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11-7 新ダンジョンに行ってきます。

少々気分の悪い展開が入りますのでご注意ください。


「よぉ、今日はわざわざすまんな」


 声をかけてきたのはマスグレイブさんです。

 昨日は着てませんでしたが、今日はバルガスさんみたいな全身鎧を着てます。

 それから隣に同じような鎧の、こちらも体格のいいスキンヘッドの男性が一人。

 マスグレイブさんと並ぶと、本当にどこかの軍隊みたいです。


「突然押しかけて、ごめん」


「ロロさんもご苦労さん。レイチェルのせいだってわかってるから気にすんな。配置だが、一緒くたにして悪いがエスと組んでもらっていいか? うちと混ぜるのは難しいからな。プルスト、大丈夫か?」


「イオンも居るし大丈夫だろ。でも本来の趣旨からズレるけどいいのか?」


「いいってさ」


 言いながら視線を向けるのは、隣のスキンヘッドの男性。


「自分はナイツオブラウンドのサブリーダー、ウォーレンです。この度は自分たちの勝手な要望を聞き入れていただき、感謝の念に堪えません!」


 こちらのウォーレンさんが、今回勉強したいという要望を出した方でしたか。


「今回このような依頼をしたきっかけは、何よりも自分たちの対応力の無さを痛感したことからに他なりません。エスの方々の突破力はもちろん、そこにロロ殿という新しい要因を交えた際にはどうなるか、その対応力を学びたいのです!」


 真面目と言うよりは……堅すぎる感じですね。良い意味ばかりではなく。

 昨日マスグレイブさんが苦笑してた意味が、よくわかりました……。


「そんな気負わずにいこうな。力の入りすぎもよくないし」


「もう攻略に向けての心構えを伝授していただけるとは……ありがとうございます!」


「お、おう……まぁ、頑張ろうな」


「はい!」


 そんな深い意味なかったんだけどなぁという感じのプルストさん。もちろんエスの皆さんはどこか微妙な笑顔です。

 アヤメさんなんて小さく『こらダメやわ』と言ってます……。

 確かに、柔軟性には欠けてるのかもしれませんね……。


 ですが、少なくとも次に聞こえてきたような、


「さて、今の言葉にそんな意味などあったんですかね」


 内容は正しくても、嘲るような色を含んだ声を聞く理由にはならないと思います。


「ランドルフか、どういう意味だ?」


 声のほうに顔を向けてみれば、昨日、私やマリーシャたちを険しい顔で見ていた鎧の男性が居ました。

 改めて見るその鎧はウォーレンさんとほぼ同一の物。リード君の言ってた通り、ナイツオブラウンドの方のようです。


「ウォーレン殿は考えるのが苦手だと言っておりますが、だからこそ変な深読みをすることがある。言葉通りに受け取ることも、時には必要だと思いますがね」


「ぬぅ、さすが知将ランドルフ。この僅かな時間でそこまで理解するとは……」


 ウォーレンさんは堅すぎますけど、悪い人ではないと思います。

 考えるのが苦手と言ってるようですが、それでも考え続けることをやめないのは凄いことですし。

 しかもその結果、他のクランの力を借りてでも前へ進もうとするその姿勢。

 他人の言葉を受け入れて不器用にも噛み砕こうとするその姿は、間違いなく頑張っている姿に見えます。

 対してランドルフと呼ばれた方は……。


「しかし、ここまでする必要があったのですかな」


「何がだ?」


「他のクランと合同で攻略すること、それ自体です。確かに新しい戦術を取り入れることは重要かもしれませんが、一つ間違えれば我らがクランに悪い影響を及ぼすと考えます」


「だが今の我らでは難しいことも事実だ。だから」


「だからこそ、ですよ。今のウォーレン殿は攻略に失敗して弱気になっているのです。私としては、そんな状況で新しいことを取り入れるのは悪い影響に繋がり、今後の攻略にも支障が出ると思考しますよ」


「ぬぅ、わからんでもないが……」


 言葉そのものは正しいかもしれません。

 ただ、どうしてもその言葉から受ける印象は……相手を下に見ているというか、不遜な印象がぬぐえません……。


「しかもそれが強さにあぐらをかいてレベリングもしないクラン。中にはつまらないサブクエストで遊んでいるような者まで居るようですな。そのうえ連携する気のないワンマンプレイヤーまで一緒では……」


 ついに言葉自体も良くないものになってきました……。

 しかも……サブクエストについては、多分昨日の私のことですよね。

 遠目なのによくわかりましたね……普通のクエストなら依頼書に完了のサインをもらいますがそういうのは無かったですし、その辺から判断したんでしょうか?

