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11-5 新ダンジョンに行ってきます。


 聞きたいことを聞いた後はすぐに空から索敵です。

 私以外に索敵してくれる人が居るとはいえ、私のほうが範囲は広いですからね。

 安全のためは必要なことです。


 それ以上に馬車に乗っていたくなかったからですが。


 だって私だけクッション無いんですよっ、ギリアムさんもダニエルさんも持ってたのに。どうして豪華な馬車に乗ってたのにそんなの準備してあるんですか……。

 だから仕方ないんです……。


 なのでその後はずっと飛んでました。

 戦闘も何度かありましたしね。

 戦闘と言えば装備の変わった二人ですが、いきなりの本番にもかかわらず大活躍でした。

 片手剣から両手で振るう刀に変更したマリーシャはさすがに慣れないようでしたが、それでも切れ味はかなり上がってるようで気持ちよく振り回してました。


『こんなによく切れるんなら練習しがいがあるよ!』


 刀を見て笑ってる姿は、ちょっと危ない人でした。


 シーラさんは以前と同様に杖ですからね。魔法の威力が上がっただけです。

 ……と、思ってたんですが違いました。


 ただの杖かと思いきや、なんと“仕込み杖”。つまり物理攻撃も強化されてたんですっ。


 前に出ないはずのシーラさんが何故か自分から魔物に近づいていくなぁなんて思ってたら、いきなり刀を抜いて切りつけたんです。

 私だけでなくリード君とウェイスト君も驚いてました。


『今まで接近戦では何も出来なかったから、何か杖術スキルでも覚えようかサブ武器を持とうか悩んでいたのよ。そしたらレイチェルさんがいろいろ考えてくれてね。魔法面の犠牲はほんの少しに抑えつつ、急場を凌げる程度には攻撃力のある武器と両立してくれたわ』


 言葉で聞くと簡単ですけど、きっとものすごく難しいことじゃないんですか?

 今までより魔法の威力も上げつつ、刀を仕込んでそっちも使えるようにするなんて。

 あのお店の職人さんたち、一体どれだけ凄いんですか……。


『でも和服で、しかも普通の日本刀じゃなくて仕込み(ドス)なんて持ってると、まるで極道の』『今後その言葉は禁句に設定するわ。全員、わかったわね』


『『『『『ハイ』』』』』


 ――表情は笑顔でしたが、目は全く笑ってませんでしたわ……。


 怖かったです……。


 と、とにかく二人とも装備は文句無しのようです。

 そうなると残る二人はつい『いいなぁ』という目で見てしまうわけですが、なんとマリーシャとシーラさんは【鉄鉱石:一級】を一個ずつ残しておいたらしく、格安で譲ると言ってました。


『『マジ感謝!!』』


 その言葉を聞いたのは今日三回目ですが、流行ってるんでしょうか?


 そんなこともあって全員のやる気が高かったおかげだと思います。

 進むにつれ強い魔物が出てきましたが、特に苦労することなく順調に進むことが出来ました。

 もちろん馬車を守る場面では気をつかうこともありましたが、ほんの僅かでしたし。

 護衛の仕事って戦うだけではないので大変なのではと思ってたんですが、こんなにスムーズに行くとは思いませんでした。


 ですので無事、パリカルスにたどり着きました!


 ――途端にテンション上がりましたわね。


 だって海ですよ海! ものすごく綺麗な海です!


 ――好きだったんですの?


 いえ特に好きだったわけではないんですけど。


 ――じゃあどうしてですのっ。


 わかりませんけど、空から見てると……こう、衝動が沸いてきて……。


 ――つまり好きだったんですのね。


 海面スレスレをただひたすら全速で飛んでみたくなるんです!


 ――いつもと変わらないですの!


