻しているが、その口論の決着は今だ着いてはおらず、今も水面下で密かな論議が繰り広げられている。
「で、その噂の料理がどうかしたのか?」
「それが、どうやら上層部が気を利かせたらしくてな。“ホンモノ”を作れる料理人を呼んで、実際に砦で作らせる事にしたらしい」
「はぁ!? 砦ってここじゃねーよな。北側でか?」
「ああ。しかもザルバに居る連中だけじゃなく、ナーガルにも食わせてくれるらしいぞ」
「お、おいおいマジかよ!」
それを聞いた途端、兵士の態度が色めき立つ。
件の料理の話題を知っている兵士の中で、口論の審議を確かめようとした者は少なくない。かく言うこの二人もまた、それを確かめようとした者達の一人である。
だが結果から言ってしまえば、彼等が見付ける事のできた料理はその全てが“ハズレ”であった。
多少は美味いと感じる店はあっても、あくまで“多少”止まり。一部の人間が言うような、“絶品”と呼べる程のモノではなかったのだ。
事の真相を探ろうと幾つかの店を回ってみても、どこも代わり栄えしない味ばかり。
食べた店の店員に一番美味いミルク煮込みの店を聞いても、皆『ウチが一番だ』と言い。一番最初に作った店を聞いても、皆『ウチが一番だ』と言う。
前者は料理に対するプライドとしてまだ納得出来るが、後者の答えには確実に偽りが混ざっている。
そこで彼等は、次にその絶品のミルク煮込みを“食べた側”に話を聞いてみる事にした。
だが、どうもその大半の者は噂の料理を食べたと“思い込んでいる”だけらしく、紹介された店で出された料理も絶品と呼ぶには程遠い代物であった。
しかも聞いた話の中には、その料理を作っている店には『黒髪の小鬼が居る』などと言った、あからさまな嘘まで含まれている始末。
結局人伝ではマトモな情報は得られないと判断した彼等は、週一に与えられる休暇を利用し、今も自分達の足で“本物の店”を探し続けている。
「本当だって。この前アルザックが隊長と副隊長の会話をたまたま聞いたらしい。多分そのうち隊長から発表があるだろうけど、隊の中じゃ二、三日前から噂になってるぞ」
「そーだったのか……でも、よく上層部がそんなコト許したな」
基本、軍内部での生活は節制節約が常である。
国内で最も多くの国費が注がれている組織だからこそ、無駄な浪費があってはならないのだ。
「まぁ危うく乱闘騒ぎにまでなる話題だったからな。仲間内にある火種は早めに消しておきたいんだろ。あとはまぁ、俺たち兵士への労い兼ガス抜きってトコだろうな」
「だけどよ、仮にそうだとしてもその本物、“本当に”本物なんだろうな?」
言いつつ兵士は怪訝そうに眉根を寄せる。
「さて、それは食ってみるまで判らないな。だがここまで大掛かりな事をするんだ。これで“ニセモノでした”じゃあ上層部の面子が立たないだろう」
「そいつもそうか。んー、素直に期待して待つか、それとも最後まで疑って掛かるか……」
通常なら、人は迷いながらも後者を選択するモノだ。過度な期待を待たなければ、結果が悲惨なモノでも深い傷を負わずに済む。
しかし、先ほど兵士の相方が言ったように軍の上層部が絡んでいるとなれば、否が応にも期待が高まるというもの。
それにこの国を護る彼等兵士にとって、“美味い食事”とはそれだけでとても大きな意味を持つ。
この国の資源不足は、森林資源や鉱物資源に留まらず、国民の食する食糧にも及んでいる。
彼等のいるナーガル大長壁が完成してからの十年間、国内における食糧不足は徐々に改善の兆しを見せ始めてはいるものの、今だ国民全体に行き渡る程ではない。
領土の半分を取り戻したとはいえ、寒冷地であるこの国の作物は育ち難く、働き手である若者の多くは国軍へと入隊してしまうからだ。
幾ら教会による聖紋の加護があろうと、今のような状況が続いていては、あと十年経とうと食糧の十分な確保は難しいだろう。
それでも彼等王国軍には、国中から率先して多くの食糧が提供されている。
彼等が居なければ、王国領土は再び敵の脅威に晒されてしまうのだ。正当な処置といえるだろう。
しかし、その食糧の多くは既に長期の保存が効くよう加工された物であり、とても“味わい深い”とは言い難い。
