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プロローグ 巨人と異形の大乱闘

頑張って書いていきます。

ご感想いただけたら幸いです。

 ◆◆◆


 とある世界――


 そこでは多種多様な気候と地形、生態系が入り混じり、陸海空に様々な動植物が溢れ、独自の文化と文明を築き上げた人類が暮している。

 長き年月に寄って大陸は四つに、海原は六つに、天空は二つに分かたれ、その大陸の一つである南方大陸アウディオロの小さな町に、現在いま一つの暗く巨大な影が迫っていた。


 “ソレ”は、この世界における人類の“天敵”。


 地面を抉り、砂塵どころか土塊をも巻き上げ、阻むもののない荒野を駆けるその姿は形容し難い。あえて例を上げるとするのなら、“野犬”に似ていると言えるだろう。

 黒の剛毛に覆われた体躯と四本の脚、腰には長い尾を生やし、前方に突き出た口顎には鋭く尖った牙が凶悪に乱立している。


 だが“ソレ”と野犬の類似する点はあくまでその程度のモノであり、他の外見はとても野犬などと比較できるモノではなかった。

 身体中に隆起した筋肉は異常に発達し、特に前脚と後背に掛けての筋肉は異様な程に肥大化している。そのため首は胴体に飲み込まれ、まるで両肩の間から直接頭部が生えているかのように見える。

