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20 青い巨兵との邂逅

サブタイトル思案中・・・

 これは自慢になるのだが、就寝前のブラッシングは欠かさないし、三日に一度はちゃんとお湯で洗っている。

 その辺りに居るノミやダニの付いた野生育ちとは違う。匂いだってそんなに臭くないし、天気の良い日はお日様の香りだってするのだ。


「……でも、驚いた……」

「まぁそう頻繁に見れる物でもないからな。ウチに来ればいつでも見れるぞ」

「……ただでさえ、変な色の髪、なのに、“尻尾”まで、生えてるなんて……」

「“変な色”は余計だし、俺人間だよ! 尻尾の生えた人間なんていないでしょ!?」

「……シッポ人間?……」

「何その特殊な人種!? そもそも“コレ”尻尾じゃないからね! “お前”もいい加減そこから離れなさい!」


 そうして、俺は上着の裾にぶら下がっている“ソイツ”を引っぺがした。


「ウ~~ッ」

「『ウ~』じゃありません! あ~あ、ヨダレでベットベト……」


 余程俺を引き止めたかったのか、それとも一緒に行きたかったのか、俺がウチを出る間際の隙を狙って上着に噛み付くと、そのままここまで付いてきたのだ。

 無論直ぐ引き剥がそうとした。でも、幾ら引っ張っても口を開けようとはせず、危うくこっちの上着の方が破ける処だった。スッポンかコイツは。

 今こうして上着から口を放したのは、最初からそういう“約束”だったからである。


「……イセア、それ……」

「ああ、紹介するよ。コイツはウチで飼ってる――」

「……尻尾が、取れた……痛くない?……」

「この期に及んでまだ言う!? もっと良く見て!」


 そう言って、俺は持ち上げた“ソレ”をグイッとリリィの前に突き出す。


 確かに、さっきみたいに腰の辺りにぶら下っていれば、尻尾のように見えるかもしれない。でも、こうして抱えればその正体は明らかだろう。

 ちゃんと顔も足もある。耳が四枚もあるのでただの子狐には見えないかもしれないが、少なくとも動物には見えている筈だ。


(見えてるよね?)


「……ウソ。流石に、分かる……」

「ですよねっ! どうしてウソ吐いた!?」

「……からかった……」


 どうやらからかわれたらしい。

 この少女、顔色は大分良くなったのだが、相変わらず表情の変化が乏しいのでその辺りの真意が掴み難い。


「で、頼みなんだけどさ、コイツも連れて行って良いかな?」

「……この子を?……」

「うん。どうしても付いて来るって聞かなくてさ」

「……ふーん……」


 幾ら引っ張っても離れない“ヒビカ”に根負けした俺は、一緒に砦に連れて行って良いか、リリィに交渉してみると約束させられた。

 『リリィが許可を出せば良し、許可が出なければ大人しくウチに帰ること』――この約束が守れないなら、今後一ヶ月、散歩は一人で行くよう言い聞かせた。

 するとヒビカは俺の上着を噛んだまま怒ったように、でも少し寂しそうに了承した。

 別にヒビカのヤツを苛めたい訳じゃない、これはあくまで躾けの一環だ。ヒビカの飼い主として、時には心を鬼にする努力も必要なのだ。


「……これイヌ? キツネ?……」

「たぶん狐……だと思う」


 明言は避けておく。俺を含めて家族の誰も、耳が四枚も有る狐なんて見た事がない。

 でも師匠だけは何故かヒビカの事を狐と断言するので、きっと狐に違いない。たぶん師匠の国では、こんな姿の狐が一般的なのだろう。


(大分変わってるらしいからな、あの人の国って)


「……ふーん。飼い主に似て、変な狐……」


 相変わらず一言多いリリィは、何の気なしにヒビカの頭へと手を伸ばす。


「シャー!」


(あ、ヤバ!)


 ガチンッ


 咄嗟にヒビカを手元に引き寄せると、伸びてきた指に噛み付こうとしたヒビカの顎が、寸での所で空を食んだ。


「おほほ~! ちょいとゴメンあさ~せ~」

「……あ……」


 俺は慌ててヒビカを抱きかかえると、そそくさとリリィから離れて背を向け、小声でヒビカの耳元に話しかける。


「(おいコラ、なんて事しようとしてんだお前は!)」


 危うくリリィの白い指が鮮血で赤く染まる処だった。

 一応手袋はしているが、あんなモコモコの柔らかそうな生地、ヒビカの小さな牙なら簡単に貫通してしまうだろう。


「フシャー!」

「(だから『フシャー』じゃありません! キミね、何だってそんな敵意むき出しなの? あの子一応俺の上司よ?)」

「フンッ」


 あ、露骨にそっぽ向きやがった。一体何がそんな気に入らないんだ?