 だって地上では障害物が多いですし。


 ――一応、海だからと言えなくもないですわね。


 というわけで今好きになりました。


 ――嫌いになるよりいいと思いますわ……。


 パリカルスの街並み自体はルフォートに近いですね。城壁もありますし。

 港もありますが、どうも貿易のためではなく漁のためのようです。外洋に出るような大きい船は一隻も見えません。

 建物も似たような建物が多いですが、その色はルフォートに比べてカラフルな建物が多いですね。ヨーロッパの写真なんかでよく見るような感じです。

 柔らかい色なので目に痛くもありません。見ているだけでも楽しめそうです。


 そんなパリカルスの城壁を越えてすぐ、馬車の預かり所で護衛の仕事は完了となりました。


「助かったぞ貴様ら!」


 馬車から降りると同時に、その言葉だけ残して去って行くギリアムさん。


「大変お世話になりました。ドーガ殿、冒険者の皆様も、ご用の際は是非商会をご利用ください。可能な限り便宜を図りますので。それでは申し訳ありませんが、我々はこれで」


 ダニエルさんと御者さんも、急いでギリアムさんを追いかけていきます。

 どうもかなり急いでるようです。


「……なんか、あっさり終わったサブクエだったな」


「こんなもんじゃない?」


 クエストだったら途中で強い魔物が出るとかそういうことがあると思いますけど、これはサブクエストですしね。

 何も無くても不思議じゃありません。


「けど報酬だって無かったしなぁ」


「言えばよかったじゃん。多分くれたでしょ」


「それはそうなんだが……」


 お金の請求なんて、慣れないと言いづらいですよね。特にリード君はギリアムさんが苦手そうでしたし。

 ドーガさんからは護衛の報酬は頂いてますが、ギリアムさんたちには特に何も言いませんでした。

 人数が増えたら料金も増えるんでしょうか? と思ってシーラさんに聞きましたが、馬車の数は変わってないので、今回はいいかなということになったからです。


 護衛対象は馬車と荷物と人で、人も荷物も馬車に入っているので結局守るのは馬車だけでした。

 招き入れたのはドーガさんで、ドーガさんから私たちに増額の申し出もありましたが、そんな理由もあってお断りしたんです。

 御者さんに索敵を手伝ってもらいましたし、お金が目的の仕事ではなかったですしね。


 とりあえず商会に行けば便宜を図ってもらえるそうなので、儲けという意味ではゼロではないと思いますが……そういうのはあまり当てにするべきではないですね。

 軽く覚えておく程度です。


「話を聞いてるとサブクエもいいなと思ったけど、やっぱ儲かるやつばっかじゃないってことだよなぁ」


「儲けを気にしてやるもんじゃないってリードも言ってたじゃん。それに馬車に乗せてもらえただけマシでしょ」


「そこも報酬として考えれば普通の護衛より割が良かったわよ。これ以上は望みすぎね」


「だなぁ」


 少しがっかりした表情のリード君と、まぁこれも異世界生活ってことだよ、と言うマリーシャ。

 私やマリーシャの話ではいいことばかりでしたからね。リード君が何か期待するのも無理ありません。

 それにマリーシャの言う通り、これは異世界生活だと私も思います。

 リード君のような考え方が普通だと思いますが、儲かってばかりでもなく、いろいろあるのが楽しいんだと思える私は得した気分です。

 それこそ成功ばかりの生活なんてあり得ませんしね。上手く行かないこともあってこそ……。


「マリーシャ?」


 街を見ていたはずのマリーシャが、視線を一カ所に固定しました。

 また何か見つけたのかなと私も視線を向けてみると……今回は男性を見てるようですね。

 高価そうな鎧を着けた男性が一人。あちらも私たちを見てます。


「お知り合いですか?」


「全然知らない人。気付いたらこっちを見てたんだよね」


 珍しいですね、マリーシャがこんな警戒した声を出すなんて。

 何故か向こうも険しい顔でこちらを見てますが……何かあったんでしょうか。


「皆さん、どうかされましたか?」


 そこに戻ってきたドーガさん。

 荷物を近くの建物に運ぶため、少しだけ馬車を離れていたんです。


「いえ、特に何かあったわけではありませんので。それよりそちらは?」


「まだこれからですが、ひとまず何とかなりそうです。これも皆さんのおかげです。本当にありがとうございました」


 そう言うドーガさんの笑顔は安堵をにじませているので、ひとまずは安心できそうです。


「それは何よりです。それでは、私たちの仕事はこれで完了ということでよろしかったでしょうか」


「もちろんです。道中、無理を言って申し訳ありませんでした」


「助け合いは大切ですから、お気になさらず。帰りはご一緒できませんので、十分に気を付けてください」


「ありがとうございます。皆さんこそお気を付けて。またオレストに来た際には寄ってください。出来るだけサービスしますから」


「そのときはお願いします。では、私たちはこれで」


 ドーガさんに挨拶を済ませ、ひとまず結界石の広場に行こうとその場をあとにします。

 そういえばさっきの男性は、と先ほどの方向に視線を向けてみましたが、既に男性の姿はありませんでした。


「居なくなったなぁ。なんだったんだろ?」


 本当になんだったんでしょうね。


「どんなやつだったんだ? 俺よくわからなかったんだが」


「何か銀色の高そうな鎧着けてた人。緑の髪で多分猪族だったと思う」


「……それ多分ナイツだぞ」


 ナイツ? あ、マスグレイブさんのクランですね。


「なんでナイツがこんなとこに居るんだって思ったからそいつは覚えてる。あの鎧はナイツオブラウンドだ」


「ナイツオブラウンドの人なら不思議でもないですよ。この辺に……」


 って、新しいダンジョンの話をこんな街中で話していいんでしょうか。


「イオンが知っているということは、それがパリカルスに来た理由でもあるということね。気にはなるけど続きは明日学校で話しましょうか。いろいろな意味で良くないかもしれないし」


