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11-9 新ダンジョンに行ってきます。

申し訳ありませんまたしても一日空いてしまいました……。



「先ほどまではどうなることかと思いましたが、もう対応してしまうとは。いやはや、さすがとしか言いようがありませんな」


 素直な驚きと共に『感服しました!』とまで言い出しそうなウォーレンの言葉だが、この場にいるほとんどの人間は似たようなことを考えていた。

 一言で纏めればこうなるだろう。

 『こいつらすげえ』、と。


「ほらほらっ、もっと来いよっ!」


 挑発の声に乗って真っ直ぐ突っ込んでくるフレイムドッグに対し、こちらも突っ込んでいくプルスト。

 そしてフレイムドッグが飛びかかろうと、足に力を込めたその瞬間。


「疾風切り!」


 プルストの術スキルが発動。完全に攻撃態勢だったフレイムドッグは今更避けることも出来ず、袈裟に振られた斬撃を正面から食らってやられていく。

 だが息つく間もなく次が向かってきた。

 正面から二匹。しかも突っ込みながら剣を振り切ったせいで、今度はプルストから飛び込んでいく形になってしまっている。

 だがその状況に慌てる様子は全くない。

 それどころかさらに大きく踏み込み、


「ぉ、らあっ!」


 振り下ろしたままだった剣を切り上げ左の一匹を切り捨てて、


「逃がすかよ!」


 慌てて方向転換しようとするもう一匹をすれ違うと同時に切り捨てた。


「なんだ、慣れれば大したことないなっ」


 先ほどまでの警戒はどこへ消えてしまったのか、どこか獰猛な表情をして次の魔物に向かって行くプルスト。

 しかも接触ダメージのことなど一切考えていないように動き回っているのに、本人の動きからは全くダメージを感じられない。


 それもそのはず。一度目の休憩以降、フレイムドッグの攻撃範囲ギリギリの距離からスピード重視の術スキルで攻撃を組み立てる戦法に変更。接触ダメージをもらう前に撃破しているのだ。


 確かに炎に包まれている相手に接触したらダメージは確実だが、直接触れなければ熱いだけ。至近距離でじっとしていれば炎に炙られダメージが入るだろうが、一瞬であれば問題ない。

