11-6 新ダンジョンに行ってきます。
今日はダンジョン攻略の日です。
まずは修理に出してる装備の受け取りのためバトルデイズへ。
現地集合なので装備を受け取ったらすぐに……。
「レイチェルさんが用があるそうなので、できれば奥に来て欲しいって言ってましたよー」
何か用があるらしいので奥の部屋へ。時間には余裕があるので問題ありません。
「レイチェルさん、イオンですが」
ノックをして声をかけて、どうぞーと声が聞こえたので『ガシャン! ドカン! バタン!』入りましたが……。
「タイミング悪かったですか?」
何やら凄い音が聞こえてきたんですけど。
「そうだったみたいね」
そう言うレイチェルさんの視線は、部屋の隅の試着スペースですが……。
「ロロさん、コートの裾がはみ出してますよ」
「!?」
ものすごい勢いで裾がカーテンの中に引っ張られますが、勢いが強すぎてカーテンが開いてしまい中までよく見えました。
ロロさん、隅っこで丸くなってますね。
「今日は何かに怯えてるのよね。だから何か知ってたらと思って」
それで私が呼ばれたんですか。
「多分ですが……マリ」「(ビクッ!)」「……ーシャに怯えてるようですね」
間違いないようです。
「……い、居ないの? 今日はログインしてないの?」
ロロさんものすごく怯えてます……。
「今日はシーラさん……保護者さんと用事があるそうなので、ログインしないとメールがありました。ロロさんのことについてもまだ話してませんし」
それを聞いてようやく出てきてくれました。
シーラさんの本名出すわけにもいかないのでどう言おうかと思ったら、つい口が保護者と動いてしまいました……シーラさんごめんなさい……。
「でもマリーシャが原因なの? あの子だったらむしろロロのことは気に入ってそうなのに。一体何があったの?」
「それがイマイチよくわからないんですけど……」
なので一から状況説明します。
レイチェルさん、何故か途中からお腹抱えて笑い出しましたけど。
「そっかーロロってば横取りしたんだー、それは仕方ないわねー。ぷぷっ」
「そんなことしてないよ! うぅ、それでイオンさんあのときそんなこと言ったの……タイミング悪すぎだよ……」
「お姉様なら仕方ないとはいえ、ロロさん不憫ですの……」
皆さんすぐに理解したようですね。私にはまだイマイチわかりませんが……。
「お姉様はそのままでいいですの」
「そうよ。そのほうが平和というものよ」
やっぱりよくわかりませんが、いいということなので気にしないでおきましょう。
「イオンさんはいいけどマリーシャさんのことはどうしよう……もうあんな風に詰め寄られたくないよぉ……」
「誤解なんだからそのまま話せばいいじゃない」
「そうなんだけどぉ……」
本当に大丈夫かなぁと、不安が取れないロロさんですが、
「大丈夫ですよ。半分冗談だったと思うので」
「あ、あれで冗談だったの!?」
「でなければ私が声をかけてもあんな一瞬で切り替わりませんから。それに振り向いた瞬間ものすごい笑顔でしたし」
「……そういえば笑顔だったような」
先生を上手く脅かせたので面白かったんじゃないでしょうか。
「よかったぁ……本当によかったぁ……」
「でも冗談は半分なのね」
「!?」
半分は本気だったので、あんな目をしてたんだと思います。
「半分でそれなら、本気になったらどうなるのかしらねぇ」
「!!!!」
「ロロさん、慌てないでレイチェルさんの顔を見てください。ものすごい笑顔ですよ」
笑顔の前に、“悪い”と付きますが。
「こらぁぁぁぁ!!」
ロロさんはゲームでもこんな扱いなんですね……。
そしてそんなことしてれば当然。
「いい加減機嫌直しなさいって」
「…………(ぷいっ)」
思いっきりふてくされてしまいました……。
「そんななのにタルトは食べるのね」
「あのタルト、ものすごく美味しいですの」
機嫌を直してもらうためいつものタルトを差し上げました。
さっきからレイチェルさんを見ようともせず、黙々とタルトを食べて……いえ、食べさせてます。私が。
「本当は逆よね」
「マリーシャさんで慣れてるはずですから、これでいいんですの」
しかも何故か私の膝の上で。
「それでロロ、感想は?」
「……マリーシャさんが膝の上に乗りたがるの、少しわかった……」
タルトの感想じゃないんですね……。
「とにかく、誤解は早めに解いておきなさい」
「はぁい……」
ようやく落ち着いてきたようです。
そろそろ行かないと遅れるので助かりました。
「すいません、試着室借りてもいいですか? そろそろ待ち合わせの時間なので」
「もちろん構わないわよ。……そういえば新ダンジョンの話は聞いてる?」
「はい、昨日のうちにマスグレイブさんから」
着替えながら答えます。
やっぱり新しいダンジョンは誰からも注目されるんですね。
「マスグレイブと会ったのね。そんな話をしてるってことは……もしかして合同で攻略でもするの?」
「合同と言っていいのかわかりませんが、一応そんな感じです」
「エスだものね、まともに連携するわけないわよね」