「だな。イオンの理由だけならともかく、ナイツの悪口とか下手すりゃ晒される」


 悪口……のつもりはなくても、あまりよくない話にはなりそうです。

 人が居なければいいというものではありませんが、『睨まれてた気がする』なんて、状況確認だけでも誤解されそうな内容です。

 少なくともこの場ですべきではありません。


「じゃーそんなことはすっぱり忘れるってことで。タイミングもいいし、あたし一回ログアウトするよー」


 少し暗くなった空気をすぐに変えてくれるマリーシャ。

 そういうとこは本当に凄いと思います。


「そうですね。そろそろ丁度いい時間ですし」


「じゃあ、今日はこれまでということにしましょうか」


 パリカルスの結界石で、一旦全員がログアウト。

 夕飯後にもう一度ログインしましたが、マリーシャたちとは会わずにバトルデイズへ。

 明日のために装備を修理に出して、それからドーナツとコーヒーの補充をしてすぐにログアウトしました。


 パリカルスでのことは多少気になりますが、そんなことより明日のことです。

 今気にしたところで、何かできるわけでもありませんしね。


 なので装備も私も休憩です……。




◇◇◇




 明けて月曜日。


「昨日のアレ、新ダンジョンなんだってな。やっぱ新も新ダンジョンの攻略に行くのか?」


 先週に引き続き、一緒にお昼を食べていた相田君からの質問です。


「新も新だんじょん? 何それダジャレ?」


「そこを拾うほうが寒いわ」


「ひどっ」


「ひどくないだろ」


「ひどくないわね」


「ひどくない」


「真里……」


「あたしが悪かったから許してーっ!」


 ネタにされて怒るようなものではないので私は許します。


「それよりそんな情報出てたのね」


「昨日の夜中にな。軽い内容と魔物の情報程度だったけど」


 話わかんないから置いてかないでーと嘆く真里に相田君が説明。

 どうも昨日の夜にダンジョンの情報が公開されたそうです。

 やっぱり昨日の昼間にはまだ広まってなかったんですね。あの場で話さなくてよかったです。


「ダンジョンも攻略もその通りです。昨日マスグレイブさんから、エスとナイツオブラウンドで一緒に攻略しないかと誘われまして」


 このことは特に秘密にする必要はないといわれてたので、隠さず話します。

 決行は今日ですし、集合したら何が目的なのか誰でもわかるから、だそうです。


「本人に会ったのか!?」


 食いつきいいですね、相田君。


「会ったのは昨日が初めてですよ。コーヒー飲みながら少し話した程度です」


「おお、やっぱ出来る男はブラックなのか」


「いえ、砂糖もミルクも多めに入れてましたよ。一緒に出したタルトも気に入ってましたし」


「……出来る男は甘い物も大丈夫なのか」


 想像からずれてもポジティブに捉えてますね。


「マスグレイブさんというと、エスのプルストさんと並ぶと言われるほどのプレイヤーだったわね。そんなに凄いの?」


「一回だけ生で見たんだけどな、でかいハルバード振り回して一匹も寄せ付けないし自分から近づけば一刀両断するしでマジ凄かった」


「(うんうん)」


 西君も頷いてます。

 二人にとっては憧れのプレイヤーのようです。


「それで新ダンジョンってどんななの? パリカルスから行けるなら、ちょっとレベル上げればあたしらだって行けるんじゃない?」


「無理無理。ナイツも全滅したってなってたし」


「ハイ諦めたー」


 そりゃ無理だわ、と即座にお手上げしてます。


「撤退したじゃなくて全滅なのね。そんなに大変なの?」


「ダンジョン名はブレイズロード。扱いとしてはゲイル山と同じレベルらしい。魔物の強さもボスも同レベル。でもゲイル山より純粋にダメージが大きいそうだ」


「どうも隠れる場所の無い状況で、遠距離攻撃がものすごく飛んでくるそうですよ。それで最後まで耐えきれなかったそうです」


