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11-4 新ダンジョンに行ってきます。


 あのあと、シーラさんが細かい内容を詰めてすぐに出発。

 護衛するのは片道だけです。帰りは明日以降とのことですが正確にはわからないようで、決まってから現地で雇うそうです。

 なので私の予定にも支障ありません。

 それに加えてドーガさんの馬車はゴーレム馬車。もう都合が良すぎると言っていいほどです。

 私以外はそうでもないようですけど……。


 人造ゴーレムの見た目は金属なのか樹脂なのかよくわからない素材で、形は生きた馬そのまま。生きた馬からゴーレムの馬に変わって、スピードが上がっただけです。

 シーラさんはゴーレム馬車だと乗り心地が良いようなことを言っていましたが、それはあくまで人を運ぶ馬車で座席がある場合の話。

 道具屋のドーガさんが持っている馬車が、荷物を載せる場所を減らして座席を設けているかと言われればそんなはずもなく……。

 なのでスピードは上がりますが、乗り心地は普通の馬車と変わりません。

 むしろただでさえ乗り心地が悪いのにスピードも上がれば当然悪化します。しかもパリカルスまでは平坦ではない山道です。

 乗り心地がどうかなんて試すまでもありません。

 五分ほどで空へ逃げ……ではなく索敵任務に就きました。


『イオンの裏切りものー……』


 裏切りではありません。予定通りです。


 その後は順調に進んでいましたが、パリカルスまでそろそろ半分となる頃でしょうか。

 ちょっと気になる物が見えたので馬車に戻ります。

 特に問題ないとは思うんですが、みんながどう判断するかわかりませんので。


「どうしたの? わざわざおりてきて」


「しばらく進んだ辺りで別の馬車が立ち往生してたんです。魔物に襲われてるとかではないんですが、一応お知らせしておこうかと」


「立ち往生?」


「はい。しかも豪華な馬車でした」


 普通の馬車に比べればこのゴーレム馬車も高いそうですが、恐らくその金額のほとんどは人造ゴーレムだと思います。

 荷台は普通の馬車と同じで、木製の荷台を幌で覆っているだけ。スピードに耐えられるように、車輪がしっかりと作られてるくらいです。


 それに比べて立ち往生している馬車は、いかにも人を乗せるために作られたものに見えました。

 遠目でよく見えませんでしたが黒塗りのキャビン(客室)はいかにも高級そうでした。もちろん人造ゴーレム付きです。

 ああいう馬車なら乗り心地もいいかもしれないですね。


「そんなわけで少し気になったので」


「なるほどね……悪いけど先に行って見てきてもらえる? こっちは少しスピードを落として向かうから、危なそうだったらすぐに戻って。ドーガさん、お願いできますか」


 恐らく大丈夫だろうけど、警戒しつつ進行ということですね。


「わかりました。もうすぐ下りとなる辺りですが、この辺は魔物も少ないはずです。特に問題ないとは思いますが、用心に越したことはありません」


「ありがとうございます。イオン」


「了解です、行ってきますね」


「気を付けてねっ、何かあったらすぐ呼んでねっ」


 マリーシャの言葉に手を振って応え、馬車から出てすぐに空へ。

 一応警戒のため高度を上げて、それから馬車のほうに近づいていきます。