 だったらダメージを食らう前に相手を倒して炎から遠ざかればいいという、実にシンプルに考えた結果だ。

 素早く動き回る相手に対して正確に間合いを計り、そして確実に攻撃を命中させる技術があるからこその戦い方だった。


「へー、んじゃそっちにもっと回してあげるわ。瞬速矢・二連!」


 こちらは少しでも矢を燃やされないように、矢速重視の攻撃で魔物を追い込んでいくキイ。

 防御力の高いレッドボーンには効果の小さい攻撃だが、フレイムドッグはその接触ダメージ能力があるせいか防御力は低いらしく、十分なダメージを与えていた。

 ダメージを負ったフレイムドッグは慌てて方向を変え、前衛の元へ強制的に転進させられる。


「私のところには来なくてもいいんですが、仕方ありません、ねっ。旋風槍!」


 一部はプルストの方向へ、もう一部はバルガスへ向かったフレイムドッグたち。

 だがバルガスに攻撃できたものは、そのうちのごく一部だけ。

 第一陣を盾で防ぎ、続く攻撃は受け止める直前に大きく振るわれた槍に切り裂かれ、それでも残ったものは返す槍で止めを刺される。

 相手の動きを完全に把握し、攻撃も防御も自由自在といった様子を見せていた。


 そしてキイにより方向転換させられたフレイムドッグたちは、バラバラに走っていたはずがいつの間にか一カ所に集められていた。


「アースニードル・デュアルアタック! あーやっぱ土系は調子出らんなぁ。これ地味やし」


 十分に集まったところでアヤメの攻撃魔法が発動。

 ぼやきが漏れたアヤメの魔法だが、地面から生えた多数の土錐はそのほとんどが命中。

 僅かに生き残った魔物に対してのぼやきだろうが、それでもほとんどが瀕死である。

 発動タイミングといい消耗を抑えるために調整したギリギリの威力といい、結果としては十分なものであろう。


 だが魔物もただ眺めているわけではない。

 レッドボーンたちがようやく準備できたと火矢を構え狙いを付ける。

 その狙いはアヤメたち後衛、防御力の薄い者たちを狙ったものである。

 いや、さきほどまで狙っていた、と言うべきだろう。発射の直前、全く違う方向へと狙いを変えていた。


「アースウォール・二重(ふたつがさね)。やっぱり見かけは重要ですからね~、アクアヒール。攻撃魔法は特に~、アースバインド」


 雑談のついでのように発動される防御、回復、妨害魔法。

 二重という言葉(アレンジ)で放たれた防御魔法は、しかし言葉とは違い二枚を別々の位置に配置。

 しかも発動場所は味方付近ではなくレッドボーンたちの左右両側。二方を塞ぐように発動されていた。


 ウォールと名の付くことから想像できる通り、土属性の障壁を作り出して相手の攻撃から身を守るための魔法である。

 そんなものを魔物の周囲に発動させるなど、通常であれば全く意味のない行為にしか見えない。

 だがレッドボーンに対しては別の意味を持っていた。


「こっちにもほとんど飛んでこないし、こりゃ楽だな」


「犬だけなら火球の数も少ないですからね、防御のしがいがありません」


 レッドボーンは防御魔法に対して優先的に反応するため、後衛に向けていた狙いをあっさりと変更。障壁に向かって攻撃を始めた。

 そうなれば当然、こちらに飛んでくる矢は激減する。


「感心してないでフレイムドッグを倒してしまいなさいっての」


「わかってるよっ」


 その言葉通り次々と倒れるフレイムドッグ。

 全て倒されるのが時間の問題であることは、疑いようがなかった。




 その状況を後方から眺めている、マスグレイブとウォーレン。

 さらに後方には背後を警戒するためランドルフ隊、前方には回復中のウォーレン隊があり、二人はその中間。小さな声であれば、どちらにも届きにくい位置だった。


「素晴らしいですな。先ほどの休憩はこのためだったのですか。よほど綿密な打ち合わせを行ったのでしょうな」


 期待以上の光景に感嘆の言葉を紡ぐウォーレン。

 他の団員にも、同様の考えが広まっているようだった。


「いや、攻略についてはそれぞれ一言二言程度しか話してなかったな。ドーナツ食ってるやつだっていたし」


 だがマスグレイブはその一部をあっさり否定する。ついでにユルい一面も加えて、出来上がりそうになっていた理想像を壊しておく。

 夢を見るのは構わないが、ここには現実を知りに来たからだ。


「なんと。ではあの見事な連携は……」


「そうだな……各々がその場その場で最も適した手段を選んだ結果、全体が最適化されて全員が連携しているように見える、ってところか。仲間の動きを見て、次は“ああなる”から自分が“こうしたら”戦いやすいっていうのをひたすら続けてるんだ。自分勝手にな」


「それは……魔物の動きを見て行動を予測し迎撃するのと同じく、仲間の動きを予測して行動している、と? 相手に確認もせず、自分の判断で」


「多分あってる。そんな感じだ」


 実のところは連携ではなく、ただ自分たちが好き勝手しているだけ。

 ウォーレンはそのことに考えが至りつつも、まさかという念がぬぐえないようだった。


「言葉を使って自分の考えを仲間に理解してもらうよりも、行動して無理矢理に理解させる(・・・)ほうが手っ取り早いし、何か言われる前に動いて終わらせてしまえば邪魔も入らない。敵とか味方とかじゃなく、自分以外は全て戦場の一部みたいに見てるんじゃないか」


「周囲のことを見て考えるのは、あくまで自分の戦いのため……」


「自分が動けばそれを見た仲間がまたそれに合わせて勝手に行動する。好き放題してんのに繋がってるから連携してるように見えるんだ」


 マスグレイブはウォーレンのその考えを、真っ正面から肯定した。


「でもやってることは特別なことじゃない。術も魔法も普通だろ? 互いのかけ声は巫山戯たものばっかだし」


「確かに……」


 そして落ち着いて戦いを見られるようにも誘導する。

 知って欲しいのはBBSに書かれているエス(ウワサ)ではなく、目の前のエスなのだから。


「もし他より優れているとしたら……全体の動きを把握する広い視野、無茶な考えでも確実にやってのける度胸。あとはどんな状況でも好き勝手する図々しさ、ってところか。言っとくが反射神経とか剣の腕には触れるなよ。それは個人のリアルスキルだからな、真似できるもんじゃない」