「ナイツと相性が悪いわけね」


 相田君の解説に少しだけ補足。東さんも深く納得しました。


「そーだった、一応聞くけど昨日の人ってホントにナイツなの?」


 あの、険しい顔で私たちを見てた人のことですね。


「確認したわけじゃないからなぁ。でもあの場に居た銀の鎧って、それしか思い出せないんだよな」


「確認するけど、誰も会った覚えはないのよね?」


 全員首を振ります。もちろん私もです。


「公式イベントの動画だって見直したけど出てなかったし、誰とも関連がないんだよな」


 そうなるとさっぱりですね……。


「よくわかんないけど、いきなり睨んでくるのは何かヤだなぁ……」


「気分のいい人はいないわね。マスグレイブさんと会ったときはどうだったの?」


「特に何もありませんでしたよ? 話にも出ま……」


「何か思い出したの?」


 ……完全に忘れてました。


「ナイツオブラウンドの中に、エスを疑ってる人が居るそうなんです。難しいゲイル山をすぐにクリアしたのはおかしいんじゃないかって。ごく一部の人だそうですけど」


 もしかしたらそういう人だったかもしれないですね……。


「ゲイル山が難しいってのは動画とか上がってるからわかるけど、あのダンジョンならイオンが居るかどうかで難易度激変するってのもわかると思うんだけどな……」


「ゲイルファルコンを倒しきれなくても、ヘイト取ってくれるだけで全然違いそうだものね」


「少し考えればわかる」


 フォローしてくれる三人。

 それと、


「……そうかなぁ」


 ぽつりと、疑問の言葉を呟く真里。


「いや佐々木は知らないかもしれないけどな、エスは特に未攻略ダンジョンのほうが」


「エス? あゴメン、そっちじゃなくて」


 疑問の対象は、どうも違うものだったようです。


「あの人、あたしら全員を見てたと思うんだよね。でもエスに対してどうこう言ってる人なら碧だけを睨むんじゃない? だから違う理由だと思うんだよねー」


「……もしそうだとして、それこそなんで俺らが睨まれるんだよ」


「あたしが知るわけないでしょー」


 真里の言うことなので、全員を見ていたというのは多分本当だと思います。

 でもそうなると本当にさっぱりわかりませんね。

 誰も関わった覚えがないうえに、特定の誰かが対象ではなくパーティ全員。

 考えのとっかかりも掴めません。


「これ以上考えるのはやめましょうか。時間の無駄ね」


「そだね。ゴメン、変な話振っちゃった」


「俺らも気になってたし、別にいいって」


 もう忘れたと言わんばかりに明るい調子の東さん。

 私たちも乗っかります。謎が解けるならともかく、迷宮入りなら暗くなるだけです。


「あそこはでかいクランだしな、いろんなやつが居るってことじゃないか」


「ま、そんなところでしょう」


「自分で振ったけどこの話はしゅーりょー。それで碧は今日新ダンジョンに行くんだよね。いきなりで大丈夫?」


「ダメだったらそのとき考えるとかだと思いますよ。別に一回で攻略することばかりに気合い入れてる風でもありませんでしたし」


 勉強したいと言ってる方は一回での攻略を望んでるかもしれませんが、マスグレイブさんはそんな様子でもありませんでした。

 ダンジョンの話をしてるときもものすごく普通でしたし。


「まぁでもナイツとエスが連携するなら、大抵何とかなりそうだものね」


 ドリームチームだよなーなんて相田君も言ってますが……。


「いえ、多分連携はしないと思いますよ」


「……どういうことか聞いてもいい?」


「特にああするこうするといった作戦的なことは話しませんでしたし、多分そんな面倒なことは嫌がると思うんですよね、エスの皆さん。私もですけど。やったとしても、あっちを任せたーとか、その程度だと思います。マスグレイブさんからも“連携”と言う言葉は出てきませんでしたし」


