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11-11 新ダンジョンに行ってきます。


 ――お姉様! お姉様!


 ……痛いです。ゲームだから我慢できるレベルに抑えられてるようですが、それでも痛いです。


 ――大変なのはわかりますのっ、でも動かないとやられますの!


 そう言ってぐりちゃんは私の体を引っ張ってくれますが、地面に転がった私の体は何故か力が入りません。

 指一本動かすのも億劫で、どんなに急いでものろのろとしか動きません。

 大きなダメージを受けるとこうなるんですね……。


 ――大変ですの!


 体は動かないので目だけを動かすと……先ほどと同じように、私に腕を向けてくるエレメントゴーレム。

 よく見ると、もう一つの腕は肘から先がありません。

 やっぱりさっきのは腕ごと飛ばしてきたんですね……腕が光ったのはロケットみたい燃えていたからですか……。


 ――のんきに考えてる場合ではありませんの動くですのー!


 私も動きたいんですが、でも間に合いそうにありませんし……。


 ――諦めちゃ駄目ですの! ギリギリでも避ければ何とかなるですの!


 ……でも……。


 ――でもも何もありませんの! こんなところでやられてはダメですの!


 ……そうではなく……。


 ――なんなんですのー!


 ……動かないほうが、皆さんやりやすいと思うので。


 ――いいから皆さんがっ……皆さん?


 そして、再び飛んでくるエレメントゴーレムの腕。


ドガンッ!


 その腕はロロさんの射撃により打ち落とされ、


「アースニードル・デュアルアタック!」


 エレメントゴーレムの足を貫き、その両足を地面に縫い止め、


「爆裂矢・二連!」


 炸裂する二本の矢が、その身に纏う炎を払い、


「疾風切り!」「瞬速突き!」


 その瞬間を僅かにも逃さず切り裂く剣と突き抜く槍に、エレメントゴーレムは大きく仰け反って攻撃を中断しました。

 

「メガヒールウォーター・透っ」


 その様子を見ていた私の体は、エリスさんに抱き起こされつつ染み渡るように流れてくる魔力に癒やされていました。

 ひんやりとものすごく優しい感じで本当に心地いいですね……回復魔法ってこんなに良いものだったんですか……。

 あっという間にさっきのだるさが消えて、すぐに動いても問題なさそうなほど回復しました。


「ありがとうございますエリスさん」


「いえいえ~」


 立ち上がりつつお礼を言って、私も早く戦闘に、


「イオンさんダメですよ! いくら回復したからってすぐに全快になるわけじゃないんですから!」


「そうなんですか? 攻撃に当たる前と、あまり変わらない気がするんですけど」


 言われてみればポーションはゆっくり効いてくる感じだったですね。飲んだ直後に全ての効果が出るわけではなく、体に浸透するようにゆっくりと効果が出てきます。

 じゃあエリスさんがすぐ効果が出るようにアレンジしたんですね。多分。


「鑑定上はグリーンまで戻ってますよ~。でもすぐには無理しないほうがいいと思います~」


「エリスさんの回復、効果出るの速すぎですよ! え、ていうかイオンさんの体力も低すぎなんじゃないですか? なのによくあんなの食らって生きてましたね……」


 私もそう思います……。


「ウィンドアーマーが効いてたようですし~大薙ぎで僅かに弾いてたからですね~。正面からまともに受けてはいないようでしたので~生き残ったんじゃないでしょうか~」


「……はい? エリスさんそんなの見えてたんですか? ていうかイオンさんそんなことやってたんですかっ!?」


「話し方はのんびりですが~スピードについていけないわけではありませんので~」


 そう言ってにっこり微笑むエリスさん。

 こんなときでもいつものゆったり感ですが、行動そのものは決して遅くありません。

 ここまでの道中、状況に合わせて次々魔法を放ってましたが、タイミングが遅いことは一度もありませんでした。


 アヤメさんは詠唱時間を長くして一撃を強くすることが多いですが、エリスさんは逆が多かったように見えました。

 妨害が間に合わなければダメージが増えますし、回復が間に合わなければやられてしまいます。かといって速さばかりに気を取られて回復量が少なくても意味がありません。その辺の案配がものすごく上手なんだと思います。