更に彼等の食事は一日二回と決まっており、時間も量も規則によって厳しく定められている。
コレには兵の不満も多少は募るというモノだが、それでも直前に熱を加えた調理が行われる分まだ救いはある。
最悪なのは、緊急の召集が連続して掛かった場合など、調理すらされずに食材を食す羽目になる事だ。
既に加工されている為そのまま食しても問題はないのだが、ただでさえ極に近い寒冷地で暖かい物が食せないのは、兵士達にとって大きなストレスとなる。
食糧そのものには困っていなくとも、ある意味町の人間より質素な食生活を送っている兵士達にとって、茹でた芋に一欠片のバターすらご馳走である。
そのため兵士達は週一の休みを利用し、車両で数時間は掛かる町へと繰り出しては、そこで好きなだけの酒や食事を楽しむのだ。
新鮮なサラダに長時間煮込まれた肉のスープ。焼き上がったばかりのベテネ。ふっくら焼かれた魚の干物。
冷たいまま食せばギトギトの油と燻煙の匂いがキツイだけの大きな腸詰も、しっかり熱を通して調理をすれば、内側の油は溶け出してジューシーな肉汁に変化する。
それをペーストにした小魚の塩漬けにつけて噛り付き、それを温めた果実酒で喉の奥に流し込めば、その日一日の疲れも一瞬で吹き飛ぶ。
だからこそ、件の絶品と称される《肉と野菜のミルク煮込み》が砦で口論された際、たかが料理の話題で乱闘にまで発展しかけたのだ。
彼等兵士達にとって町での“美味い”食事とは、自分達のモチベーションを保つ為になくてはならない物なのであった。
「それでいつなんだ? 俺たちがソイツを食えるのは」
「確か、今日の昼前にはザルバ砦に到着するらしい」
「今日っ!?」
「ま、俺たちの隊が《肉と野菜のミルク煮込み》にあり付けるのは、次の配置換えの時になるだろうけどな」
「な、何だよ。無駄に期待したじゃねーか」
「そりゃお前、上と下の砦合わせて八千人はいるんだ。流石に一日で全員に食わせるのは無理だろ」
「そりゃそうか。確か三日後だったよな、俺たちの次の配置換え」
「ああ」
「そうかー、三日後かー」
兵士は期待なのか不満なのか、微妙な顔つきで白い息を吐き出した。
ナーガル砦、並びにナーガル大防壁では、週一で防衛部隊の定期的な配置換えが行われる。
その際、配置換えをする部隊は一度北にあるザルバ砦へと召集され、週一の休暇が与えられた後、次の防衛箇所へと再配置される事になる。
よって彼等が《肉と野菜のミルク煮込み》にあり付けるのは、週一の休暇を取る前日、ザルバ砦に召集された初日の事になるだろう。
「あーくそ、考えてたら腹減ってきた。おい話題変えようぜ」
「聞いてきたのはお前の方だろ。というか、いい加減黙らないと隊長にドヤされるぞ」
「そう硬いこと言うなよ。こうして真面目に見張りはしてんだから」
「これだけ私語交わしておいて真面目はないだろ」
「そうだ、例の“新型巨兵”の件は知ってるか? 確かアレも今日だぜ。試作機がザルバに来るの」
「……ああ、例のお偉いさんの“道楽”か」
すると、相方はまるで吐き捨てるようにそう言い放ち、顔つきを憮然としたモノに変化させた。
「相変わらず誰も期待なんかしてないよ。唯でさえ資金も資源もカツカツだってのに、今更新型の開発なんかしてどうするんだか……」
現在この国では国軍とは違った独立部隊主導の下、新型巨兵の開発が薦められている。
だがこの新型巨兵の開発には、軍上層部でも懐疑的な意見が少なくない。
唯でさえこの国は深刻な資源不足、資金不足、人手不足、食糧不足の四重苦を抱えている。
このような状況下に資金も期間も掛かる新型巨兵の開発などが、諸手を挙げて受け入れられる筈がない。
しかもその新型巨兵は、従来の物よりだいぶ大型化されているらしく、一機辺りに掛かる費用も従来の物の三倍はするというのだ。
現状を考えるのならそんな物を作るより、国軍にその分の予算を回し、新たに三機の巨兵を配置した方が良いというのが主な反対意見である。
「しかもその独立部隊ってのが、国のお偉いさんが道楽で作った極小組織って話じゃないか」