 しっかり連携するならあらかじめ綿密な打ち合わせがあると思いますが、そんなこととはありませんでした。

 なので協力と言うよりは、同時に攻略開始するからお互い邪魔しないでくださいねーといった程度だと思います。


「そういえばクラン内でも勝手にする人たちだったわね。他のクランと連携なんてするわけなかったわ」


「アヤメさんとか、ムカつく人が居たら敵と一緒に吹っ飛ばしそうだよねー」


 本当にやりそうで怖いです……。


「ていうかアヤメさんがよくオッケーしたね」


「まだ確定じゃありませんけど、イベントアイテムは【火精霊の封石】じゃないかと言われてるので」


「そこも含めてゲイル山と同じ扱いということなのね」


「しかも封石を素材にすると……魔法付与? 魔法剣? が作れるみたいで、プルストさんも……」


「「「「魔法剣!?」」」」


 ……あれ?


「……もしかして、そっちは情報出てませんでした?」


「そっちはまだだっ。マジかよ……すげー欲しいな……」


「やっぱ強い武器と言えば魔法剣だよねー」


「(うんうんうん)」


 攻撃役三人がものすごく食いついてますが……。


「詳しいことはまだ検証中だそうですよ?」


「それでも夢がある装備だからオッケーだっ」


「ロマン装備」


 ロマンですか。

 男の人の言うロマンは邪魔しないほうがいいですからね。

 そういうお客さんは何人も見ました。そして父と一緒に盛り上がってアレを買ったりコレを買ったり。

 止められるのは奥さんだけでした……。


「ゲイル山が発見されたときからやけに厳しいダンジョンが出たとは思ってたけど、手に入るアイテムもそんなにすごいものだったのね。魔法職は契約精霊、物理職は武器。どっちもかなり強化されるわね」


 誰が手に入れても嬉しいアイテム。欲しい人は大勢居ますよね。

 ……確かに私が何もしなくても、封石を手に入れようとする人は多そうです。

 さすが森の精霊さん。本当に私には何もすることがないようです。


「あたしら行く頃には順番待ちとか出来てそうだねー」


「そういえばエスはゲイル山に再挑戦してないの? 風精霊の封石をいくつも手に入れてたら、魔法付与の情報ももっと早く出てきたんだ思うけど」


「私以外に風属性の人が居ないので放っておかれたようですよ。契約するなら同じ属性がいいってアヤメさんもエリスさんも言ってましたし。あと私はそこまでアイテムが欲しいとも思いませんでしたので」