さすがレイチェルさん。以前はエスの皆さんとパーティを組んだこともあるそうなので、よくわかってます。
「そういえばイオンさんはエスに入ったんだよね。記事を見た瞬間は『なんでっ!?』て思ったけど、今考えるとものすごい納得するよ」
「そうなんですか?」
「何度か狩りで会ったことあるんだけど、あそこの人たち面白いんだよね。誰もが自由に戦ってるように見えたし。だからあそこならイオンさんも自由に出来るなぁって」
やっぱりよく見てますね、ロロさん。
「そうですね、戦闘以外でも本当に自由にさせてもらってます。入ったのは少し前なんですけど、私が入ってから全員でダンジョンに行くのなんて、これが初めてですし。加入前も含めるなら二回目ですけど」
「あははっ、普通のクランじゃ考えられないね」
「多分ロロさんが突然入っても、そのまま戦えると思いますよ」
「入っても時間が合わないことが多いからクランに入ろうとは思わないけど、一度くらい一緒に戦ってみたいかなぁ」
一回くらいやってみたいですね。
「そういうことならお願いなんだけど、今日のダンジョン攻略、よかったらロロも連れてってくれない?」
「え、私?」
「新ダンジョンの素材が欲しいのよ。正直いくらでも欲しいわ。でもいくらロロでも新ダンジョンに一人は無謀だし。ロロも今日はヒマだったし、いいでしょ?」
着替え終わったので試着室から出ます。
この装備、また少し改良されてる気がしますね……。
「私はいいけど……」
「私も構いませんし、多分エスも大丈夫だと思うんですけど……」
ロロさんならエスの皆さんとでも問題ないと思います。
ですが一応、マスグレイブさんはエスにお願いしたいと言ってましたし……。
「マスグレイブのほうにはこっちからお願いしておくから。それに断られたら素直に諦めるから、とりあえず連れて行くだけでも」
「そういうことなら」
マスグレイブさんとも知り合いのようですし、レイチェルさんから話を通してもらえるのなら何も問題はありません。
むしろロロさんが居ると思うと、私としては少し楽しみですし。
「お邪魔する側なんだから、量が少なくても怒らないでよね」
「新しい素材があるってだけで満足するわよ」
メタルイーター一匹の素材だけでも大喜びでしたからね。
新ダンジョンの素材なら間違いないと思います。
「それでは行きましょうか」
私の言葉に頷いて、アイガードを着けて準備完了のロロさん。
「行ってくる」
「断られたらメール入れるから。二人とも頑張ってね」
レイチェルさんに見送られ、パリカルスに向かいました。
「さてマスグレイブにメールっと」
『レイチェル:今日ブレイズロードを攻略するんでしょ? 素材欲しいから混ぜて。そっちに送ったロロを好きに使っていいから。もちろん無理にとは言わないけど。
追伸。鉄○28号とジャイ○ントロボ、どっちのデザインが好き?』
『マスグレイブ:ロロさんなら全く問題ないしむしろこっちからお願いしたいくらいだ。だからそれを鎧にするのは勘弁してくれ。頼むから』
◇◇◇
今日は結界石を使ったので、パリカルスには一瞬で到着です。
昨日はあまり感じませんでしたが、直接来ると空気が違うことを実感しやすいですね。潮の匂いが凄いです。
……これは車をすぐに錆びさせる危険な香りです。海岸近くに駐車すると初回車検でここまで錆びるものかと驚きました……。
ではなくてダンジョン攻略です。港に集まってるということなので早く行きましょう。
「イオン、これから攻略か?」
向かってる途中、丁度お店から出てきたリード君とウェイスト君です。
「そうです。港で待ち合わせなので」
「そっか。……なぁ、邪魔しないから付いてっていいか? 遠くから見たいだけなんだが……」
何故か少し恥ずかしそうな感じですけど……お客様でこういう態度の人を見たことありますね。
ミーハーっぽいとか、少し子供っぽい依頼をする人とかに似てる気がします。
とある漫画に出てた車をもってきて、それと同じ仕様にして欲しいとか。
簡単なものはそのまま受けてましたが、L28改3.1Lツインターボ化は断りました。父もその世代じゃないので、ノウハウが何もありませんから……。
「マスグレイブさんとかプルストさんとか来るんだろ? そんな人らが集まってるとこ見てみたいんだよ……」
「(うんうん)」
有名人が集まるとつい見たくみたくなってしまうのは私でもわかります。本人を見たいというよりも、その周囲はどうなってるのかなぁ、というのが気になるので。
「見てるだけならいいんじゃないですか? 話してる暇は無いと思いますけど」
「サンキューじゅーぶんだっ」
「ありがとうっ」
「ところで、こちらの方は有名じゃないんですか?」
横にずれて、私に隠れたロロさんを正面に出します。
ロロさんが隠れたのは二人の事に一目で気が付いたからですね。二人は現実とゲームであまり違いがないので。
「「フクロウさん!?」」
やっぱり有名でした。
「フクロウさんはそこまで話題に上る人じゃないんだが……イオン、よくそんな人と知り合ったな……」
話題には上らないけど、覚えている人は多いといった感じでしょうか?
