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10-10 すごいなぁ。x2


 もしかしてとは思いましたが、本当に黒田先生でした。


 そのこと自体はいいんですが、それを知る過程は大失敗でした。

 ゲームの中で本当の名前を出すのはいけないことなんて、少し考えればわかることなのに……。

 レイチェルさんとは現実でもお知り合いだったようで、ご迷惑にならなかったのは不幸中の幸いというか……。

 ロロさん、本当にごめんなさい。


 ですがわかってみればすぐに納得できました。

 先生、現実でもよく見てるんですよね。いろいろと。

 体調悪そうな生徒にすぐに気付いたりとか、体型の変化にすぐ気付いたりとか、毛先しか整えてないのにすぐカットしたことに気付いたりとか(もちろん私はさっぱりでした)。

 それから、微妙な表情を細かく感じ取ったりとか。


 マリーシャとのことで心配してもらったあとも気にかけてもらってたようで、今では私の顔を見れば嫌がってるかどうかをわかってもらえてるみたいなんですよね。

 クラスメイトから打ち上げ(カラオケ有)に誘われてどう断ろうかと悩んでいると、さりげなく助けてくれたこともありました。


『困ってそうというより本当に嫌そうに見えたから。佐々木さんと居ると全然そんな風に見えないのに……やっぱり二人は仲良いんだね』


 そんな風になんでもよく見てる先生なので、それがあれだけ凄い目のロロさんと言われるとすんなり納得できました。

 先生はゲームでも見るのが得意なんだなぁ、と。


 ……でも私に気付かなかった、ですか?

 無意識に除外してたんじゃないでしょうか? 私のこと自体を思い出さなかったとか、先ほど言われたように他のゲームだと思い込んでたとか。

 私だってあの小さな笑顔が気にならなかったら、考えもしませんでしたし。

 それに昨日もでしたが、ロロさんは少し勘違いというか早とちりしてしまうようなので……。


『そこが可愛いし、ついいじりたくなっちゃうんだよねー』


 なんてマリーシャは言ってましたけど。

 だけど今のロロさんが可愛いというのはわかります。

 学校とは少し違う喋り方は“先生”という感じはしませんが、“ロロさん”にはピッタリです。

 それにマリーシャのセリフはイマイチわかりませんでしたが……こう表情をころころ、というがぐるぐる変えるロロさんを見てると少しわかるような気が……。


 ――それについては私も同意見ですわ。でもやり過ぎは良くないですの。……ロロさんの場合はついやり過ぎてしまいたくなるのが、一番の問題点ですの。


 最後はどうかと思いますが、私も気を付けましょう。


 それにしてもロロさんの話を聞くと驚きました。

 いくらなんでもワイバーンまで一緒だとは思いませんでしたし。

 鳥族はワイバーンと一人で戦うのが通過儀礼なんでしょうか……そんなわけありませんよね。

 それはそうと。


「ロロさん、ワイバーンと戦うの楽しかったんですよね。他に戦って楽しい魔物が居たら教えてもらえませんか?」


「他の魔物? うーん……」


 気になるので聞いてみます。

 今日のブルードライトレントは楽しかったですね。メグルさんの言ってたように堅かったですし、何度も追いかけるのは楽しかったです。

 あれで魔法が飛んできたらもっと良かったんですけど。


 こないだのメタルイーターはもう遠慮したいです。見た目が嫌なので。

 それに攻撃も体当たりしかしてこなかったですしね。堅いだけでは面白くありません。

 他の攻撃をしてこなかったのは、アヤメさんのおかげですぐに倒してしまったせいかもしれませんけど。


「イオンさんだったらスタンピードホースとかいいんじゃないかな。足は速いし反応も早いから、接近戦だと面白いかも。それと森の中でも飛べるならトリックモンキーとかどうかな。強くはないけど動きが変則的だし複数出てくるから、乱戦になって面白いよ。イオンさんはどこが面白かった?」


 どっちも良さそうですね。

 今度行って見ましょう。


「ロロさんには合わないかもしれませんが、私はゲイル山です。ゲイルファルコンがいっぱいでてきて、一斉に魔法を撃ってくるので回避が楽しいんですよね。あと地上側には堅そうな魔物が多かったですし」


「ゲイル山かぁ。一人じゃ辛いからまだ行ったことなかったんだよね。避けるのは苦手だし大変そうだけど行ってみたいなぁ……」


 回避は苦手だと言うロロさんですが、でも興味津々といった感じです。


「じゃあ次一緒に戦うときは行ってませんか? 空担当と地上担当が居れば多少は進めると思いますし」


「それなら私からもお願いしたいわ。あそこの素材はまだまだ少ないから」


「じゃあイオンさんがよかったらお願いしていいかな?」


「もちろんです」


 一度行った場所ですがロロさんと行くならまた違った面白さがありそうですし、楽しみです。


「言っておくけど、二人だけで攻略しましたーなんて、とんでもない結果は期待してないからね」


 さすがにそれはないと思うんですが……。


「満足して途中で引き返すか、気付いたら攻略してるかのどちらかに決まってますわ。どうしても止めたければその場でお願いするしかないですの」


「今日がそうだったのね」


「メグルさん、止めるのに必死でしたの」


「「…………」」


 ご迷惑おかけしました……。


「二人とも、そんな戦闘狂なところまで似なくてもいいのに」


 戦闘狂!?