「(はぁ……あのなぁ、お前を一緒に連れて行けるかどうか、この交渉に掛ってるんだぞ。なのにその交渉相手に文字通り噛み付いてどうすんだよ。一緒に行けなくなるぞ?)」

「キュ~……」

「(な? 何が気に入らないか知らないけど、ここは愛想良くしとけって。ほら、笑え笑え。ンニィーー)」


 率先して笑顔の手本を見せようと、俺は歯茎が見えるくらいに歯を剥き出して笑顔を作る。

 ソレを見たヒビカは一瞬目を丸くし、四枚の耳とモフモフの尻尾をピンッと逆立てたが、きっと俺の見事な笑顔に感銘を受けたに違いない。


「(ほら、やってみ?)」


 動物に要求する内容としては少々難易度が高目だが、只でさえウチの子(ヒビカ)はこんなに可愛いのだ。

 そんな子がニッコリ微笑めば、リリィだって簡単に絆されて、たちまち砦への同行を許可してくれるに違いない。


 ヒビカは俺の顔を訝しげに見た後、嫌々といった様子ながらも俺の真似をして笑顔を作った。


「ンニーー」

「うわっ! 何その顔兇悪!?」

「アグゥッ!」

「あいだだだだ! 悪かった悪かったって!」


 い、いかん! このままでは俺の手の方が先に鮮血で染まってしまう!


「……何、してるの?……」

「ああいや! 何でもないです。それでどうかな? 餌は俺の分で賄うからさ」


 歯形の付いた右手を背中に隠しつつ、再度リリィの説得を試みる。


「……別に、構わない……」

「だから――って、え? いいの?」


 モコモコのフードの中でリリィが頷く。

 意外とあっさり許可が下りてしまった。突然の事なので流石に無理だと思っていたのだが……。


「……ん……」

「うん?」


 すると、リリィが黙って此方に両手を伸ばしてきた。


(……ああ、成る程)


 コレは詰まりアレだ。“一緒に連れて行く代わりに、自分にもヒビカを抱っこさせろ”――と言外に語っているのだ。

 どうやら、その無言の要求にヒビカも気付いたらしく、抱えられたまま俺を仰ぎ見る二つ瞳が語りかけてきた。


『え? マジ?』


 その問い掛けに、俺も瞳で語り返す。


『行くしかないだろ』

『家族以外の人に抱かれるなんてイヤ!』

『我慢しろ。それともこのままウチに帰るか?』

『それもイヤ!』


 ヒビカは基本、ウチの家族以外の人間に抱かれるのを極端に嫌がる。


 店に来るお客さんは勿論のこと、近所でよく遊ぶ子供たちでさえ、背中やお腹を撫でさせる事はあっても、抱こうとすると決まってスルリと逃げ出してしまうのだ。

 その脱出っぷりは見事なモノで、ウチの家族以外でヒビカを抱き上げる事ができるのは、今のところ師匠ただ一人に留まっている。

 どうも師匠の方がヒビカよりも上手らしく、あの人にだけはヒビカもあっさり捕まってしまうのだ。


 ま、直後に腕の中で大暴れするので、長くは抱えていられなかったりするのだが……。


『ただジッとしてるだけで良いから、な?』

「キュ~……」


 そんな具合に、正確に伝わっているか怪しいアイコンタクトを交わし終えると、ヒビカの顔が苦虫を噛み潰したような微妙なモノになる。

 どうやら、これ以上の抗議は無駄と悟ったらしい。ヒビカにしては英断だが、それだけ俺と一緒に居たいという事なのだろう。


(すまんな、少しだけ我慢してくれ)


 ちゃんと大人しくしていられたら、今晩のメシはいつもより多めにしてやろう。俺からのせめてもの労いだ。

 尤も、ヒビカのエサは俺の分の食事から賄う事になるだろうから、今夜は俺が腹を空かせて眠る羽目になるのだが……。


「という訳で、はい。あんま乱暴にしないでくれよ、コイツ気難しいから」

「……こう?……」

「いや、そんな両手で持ち上げてたら疲れるだろ。もっとこう、胸の所に抱えるように、前足の下とお尻の下に腕入れて支えてあげないと」

「……こ、こう?……」


 “どうやら”というか“案の定”というか、この手の事には余り慣れていない様子のリリィは、四苦八苦しながら俺にヒビカの抱き方を聞いてくる。

 いつもは俺がリリィに機兵や巨兵について教わっているので、これはこれで中々新鮮な感覚だ。


「……こ、これで、イイ?……」

「そうそう。余り力は入れないで、乱暴にすると噛み付かれるぞ」

「……う、うん……」


 そうして、無事ヒビカを抱きかかえる事に成功したリリィは、そのまま暫く自分の腕の中にいる子狐を見下ろしていた。

 珍しい事に、その時の彼女の表情はいつもの仏頂面ではなく、かと言って喜んでいる様子でもなく、ただ不思議そうな視線を腕の中のヒビカに注いでいた。


「……温かい……」

「そりゃお前、生きてるからな」


 全身白いモフモフの少女が、これまた全身黒いモフモフの子狐を抱いている。


「ちなみに名前はヒビカだ。覚えてやってくれ」

「……ヒビカ……」


 傍から見ると何とも微笑ましい光景なのだが、白いモフモフと黒いモフモフが合わさって最強――には、残念ながら見えなかった。

 何故なら、“黒いモフモフ”の方に著しくやる気が無い。半開きの目はドコを見ているか分からないし、耳も尻尾も力なく垂れ下がっている。

 有体に言って“ダレ”ている。何かもう、このまま世界が滅亡しても構わない――って位のやる気の無さを発揮しているのだ。


(そんなに嫌か?)