戦い方は独特でわかりやすいですが、状況によっては姿を見ることも出来ませんしね。魔物からロロさんまで遠すぎて。
実は近くに居たのに気付かず通り過ぎたという人は多いかもしれません。
「いろいろあって知り合いになりまして。あ、続きは歩きながらでいいですか? そろそろ時間が迫ってるので」
「お、おう」
港に向けて歩きながら、さてロロさんをどう紹介しようと考えます。
ロロさんも『どうするのっ!?』という顔(には見えない無表情)でこっちを見てますが……今は簡単に済ませましょう。時間がありませんし、マリーシャも居ませんし。
「そういえばロロさんはフクロウとかカラスとか自分で名乗ったわけではないそうなので、できれば名前で呼んで欲しいそうですよ?」
なのでこれくらいです。
この話はロロさん自身から聞きました。他にも悪魔とか暗殺者とか仕事人とか呼ばれたとか……。
失礼ですが、どれも納得してしまいました……。
「そ、そうですか。すいません名前知らなかったんで」
「別にいい」
「えっと、ロロさんと呼んでもいいすか?」
「構わない」
「ありがとうございまっす」
リード君は嬉しそうで、ロロさんは上手く凌げて安心してそうです。
問題も無くなったところでもうすぐ港です。
昨日見た通り、大きな船はありません。
数人で乗るようなサイズがほとんどで、大きい船でも二十~三十人くらいじゃないでしょうか?
いわゆる客船とか、外洋に出て漁をするような船は見当たりません。
一隻の船の前に人が集まっているので、多分あそこですね。
「じゃあ俺たち下がってるわ。ロロさんも頑張ってください」
「ありがと」
「っ」
返事があったことに嬉しいみたいですね、リード君。
ロロさんのほうは複雑みたいですが……。
「大丈夫ですか?」
「……あれくらいなら(緊張したよぅ……)」
何とかといった様子ですが、でも戦闘になれば元に戻ると思います。多分。
「イオーン、こっちこっちー」
私に気付いたキイさんから呼ばれたのでそっちの方へ。
人に隠れて見えてませんでしたが、エスの皆さんは既に全員揃ってました。
「おお来たか」
「すいません、遅くなりました」
「いやぁ時間通りだから大丈夫……って、珍しい人と一緒だね」
ロロさんを見て目をぱちくりしてます。
「レイチェルさんがブレイズロードの素材を欲しいそうで、ついでだから連れてってと頼まれまして」
「ロロさんも大変だね」
「いつものこと」
「だよねー」
会ったことあるそうなので、紹介の必要はなさそうです。
「もしかしてイオンも知り合いだったの? 結構珍しい人なのに」
「こないだ偶然会いまして、一緒に素材採取にも行きました」
「そうなんだ。確かにイオンとならパーティ組めそうだしね」
「固定型長距離射撃と高速移動型近接攻撃の組み合わせですか。ハマると怖い組み合わせですね」
「イオンとロロならすぐにハマりそうだな」
「最高にハマった」
自分でも上手く戦えたとは思いましたけど、ロロさんにそこまで言ってもらえるのは嬉しいです。
「そういえばBBSに~『白黒桃の三天使がルフォートに舞い降りた』とか、書かれてましたっけ~」
……なんですか、それ……。
「昼間にメグルさんも入れた三人でどこかに行ってたそうですね。目撃者多数で、ちょっとしたお祭り騒ぎになったとか」
「話してるとそんな感じないけど、メグルも黙ってると可愛いからねー」
「話題の人物に往年のアイドル。さらに正体不明のソロプレイヤーまで居れば、話題になるのも当然ですね」
…………反応のしようがありません……。
「何ですかその往年のアイドルって! 私だけ年上に聞こえるので断固抗議しますっ」
あれ、この声はメグルさん?