更にそんな極小組織でありながら、その部隊は新型の開発にたった一、二年の期間しか掛けていないという。
現在各国で正式配備されている聖紋巨兵が、果たしてどれ程の歳月を掛けて造り上げられたモノなのか。
かの天才錬金術士“ジオ=オルガノ”ですら、それまでの機兵開発の下積みが有った上で、五年以上の歳月を掛け最初の巨兵を造り上げたのだ。
だというのにこの独立部隊は、たった二年程度の期間で新型の巨兵一体を開発したという。これではお遊びや道楽と取られても仕方がない。
お陰で新型巨兵に対する兵士達の前評判は、その時点で既に地に落ちている。
歩く事はおろか立つ事すらできないだろうと、兵士達の間では一欠けらの期待も込められていないのが現状であった。
「大体、巨兵をこれ以上大きくしてどうするんだ? 今は兎に角数を揃えるのが先決だろうに。ったく、これだから現場を知らないお偉いさんってのは」
「……じゃあよ、こんな噂は知ってるか?」
予想以上に熱を帯び始めてしまった相方を尻目に、兵士は以前小耳に挟んだ一つの噂を投げかけた。
「その独立部隊なんだが、支援者の一人にあの“ノウマン様”の名前があるって話だぜ」
「ノウマンって……あの“ラドック=ノウマン侯爵”か!? フェイスレス反攻作戦の六英雄の一人!」
すると、今度は相方の方が驚きに目を剥いた。
「ああ。確か軍を退役してからは、爵位を捨ててレディウスで教会の神父をしてるって話だが」
「そいつは俺も知ってる。有名な話だからな。というかその噂本当か? 眉唾もんだぞ」
「さぁな。でも、それなら色々と納得できねーか? そんな極小組織が国軍の反対を押し切って、新型の開発なんか出来たのか」
“フェイスレス反攻作戦の六英雄”といえば、一度は奪われたこの国の領土をフェイスレスから奪還した六人の立役者の総称である。
長い年月を掛け奪還できたのは未だ半分の領土に留まるが、彼等の活躍がなければ、恐らくその半分も領土を取り戻す事はできなかったであろう。
このナーガル砦と大防壁があるのも、全ては過去の彼等の功績があればこそであった。
故に現役を退いた今となっても、彼等の発言には未だ大きな影響力が秘められている。
「……有り得ない話じゃない。でも、それだと逆におかしくないか? ノウマン様ほどのお方なら、新型の開発なんて馬鹿げた計画に手を貸す筈がないだろ」
「さぁ? 俺にはお偉方の考えなんて分かんねーよ。新型巨兵を造るって発想も、それに文句を付けるのもな」
「おいおい、お前まで何言ってるんだよ。そんなの現場に居る俺たちには一目瞭然じゃないか」
我関せずといった様子の相方に、兵士は呆れを多分に含んだ口調で諭す。
「よく考えて見ろよ。俺たちがこの防壁を護るようになって、もう十年は経つんだぞ」
「……いや、俺たちがナーガル砦に配属されたのってまだ三年前だろ」
「そういう意味じゃない、軍全体の話だ。十年余り護り続けてきて一匹のフェイスレスも通した事はない。それは確かに凄い事だが、以来防衛線がまったく前進していないのも事実なんだ……理由は解るよな?」
「バカにすんなよ、俺だって一応軍学校は出てんだ。ようはアレだろ、人手不足が原因だろ」
「……まぁ、大雑把な言い方をするとそうなるな」
相方の解答に間違いはないが、正確であるとも言い難い。
現在、王国軍は領土奪還の為の侵攻を行う事はせず、防衛線の維持にのみ注力している。
それには幾つか理由が存在するのだが、このナーガル大防壁の存在自体も、その要因の一つとなっていた。
防衛線を押し上げには、その内のどこか一箇所のみを押し上げるのではなく、ある程度の範囲全体を一度に動かす必要がある。
一箇所のみを突出させた場合、その部分が敵による各個撃破を受ける危険性があるからだ。
そしてソレは、防衛線の範囲が広ければ広いほど、長ければ長いほどに困難なモノとなる。
時間が掛かり、人手が掛かり、そして何より費用が掛かる。あらゆる物の不足している今の王国では、ソレだけの余裕が絶望的なまでに足りていない。
それ故このナーガル大防壁は、フェイスレス進行を阻む強固な障壁であると同時に、不進不退の“動かぬ”防衛線と化していた。