 冗談めかした言葉で纏める言葉だが、ウォーレンはそれも含め深く受け止めていた。

 思えば、以前はもっと冗談を言い合う気軽さがあったことを思いだしたからだ。


 ナイツオブラウンドというクランは、その名の通り騎士団をイメージしたクランである。

 ウォーレンやランドルフのような各隊の隊長の下、いくつもの部隊が日夜訓練に励んでいる。


 そしてそういった組織であれば、基本的に上官の命令に従うよう指導されるのが常である。

 ゲームの中でまで厳しい指導はしないと思うかもしれないが、逆にロールプレイとして受け止める者がほとんどなので、実際にはそこそこ厳しい訓練でも受け入れられている。

 合わない者はクランを去って行くだけだからだ。


 上官の命令に従い指示通りの働きをし、想定通りの戦果を挙げる。

 何度も行われる訓練からゲームとは思えないほどの練度を見せ、同じレベル帯のパーティ以上の結果を出す。

 それがナイツオブラウンドの戦い方である。


 だがそういった性質のクランのため、想定される状況に対しては確実な戦果を挙げるが、想定外の状況では途端にもろさを見せる。

 隊長は全ての事態に的確な指示をを出せるわけではないし、仮に出せたとしても団員もその指示を確実にこなせるとは限らない。

 そして団員が良案を思いついたとしても、それを採用するかどうかは隊長次第。

 決められた役割を決められた行動で実行するパーティは、どうしても突発的な事態に弱くなってしまう。


 それはここ、ブレイズロードの初回攻略時もそうだった。


 当初は順調に攻略が進んでいるように見えたが、進むごとに消耗が増える一方の状況。

 戦術を変えることができれば対応出来たかもしれないが、小さな変更ではなく大きな変更を余儀なくされるため、どうしても失敗する恐れが大きい。

 そう考えそのまま進んだが、結局は消耗が上回り攻略は失敗。


 想定通りの戦果を挙げる戦い方は、想定通りの損害も受けるということ。

 一方を変えたければもう一方を変えるしかない。

 それが出来なかったから、攻略は失敗した。


 だからこそ、ウォーレンはエスの戦い方を見たかった。

 ゲイル山の攻略にはそれこそ何度も挑戦した。

 消耗の大きなポイントを洗い出し、それに対応する訓練を重ね、そしてようやく攻略に成功した。


 だがエスが攻略に費やした回数は、たったの一回。

 事前情報があったとはいえ、それなら二回目以降の自分たちも同じ条件。

 むしろボスの情報については皆無だったにもかかわらず、エスは攻略に成功した。


 攻略したウォーレンだからこそわかるが、ゲイル山を攻略するためには高すぎるレベルは必要ない。

 状況に応じた適切な対応さえ行えば、どこのクランでも順調に進むことができるだろうと考えていた。

 だがその“状況”がわからないはずの一回目でも攻略したエス。

 ウォーレンは、めまぐるしく変わる状況にどうやって対応したのかが知りたかったのだ。


「自分たちはあまりに型にはまりすぎていた、そして思い切りの良さも欠けていたということですな……」


 型にはまった戦い方は、形通りであれば有効だが全ての場面で通用するわけではない。

 状況に応じ形を変える力、それを実行する意志の強さが必要だと、ウォーレンは考えた。


「まぁ間違ってないがな。だがアレは参考にするなよ」


 と、そこに釘を刺すマスグレイブ。


「重要なのは状況によって柔軟に形を変える、ということだけだ。その形はクランによって異なるし、うちの場合なら隊によっても変わってくる。俺たちがするのは隊に合わせてその形を増やすことであって、他人の形を真似ることじゃない」