 昨日のあの視線には、そんな意味が込められてたんですか……。


「ランドルフ、他のクランを貶めるような発言はやめろ」


「はっ、失礼しました」


「その言葉は相手のクランに言え」


「はい。先ほどの言葉は取り消します。私も攻略が進まず、苛立っていたようでした」


 マスグレイブさんに窘められ、一応謝罪されましたが……。

 ものすごく固い声に、機械のような頭の下げ方。

 形だけの謝罪って、こういうのを言うんですね……。


「それと何でここに居る。お前の隊は、今日こっちじゃなかったはずだが」


「団員と話し合って決めたのです。今のクランにとって最も重要なことは、新しいダンジョンを誰よりも先に攻略すること。そしてナイツオブラウンドの名を一層輝かせることであるとっ。それ故、我ら助力を申し出たく参じました。命令を無視したことについては我ら全員、どのような罰も受ける覚悟です。ですがっ、この団員たちの思いを僅かばかりでも汲み取って頂きたく、こうして参ったのですっ。どうか、ご一考くださいますよう」


 えっと……何やら聞こえのいい言葉が聞こえた気がしますが……要は、『上司の命令よりダンジョンを攻略したいのでこっちに来ました』ということを小難しく言っただけのような……。

 それに団員の希望を汲むのは良いことかもしれませんけど、なんの報告も相談も無しに現地にやって来てそれを言うのはどうなんでしょう……。


 母に『小難しいことを言われたときこそ冷静に考えるのですよ? 相手は煙に巻こうとしてるだけです。中身は大したことないことが多いですから、慌てず冷静に考えればすぐにわかるものがほとんどです』と言われてましたのでなんとかわかりました。

 ですかその結果がこうだと……あまり言いたくありませんが……。


 ――お姉様、はっきり言ってくれて構いませんの。


 報告・連絡・相談もできないのに自信ばかりが強い、イヤな上司ですね。関わり合いになりたくありません。


 ――少しはすっきりしましたわ。さすがお姉様ですの。


 …………。


 ――お姉様?


 いえ、言葉にしたので少し冷静になれました。

 第一印象が悪かったからこんな否定的な考えに至ったのかもしれません。

 言葉は言葉通り受け止めて、変な深読みはあくまで一つの考え方として、心に留めておくだけにしましょう。

 私たちに何らかの害があったわけではないんです。結論を急ぐ必要なんてありません。


 ――精神的苦痛があるですの。


 それがあちらの狙いだったらどうでしょう? イライラさせて、攻略失敗を誘発したがってるとか。


 ――考えすぎ……とも言い切れないですわね。この話しの流れだと。


 正直に言えば私も考えすぎだと思います。でも深読みしだしたらキリがありません。

 さっきも言いましたが結論を急ぐ必要なんてないんです。一旦決めつけてしまえば、そこから抜け出せなくなってしまう可能性があります。

 考えた結果は選択肢の一つとして用意しておいて、決め付けることはないように気を付けましょう。


 『慌てず冷静に考えればすぐにわかる』と母は言ってましたが、それはあくまで言葉の内容についてだけで、その人が考えていること、何をしたいのかの“答え”までわかるという意味ではないと思います。

 慌てずに考えることは出来たかもしれませんが、どうも冷静ではなかったようです。

 物事を深く考えるというのは、本当に難しいです……。


「さすがはランドルフ、なんと情に厚き男よ! 団長、自分からもランドルフの隊も今回の攻略に加えて頂きたく進言します!」


 ウォーレンさんはランドルフさんの言葉に感銘を受けたようです。

 言葉を素直に受け止めれば、自分のことよりクランのことを考え、部下の言葉を汲み取ったからこそここにいる、ということになりますから、無理もないかもしれません。

 何でも素直に受け止めるというのも、考えものかもしれないですね……。


「……まぁいいだろう。お前の隊は封印解除に尽力したのに、平均レベルが低いから前のアタックには加わらなかったしな。自分たちで開けたんだから新ダンジョンに入りたいと考えるのは当然だ」