 まさに“生きる屍”と化したヒビカだが、本物のゾンビみたいに暴れたり噛み付いたりはしてないし、リリィの方も満足そうなので、この場はこれで良しとしておこう。


「ふぁあ~~……」


 心配事が一つ減って気が抜けたせいか、またも大きな欠伸が出てきた。

 俺は少しでも眠気を払おうと、早朝の空気を胸一杯に吸い込み、その場で思い切り背筋を伸ばす。


「ン~~~! フゥ……ん?」


 吐き出した白息の行方を眺めていると、ふと北側の通りから此方へとやってくる車両の集団が見えてきた。

 国軍が砦に物資や人員、巨兵などを運搬する際によく使用する軍事用の大型聖紋車両が、何台か連なって俺たちの方へとやって来る。


「おいリリィ、来たみたいだぞ」


 俺の呼び掛けに顔を上げたリリィも、俺と同じく遠方からやって来る車両へと視線を向けた。


「アレに乗ってるんだよな?」

「……そう……」


 車両の集団を見つめるリリィの表情は、心なしいつもより硬いように見える。


(まぁ無理もないよな)


 何といってもあそこには、この少女が心血を注いで作り上げた“集大成”が積み込まれている。

 ようやく来たという“期待”か、それともついに来てしまったという“不安”か。表情からは伺えないが、その心境はきっと大きく揺れ動いているに違いない。


「……ねぇ、イセア……」

「ん?」

「……この子、貰っていい?……」

「キュッ!?」

「いやアゲないよ!?」

「……ウソ……」

「ウソなの! どうしてウソ吐いた!?」

「……からかった……」


 訂正、割といつも通りかもしれない。


 さて、今更だがどうしてリリィがこの場に居るのか、その理由について説明しよう。

 薄々気が付いているとは思うが今回の出張料理、リリィのヤツも同行する事になっている。

 当たり前だが、別にリリィが俺の仕事の手伝いをしてくれる訳じゃない。

 正確には俺たちに同行するのではなく、彼女は彼女自身の用事で俺たちと共にザルバ砦へと赴く事になっているのだ。

 そしてその“用事”とは、例の“新型聖紋巨兵の実地試験”に他ならない。


 『近々新型の実地試験が行われる』という話は俺も聞いてたのだが、まさか俺の依頼の日と重なるとは思わなかった。

 まぁ俺にとっては嬉しい誤算なので特に問題はないのだが、お陰で俺たちの仕事の方にも少しばかり影響が出た――のだが、その辺りの変更や調整も、全てサティさんが整えてしまった。

 まるで最初からそうなる事が判っていたかのような手際の良さだったが、たぶん気のせいだろう。


「ふむ、概ね予定通りだな」

「アリスさん」


 師匠を案内し終えたらしいアリスさんが戻ってきた。


 俺たちの後ろから車両を見詰める彼女の表情も、心なしいつもより硬いように見える。露骨には顔に出していないが、きっと彼女も少なからず想う処があるのだろう。

 ま、今回の新型開発に全く関わっていない身の俺としては、彼女たちより気は楽だ。事実、新型と対面するにあたり、俺の場合は不安よりも期待の方が遥かに大きい。

 設計図は何度か見せて貰ったが、無論実物を見るのはこれが初めてだ。

 しかもその新型がこの世界で一番大きく、その上人が乗れるモノともなれば、俺の期待も否が応にも高まってしまう。


(うーむ、年甲斐もなくワクワクしてしまう)


「アリスさん、新型ってどの車両に積まれているんですか?」


 何となく待ちきれなくなった俺は、アリスさんにそんな事を尋ねてしまった。


「予定では先頭の車両に詰まれている筈だ。ああ、ココからでも少し見えるな。覆いが被せてあるが」


 俺の方がアリスさんよりずっと背が低いので見辛いが、俺の目線からでも先頭車両の荷台に何か大きな物が積まれているのが見て取れた。

 やがて車両の集団は俺たちの傍までやってくると、ギィィという甲高いブレーキ音を各々嘶かせ、俺たちのすぐ傍で停車する。


「あ、おい」

「お嬢様っ」


 車両が完全に足を止めた瞬間、リリィが先頭の車両目指して駆け出した。突然の事に、俺たち二人も慌ててその背中を追うのだが――


(遅っ!?)