 あいつらのは不定形生物レベルだと、今度も冗談めかした言葉で言う。

 その言い方は、深く考えすぎるなとも言いたそうであった。


「あれはエスの戦い方だ。俺たちには俺たちの戦い方がある。どっちが上かなんて考えてる暇があれば」


 そこで一旦言葉を句切り、


「レベルも技術(リアルスキル)も上げて叩きのめせばいい。魔物も、プレイヤーもな」


 ウォーレンの目を正面から見据え、言葉を叩き付けた。


「……気付かれてましたか」


「当たり前だろ。最近じゃ業務分担を進めていろいろ任せるようにしてるが、一応リーダーだからな」


 ウォーレンは裏表のない人物だ。

 そのわかりやすく明るい性格は団員から慕われているし、細かいことを気にせず突き進む姿は団員を勇気づける。

 だが同時に悪い意味での脳筋でもある。

 ゲイル山の攻略に手間取ったうえブレイズロードの攻略に失敗したのは、ウォーレンの采配が悪かったという声が上がったのだ。


 なぜ矛先がマスグレイブではないのかと言えば、ここしばらくの攻略はウォーレンが担っていたからだ。

 マスグレイブは新人教育を担当していたため、実は前回の攻略には参加していない。

 報告内容の確認も兼ねて一度ダンジョンの下見に訪れたので全くの初見ではないが、進んだのは入り口が見える範囲までだった。


 攻略失敗が続いたことから発生した、ウォーレンに対する不信の声。

 ウォーレンはどうしたものかと普段あまり使わない頭を使った結果、自分たちとは全く方向性の違うクラン、エスを見たいと考えたのだ。

 その相談を受けたマスグレイブの感想は『迷走してんなぁ』というなんとも身も蓋もないものであったが、うまく舵取りできれば良い方向に進むと思い、エスに相談を持ちかけることにした。


 そしてそれは、今のところうまくいっているようだった。


 明後日の方向に進もうとしていたウォーレンは霧が晴れたようだし、そして目の前の光景を見て自分たちもエスのようになりたいと考えていた団員たちも、徐々に我に返っているようだった。

 いくらエスだろうといつも無敵ではないし、かと思えば即座に対応してみせるその力はとても真似できるものではない。

 他人ばかりを気にしていた者たちが自分たちの戦い方というものをもう一度考える、いい機会になったようだった。


「一応などと。私は今後もずっと、団長に付いていく所存ですぞ」


「暑い場所で暑苦しいこと言うな」


「団長への尊敬は一層大きくなりましたからな、それは無理というものです!」


 霧が晴れた結果テンションの高くなったウォーレンを見た第一感想は、『やり過ぎたか……』という、これまた身も蓋もないものだったが、冗談を自分から言い出せるくらいに回復したことには安心したのだった。


「ですが何故業務分担を進めているのですか。確かに管理すべき事は増えていますが、決裁権まで他の者に渡さずともよかったのでは」


「それか。前置きしておくが、マイナス方向の意味はないからな」


 何やら不安を煽るようなことを言いつつも、マスグレイブの言葉は続いた。


「人によって考え方は違うだろうが、俺は誰か一人が抜けたら崩壊してしまう組織は駄目だと思っている。だからもし仮に俺が居なくなったとしても、クランが存続できるようにしているだけだ」


 今でこそ規模の大きなナイツオブラウンドだが、もちろんその始まりは小さいクランからのスタートだった。

 当初は事務作業にも強かったマスグレイブがパーティの財布を管理するだけだったが、次第に管理する項目は増えていった。

 資金や装備の管理、クランの拠点設備の拡充に新メンバーの面接等々。

 クランが巨大化していくにつれて、それを管理するマスグレイブの重要性も増していった。


 だからもし何らかの理由でマスグレイブが居なくなってしまえば、クランの運営には多大なダメージとなってしまう。

 後のことは知らんと言い切るリーダーだったら気にもしないだろうが、生憎マスグレイブはそう考えることはできないらしかった。

 とはいえウォーレンよりも先に疑問を持った者に対しては、


『ケツの拭けない大人になりたくないだけだ。いや立つ鳥跡を濁さずのほうか。まどっちでもいいがクランが心配とかよりも後で叩かれたくないっていう、ただの保身だな。言っとくが失踪するフラグじゃないからな』