 でもまさか大薙ぎを使ったことまで見られてるとは思いませんでした。

 私もほとんど反射的に使いましたし、まともに振り切れませんでしたので。


「あのままイオンさんがまともに攻撃を受けてたら~私たちも巻き込まれてましたので~。なのに狙いが逸れたのは~何かしたからに違いありませんから~」


「えぇぇぇぇあの一瞬でそこまでですかぁ……ホントわけわかりませんよ……」


 そもそも狙われてたのは私ではなかったはずです。腕の方向はに私より下に向いていたように見えたので。

 それに気付いて『おかしいな?』と思った次の瞬間には攻撃が飛んできて、このままでは避けきれない。でも何とかしようとして、反射的に槍を振ってしまったという……。

 なので考えてやったことではなくたまたまです……。


 ――結果的にはよかったかもしれませんが、でもあんな危険なことは禁止ですの!


 私だってしたくありません……。


「それはそうと戦闘に戻ります。さすがにもう全快したと思うので」


「あ、そうですね。のんびり聞いてる場合じゃありませんでしたっ」


「アースシールドっ。防御魔法は自分の分と重ねがけできますから~これでもう少しマシになるはずです~。でも無理しちゃダメですよ~」


 私の前に盾のように浮かぶ防御魔法をかけてもらって、今度こそ戦線に復帰です。


「ありがとうございます。行ってきますね」


 私が吹き飛ばされてすぐ全員からフォローして頂きましたからね、今度は私が頑張る番です。

 居なかったのは僅かな時間だったはずですが、それでも結構荒れてました。


「あのロケットパンチきついなおい!」


「速いし飛距離あるし攻撃力あるし、ホント最悪ね!」


「バルガス何発耐えられる!?」


「全快でも回復無しでは二、三度が限界ですね。ロロさんのおかげで何とかなってますが」


 エレメントゴーレムの攻撃は、あの肘から先を飛ばしてくるパンチが主体になったようです。

 数は少なくても威力が大きく遠くまで届き、防いでもダメージがある。

 そして残った本体に攻撃しようにも全身が燃えているせいで、そのまま攻撃したらこちらがダメージを負う。

 なんとも厄介です。


 ですがそれなら、私のすることは決まりました。


 今また腕を持ち上げ、飛ばそうと構えるエレメントゴーレム。

 その腕に向け、真正面から突っ込んでいきます。

 そして肘の辺りが光った瞬間、


ガィン!!


 思い切り体をひねってギリギリを避けると同時に真横から槍で切り払い、パンチの軌道を逸らしました。

 飛んでいく先はもちろん誰も居ない方向。私も含め、今度は誰にもダメージはありません。


 やっぱりです。真正面から受けるのは無理ですが、横から叩けば簡単に方向が変わります。

 特に私の武器は『衝撃攻撃』の効果がありますので。小さな衝撃でも対象物に支える物、衝撃の逃げ場がなければ効果は大きいはずです。さっきまともに振れなくても攻撃が逸れてくれたのは、これのおかげだったんだと思います。

 今日は大活躍ですね。あのとき合成しておいて本当に良かったです……。


 ――言ったばかりなのにもう危ないことしてますの!


 避けられるとわかってましたし、弾けることも予想できてたので無謀というほどでは……。


 ――ウィンドアーマーを使ってませんの! それと最初からギリギリすぎますのもうちょっと大きく避けるですの!


 あ、すること自体はいいんですね。


 ――私のお姉様がこの程度できないはずありませんの。でも対策と用心をしないのは別ですの!


 …………。


 ――なんですの、静かになって。


 ぐりちゃんに認めてもらえて、嬉しいなぁと。


 ――そういうことはもっとゆっくり聞きたいですの!