 見た目からして運動は苦手だと思っていたが、どうやらその予想は的中したらしい。

 ヒビカを抱えているせいもあるだろうが、手足の関節がまるでボルトで固定されたかのようにぎこちなく、リリィは走る為の力を全力で無駄な部分に注いでいる。

 アレじゃあ歩いた方が早いんじゃないかと思ったが、お陰で直ぐに追いつく事ができた。


「ハァ、ハァ、ハァ」

「お、お嬢様。そうお慌てにならず、もう少しゆっくりと……」


 走るリリィの隣に寄り添い、アリスさんが歩きながら自制を促している。

 普段歩くより遅いような気もするが、今にも転びそうなリリィの走法にアリスさんはハラハラしっぱなしだ。

 つか、早く走ろうとして逆に遅くなるなんて、不器用通り越して寧ろ器用だな。運動音痴も極めるとこうなるのか?


「よっこら、せ、と……」


 すると、大型車両の助手席から一人の小柄なお爺さんが姿を現した。


 お爺さんはゆっくりと、でも慣れた様子で車両から地面に降り立つと、腰を叩きながら背筋を伸ばしている。

 髪も髭も真っ白なお爺さんで、年齢はたぶんラドック神父や領主様より上だろう。

 顔には度のキツそうな丸メガネを掛けていて、若干腰が曲がっているせいで目線は低いが、その足腰は意外としっかり彼の上体を支えている。


「ふぅ」

「アガル殿」


 一息ついたのを見計らい、アリスさんがその老人に声を掛ける。


「おお、これはアリステア様、リリィお嬢様も。ただいま戻りました」

「道中お疲れさまです」

「ハァ……ハァ……アル……」


 アガルと呼ばれたお爺さんとアリスさんが挨拶を交わしていると、そこで漸くリリィが老人の下に辿り着いた。


「おやおや、如何なされましたかお嬢様。珍しくそのように息を切らせて。ひとまず落ち着いて、息をお整えくだされ」


 距離にしてせいぜい二十メートル程度しか走っていない筈なのだが、リリィは頻繁に肩を上下させ、息も絶えだえといった具合になっている。

 やっぱり体力がなさ過ぎる。急ぎ改善してやりたい処だが、コレばかりはじっくり時間をかけてやっていくしかない。


(こんど、何か特別メニューでも考えてやろうか)


「ハァ……ハァ…………ふぅ……」

「落ち着かれましたかな?」

「……うん……」

「そうですか。お嬢様の身に何かあったら、爺も悲しいですからのぅ」


 お爺さんは皺の多い顔を更に皺くちゃにして微笑むと、フード越しにリリィの頭を優しく撫でた。

 随分と好々爺然とした人だ。二人とも随分親しい様子だし、一体どんな関係なんだろうか?


(実の祖父なら名前で呼ぶのは変だよな)