 などと軽い調子で言ったとか言わなかったとか。

 いずれにせよマスグレイブは攻略担当や事務担当を決めて仕事を割り振り、万が一があってもクランが正常に機能できるように業務分担を進めているのだ。

 社会人経験の無い者にはピンと来ない話かもしれないが、経験の有る者は『なるほど』と思うだろう。そのあと納得してくれるかどうかは別にしても。


 そしてここはBLFOというゲームの中。

 社会人はもちろんだが学生だって相当な人数が参加している。

 かくいうウォーレンもその一人である。見かけと喋り方から、どうしても年上(おっさん)に見らてしまうようだったが。


「社長が死んだら潰れるとわかってる会社に就職したいか? そういうことだよ」


「なるほど……」


「今やってる教育ももうちょいしたら担当に譲る。他にもいくつかあるが……まぁいつまでも攻略から離れるわけじゃない。戻ったらガンガン進めてやるからな、覚悟しとけよ」


「望むとことろですとも!」


 いい返事を言い表情で返したウォーレンを見て、これで話しは終わりだと言うようにマスグレイブは歩き出した。

 そのままウォーレン隊と合流。ウォーレンも追いついてきたことを確認し、全員に声を飛ばした。


「全員、見とれるのはいいがついでに目に焼き付けとけよ。そのまま真似することは無理でも参考にできる部分は多いからな。特にバルガスの防御と攻撃を切り替えはどんな状況でも役に立つ。ディフェンダーは真似するのはいいがいきなり実戦で試すなよ。絶対に失敗するからな」


「「はいっ!」」


「アタッカーはプルストとキイだ。二人ともスキル任せに攻撃してるわけではなく、一連の流れとして攻撃を組み立ててるからな。キイの弓も正確に狙ってるのはもちろんだが自分も動いて良いポジション取ってるからこその命中率だ。その動きをよく見とけ」


「「わかりましたっ!」」


「後衛……は参考にしづらいが一応見とけよ。エリスとアヤメのアレンジ魔法は見てるだけで参考になるからな。自分に使えるかどうかは別にしても」


「「了解です!」」


 エス全体として見ると難しいが個人ごとの戦技であれば見所は多数ある。

 エスの戦いを特等席で眺めることのできる、またとない機会。

 吸収できるところはさせてもらおうと考えるマスグレイブだった。


「ところでマスグレイブさん。二人抜けてるっぽいですけど、そのお二人は?」


「あんなん参考になるか。まともに見るのはどっちも初めてだが、無茶苦茶すぎんだろあの二人」


「ですよねー」


「何でイオンさんあの矢の雨ん中に平気で突っ込めるんだよ。防御魔法が囮になってると言っても結構な矢が飛んでるぞ。なのに全避けしてるし」


「一人だけ弾幕ゲーですね、ウィンドアーマーだって使ってないし。使うと狙われるからって怖すぎですよ」


「ロロさんはほとんど一発で倒してるよな。あの距離でクリティカル量産マシーンかよ」


「クリティカルポイントってホントにあるのかなーって思うことありますけど、ちゃんとあるんですねー」


「あんたが居なかったら、鳥族はあんなのばっかりかと思ってしまうとこだ」


「わーい、褒められてなーい」




◇◇◇




 気が付いたんですが、このダンジョンには一つだけものすごく嫌なところがあります。


 ――なんですの?


 暑いところです!


 ――そうですの……。


 ぐりちゃんは暑くないんですか?


 ――我慢できなくなったら器の中に入りますの。


 ではこのダンジョンに居るあいだは禁止ということで。


 ――何が『では』なんですの!


 妹は姉に付いてくるものです。


 ――姉は妹を気づかうものですわ。


 ぐりお姉ちゃんと呼んだらいいですか?


 ――!! ……悪くありませんわね……ではありませんわっ、危うく誤魔化されるところでしたの!