「キイさんも黙ってれば可愛いって褒められたのかどうなのかわからないし。その通りですけど」
「認めちゃうんだ」
「口を開かないと死んじゃう生き物なんで」
「ええ生き様やなー」
「ありがとうございまーっす。それからイオンさんとグリーンさんとロロさんこんにちはっ。まさかロロさんまで来るとは思いませんでしたよー」
「こんにちは。私もメグルさんが居るとは思いませんでした」
てっきりエスとナイツオブラウンドだけかと思ってましたし。
これならロロさんが居ても問題ないんじゃないでしょうか?
「いやー急遽マスグレイブさんに呼ばれまして。ロロさんもですか?」
「レイチェルのせい」
「素材目当てですかー。大変ですね、ロロさんも」
キイさんといいメグルさんといい、ロロさんを労ってますね……いつもどんなことしてるのか想像できてしまいます……。
「でも大丈夫ですかね。結構集まってるんで人数オーバーしたら難しいと思うんですけど」
人数オーバーというのは多分三十人制限のことですね。
一つのパーティの上限人数は十人。
そしてレイドを組めるパーティの数は六個まで。
ですが、レイド全体での人数は三十人が限界、となっています。
つまり十人のパーティ六個で六十人、というレイドは組めないんです。
十人のパーティの場合は三個で三十人。六個のパーティの場合は五人ずつで三十人。
パーティの数を重視した場合に五人のパーティになるのは、多分クランの最低人数と一致させてるんだと思います。
多数のクランが合同でレイドを組めるようにするため、とかでしょうか。
この場には多くの人が集まってますので、三十人はすぐ超えそうです。さすがに全員で行くわけではないと思いますが……。
「レイチェルさんがマスグレイブさんに連絡してるはずです。断られたら諦めるから、とりあえず現地に行ってとのことだったので」
「ナイツのパーティも一つか二つって言ってたし、大丈夫じゃないかな。他の人は船の漕ぎ手でダンジョンには入らないってさ」
それでこんなに人が居たんですか。
「それじゃ問題なさそうですねー。ていうかナイツにエスにロロさんまで居るって、本当に一発攻略しそうですね」
一発攻略……。
「……普通は違うんですか?」
「違います! フツーはいきなり最後まで行かずに調査を数回入れて、戦術を変えながら攻略するもんですっ。ちなみに私が今回同行するのは、そのための情報収集役なんですよ」
TVゲームだと大体一回でダンジョンを攻略してたのでそう思ってたんですけど、VRゲームは違うんですね。
もちろんレベルを上げてから出直すということもありましたけど、それでも二回目でクリアしてましたし。
なので一応確認のためにエスの皆さんを見てみれば……。
「一般的にはそうなんだけど、そのまま行けそうな場合は突っ走っちゃうことが多いかな、うちの場合」
「一度で攻略するのは~大体三回に一回くらいですよ~」
「目的あって何回も行くんはええけどな、チマチマ進めんのはメンドクサイわ」
「それに全く情報の無いダンジョンというのは稀ですからね。厳密な意味では一発攻略という意味ではありませんので」
「クランとしては一発になるけどな」
「そんなことするの、ごく一部の人に限りますよー……」
調査するのが一般的でも、時と場合によるということですね。
「イオンさんはVR以外、紅白のTVゲームしか経験したことないそうなので。あの頃はレベルさえあれば、大抵何とかなりましたしね」
または、レベルとは関係なく特殊なアイテムや情報がないと先に進めない、とかですね。
「私触ったことないですよあんなの……今のイオンさんがどうして出来上がったのか、少しだけわかりました……」
最近の、というか昔のもですけど、ゲームの常識はあまり知りませんので、いろいろご迷惑おかけします……。
6/15誤字修正しました。
Q:海岸近くに車置いとくとそんなに錆びるの?
A:錆びます。ぱっと見はそう見えなくても、下から覗くと……。
Q:簡単な漫画仕様って何?
A:古いほうのハチロクにワタナベ(ホイールのこと)を履かせたりとか豆腐屋ステッカー貼ったりとか。
Q:L28改3.1Lツインターボ化って何?
A:L28→日産の古いエンジン。3.1L→排気量2800ccから3100ccへ排気量アップ(ちなみに軽自動車は660cc。大きい方がパワーも出る)。ツインターボ→ターボチャージャーが二個もついてるよ! いわゆる湾岸ミッ○ナイト仕様。豆腐屋もいいけどこっちも好きでした。