「キミが、イセア君だね」

「あ、はい。初めまして、イセア=ロアといいます」


 唐突に話の水を向けられ、俺は半ば反射的に自己紹介をした。

 俺の方に心当たりはないが、どうやらこのお爺さんは俺の事を知っているらしい。


「報告はアリステア殿から聞いとるよ。ワシの名は“アガル=ルナ”という。この通り老い先短い身の上じゃが、今後とも宜しくお願いするよ」

「い、いえ、こちらこそ」


 目の前で深々と頭を下げられ、俺もつられて一層深く頭を下げた。


「イセア、アガル殿は我々の組織の“工房長”を務めているお方だ」

「あ、そうなんですか」


 どうやらこのお爺さんも部隊の一員らしい。しかも“工房長”という事は、機兵や巨兵製造の責任者という事だ。

 少し頼りなさそうな見た目に反して、随分と重要な役職を任されているお爺さんだな。


「一見温厚そうな人物だが、その腕前は確かなモノだぞ。しかも機兵や巨兵だけではなく、聖紋機全般に精通している。屋敷の離れにある聖紋機は、全てこのお方が作った物だ」

「えっ!? あの聖紋機ってアガルさんが作ったんですか!」


 その事実を聞かされた途端、俺の中で朝から引き摺ってきた眠気が一気に吹き飛んだ。


 屋敷の離れにあった聖紋機は、正直どれも実用性には乏しい代物ばかりだった。

 その代わり、聖紋機の構造を理解するには打って付けで、この一ヶ月ずっと俺の教材として利用させて貰った。

 構造が簡単なモノから複雑な物まで、そのどれもこれもがとても丁寧に作られており、是非いちど造った本人に会ってみたいと思っていたのだ。


 無論、この世界にはパソコンなんて物は存在しない。

 機械で鋼板から部品を精密に削り出すなんて出来る筈がないので、あれ等の部品は一つ一つが全て手作業で作られた事になる。

 だからあの聖紋機たちを観察する度に、俺はその技の巧みさに何度も魅了されていた。まさに“職人の業”というヤツだ。


「イセア。コレからは知識だけでなく、実践的なものはアガル殿に尋ねると良い」

「はい! 感激ですよ! まさかアレを作ったご本人に会えるなんて」

「そうかの? じゃがアレ等を設計したのは全てリリィお嬢様だからのぅ、ワシはそれを元に形を与えただけに過ぎんのだが……」


 さも当然とばかりに言ってのけるアガルさんだが、この世界のこの時代にアレだけの物をアレだけの精度で作り上げるなんて、一長一短で出来る訳がない。

 長年に及んで培ってきた技術者としての知識と、積み重ねてきた経験があってこその業だ。


「そんな事ないですよ。そりゃあ設計したリリィも凄いけど、それも忠実に再現できてこそです。特に“遠話機えんわき”のあの伝達構造なんか凄いじゃないですか。それこそ寸部の狂いだって許されないのに、あんなに綺麗に音が響くなんて。聞いた瞬間ボク感動しましたよ」

「ほっほっほ。中々面白い少年ですなぁ、アリステア様」

「ああ、何といってもお嬢様がお認めになられたのだ。見込みがある」

「成る程……」


(いやー、これは嬉しい事になったぞ)


 流石に今この場では自重するが、アガルさんには聞きたい事、習いたい事が山ほどある。

 リリィやアリスさん達からは知識としての情報は得られても、実際に作るとなると話はまた別だ。

 俺の目的はあくまで巨兵に乗る事だが、巨兵についての知識や経験は成る丈多く仕入れておきたい。それこそ部品の一つに至るまで。


「ところで。お嬢様、その“黒いチビ助”は何ですかな?」

「……これは、ヒビカ……」

「あ、ボクのウチで飼ってる狐です」

「……ほう、キツネとな?」


 すると、アガルさんは鼻の上のメガネを指先でクイと持ち上げ、リリィに抱えられたヒビカに顔を近づける。


「ふむ、耳が四枚ありますな。これは珍しい」


 そう言って、ヒビカの耳の一枚を軽く摘み上げる。しかしヒビカは特に反応を返す事なく、放した耳もまた直ぐフニャリと伏せられてしまった。

 こりゃ本格的にやる気を喪失しているな。動物って基本ストレスに弱い生き物だから、そろそろ解放してやったほうが良いかもしれない。


「何やら、余り元気がないようですなぁ」

「ずっと抱えられて疲れたのかも。リリィ、悪いけどそろそろソイツ下ろしてやってくれないか?」

「……わかった……」


 おや。ごねられると思ったが、意外と素直にいう事を聞いてくれた。


 リリィは抱えていたヒビカをそっと地面の上に降ろす。でも、開放されたヒビカはそのままその場に蹲ってしまい、何故か全く動く気配を見せなくなった。

 周りの皆から心配そうな視線を向けられても、耳も尻尾もピクリとも動かそうとしない。

 心配になってヒビカのアストラルの流れを探ってみたのだが、流れが滞っていたり止ったりしている部分は見受けられなかった。


 もしかして、いよいよ手に負えないほど体調を崩したのかと、俺は慌ててヒビカの様子を伺おうとしたのだが――


「お、おいヒビカ、大丈ぶ――」

「キシャーッ!」

「うおっ!?」


 するとヒビカは俺が屈み込んだタイミングを見計らい、飛び掛るように俺の服の襟元に頭を突っ込んできた。


「ちょっ、ヒビカさん!? 冷たい冷たい!」


 ヒビカはそのまま身体を捩じらせ、襟元の狭い隙間に無理やり身体をねじ込むと、瞬く間に俺の服の中に潜り込んでしまった。

 そうして服の中で身体を丸めると、再びそのまま動かなくなる。


(あー、こりゃだいぶヘソ曲げたな)


 お陰で俺の見た目が妊婦さんみたいになってしまったが、この状態から無理やり外に出そうものなら、更にヘソを曲げて大変面倒くさい事になる。


「す、すみませんアリスさん。こうなると中々出てこなくて。暫くこのままで構いませんか?」

「それは別に良いが、まさかそのまま出発する積りかい?」

「……構わない……」

「お嬢様?」

「……その子も、連れて行く。イセアと約束した……」

「そうなのですか? まぁ、お嬢様がそう仰るなら構いませんが」

「……そんな事より、アル……」


 そう言って、リリィはアガルさんに向き直る。


「……首尾は?……」


 すると、アガルさんはそれまでの柔和な微笑を消し、微かにメガネの下の瞳を細めた。


「ワシなりに最善は尽くさせて頂きました。各聖紋、関節部、アストラル供給も銀子線の一本に至るまで全て確認済みでございます。ですが、ワシも何度も計算を行いましたが、強度ばかりは実際に立たせてみない事には、なんとも……」