 道の真ん中、ではなく端で止まってるので、故障とか車輪が嵌まったとかだと思うんですが、それでも念のためです。


 馬車の側には二人の男性。

 一人は街でもよく見かけるような人ですね。シャツにベストに茶色のズボン。もう一人はスーツみたいな服です。

 二人揃って車輪を見てますが……あ、理由がわかりました。

 車輪のスポークが折れてます。あれでは走れません。

 それで立ち往生してたんですか。

 理由はわかりましたが、向こうも私のことに気付いたようなのでそこにおります。

 何も言わずに戻ると警戒すると思いますし。


「この辺りで鳥族の方に会うとは珍しい。どういったご用でしょうか」


 声をかけてきたのはスーツの男性です。

 表情は柔らかいですが警戒されてるみたいですね、少し声が固い気がします。

 突然おりてきたら当たり前ですね。


「私はイオンと言います。冒険者をしている者ですが、実は馬車の護衛をしながらパリカルスに向かっているところでして」


「馬車の護衛……そうでしたか。それでここに止まっている私どもの様子を見に来たと」


 信じたかどうかは置いといて、内容に納得はしてもらえたようです。

 すぐに馬車が来るので大丈夫でしょう。


「車輪が壊れてるようですが……換えの車輪は無いんですか?」


 自動車だったらスペアタイヤかパンク修理キットが車載されてるんですが、これは馬車ですし……。


「いつもなら用意しているのですが、今日は生憎と」


 あれば交換作業にかかってますよね……。


「失礼ですがそちらの馬車にはございませんでしょうか。馬車の持ち主へ取り次いで頂くだけでも構いません」


「ありますが外径が全く違いました。それに一つしか無いので……」


「そうですか……」


 馬車に乗る前にいろいろ見させて貰ったので、換えの車輪があるのは知ってます。なので外径が全く違うこともわかりました。

 二つあれば左右とも交換することで何とか走れると思います。前後で外径が違っても、四輪全てが接地していれば一応動きますし。

 自動車でやると大変なことになりますけど、馬車なら街まで保つかもしれませんしね。


「ちなみに修理用の工具とか……無いですよね……」


 首を振られました……。

 車輪は木製だったので、その辺の木を切ってきて折れたスポークを交換したらなんとなるんじゃないかと思いましたが、道具が無ければ何も出来ません。

 もっと技術のある人ならわかりませんが、所詮私は資格も持ってない、ただのお手伝いですからね……。


 というか自動車だったら木の加工作業なんてしません。カスタム専門のショップとかであれば違うかもしれませんが、うちは普通の整備工場なのでそんな技術ありませんし。

 フレームやパネルに木材が使用されてる自動車も有るには有りますが、もしそんな作業が入庫したらすぐ外注に出します……。


「ダニエル! まだ馬車は動かんのか!」


 いつの間にか私も含めて三人で悩んでいたところに、馬車のほうから大きな声がかけられました。

 そちらに顔を向けてみれば、丁度馬車からスーツを着た男性が出てきたところ。

 一番仕立ての良い服を着ているので、この方が主人とか社長とか、そういう人なんでしょう。

 服は上等な物ですが、この中で誰よりもゴツゴツした顔で、誰よりも大きい体で、誰よりも筋肉に覆われた方です。スーツを着てなかったら護衛の人と勘違いしてしまいそうです。