「でもそれならよ、今更新型が一機増えた処で何も変わらないんじゃねーか?」
「だから、何も変わらないならそもそも新型を造る必要はないだろ。確かに現状維持だけじゃ領土奪還なんて無理だろうさ。でも、お前だって最近のフェイスレスの“異変”には気が付いているだろ?」
「“異変”って……最近フェイスレスの襲撃が“減ってきた”事か?」
「それだよ!」
「お、おお……」
「ここ一ヶ月の間、フェイスレスの襲撃回数や個体数が目に見えて減ってきてる。俺たちの居る場所だけじゃない、この防衛線全域でだ」
彼の言う通り、ナーガル大防壁におけるフェイスレスの襲撃回数は、この一ヶ月の間に大きく減少していた。
以前であれば日に平均五回は襲撃があり、一度に攻めてくるフェイスレスの数も五十体前後に及んでいた。
しかし最近では、先ほど発生した戦闘のようにフェイスレスの数は五体前後に留まり、襲撃の回数も少ない日で一度、日によっては全く無い日すらある。
人類とフェイスレスとの戦いの歴史で、この様な事態が観測された事は未だ嘗てない事であった。
この異常事態を受け軍上層部の間では、この現象の原因をフェイスレスの“発生数の低下”によるモノではないかとの見方を濃くしている。
フェイスレスがどの様に数を増やしているのかは、未だ不明な部分が多い。しかし、もしその見解が真実であるとするのなら――
「これ以上の好機はない。この防壁が完成してからの十年間、この場に留まってフェイスレスを倒し続けてきた日々が遂に報われる。漸く、次の領土奪還作戦を実行に移せるかもしれない」
フェイスレスに奪われた領土の奪還は、この王国の国民全ての悲願である。
やがて来るであろうその日を願い、多くの若者は軍へと入隊し、この防衛線を命懸けで維持し続けてきた。
そしてこの防衛線より南方へ僅か数キロの地点には、彼等が目指してきたこの国本来の首都――《王都ウトラトス》が存在する。
目指すべき地を目前に、後一歩で手の届かぬ歯痒さを、彼等は十年以上もの間噛み潰してきた。
そうしてその十年の間には、悲願を成せずして命を落とした者達もいる。
いや、それより以前からこの国では、多くの者達がフェイスレスの犠牲となってきた。
千や万の数では利かない。このナーガル砦が完成するまでに、数多くの者が命を落とし、完成してからも少なくない命が散って行った。
それ故今回のフェイスレスの異変は、その多くの犠牲者に報いる事のできる、千載一遇の好期であるのかもしれないのだ。
今こそこの国の人間は一丸となってフェイスレスに挑み、この国の首都と領土の奪還という悲願を叶えなければならない。
「だって言うのに――」
だが今のこの国は、軍以外にも幾つかの独立した組織を作り、そのそれぞれに唯でさえ少ない国費を割り振っている。
しかもその内の一つは、役に立つかどうかも判らない新型巨兵の開発をしているというのだ。
「そんなの、国民やこの国を護ってきた国軍に対する裏切りだと想わないか?」
そこで彼は、見張の為に向けていた視線をそれまでとは反対側――防壁の北側へと向けた。
そこには彼等が滞在する駐屯所が整備されており、その一角には計三機の聖紋巨兵が、いつでも起動できるよう膝を付いた状態で待機している。
先程の戦闘では出番がなかったが、必要とあらば操士が即座に起動させ、誰よりも前に出てフェイスレスの進行を食い止めるだろう。
このナーガル大防壁は、そうして長い間フェイスレスからこの国を護り、多くの犠牲と共に確かな成果を築き上げてきた。
つまり新型巨兵の開発とは、そういった現在の王国軍の在り方に、真っ向から疑問を投げかける行為とも受け取れるのだ。
「……まぁお前の言う事も分からなくはねーよ。でもよ、正規の組織と認められてる以上、教会もソレを許したって事だろ? そんなら俺たちがココで文句言ってても仕方ねーじゃねーか」
「それは……そうだが」
思いがけない相方の正論に兵士は若干言葉を濁した。
資源の不足しているこの国では、生活の大半に聖紋が利用されている。そして聖紋の使用には、基本的に教会の許可が必要となる。