「……グリエイヒルは?……」

「今も中で調整を続けております。稼動するには十分と思われますが、なにぶん今回は時間が限られておりますからな。念を入れさせております」

「……そう……アリス……」

「はっ」

「……グリエイヒルを、手伝ってあげて……」

「畏まりました。直ちに取り掛かります」

「おいアラガス、アラガスやっ」


 そうアガルさんが呼び掛けると、車両の後ろから二十歳くらいの若いお兄さんが顔を出した。


「何ですか工房長?」


 こっちも見た事のない顔だ。どうやらこの人も、アガルさんと同じくこの車両に乗ってやって来た人なのだろう。

 見ると、他にも何人かそういった人たちが、皆で手分けしてせっせと資材を車へと積み込んでいた。


「今からアリステア様が調律をなさる。操縦室までご案内して差し上げなさい」

「おおっと待ってました! おいっ、何人かこっち手伝え。ウチの操士様が搭乗するぞ!」


 アラガスと呼ばれた人の号令を合図に、周りの雰囲気が俄かに活気付く。

 別の所で作業をしていた数人が此方へやってくると、車両の荷台に掛かった覆いを協力して手際よく剥がしていく。

 そうして覆いの下から現れた物を見た瞬間、俺は自分でも意識しないうちに、口から感嘆と驚愕の吐息を漏らしていた。


「ぅわぁ……」

 

 そこには、未だ誰も動かした事のない鋼鉄の巨人が、両膝を立てた仰向けの状態で固定さていた。


 この軍用車両の荷台になら、通常の大きさの巨兵をしゃがんだ状態で二つは並べて乗せるだけのスペースがある。

 でもこの新型巨兵の大きさだと、しゃがんだ状態でも二つ同時に乗せるのは難しい。その上、普通にしゃがんだだけでは重心が高く、輸送の際に車両が横転してしまう危険がある。

 だからこの新型は他の巨兵とは違い、こうして寝かせた状態で荷台に固定されているのだ。


(すっげぇ。こりゃあもう芸術品だな)


 やっぱりこうして実物を見るのと、図面上で見るのとではその感動と迫力が段違いだ。

 正直、今直ぐにでも乗り込んでみたい衝動に駆られるのだが、そんな事したら周りから大目玉をくらうのは間違ない。

 いつか必ずチャンスが来ることを信じ、この場は大人しくしておくのが懸命だろう。


「あの、アリスさん。これから何か始めるんですか?」

「ああ。調律を行うんだよ」

「調律ですか」


 “調律”とは確か、聖霊核を機兵から巨兵など違う機体に移した際、移す前と後で発生する齟齬を無くす為に行う調整のこと――だった筈だ。


「調律とは本来、“機体”と“聖霊核”、そして“操士”の三つが揃って行うものだ。しかし今回、私はその現場に立ち会う事ができなかった。なので今からコレに乗り、出来なかった調律をやってしまおうという訳さ」

「乗り込んでって……じゃあ、今からコイツを動かすんですか!?」

「ああいや。期待して貰っている処悪いが、生憎と今この場でコレを動かす余裕はない。物資や人員の積み込みが終わり次第、砦へと向け出発するからね」

「あ、そうですよね……」


(うーむ、残念)


「だが、機体を動かさなくても調律は行える。なので、ここから砦までの三時間、私はこの機体の中に篭ることになる。それまでの間、私の代わりにお嬢様をお守りしてくれ。頼んだぞ」

「あ、はい」

「うむ。あぁ、そうだイセア」

「何ですか?」

「もし今回の試験が上手くいけば、キミをこの新型に乗せてあげよう」

「え……ええっ!! 本当ですか!?」


(おいおいおいおい! マジかよっ!?)


 俺は高速で後ろを振り向くと、この組織の責任者である少女の顔を凝視する。しかし少女は相も変らぬ仏頂面で、その表情から真意を読み解くのは難しい。

 どっちだ? もしまた“嘘”や“からかった”なんて言われたら、今度は本気で落ち込む自信がある。


「安心していい。ちゃんとお嬢様の許可も得ているさ」

「そ、そうなんですか?」

「ああ。流石にキミ一人で乗せる事はできないから私との同乗になるが、その時は巨兵の腕の一本くらいなら動かしても構わないぞ」

「あ、ありがとう御座いますアリスさん!!」


(うおお! 俄然やる気が湧いてきた!)