「ありがとうございます!」


「ただし今回だけだ、次の命令無視は罰則だからな」


「はっ!」


「じゃあウォーレンの隊と出発の準備してきてくれ。それと漕ぎ手もお前の隊から出すんだ。船が定員オーバーになるからな」


「わかりました」


 そう言ってランドルフさんは、恭しい礼をマスグレイブさんだけ(・・)に向けてからウォーレンさんと船のほうへ行きました。

 残された私たちは全員でその背を眺め、距離が空いたところで、


「あー、本当にスマン」


 マスグレイブさんから頭を下げられました。

 その時間は一瞬だけで言葉も軽いものでしたが、内容としては十分すぎます。

 さっきのランドルフさんの謝罪と違って、しっかり気持ちが込められてるとすぐにわかりましたので。


「なんなの、アレ」


「まさか挑発したかったのか……? 終わってからでもいいなら買ううんだが」


「いろいろと気の毒な人なんですね~」


「頭を使ってるフリをしてもらうのも大変ですね。まさか本気で頭を使ってるわけではないでしょうが」


「あれ、燃えるゴミやんな? 燃やしてくれゆうフリだったんやろ?」


「せめて事故を演出してくれ」


 エスは全員微妙な表情……というか一部笑顔がコワイです……。

 あと事故だったらいいんですね……。


「マスグレイブさんも大変ですね……リーダーって大変ですよね……」


「そっちは可愛がられてるからまだいいだろ」


「私の扱いってまだマシなんだなぁと思いました……」


 メグルさん、クランではどんな風に言われてるんでしょう……。


「ロロさんもイオンさんも言ってやっていいぞ。遠慮なく」


「…………」


 無言のロロさんです……あれ、メール?


『ロロ:私は言われても仕方ないけどエスの人たちはいい人たちなんだからね! 数回しか会ってないけど私にだってわかるもん! 事故で暴発させて偶然当てたいよ……でも仮にも先生なんだからPKはしたくないし……何も出来なくてごめんなさい……』


 ロロさんも腹に据えかねてるようです。

 でも寡黙モードなのでアレコレ言うのは難しいと。


「ロロさんは怒ると黙るタイプなんじゃないですか? 私はグリーンに愚痴を聞いてもらったので大丈夫ですけど」


 なので助け船を出します。


「(うん)」


「そか。スマンなホントに」


「(ふるふる)」


 でもゲームの中でまで先生ということを忘れないって、ロロさん凄いですね。

 ゲームだから何をやっても、それこそ倫理を無視したようなことをしてもいいと考える人のほうが多いと思うんですが、しっかり現実の自分も意識できてるなんて。

 悪いことをするつもりはありませんが、私もこの世界では好き勝手してる側ですからね。見習わなければいけません。

 それと少し気になるので聞いてみたいんですが……メールのほうがいいですね。


『イオン:気に障ったらごめんなさい。一つお聞きしたいんですけど、さきほど出てきた『連携する気のないワンマンプレイヤー』というのは、もしかして?』


『ロロ:うん、多分私のこと。最近はずっとソロで動いてたけど、今の武器に変えてからすぐの頃は、まだ誰かとパーティを組むことがあったの。その中にランドルフさんが居たはずだよ。あの頃はまだ違うクランだったはずだから、ここで会って驚いたよ。私の戦い方って普通とはちょっと違うでしょ? だからどのパーティでも上手く連携できなかったんだよね。そのことを言ってるんじゃないかな』


 やっぱりでした。

 ロロさんの戦い方は私でもわかるほど特殊です。

 私が上手くいったのは相性が良かったからで、普通の戦い方の人がそう簡単に連携できるとは思えません。だからメグルさんも練習の機会を作ろうとしたんだと思いますし。


 ランドルフさんはなんだかやけに、自分は考えてますよ、という様な言い回しを使ってましたが、もし本当に頭が回るのならロロさんとの連携についてだって考えられるはずです。

 考えられるから連携が必ず上手くいくというわけではありません。ですが上手くいかなかった理由を考えることはできると思います。

 もし仮にロロさんとは絶対に噛み合わないパーティがあったとしても、それをロロさんだけの責任だと断じるのは随分身勝手というか、思考の放棄ではないでしょうか?

 確かにいろいろ考える人なのかもしれませんが、思考の方向は自分の前にしか向いてないのかもしれませんね……。


 っと、また釣られて変な方向に考えてますね。私も結構苛立ってるようです……。


 ――もう少しで声をかけるところでしたわ。お姉様が自分で気付いてくれて安心しましたの。


 次危なそうだったら遠慮なく声をかけてください。ダンジョンの中では戦いに集中すると思いますけど、それ以外は自信ありませんので……。


 ――わかりましたですの。


「あいつの隊は基本的に後方配置の予定だ。戦闘中の影響はないだろうし、俺も見張ってるから安心してくれ」


 マスグレイブさん、変な仕事まで抱えてしまったようですね。ご苦労様で……。


「もしかして、私ってこのために呼ばれました?」


 ……メグルさん?