それに伴い新たに組織などを立ち上げる際には、教会への報告は必要不可欠。
要するに組織の立ち上げが正式に認められたという事は、教会からの正式な許可が下りたという事実を示している。
「それに、所詮は両方ともまだ噂の類だ。例の料理だって食ってみたら“ハズレ”かもしれんし、その新型だって予想に反して“アタリ”かもしれん」
「……まぁ、な」
口では肯定の色を見せつつ、しかし相方の表情と口調は未だ納得はしていなかった。
彼等兵士は長年この防衛線を命懸けで護り、その為に自分や仲間達がどれだけの苦労を重ねて来たのかを、最も実感できる現場で体感してきた。
そして、その度に考えてきた――『もっと自分達に力があれば』と、『もっと多くの兵、もっと多くの武器があれば』と。
仲間達がフェイスレスの犠牲になる度、その想いはフェイスレスに対する憎しみと共に大きく、また強くなって行く。
しかし、この国で資源や資金を無駄に浪費する事がいかに愚かな行為なのか、この国に暮らす人間ならば誰もが知っている事も、彼等は良く理解していた。
新型巨兵を開発した組織の人間も考えがあっての事であり、それが必ずこの国の利益になると信じているのだろう。
組織は違えど、そこに所属する人間は間違いなくこの王国の一員であり、彼等もこの国の為に尽力している筈なのである。
でなければ、そもそも教会や国から正式な許可が下りる訳がない。
だが、それを理解していて尚、素直に受け入れられないのもまた事実であった。
『頭では理解している。だが、心情では納得できない』
現場にいる兵士達は、誰しもが大なり小なりそういった想いを抱えていた。
「……さぁって、そろそろだな」
ふと、兵士が東側の空を見上げて言う。
彼の視線の先にある空はいつの間にか紫色を通り越し、夜明けを告げる白色へと移り変わっている。
おそらくあと半刻もしない内に山間から陽が顔を覗かせ、薄く残っている周囲の夜闇を完全に掃い、西の空に微かに残る星の瞬きを飲み込むだろう。
「どうかしたのか?」
「いやな、今回の弓の回収当番、俺なんだわ。そろそろお呼びが掛かるだろうから、先行っとくわ」
「そうか……“気を付けてな”」
「おう。ソレが終われば漸く休憩だ。早いトコ飯食って眠りたいぜ~」
その場で大きな伸びと欠伸をして、兵士は防壁の下へと降りて行こうとする。
相方の去り際に『気を付けて』と声を掛けた兵士だったが、それは形式的な別れの言葉ではなく、本当の意味で彼の身を案じてのモノであった。
このナーガル大防壁で最も多くの人的被害が出るのは、当然だがフェイスレス襲撃の際の防衛戦である。
しかし、その次に多くの被害が出るのは他でもない、この“矢の回収作業”なのだ。
それは、文字通り自分達が放った矢を回収するだけの作業に過ぎないのだが、この作業の最中にフェイスレスの被害にあう兵士の数は、年間百人を超える。
その原因は、一重にフェイスレスの“習性”にある。
フェイスレスには人を襲う習性がある。
動物や植物、昆虫や鳥や魚、そういったモノには目も暮れず、何故か人間だけを執拗に狙ってくるのだ。
一度人間を見付けると、壁や障害物など全く意に返さず一直線に接近し、その人物を“触れ殺し”てしまう。
何故人間だけを狙うのか、その理由は未だ判明していない。相手は話の通じる相手ではなく、明確な意識が存在するかも疑わしい。
ただ、あの紅く輝く二つの瞳だけが、ソレを目撃した人間に激しい憎悪のようなモノを感じさせるのだ。
だが、ただ接近して触れてくるだけであれば、それほど脅威ではない。
何故ならフェイスレスの歩みは極めて遅く、その速度は親に手を牽かれて歩く児童と大差ない。
よって逃走のみに徹すれば問題なく逃げ切れる上、先程のように聖紋を利用した矢による攻撃を行えば、近付かれる前に遠距離からの撃退が可能なのである。
しかし、それでも矢の回収作業中に被害が出てしまうのは、フェイスレスが持つもう一つの習性――“地中への潜伏”が最大の原因だろう。
フェイスレスは基本的に、人間を見付けるとその人物へと向け真っ直ぐ接近してくる。
だが稀に、何故か唐突にその場に留まり、そのまま地中へと“潜って”しまう事があるのだ。