「リリィもありがとな、恩に着るよ本当に!」


 俺はアリスさんに深々と頭を下げると、リリィの手を取って上下に振る。


「……き、気にしないで、いい……」


 ただ少女の手は相変わらず華奢で心許なく、矢張り力を入れて握る事はできなかった。

 本当に魚の骨のような手だ。俺のような子供の力でも、全力で握ったら簡単に折れてしまうかもしれない。

 医食同源とも言うし、これは本格的にリリィ専用の特別メニューを考える必要があるかもしれないな。


「礼を言うのはまだ早いさ。あくまで今回の試験が上手くいけばの話だ」

「はいっ」

「アリステア様。準備完了しました。さ、此方へどうぞ」

「ああ今行く。ではお嬢様、行って参ります」

「……うん……」


 リリィが頷くのを確認すると、アリスさんはアラガスって人にエスコートされて車体の荷台へと上がり、そこから横たわった巨人の胸部――“操縦室”のある場所へと登って行く。

 足場が組んであったり梯子が掛けられたりしていないので、登るのは結構大変な筈なのだが、二人とも手慣れた様子で目的の場所まで辿り着いてしまった。

 流石はアリスさん。操士の中でもエリートらしいし、この程度ならお手のモノなんだろう。

 アラガスさんの方は操士って感じじゃないが、アガルさんが指示を出していたから巨兵の整備士なのかもしれない。


「グリエイヒル、開けてくれ」


 上でアラガスさんがそう言うと、カカンと金属を打ち合わせるような短い音が響いた後、重い駆動音を響かせて胸部装甲が独りでに開く。


「コレを頼む」

「はいはい。お預かりしときます」


 開かれた装甲の前で防寒用のマントを脱ぐと、アリスさんはソレをアラガスさんに手渡し、一人操縦室の中へと降りて行く。

 ここからじゃもうその姿は見えないが、それでも微かに二人のやり取りが聞こえてくる。


「手順はいつもと変わりません。ちゃんと覚えてますか?」

「安心しろ。今更忘れるものか」

「そりゃ良かった。くれぐれも下手に動かさんで下さいよ。この程度の固定具、コイツのパワーだと軽く動かしただけで簡単に引き千切りますからね」

「フ、釘を刺すならもう少し言葉を選べ。それだと逆に動かしたくなるじゃないか」

「気持ちは解りますが勘弁して下さいよ。不調が出れば直すの俺らなんですから」

「解っている。手間は取らせんさ」

「遠話機は常時繋げておいて下さいね。閉じます」

「ああ」


 やがて開いた時とは逆の動作と音の順で、胸部装甲はその内側にアリスさんという操士を飲み込んたまま再び元の状態へと閉じてしまう。

 これから砦に着くまでの三時間、もしかしたらそれより長い間、アリスさんは一人きりであの狭い空間の中作業を続ける事になる。


(うーん、羨ましい)


 別に狭い所が特別好きという訳じゃないが、巨兵に乗る事が夢である俺にとって、あんなのご褒美以外の何モノでもない。

 俺だったら倍の六時間、いや十時間、いやいや丸一日だって入っていられる自信がある。


「さぁお二人とも、いつまでも外に居ては身体が冷えますぞ。そろそろ荷積みも終わりますので、後のことは大人に任せて車にお乗り下さい。出来合いですが、中で爺が暖かいお茶でも馳走しましょう」

「……ん……」


 そうアガルさんに促され、リリィは躊躇せず車両の後部席へと乗り込んだ。


 そういえば、これまで散々見てきた割に、この軍用車両に乗るのは初めての体験だ。

 この世界じゃ一応最先端の技術の筈なんだが、前の世界(あっち)じゃ散々タクシーやら電車やらに乗っていたせいか、余り新鮮味は湧いてこない。

 折角異世界(こっち)にやって来たんだ、乗るならやっぱり巨大ロボットだろう。


(もういっそ全ての乗り物がロボットなら良かったのに)


 しかしアガルさん達も大変だな。今さっきここに到着したばかりだというのに、また直ぐ砦へと向け出発しないとけいないなんて。きっと、それだけギリギリの時間調整なのだろう。