 そんな強そうな男性は、厳めしい表情でこちらに近づき、


「む、なんだ貴様は!」


 私に気付いて、その表情のまま私に言葉が飛んできました。


「冒険者をしているイオンと言います。今、別の馬車の護衛をしておりまして」


「だったら何故ここに居る! この私に何の用だ!」


 表情は厳しいままですし、口調もキツく怒鳴るような声です。


「用があったわけではないのですが、魔物に襲われでもしていたらこちらの仕事にも支障をきたしますので確認しに来ました」


「そうか! だったらすぐに帰れ、私は忙しい!」


 怒鳴るような声ですが……多分“素”ですね。いつもこんな喋り方で、私に対して怒ってるわけではないと思います。

 ガタイの良いお客様にこういう方が居るのでわかります。

 不機嫌ではあるかもしれませんが、関係ない相手にまで怒鳴り散らすほどではないようですし。


「お待ちくださいギリアム様。残念ながら馬車の修理は不可能なのです」


「何故だ、車輪を交換したらいいだろう!」


「交換用の車輪は先日使用しており、今はありません」


「ならば修理はどうだ!」


「この壊れ方では、私どもには」


「それなら仕方がない。だがこれからどうするのだ!」


 不機嫌であっても無理難題を押しつけるわけでもないようです。

 喋り方は横暴に聞こえますが、話はわかる方のようですね。


「それなのですが、私に案がございます」


 そう言うダニエルさんは、私と、私の後ろからやってきたドーガさんの馬車に視線を向けています。


「こちらの方の護衛している馬車は、どうやらパリカルスへ向かうようです。あちらの方に交渉し、便乗させていただくのがよろしいかと」


 動かないものは仕方ありませんし、目的地が同じであればそう考えますよね。


「素晴らしい、交渉は任せるぞ!」


「承知しました」


 恭しく礼をするダニエルさんと、提案に満足そうなギリアムさん。

 表情が厳めしい……というか怖い顔のままほとんど変わらないので、本当に満足してるのかはわかりませんけど。


 ダニエルさん交渉すると言ってますが、多分ドーガさんは二つ返事で乗せると思います。

 荷物があってスペースに余裕がないとか、何か事情があれば別かもしれませんが、そういったことはありませんし。

 それにこの辺りは魔物が少ないと言ってましたが、全く居ないわけでもありません。

 放置したらどうなるかわかりませんしね。


 近づいてきたドーガさんの馬車に交渉に行くダニエルさん。

 予想通り二つ返事、どころか事情を聞くなり是非どうぞと招き入れてます。

 どうもギリアムさんは商家の主人だったようで、以前に取引したことがあったそうです。

 直接会ったことはないそうですが、今回馬車に乗せただけで顔繋ぎができたのでドーガさん自身はかなり嬉しそうでした。

 馬車の中には、そうでない人も居ましたけど。


「なんだ貴様、そんなヒョロイ体で護衛が務まるのか!」


「まぁ……」


「なんだその腑抜けた返事は! 少しはあっちのごついのを見習え!」


「すんません……」


 何故かリード君にばかり話しかけてました。

 体育の先生に怒られるより怖い顔してますからね。すっかり萎縮してしまってます……。


「だいじょーぶですよー、こう見えてもそこそこ強いですよーリードはー」


「そうか? だが戦う者である以上強さを求めねばならん! そうでなければ仲間が危なくなるからな!」


「そこは同意だなぁ。リード、やっぱり頑張れ」


 マリーシャは平気で話しかけてます。怒って言ってるわけじゃないと気付いてるからですね。

 あ、リード君そこでそんな顔すると……。


「貴様! 女の背に隠れて安堵するとはどういうつもりだ!」


「そんなつもりじゃないんだが……」


 マリーシャに任せてホッとした顔するから指摘されるんです……。

 もちろんリード君以外は『まったくだ』と言わんばかりに頷いてます。私も含めて。

 気持ちはわかりますが、そういう顔は誰にも見せないほうが良いですよ?


 ところで今は私も馬車に居るわけですが、索敵は代わりの人、ダニエルさんと壊れた車輪を見ていたもう一人の男性が索敵に出ています。

 さっきは一言も喋りませんでしたが、どうやら索敵が得意なこともあって御者兼索敵をしていたらしいのです。

 キャビンはあそこに置いておいて人造ゴーレムだけ切り離し、今は人造ゴーレムに乗って周囲を見張ってもらってます。

 キャビンはまた車輪を持って修理しに来るそうです。今は動かせないので、それしか方法が有りませんしね。

 それで何故私が馬車に居るかといえば……。


「あの、ダニエルさん。伺いたいことがあるんですが」


「私にですか。どういったことでしょう」


「先ほど『この辺りで鳥族の方に会うとは珍しい』と言われましたが、どこに行けば他の鳥族の方に会えるのか、ご存知ないかと思いまして」


 これを聞きたかったからです。

 他の鳥族の方で会ったのはメグルさんとロロさんだけ。

 鳥族のプレイヤーが少ないとは聞いてますが、この世界にはNPCの鳥族も居るはずです。

 私が会ったみたいのはそういった人たちです。

 何か理由が有るわけではないですけど、やっぱり一度は会ってみたいので。


「ということは、皆様は異世界の冒険者でしたか」


 “異世界の冒険者”