「やけに報酬いいなーって思ったんですよねー。緊急依頼だからかと思えば、まさか外部監査と精神的苦痛に対する手当込みだったとは」


「第三者による監視ということですね。メグルさんは攻略情報の作成という立場上、魔物の動きはもちろん味方の動きもしっかり見ていますから。何かあればすぐに気付けます」


「どっちかというと牽制的な意味だけどな。まぁ俺も居るダンジョン内で手を出すようなことはないと思うが……第三者が居るかどうかで全く違うしな、こういうのは。あいつの隊でダンジョンに入りたいって話が出てるのは知ってたからな、念のために呼んだんだよ」


 ……つまり、メグルさんは何かあったときの証言役のような役割もあるということですか?

 そういえばエスを疑ってる人が居ると言うことでしたし……それがさっきのランドルフさんで、私たちの妨害とかをさせないように、第三者のメグルさんに立ち会いをお願いしたと。


 ……そんなことまで考えてたんですか、マスグレイブさん。

 メグルさんもバルガスさんもすぐに気付きましたし……本当に頭の回る人というのは、やっぱり違いますね……。


 ――メグルさんは少し意外でしたの。


 すいません、私もそう思ってしまいました……。

 ですが、私にもわかることだってあります。


「小難しい話はそっちに任せた。こっちは攻略するだけだ」


「だね。首突っ込みたくないし」


「面倒なことは眠くなりますからね~」


「まとめて吹っ飛ばしたほうがええやろ」


「アレコレ考えながら戦うのは面倒ですからね。担当が居るならそちらに任せます」


「戦うほうが楽」


「私には飛んで戦うことしか出来ませんので、すいませんがお願いしますね」


 私たちが考えるのは攻略のことだけです。

 ここに来たのは、そのためなんですから。


「やっぱ頼もしいな、こいつら」


「笑いながら戦場をかき回して、終わったら一番に酒場で騒ぎまくって、二日酔いでも平気で敵をボコボコにする、自然災害みたいなパーティですねー」


 私たち、自然災害だったんですか……。




 なんだかんだありましたが、船の準備が出来たということで出発です。

 港に集まった時点で予想出来たと思いますが、今回の行き先は島です。


 パリカルスから見える海は、アルファベットの“C”の形をしたような大きな湾になっています。富山湾を90度回転させたような感じでしょうか。能登半島はありませんが。

 目的の島は、その湾の入り口にある火山島です。


 火山島と言っても溶岩を見られるような火山ではありません。

 大昔の噴火で出来た島で、島自体もそれほど大きなサイズではなく、噴火もずっとしていないそうです。


 ではそんな小さな島のどこにダンジョンがあるのか? と言えば、島の地下にダンジョンがあるのです。

 大昔の噴火で溶岩の通った跡が空洞となり、そのまま洞窟になった場所。

 そこが新ダンジョン、ブレイズロードです。


 洞窟とは言いましたが広さはかなりのもので、幅も高さも体育館サイズ。

 小さなカーブはあっても脇道はない、緩い下り坂で地下へと向かう一本道。

 天然のアクアラインみたいなものでしょうか。行ったことありませんし、洞窟の先は行き止まりですけど。


 それと奥まで進むと溶岩を見ることができるそうです。

 脇道とも呼べないほどの小さな横穴を覗くと、遠くに見えるんだとか。

 それと溶岩みたいな魔物も出てくるそうです。

 なのでダンジョン内は結構暑いということなんですよね……そこは少し心配です。


 このダンジョンの存在はパリカルスの住人から聞くことが出来たため、かなり前から知られていたそうです。

 なのに今までは入れなかった理由は、入り口が封印がされているからです。

 魔道具での封印は魔石をエネルギーとしているため、魔石の魔力が尽きれば消えてしまいます。

 ですがブレイズロードの入り口は、ずっと封印されたまま。

 そんな不思議な封印を時間をかけて調査した結果、ついに解除の方法が見つかったということなのです。


 調査したアカデミアとナイツオブラウンドの皆さん、ご苦労様です。


 といったダンジョンについてのおさらいと、ダンジョン内での作戦を確認しつつ船で進んでいます。

 作戦と言いましたがもちろん難しい内容ではありません。

 基本的にエスが前に出て戦闘を担当し、回復や休憩のときのみナイツオブラウンドに交代。