 その上、前脚の形状は獣のものとは完全に異なり、人間の手のように分かれた“指先”には、鈍く角張った硬質な爪が生え揃っていた。


 そして、その“怪物”がただの野犬と最も相異する点は、口部より上に“存在しない頭部”と、その“体躯の大きさ”だろう。

 口部から上は黒い霧のような物に覆われ、その内に赤く輝く二つの光点が、まるで眼球のように霧の中に浮かび揺らめいている。

 更にその全長は軽く見積もっても15メートルを超え、体高は10メートルに届く程の巨体。ただの野犬と呼ぶには、余りにかけ離れた過ぎた姿。


 そのような異形の巨体が、俊敏な肉食動物の駆動でもって黒く枯れた荒野を疾走している。

 その速度もまた尋常ではなく、爪を穿たれた大地はその悉くが抉られ、蹴りつけられた大地には獣の足跡ではなく、無残に掘り返された破壊痕が残されるのみ。


 その数、僅か一体。


 だが、この怪物にならば矮小な人間の造り上げた小さな町一つ、壊滅するなど造作もない。

 黒霧の中に浮かぶ二つの光点に憎悪の彩を湛え、怪物は遠方より嗅ぎ取った人の群集を目掛け疾駆する。

 剝き出しになった牙の間からくぐもった唸りと白く濁った排息を漏らし、己の内で渦巻く憎悪を殺戮という行為で雪ごうと、得体の知れない歓喜に招かれるまま走り続ける。


 しかし――


「――ッ!?」


 そんな、何者をも寄せ付けぬ進撃を続ける怪物の前に、一つの影が立ち塞がった。


 人の姿をした“ソレ”は、しかし生身の人間などでは決してない。二本の脚で立つその姿は人間より遥かに巨大であり、その全長は20メートルにも達している。

 鋼鉄の鎧を全身に纏ったその“巨人”は、迫り来る怪物と対称的な蒼色の光を瞳に宿し、自身へと向かう怪物を真正面から見据えていた。


 しかし、そのような小高い山とも見紛う巨人を前にして尚、怪物に臆する気配はない。

 寧ろその姿を確認した瞬間、怪物は自らの内に燻る憎悪に敵意という名の油を注ぎ、強引に燃え立たせた闘争心を持って更に己を加速させた。

 巻き上げられる土塊がその量と高さを増し、二つの赤い光点は先程よりいっそう鮮やかな輝きを放つ。


「ガア゛ア゛ア゛アアァーーーッ!!」


 荒野に響く怪物の咆哮は、その巨人を明確な敵対者と認めた証。

 巨人の遥か後方に控える町を二の次に、先ずは目の前に聳え立つ邪魔者を排除すると定めた証である。


 ズウゥン……


 直後、怪物の咆哮に呼応するように、鋼鉄の巨人も動き出す。

 たった一歩の移動。だが、それだけで巨人の重量を支えきれない地面は軟弱に窪み、その場にクレーターにも似た足跡を作った。


 ズウゥン……ズウゥン……


 自身の動きを確かめるよう、巨人は一歩一歩その脚を前へ進める。怪物のように地面を抉り返すのではなく、文字通り地面を踏み締めながらその巨体を前へと運んでゆく。

 その歩みは徐々に速く、歩幅はより広く、全身を覆う鋼鉄の鎧を盛大に揺さ振りながら、次第にその速度を引き上げて行く。


 ドズン、ドズン、ドズン――


 その最中――


「どぅわあああぁーー!!」


 速度を歩行から走行に移し、上下に激しく揺れる巨人の背中に、何やら必死にしがみ着く小さな影があった。


「揺らすなーー! 落ちるーーー!」


 その人影が小さく見えたのは、単純にその者の身体が小さかったから。


 歳の頃は十才前後。その人物は少年らしい小さな体躯を精一杯に駆使し、枯れた小枝に残った枯葉のごとく、振り落とされまいと巨人の背中に必死にしがみ着いている。

 日の光を青く反射する短めの黒髪が、激しい揺れと風にたなびき、瞬きを忘れた金色の瞳からは、乾燥と恐怖によって大粒の涙が絶えず零れ落ちている。

 巨人の背にある取っ手のような部分に掴まり、自らの落下を耐えるその表情は、激しい悲壮と後悔の念に引きつっていた。


「ちっくしょーー!! 何だって俺がこんな目にーーーー!!」


 直後、不意に襲った下から突き上げる様な衝撃が、少年の身体を地面と平行に浮き上がらせる。


「イーヤァーーー!!」


 そんな少年の叫びなどまるで意に返さず、巨人は更に速度を上げながら怪物へ向け突進する。

 やがて怪物と巨人、双方の距離が見る間に埋まり、両者は遂に荒野の只中にて激突した。


 ドゴオオオォォン


 大気が弾かれ、衝撃が唸る。

 強靭な筋肉と強固な装甲が正面からぶつかり合い、そのどちらもが鈍く重厚な軋みを上げる。

 突如殺された勢いと激しい衝撃に、少年の身体は之までで一際強く跳ね上げられ――


「ンガッ! ブベッ!!」


 幸い振り落とされる事はなかったものの、少年の身体は巨人の背に掴まっていた手を支点に巨人の後頭部にぶつかると、今度は重力に戻されるまま巨人の背中に正面から叩き付けられた。


「……な、何で……どうしてこんなコトに……」


 ガッシリと組み合った怪物と巨人。

 赤い瞳と蒼の瞳が、僅か2メートルに満たない距離で睨み合う。


「お、俺はただ――」


 涙と鼻水、そして今し方ぶつけた拍子に流れ出た鼻血で顔をグシャグシャにしながらも、少年は食いしばった歯の間から何かを呟こうとするのだが――


 ズシィンッ


 怪物と組み合っていた巨人が突然左脚を引き、怪物の力を逸らすようにその巨体を左後方へといなす。

 それまでの上下や前後の振動ではなく、突如齎された横方向の遠心力に、少年の身体が再び地面と平行に浮き上がった。


「ぅんのおおおぉーー!!」


 突如自身の力を横に逸らされた怪物は、転がるように地面に投げ出され、しかし直ぐさま起き上がり二度目の咆哮を轟かせる。


「ゴォガア゛ア゛ア゛アアァーーーッ!!」


 そこから先は、壮絶な肉弾戦の始まりであった。


 速度で勝る怪物の爪が巨人の装甲を徐々に削り、膂力で勝る巨人の拳が怪物の躯を打ち据える。

 大きく硬い爪が鋼鉄の装甲を切り裂き、周囲には細かく削れた金属の塊が、まるで墓標のように続々と黒い地面に突き刺さる。

 分厚い拳装に覆われた巨人の拳は怪物の身体にめり込み、怪物の筋肉を押し潰し、その内部にある野太い骨を軋ませる。

 無論その激しい攻防の余波は、背中に居る少年にも齎された。


「俺はただ、“料理”をしにきただけなのニイイイィィーー!!」


 そんな激しい攻防の最中にあって尚、少年はその手を放さない。放せない。

 もし今その小さな手を放し、空中に放り出され地面に落下しようものなら、とても無事では済まないだろう。

 しんば足の骨折程度で済んだとしても、地面に降り立った次の瞬間には、怪物と巨人の戦闘に巻き込まれ、血肉も骨も纏めて挽肉ミンチにされるのがオチである。

 少年にとってそのような結末は、とても受け入れられるものではない。


 ――否。


 そもそも、今ここで彼が巨人から手を放そうものなら、“この戦闘自体が成り立たなくなる”。幾ら鋼鉄で造られた巨人と言えど、動けなければただ蹂躙されるのみ。

 現在戦闘を続ける両者にとって、塵芥ちりあくたにも等しいこの少年の存在は、実の処この戦闘において必要不可欠な存在でもあった。


「“もうやだーー!! だぢげでがーぢゃーーん!!”」


 それは、この世界に生まれ落ちて僅か十年程の少年が発した、魂からの叫び。

 だが、非常に残酷な事に、その時彼が思わず発した“日本語”を理解できる者はこの周囲には……いや――


 この“世界”には、ただの一人も存在してはいなかった。


ある程度書いたら一気に投稿しようと思います。

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