 残念です。それはそうと、


 ――わかってますわ。


「大薙ぎっ、ウィンドカッターっ」


 レッドボーンの集団に突っ込み大薙ぎで二体まとめて切り払い、集団を通り過ぎる際にウィンドカッターを放ち追撃を妨害します。

 ほとんどがエリスさんの防御魔法に意識を向けてるのでこちらに飛んでくる矢は少ないですが、全くのゼロというわけではありませんので。

 ですが今ので三体減ったので次からは必要なさそうです。温存しましょう。


 左右を防御魔法に挟まれたレッドボーンの一団。前後が開いてるのは私が攻撃するためですね。

 多分エリスさんのことなので四方を囲むことだって出来ると思いますが、そんなことしたら攻撃できませんし。


 最初は魔物を観察させてもらって、それから攻撃に入ろうとしました。

 ゲイル山では最初は後方から見てましたので、今回もそうしようと思ったからです。

 キイさんたちも最初は様子見なんですよね。前をプルストさんとバルガスさんに任せて。

 前に居る二人が戦闘の中心になるからでしょうか。最初から無理に割って入るより、二人の調子が出てくるまで待ってからのほうが、その後がスムーズになるからだと思います。


 それで様子見を終えて今度は私も攻撃をとなった際、よく知らない魔物なので念のためウィンドアーマーを使ってから飛びこもうとしました。

 大量の矢に狙われたので、結果は大失敗でしたけど。


 レッドボーンの正しい優先順位は、近くのプレイヤー→防御魔法→遠くのプレイヤー、になるようです。

 それは私に向かって矢が大量に飛んでくるはずです……狙われる要素しかありません……。

 なのでウィンドアーマーを使っていなくても攻撃後は素早く遠ざかる必要があります。と言っても反応する範囲は広くないので、攻撃直後に飛び去るだけでいいんですけどね。


 そんなことを考えつつも追加で二回攻撃。残りは三体です。

 早く倒してしまいましょう。でないと何も出来なくなってしまいます。


 ――あながち冗談でもないのが怖いですの……。


 溜め息交じりに言うぐりちゃんに釣られて、視線を向けた方向。

 それは今戦っている魔物の一団よりも、さらに奥から向かってきている魔物たちなんですが……。


ドンッ! ドンッ! ドンッ!


 アヤメさんたちの隣から聞こえてくる大きな音とほぼ同時に、次々倒されていく遠くのフレイムドッグ。

 もちろん音の発生源はロロさんです。

 レッドボーンは私だけで手が足りると思ったんでしょう。いくらか数が減ってきたところで狙いを替えて、さらに遠くの魔物を攻撃し始めたんですよね……。


「よし終わった次行くぞっ、てもうレッドボーン居ねぇ……ロロはもう次の集団倒し始めてるし……」


「急いでる感じはないのにすいすい進んじゃってるからハイペースに感じるわねー」


「新しい集団が来たころには結構数が減ってますからね。楽と言えばそうですなんですが」


「少なすぎでスッキリできんわ」


「どんどん暇になっていきます~」


 私が残りのレッドボーンを倒したのとほぼ同時、プルストさんたちもフレイムドッグを全て倒したようです。

 もちろんすぐに次の魔物に向かいます。今もどんどん数が減ってますし。

 私も行きましょう。




◇◇◇




 み、みんな倒すの速過ぎるよ!


 あれだけ数が居るのに平然と戦ってるから私が狙える魔物居ないし……エスの皆さん、本当にいつ見ても強いよね……。

 レッドボーンを撃つつもりだったけど、イオンさんが次々倒しちゃうから私必要ないし。

 こないだは素材採取が目的だったから倒さないように戦ってたもんね。すっかり忘れてたよ……。

 あれだけ避けて攻撃力もあるなんて、やっぱりイオンさん凄いなぁ。


 それで仕方なく遠くから向かってくるフレイムドッグを狙うことにしたけど……遠くのほうが簡単に当たるから、こっちが楽かな。

 隠れる場所ないから真っ直ぐ走ってくるしかしてこないし、火球の射程はそこまで長くないから私だったら撃ちたい放題。


 うぅ、何か私だけ楽してる気分……せめてもっと倒そっと。





このまま一日置き投稿になるフラグではないはず……。



Q:そのセリフがフラグじゃない?

A:ソ、ソンナコトナイデスヨー。


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