 ここまで大勢の人が頑張っているんだ。俺が新型に乗る為にも、今回の試験は是非クリアして頂きたいモノである。


「ほれ、イセア君もお乗りなさい」

「あ、すみません。ボクちょっとトイレに……」

「む、そうか? まぁ出発まではもう暫く掛かるからのぅ。じゃが、そんなに遅くなってはいかんぞ」

「はい、直ぐ戻りますから」


 そう言ってその場を離れると、俺は近くの建物の裏へと向った。

 立ちションにでも行ったと思われたかもしれないが、実際はトイレに行きたかった訳じゃない。

 ここに来た本当の理由は、ちょっとだけやりたい事があったからだ。


「フゥ……さて、と」


 建物の裏で一息吐くと、俺は自分の中に意識を集中する。いつもやっている訓練と同じ要領で、そこにあるアストラルの流れを感じ取る。

 周囲にあるアストラルが正中線を通って俺の中へと流れ込み、全身を巡り、そして手足の先から抜けて行く。

 ソレはまるで肺に取り込む空気のように、心臓から押し出される血流のように俺の内側へと入ってきては、また外側へと出て行くを繰り返す。


 流れを感じ取れたら、次にその流れを制御する。

 身体へ入ってくるアストラルの流れを増やし、出て行く量を絞り込む。こうする事で、身体の中のアストラルの濃度が増していく。

 この時気を付けないといけないのが、アストラルの流れを止めない事だ。

 少量ずつでも常に吐き出して、ゆっくりでも流れを作らなきゃいけない。でないと直ぐに息切れみたいな状態になる。

 前に師匠から、『これも経験だ』と言われて試しに身体の中のアストラルの流れを止めてみた処、一分も経たないうちにぶっ倒れた事があった。


 んで、ある程度全身にアストラルが溜まったら、その溜まったアストラルに自分のイメージの“刷り込み”を行う。

 刷り込むイメージは、いつもの訓練でやっている自分の体重を軽くするモノ。

 そのイメージがアストラル全体に浸透するとアラ不思議。いつも訓練でやっている通り、実際に身体が水中に居るかのように軽くなってしまうのだ。


(ホント、ニュートン先生もビックリだよ)


 “物理法則”や“慣性の法則”に全力で喧嘩を売るような現象だが、出来るものは出来るんだからしょうがない。

 まぁ“聖紋”の存在だってぶっちゃけ魔法みたいなモノだし、今更と言えば今更だろう。

 一応師匠に原理っぽいものは聞いてみたのだが、師匠も詳しい事は判らないとの事。ただ先祖代々の長きに亘る研鑽の末、行き着いた成果だと言っていた。


(ンなもん俺みたいな異国の子供に教えて良いのかね?)


「ん、まぁこんなモンかな」


 俺は軽くその場で跳ねると、身体の具合をチェックする。


 無事アストラルへの刷り込みが完了すると、その変化は劇的だ。自身の身体が軽くなったのを、確かな実感として感じ取る事ができる。

 マッサージなどをして終わった際、“手足に羽が生えた”なんて表現する事があるが、アレのもっと凄いバージョンだと思って頂きたい。

 ただこれ、余り身体を軽くし過ぎると、ほんのそよ風でも身体が流されそうになって、まともに歩く事も難しくなる。この調整がまた難しい。


 因みに、俺だとこの状態に持って行くまで数分は掛かるのだが、師匠はものの十秒も掛からずにやってのける。

 ああ見えて結構凄い人なのだ。


「よっと」


 そうして、俺は両側の壁を三角跳びの要領で蹴りつけると、そのまま一気に建物の屋根目指して跳び上がった。


 自分の体重は軽くなっても、着ている服や腹に居るヒビカの重さは変わらない。

 なので身体の重心が変な所にあったりするのだが、これまでの師匠との稽古でこの程度なら直ぐに対応できる。お陰で最後までバランスを崩す事なく、屋根の上まで昇る事ができた。

 そして、そこから望む光景を見た次の瞬間、俺は本日最も深い感嘆の息を吐く事となった。


「ぅっわぁぁ~~~…………おいヒビカ、お前も見てみろよ」


 そう言って上着のボタンを幾つか外すと、その間からヒョコリとヒビカが顔を出す。同時に冷たい空気も胸元に流れ込んできたが、今の俺には何ら気にならない。

 何故なら、屋根の上から見下ろす俺たちの視線の先には、車両の荷台に固定された新型の聖紋巨兵が、その巨大な全容を曝け出していたからだ。

 この光景を見たかったからこそ、こうして屋根に登ってきたのだ。


「なぁヒビカ、信じられるか? コイツってば動くんだぞ。しかも人を乗っけてな」


 その時、丁度俺の背後――遠く東の地平から昇る太陽の光が、建物の屋根を越えて巨兵の頭部を照らし始めた。

 青を基調に塗られた装甲には傷はおろか汚れ一つなく、早朝の冷たく澄んだ空気を抜けて届いた陽光は、その装甲によって鋭く周囲に弾き返されている。


「くぅ~~っ! やっぱカッコイイよなー」


 その時の俺の心境は、精神こころまで少年に戻ったようにときめいていた。


 顔は終始にやけっぱなしで、いつまでもこうして巨兵を眺めていたいと思う反面、早く動いている姿を見てみたいとも思っていた。

 そしてその願いは、今から僅か数時間後に叶えられる事になる。更に試験の結果如何によっては、この機体に乗せて貰えるのかもしれないのだ。

 十年越しの願いが叶う瞬間が、刻いっこくと迫っている。これでワクワクしない筈がない。


《対フェイスレス大型聖紋巨兵 試作機》

《機体名“イグリット”》

《搭載聖霊核“グリエイヒル”》

《搭乗操士“アリステア=リリウス”》


 今日この日、人類史上最も巨大で力強い聖紋巨兵が、アディルファナ王国の冬の大地に立つ事になる。

 しかし、その瞬間は俺が思っていたよりずっと早く、そして――“意外な形”で訪れる事となった……。


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