 回復が終わり次第、戦闘に復帰。これの繰り返しです。細かい連携は考えません。


 なので普段の戦闘と変わらないと言っていいかもしれません。違うと言えばロロさんが居るくらいです。

 ちなみに交代するのはウォーレンさんが隊長のチームです。

 ランドルフさんの隊は、マスグレイブさん、メグルさんとともに最後方からサポート。

 後方から魔物が現れた場合などの緊急時には、マスグレイブさんの指示で適宜対応、という形です。


「言っておくのはこれくらいか。島に着くまで時間あるから、全員装備の最終確認忘れないようにな。誰か質問あるか?」


「あの、ダンジョンとは関係ないですけどいいですか」


「イオンさんから質問とは思わなかったな。どうした?」


 手を挙げたのは私一人です。

 私にとっては最重要なことを聞く必要があるので、真っ先に挙げました。

 そして質問の内容はもちろん……。


「話は終わったので空を飛びたいんですが、船の上なので助走は出来ません。なので思いっきり踏み込んで飛ぶんですが、そうすると船が大きく揺れます。飛んでもいいですか?」


「……まぁ、沈むことはないだろうから、構わないぞ」


 やりましたっ。

 

 私は島まで飛んで行けますが、空を飛んでたら話を出来ないので私も船に乗ってたんです。

 ですが船の上は人数が増えたこともあって少し窮屈です。鎧を着た男性が大半ですし。

 何よりヒマです。まだ半分以上距離があるので。

 なので空を飛ぶことにします。

 船が好きな人には申し訳ありませんが、私はやっぱり空のほうが好きなので。


 すぐに船尾から空へ。

 あとは船が島に到着するまで、空でゆっくりしてましょう。




「イオンの裏切りものー……」


 到着早々、女性陣からキイさんの言葉と同じ意味が込められた視線が飛んできました……。


「わ、私だって近いうちに飛んでみせるんですからっ! ね、ロロさん!」


「(……うん)」


 ロロさんもですか。


「一緒に飛ぶ人が増えるのはいいことですからね、頑張ってください」


 ロロさんやメグルさんと飛ぶと考えるとものすごく楽しそうですね。想像するとつい顔が緩みます。


「……負けましたぁ」


 何にでしょう?


「無駄に張り合ってないで行くぞー」


 いつの間にか男性陣は先に進んでました。

 早く追いつきましょう。


 追いついたとほぼ同時に到着したダンジョンの入り口は、海岸からも見えていた大きな岩が積み重なったような洞窟。


「こいつが封印か」


 洞窟に入ってすぐ、白い光で出来たような壁と、その奥にうっすら見える地下への道。

 光の壁には何やら模様のようなものが円形に多数並んでいますが……これが封印ですよね。

 オレストの三番坑道で見た魔道具の封印とは全く違います。


「何か意味ありげな模様が書いてあるな」


「この模様自体が、言葉みたいに意味があるんだと」


「ほー」


 よくわかりませんが、古代の遺跡とかに書かれてそうです。

 ですが……あの模様、一部から風の魔力を感じますね。

 気のせいか、魔物が魔法を使うときの感じと、どこか似てるような気が……。


「まぁ、その意味はアカデミアと我らナイツオブラウンドにしか理解できるものではありませんがね」


 自慢げな声のランドルフさんですが……調査したクラン以外が理解できないのは普通のことでは……。


「少なくとも俺にはわからんな。キイは?」


「魔力は感じるけどパス。こういうのはバルガスでしょ」


「わかるのは魔道具で見た模様に近いという程度ですね。多分アヤメさんとエリスさんの分野かと」


「それぞれの模様から~違う属性の魔力を感じますね~」


「四属性全部あるなぁ」


「四つ以外はただの模様。ただし、模様に方向のようなものが見てとれる」


 ランドルフさんの言葉なんて気にもせず、皆さんの言葉が飛び交います。

 だから風属性の魔力を感じたんですね。他の属性がわからなかったのは、私がまだ魔力操作に不慣れだからでしょう。

 いろいろ模様はありますが、魔力があるのは四つ。それ以外の模様には魔力は無いけど、なんらかの意味がある、ですか。


「グリーンは何かわかりますか?」


「正確にはわかりませんが……今のこの配列は四属性がデタラメに配置されているように見えますわ。配置された場所に意味があるのであれば、属性を循環させてみるのはいかがです? 循環する方向は属性以外の模様が決めてくれると思いますの」