 そうですね。それじゃ戦闘を頑張りましょうか。


 ――行くですの!


 攻撃を逸らせるとわかれば、あとは繰り返すだけです。

 一度飛ばした腕はまた飛んで戻ってくるのですが、当然戻るまで腕からの攻撃はありません。

 それに腕は片方ずつ飛ばしてくるため私一人でも十分対応出来ます。

 となれば、私以外は攻撃に専念できます。


ドガンッ!


 ロロさんの攻撃がエレメントゴーレムを大きく揺らします。

 ボスが本気になってから、あの威力のすごい銃に持ち替えたロロさん。

 先ほどまでは腕を逸らすことに使われていましたが、やっぱり攻撃に使ってこそですね。

 それに命中した直後は若干炎が弱まるようです。


「全力アタックいくぞ!」


「まだ早いでしょ!」


「ロロが倒してしまうほうがな!」


「それは間違いないですね」


「あーもうわかったわよ!」


 炎が弱まる隙を突いて、ロロさんに負けじと攻撃に専念するプルストさんたち。

 ロロさんの攻撃であれだけボスがよろめいているので、一際ダメージを与えているのは間違いないですからね。プルストさんがそう言うのも無理ありません。


ドガッ、ガン!


 そうこうするうちにまたロロさんの攻撃がまた当たりましたが……今度の音は何か違いましたね。

 よく見れば胸の辺りが大きく抉れて……何でしょう? 何やら赤く光る球のような物が見えています。

 どうもさっきの一撃でエレメントゴーレムの体が割れてしまって、それで見えるようになったようですが……。


「どう見てもコアだよな」


「弱点にしか見えないね」


「狙ってくださいと言わんばかりです」


 私でもそう思います。

 そういえばロロさん、最初から一貫して胸の辺りを攻撃していたような……。


 ……もしかして、何かがあるって見えてたからでしょうか?


 ――魔物の擬態も見破ってましたし、あり得ない話ではありませんの。


 しかも先ほどまで攻撃一辺倒だったエレメントゴーレムが、その赤い球を隠すように両腕でガードしてます。

 エレメントゴーレムにとって重要な物であるのは間違いなさそうで、あっ、穴が塞がり始めてますっ。


 回復なんてさせませんよっ!


 防御のことなど考えず、エレメントゴーレムに向けて真っ直ぐ加速。

 そう考えたのは、当然私だけではありません。


「アースバインドっ」


「爆裂矢!」


「瞬速突き!」


「アースニードル!」


 四人の攻撃が足に集中し、エレメントゴーレムの体勢を崩します。


「ヘビースラッシュ!」


 そこに突っ込み、全力で右腕を切り払うプルストさん。


「大薙ぎ!」


 私は急降下と同時に左腕を弾き飛ばし、


ドガンドガンドガン!!


 がら空きになった赤い球を、ロロさんの三連射で破壊しました。

 キラキラとガラスのように飛び散っていく赤い球。

 その輝きが消えていくのに同調するように、エレメントゴーレムも光に包まれ消えていきました。


「いよっし!」


 ガッツポーズして手をうち合わせるプルストさんとキイさん。

 どうやら、倒せたようです。


「ロロさんすごーい!」


「ホントええとこもってたなー」


「素晴らしいです~」


「ロロさんホント凄いですね無茶苦茶ですねありえないですね!」


 女性陣にもみくちゃにされるロロさん。

 口元が緩んでるのでロロさんも嬉しそうです。


「ロロさんありがとうございます。今日も本当に凄かったですね」


 地上におりて私も加わります。

 ロロさん最初からずーっと同じ場所を攻撃してましたよね。効果が見えないのに諦めないで最後までやり通して、やっぱりロロさん格好いいです。


「いやいや凄かったで言うならイオンさんも相当ですから!」


「いえ足を引っ張っただけでは……」


 一応、膝カックン(こう言うと間の抜けた感じがしますね……)は良いことだったようですが、私がしたと言えばそれくらいです。

 それよりボスが本気になると同時に大きなダメージを受けてしまったので……。


「確かにロロさんが見つけたエレメントゴーレムの弱点は重要ですけど、アレを叩けるのはごく一部の人だけです。でもイオンさんがやった膝カックンとロケットパンチの対処法は頑張れば誰でも出来ます。この差はものすごく大きいですよ!」