 私たちプレイヤーの、ゲームでの立ち位置……のようなもの、です。

 初心者の館では特にそんなこと言われませんでしたが、こちらの世界の住人(NPC)からはそう呼ばれているとバルガスさんに聞きました。


 私たちプレイヤーはログアウト中は異世界に帰っていて、ログイン中はこの世界を冒険するために来ている、という風にこちらの世界の人から認識されているそうです。

 NPC全員からそう呼ばれているわけではない(見た目はこの世界の獣人と同じなので、見ただけでは区別できません)ので、特に気にする必要もないけど念のため覚えておいたほうが良いと言われました。


 まるで観光客みたいですね。穿った見方をしたら、世界を乗っ取ろうとする侵略者とか。

 今のところはそんなマイナスイメージは持たれていないそうです。

 異世界の冒険者が来る前は街同士の交流も少なかったので、街の発展や経済的な意味でも助かってるんだとか。

 今のところは、と言ったのは、そのうち歓迎されない街とかも出てくる可能性もあると言われたからです。


『現在は独立した街しか見つかってませんが、そのうち国が見つかるかもしれません。街単体としては発展は歓迎すべきものだとしても、国から歓迎されるとは限りませんから』


 政治的なことになるとよくわかりませんが、そういう可能性があるから覚えておいたほうが良いということなんでしょう。


 話がずれました。今は鳥族のことが聞きたいのです。

 珍しい、と言われたので全く見ないというわけではないようですが……。


「鳥族の方は北方の山脈を越えた辺りに住んでいると聞いております。北方では手に入りにくい物品を購入するためなど、何か理由がない限りは北方から出てこないようです」


「山脈の向こう、ですか……」


 ルフォートの北にもセカ村の北にも大きな山がありましたが、そのさらに北には東西に伸びた長い山脈がありました。

 その向こうに住んでいるのであれば見る機会も少ないですし、こっちから行くのも難しいですよね。

 今まで会わなかったのも納得です。


「北の山脈の向こうには、まだ誰も行ったことがないはずよ。山脈を越えるルートが見つからないって」


「そうなんですか?」


「普通に山を越えようとすると魔物が多過ぎて進めないそうよ。特にワイバーンとか空の魔物が大変らしいわ」


 ゲイル山もでしたが、足場の悪いところで空から襲われると大変ですよね。


「それより南側(ニデス)の攻略が先に進んだから、キツいとわかってる北は後回しにされてるの」


 大変だとわかってるほうより、今行けるほうを先に攻略するのは当たり前です。

 結構大変そうなので、当面は諦めましょう。


「北方と言えば……昔、まだ街同士の交流が盛んだった頃は北方との取引もあったそうです。何でも山脈を越えるための道があるとのことでしたが……」


「今では失われてしまった、ですか」


 その通りです、とダニエルさん。

 使わなければ忘れますからね。仕方ありません。


「貴重な情報をありがとうございました」


「いえいえこのくらいでしたら。それより、もし北方への道を見つけたらご一報ください。使えるかどうかは別にしても、その情報には高い値を付けますので」


 優しそうな笑顔ですが目は真剣です……。

 さすが商家の主人に仕える方。儲けのタネになりそうなことは見逃さないということですね。

 その辺は私も見習いませんと。

 今月のお店の売り上げ、父が追加の仕事を取ってこないと大変なことになりそうなので……。



3/25 誤字修正しました。

4/11 誤字修正しました。


Q:前後で違うサイズのタイヤって、自動車でやるとダメなの?

A:車輪速センサーでタイヤの回転速度を常に読み取ってるんですが、前後の回転差が大きくなるとABSが効かなくなる恐れがあるので……。あとフルタイム4WDの車だと普通に壊れます。



Q:でも前後でタイヤサイズの違う自動車って普通にあるよね?

A:『幅』は大きく違っても、『外径』はほぼ一緒がほとんどです。そうでない車もあるけど、新車でそうなってる場合はそもそもそういう造りになってるので。


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