 循環というと……多分属性の強弱の関係ですよね。初心者の館で聞きましたっけ。


 火は水に勝って、土に負ける。

 水は風に勝って、火に負ける。

 風は土に勝って、水に負ける。

 土は炎に勝って、風に負ける。


 それぞれの関係は理解できましたが、でも少しピンときませんでした。

 『水をかけたら火は消えてしまうんじゃないでしょうか?』とか、『風が土に勝つのはどうしてでしょう?』とか、疑問に感じた点があったので。


 でも間違ってるわけではないと思います。

 火に水をかけたら消えてしまいますが、水を火で沸騰させてしまえば水が消えるわけですし。

 水が風より強いのは、水中では風が吹かないからとかでしょうか。

 風が土に勝つというのはよくわかりませんが……固い岩盤でも風化したら脆くなるようなものでしょうか? 風化って風の影響だけでするものかわかりませんけど。

 土が火に勝つというのはそのままですね。土で覆ってしまえば、火はすぐに消えてしまいます。


 結局は考え方次第なんでしょうね。

 火と水の関係は条件によって簡単に入れ替わってしまいますし、考え出すとキリがありません。

 細かいことを言い出したら、『状況によって異なる』となってしまいます。


 それにこれはあくまで魔法の話ですしね。

 物理的な関係と完全に割り切ることはできないとしても、同じものとして考えることもできないんじゃないかと思います。

 とにかく、この世界の属性はこういうもの、ということなんでしょう。


 話が逸れましたが、この世界の属性は火は水に勝ち、水は風に勝ち、風は土に勝ち、土は火に勝つという順番です。

 その通りに配列を直せばいいのであれば……。


「プルスト、その右の丸いのを左に持って行くんや」


「何で俺なんだよ。まぁいいけどな。触れば動くのか……? おお動いた」


「次は~右上のを右にしてください~」


 皆さん、そのまま封印をいじり始めましたが……いいんでしょうか?


「団長、よろしいのですか?」


「こいつらのことだから一回失敗したらすぐに飽きる。それより、各隊は今のうちに隊列を整えておけよ」


「了解しました!」


 一応大丈夫のようです。

 皆さん、気にした様子もなく触ってますけど。

 そして数分後。


「最後、右下のを左に」


「こいつだな。……おお」


 最後の模様を動かすのと同時に、光の壁が消えていきました。


「ぐり助かったわー」


「皆さんが気付いたからですわ」


「ロロさんも~ありがとうございます~」


「全員の力」


 凄いですね、アヤメさんもエリスさんもロロさんもぐりちゃんも。

 開くのはわかってましたが無事に開くと安心ですね。

 これであとはダンジョンに専念するだけです。




「さすがエスの皆様。封印をこうも易々と突破するとは!」


「いやー、私アカデミアが一ヶ月悩んだって聞いたんですけど、何かの間違いだったんですかねー」


「確かにそうなんだが、まず街からここまで来るのに手間がかかるしな。実は週に一回程度だったんだよ。だからヒントだけ貰ってうち(ナイツ)で模様並べを総当たりしたようなもんだ。それにしたって毎日一日中ってほどでもなかったしな」


「これだけ模様の数があると総数何通りとか計算したくないですね。そりゃ時間かかりますよ」


「こいつらに見せるとこんなことになるんじゃないかとは思ったんだよな。今は開くってわかってたから遊びで触ったんだろうけど、調査からだと面倒がって絶対にやらないだろうからな。だから頼みもしなかった」


「面白くなさそうなんで絶対に受けてくれないですね、間違いなく。アヤメさんとか吹っ飛ばしそうになりますよきっと」


「だな。まぁ無事開いたんだ。先に進むぞー」




「……バカな」




4/11 誤字修正しました。


属性の関係は、

火>水>風>土>火……

←強・弱→

にしてます。



4/4 属性に関して追記を行いました。

というか言い訳を並べただけというか……。

属性の関係は修正前と変わっていません。

ただ説明を追記しただけですので、一度読んだ方は読み直す必要ないと思います。

その辺の設定が気になる方には申し訳ありませんが、ご容赦お願いします……。



Q:そんな属性関係のゲームなんてあるの?

A:調べたら『うたわ○るもの』と一致してました。参考にしたつもりはありませんでしたが、第二部プレイ後(発売と投稿時期も近い……)ので、影響受けてたと思います……。そして第三部が楽しみです。



Q:つまり適当に決めたの?

A:なんの理由も無しに決めたわけではありませんが、一応そこはネタバレなので……。(ネタバレと言えるほど凄いモノかどうかは置いといて)


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