 そういえば膝カックンはすぐにナイツオブラウンドの皆さんもすぐに真似してました。あれから凄く順調になったようですし。

 腕の攻撃……ロケットパンチでいいんですか? も、タイミングは難しいかもしれませんが強力な攻撃は必要ありません。


 それに対してロロさんが見つけた弱点は、ものすごく強い攻撃をひたすら一カ所に集中させる必要があります。

 しかも体は炎に包まれてるので、何か目印があるわけではありません。

 狙うだけでも難しいうえ、そんな強い攻撃を出来る人も限られます。

 確かに、万人向けではありません。


「それに初めて戦うボス戦で瀕死になるなんて当たり前です。バルガスさんもプルストさんも何度もレッドに入ってましたよ。だから気にすることないです。一回瀕死になったくらいで足を引っ張ったとか言ってたら、アッチなんて大半が引っ張ったことになりますよ」


 アッチ、の方向にはナイツオブラウンドの皆さん。

 今も二人、後方で回復中の人が居ました。


「手段があれば速攻撃破できる弱点の発見と、誰でもできる攻略パターンの基礎の発見。どーして二人ともそんなことしちゃうんですか! ホントに私と同じ鳥族ですかぁ!」


 そ、そう言われましても……。


「そんなに言うならこっち手伝ってくれ。もうすぐ発狂だから活躍し放題だぞ」


「お、手を出していいのか? ロロのおかげで楽できたけど、ちょっと物足りなかったんだよな」


「私ももうちょっと戦いたいかな」


「最近鈍ってる気がするので、喜んでお手伝いしましょう」


「そっちの下がらせんとまとめて吹っ飛ばすぞー」


「回復はそちらでお願いしますね~」


「今度は私も前に出ますからね! 少しは戦わせてくださいよ!」


 マスグレイブさんの誘いに皆さん乗り気ですね。


「私も、今度は当たりません」


 もちろん私もです。

 大きなダメージをもらってご迷惑かけましたし、戦線から少し離れてしまいました。せめてもう少し……。


「次は、もっと速く穴を開ける」


「「「「「「…………」」」」」」


 ロロさんのその言葉に、エスの空気が一瞬凍りました。


「……なんでお前らそんなやる気出してんだよ」


「なんでも何もないだろ。当たり前だろ」


 プルストさんの言う通りです。


「ロロばっかり面白いことしてんだぞ。俺だって戦いたいんだよ!」


 その言葉に全員で頷きます。

 さっきのはほとんどロロさん一人で倒してしまったようなものです。

 つまりせっかく強いボスと楽しい戦闘をしてるのに、それを独り占めされたということですっ。


「……渡さない(ボス素材を手に入れたらレイチェルが今回の弾代半額出してくれるってメール来たからねっ。このまま行けば半額確定だから、私だってもっと撃ちたいもん!)」


「そいつはこっちのセリフだな」


 私もです。


「……そか。まぁ頼むわ(こいつら、ホント頼もしいなー)」


「おう!」


 プルストさんの声と同時に、全員攻撃を開始ました。

 今度は私もダメージを与えることを考えましょう。

 そう心に決めて、エレメントゴーレムに向けて飛び立ちました。


「いや私はそこまでヤル気じゃないんですけどっ!? 前衛やりたいって言いましたけど真っ正面じゃなくて横からでもいいかなってだからホント引っ張らないでくださいよまともに食らうとヤバいんですけどってあっつ、あっつい! ホント危ないんで死んじゃうんでぇぇぇぇぇぇ!!」





はい、皆さん予想通りのロケパンでした。

ゴーレムにはこれをさせたかった……!


あ、4/1ネタはありませんのでご容赦ください。


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