“潜る”といっても、地面に穴を掘る訳ではない。まるで土が水を吸い込むように、そのまま自身を地中へと沈めてしまうのだ。
そうして、無用心に近付く獲物を待ち伏せる捕食者の如く、近くを通った人間へと突然襲い掛かる。
いうなれば罠のような物なのだが、厄介な事にフェイスレスが地中へと潜る要領は物体を通り抜ける時と同じであり、その場に一切の痕跡を残さない。
よって一度地中に潜伏されると、ソレを見つけ出す事は困難を極める。
だが、それが昼の明るい時間帯で、かつ見通しの良い平野での事ならばまだ望みはある。
見張りが見ている前で地中へと潜れば、フェイスレスがドコに隠れたのかは一目瞭然。位置が判明している罠ほど無意味なモノはない。
しかし、これが暗い夜間や見通しの悪い森などの場合、潜った位置の特定はおろか、そもそもそこにフェイスレスが潜んでいるかどうかすら、判別する事ができなくなってしまう。
更に厄介な事は、地中に潜伏するのがフェイスレス“そのモノ”であるという事だ。
先に述べた通り、フェイスレスは“人間しか襲わない”。つまり地中に潜伏したフェイスレスは、“人間にしか反応しない”のである。
“転ばぬ先の杖”という格言が存在するが、仮に杖で進む先の地面を突いた処で、実際に人間がその場に立つまでは、そこにフェイスレスが潜んでいるのか判断がつかないのだ。
詰まり彼等がこれから行おうとしている矢の回収作業とは、即死の危険が伴う罠が設置されている地帯に、目隠しをして赴くようなモノなのだ。
――とはいえ、全く対策が講じられていない訳ではない。
フェイスレスが何所に潜んでいるか解らなくとも、地中に居る奴等を排除する方法はある。
このナーガル大防壁では、木材と石材で築かれた防壁の他に、聖紋機による“障壁展開装置”が備え付けられている。
《ブレストウォール》――“祝福の壁”と呼ばれるその聖紋障壁は、並みのフェイスレスなら存在すら許さない強力なモノだ。
よってその領域内であれば、地中からフェイスレスの襲撃を受ける心配はなくなる。
問題は、回収するべき矢がその領域の外側に出てしまった場合だ。この国で聖紋の刻まれた矢の回収は、時に兵士達の命より優先される。
こうなってしまっては、兵士達は覚悟を決める以外他にない。
だが《祝福の壁》の領域外に出てしまう矢の本数は少数であり、また地中に潜伏するフェイスレスも極めて稀である。
矢の回収に百回赴けば、恐らく百回は無事に戻れる。だが、百一回目は分からない――といった処だろう。
その確率を危険と取るか安全と取るか、そしてソレによって出る被害を多いと取るか少ないと取るかは、それぞれの立場に委ねられる事となる。
だが、どちらにせよ彼等兵士達にとって矢の回収作業が、“命懸け”である事に変わりはない。
「まったく。アイツはいつだって変わらないな……」
開き直っているというか受け入れているというか、曲がりなりにもコレから死地へ向うとは思えない調子の相方の背中を眺めながら、兵士は呆れたように独りごちる。
そうして去って行く兵士から視線を外すと、これから彼が向うであろう防壁の南側へと視線を戻した。
その視線の先には寒冷地特有の針葉樹の森が広がっており、その手前の平野には先程の戦闘で放たれた矢が突き刺さっているのが見て取れる。
距離的に見て、ブレストウォールの領域外にまで出てしまった矢は見当たらない。
放った矢の本数も少なく、この分なら作業はいつもより早く終わるだろう。どうやら、今回の回収作業では人死には出ずに済みそうだ。
しかし――
「おい、ちょっとまて!」
「あん? どした?」
下へと続く階段に片足を下ろした所で、相方は今さっき別れの言葉を交わしたばかりの兵士に呼び止められた。
何事かと思い振り向くと、相方は何処か困惑した表情のまま固まり、防壁の南側を凝視していた。
それを見た兵士はまたフェイスレスの襲撃かと身構えたが、どうやらそうではないらしい。
相方が視線を向けていた先は、矢の刺さっている地面でも、その先に広がる森でもなく――
「“空”が……」
何故か、その上の“空”を見上げていた。