 自分と違う属性では契約出来ないかもしれないからとか、出来たとしても複数契約できなかったら自分の属性と契約できなくなるらとも言ってました。

 私も契約した後で精霊さんから聞きましたが、本当に一人一精霊しか契約出来ませんしね。


「それと、他のクランもゲイル山の攻略を進めてるので、邪魔するとうるさいからとか」


「攻略できることがわかってるクランに何度も挑戦されると、独り占めのように思われるものね」


 ブレイズロードには最低二回行く予定ですけど、それ以上はあまり増えないと思うので見逃してください……。


「今日もゲームの話? テスト終わったからって気を抜いちゃダメですよ?」


 突然の声の主は黒田先生です。


「ともちゃんせんせーこそ、今日も昼休みにどうしたの?」


「次は私の授業だから早めに来ただけです。それにちょっとお話ししたかったし。でもともちゃんもくろちゃんも禁止ですっ」


 お話しというのはゲームのことですね。

 先生、最初はゲームのことを話すのは躊躇してたんですけど、先送りにすると余計大変になると思ったので、早めに話したほうが良いですよと言ったんです。

 ゲームの中で突然会ってしまうと、どうなるか予想つかないので……。

 レイチェルさんは『隠しとくのもそれはそれで面白いけど』なんて言ってましたが、一応同意してくれましたし。

 それで最後は先生も話すことに決めたんです。


 でも……この黒田先生がロロさんなんですよね……。

 改めて考えると、私よく気が付きましたね……。


「し、新さん? どうしました?」


 じっと見てたので気にされてしまいました。


「特に何もないんですけど、先生やっぱり可愛いなぁと」


「ふぇっ!?」


 確かにゲームとでは細かく違うんですが、改めて見ると現実でも十分可愛いと思います。


「突然何を言い出すのっ!」


「むー、せんせーやっぱり嫁を奪う気ですねー」


「奪いません!」


「先生が相手でも、私負けませんよ!」


「勝負なんてしません!」


「その前に、今の真里じゃ返り討ちですよ」


「「「「「!?」」」」」


 あ、ゲームのこと考えてたらつい言葉が出てしまいました。

 マリーシャとロロさんが勝負したら、文字通り一発で終わってしまうかなぁ、と。


「新さん!? 一体何を言って」「ちょっとせんせーどういうこと!?」


 ……何故か先生が慌てだして、真里は先生に詰め寄り始めましたが……どうしたんでしょう?


「まさか碧からそんな言葉が出るなんて思わなかったわね……」


「ついに夫婦の危機か……」


「修羅場」


 何故か三人からは感心されて…………えっと?


「いくらせんせーでも横取りはどうかと思います! ていうか一体どーやったら碧にそんなセリフ言ってもらえるんですか羨ましい!!」


「横取りなんてしてませんし何もやってませんっ、新さんからも何か言ってあげてください!」


 何かと言われても……。


「よくわかりませんけど、何も横取りされてませんよ?」


「なぁんだー」


「ほっ……」


「あ、でも最後は横取りだったような……」


「「!?」」


 ブルードライトレントとの戦闘、最後は私がトドメを刺せそうだったのに、ほんの僅かの差で先を越されたんですよね。少し悔しかったのでよく覚えてます……。


「新さぁぁぁぁん!!」


「せんせえ……これは一度真剣にオハナシする必要があると思いませんかぁ……思いますよねぇ?」


 お話しの部分だけ何やら意味が違うような……。

 というか真里は何でそんなに真剣な表情なんでしょうか。真剣を通り越して、目の色が見たことない感じになってますが。


「新さんお願い! あのこと話してもいいから!」


「……あのことぉ?」


「ひゃあ!!」


「何で碧とそんなに仲良くなってるのかな? 何で先生と碧のあいだに秘密があるのかな? 何で『あのこと』なんて二人だけの言葉で通じてるのかな? 何で……」


 あのことというとゲームのことですよね。

 話すのはいいですけど……。


「真里、チャイム鳴りましたよ。席についてください」


「はーいっ」


 授業が始まるので、話すのは授業が終わってからですね。


「先生、授業をお願いします」


「は、はい……(助かったよぉ、助かったよぉ……)」


 真里はすぐにいつもの調子に戻りましたが、先生はどこか疲れてるのか、チョークを落とす回数が多かったように思います。

 やっぱり先生という職業は大変なんですね……お疲れ様です。


 そして授業終了後、改めて話そうと思いましたが、何故かチャイムと同時に先生の姿はありませんでした。

 真里は抱きついてきたままさっきのことは口にしないので……話はまた今度でいいでしょうか?

 先生も居ませんし、無理に話す必要がないのなら黙っておきましょう。

 そのほうが平和ですしね。




◇◇◇




「まさか学校でこんな修羅場を見るとは思わなかったわね……」


「いつものんびりして平和の象徴だった碧は、平和を壊すきっかけにもなるのね……」


「とにかくこのままじゃこっちも危ないから、しばらくともちゃんと真里は隔離の方向で」


「授業の前には交代でともちゃんを迎えに行くことにしましょう」


「教室から真里を一人で出さないようにもね」


「まぁ大したことない結果で終わりそうだけどねぇ」


「油断は禁物よ。学校で血みどろの嫁の取り合いなんて見たくないでしょ」


「彼女じゃないんだ」


「いつの間に昼ドラの世界に紛れ込んだの……」


「せめてレディコミにしようよ」


「どっちでもガチだなぁ。東ー、そっちお願いねー」


「わかってるわ。こういうのは初動が重要だもの。今日から動くわ」


「さっすが。それじゃひとまず、真里を監視する役を決めたいんだけど」


「私がするわ」


「助かるー」


「こんな妄想が捗る状況、逃す手はないわ!」


「チェンジで」


「!?」




ヤンデレにクラスチェンジはしません。


……たぶん。


…………きっと。


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