 た、確かに戦うのが楽しいとは言いましたけどっ、戦闘狂と言われるほどでは……なかったとしても、言動は危ないですよね……。


「お姉様。少しは自分の行いを顧みるですの」


「ロロもね」


「「はい……」」


 全く否定できません……。

 私のやってることと言えば飛んで、戦って、食べてばかりですしね……。

 どれも楽しいのがいけないんです……。


 ……そうです、食べるで思い出しましたっ。


「お姉様聞いてますの? 今日という今日こそは……」


「……ぐりちゃん」


「なんですの」


「パフェを食べに行きませんか」


「パ! ……オホンッ、お、お菓子で話を逸らされるほど子供ではありませんのっ」


 一瞬、目が輝きましたけど。

 メグルさんは今日集めた素材で最後らしいですよーと言ってたので、もしかしたらパフェが食べられるかもしれないんですっ。

 早速リンジーさんにメールをしましょう。フレンド登録しておいてよかったです。


「私は釣られてもいいわね。アレにはそれだけの価値があるわ」


「私も食べたいなぁ」


「ロロさんまで……アイガード外すと本当に人が変わりますのね……」


「現実だと食べに行ってる暇なくって」


 先生は忙しいですからね。

 それに現実だとそれ以外の問題もありますし。カロリーとか。

 あ、もうメールが返ってきました。


「……三時間くらいで出来るそうです」


 丁度いいですね。今はもう夕方なので、ログアウトして夕飯食べてから戻ってきましょう。


「それなら私たちのも注文入れとかないと。あのパフェすぐに売り切れるから」


「私のもお願いっ」


「ちなみに一つ200,000ゼルだそうです」


「にっ!?」


 高いです。ものすごく高いです。パフェの値段じゃありません。

 素材一つ集めるだけで報酬があの金額でしたから、無理もないですが……。


「しかも五十食限定だそうです」


「一瞬で無くなるわね」


「そんなに高いのに!?」


「ロロ」


「な、なに?」


「食べればわかるわ」


 レイチェルさんの目がものすごく真剣です。


「そこまで言うの……でもいくらなんでも一瞬はないんじゃない? あまり知られてないんだよね」


「予約分で半分は消えるのよ。前に食べられなかった人とか、手伝ってもらった人とかで」


「すいません、私だけで三個お願いしてます。もちろん一人で食べるわけではないんですけど」


「……レイチェルぅ」


「撮影一回」


「……わかった」


 ……よくわかりませんが、何やら取引が決まったようです。


「ぐりちゃん、もしいらないのならキャンセルしま……」


「お姉様は一度話せば理解できる方です。もう私からこれ以上言うことはありませんの。ですので私も頂きますわ」


 助かりました……。


 注文を入れ、ぐりちゃんの気が変わらないうちにすぐにログアウト。

 楽しみすぎます……。


 楽しみと言えば、明日はマリーシャとシーラさんの装備が完成するはずです。

 かなり時間かけて相談してましたから、二人とも相当楽しみだと思います。

 新車の納車前に、毎日のようにお店に来るお客様とか居ますしね。

 二人が楽しみにしてると思うと私も楽しみになってきます。


 明日のゲームも、楽しくなりそうですね。




◇◇◇




 再ログイン後、パフェを受け取った後はすぐに西の森へ。

 精霊さんにはいつもお世話になってますので、これだけは一緒に食べようと決めていたんです。

 クランの皆さんやレイチェルさん、ロロさんと食べるのもいいですけど、精霊さんはこのゲームで初めて出会った方でもありますので。


「これが、パフェというものですか……」


 その精霊さんの言葉自体はいつもと変わりませんが、そこには幾ばくかの緊張が込められているようです。


「見た目そのものは凄そうな感じはありませんのね……」


 それはぐりちゃんも、


「『今回はチョコレートで攻めた』と仰ってましたが……」


 もちろん私もです。


「『今回は』と言うと、もしかして以前は違うものだったのですか?」


「どうもその時点での最高の技術と最高の素材をつぎ込んだものだそうなので、回を重ねるごとに美味しくなっているそうです」


「なんて恐ろしい……」


 本当に恐ろしいです。

 まだどれほどの美味しさなのか味わってませんが、ですがそれがさらに進化する可能性、いえ間違いなく進化していくのです。

 恐ろしいに決まってます。


「では」


 私と、ぐりちゃんと、精霊さんで目を合わせます。


「そろそろ」


 パフェに真正面から向かい合い。


「「「いただきます」」」


 スプーンを、差し入れました。


 私がすくい上げたのは一番上に鎮座するチョコレートのアイス。

 スプーンを差したのと同様ゆっくりと口へ運び、そして――


ふわぁ……。


 誰ともなく、感嘆の声が漏れたました。

 いえそんなはずはありません。

 三人とも口を閉じたまま、その味を堪能しているのですから。


 私の口に広がるのは当然チョコレートの、カカオの味。

 濃厚で柔らかいその味はアイスの溶けていく余韻を否応なく感じさせ、次を次をとスプーンを動かさせます。


 丸かったチョコレートアイスが姿を変え始めると、次に目に入るのは大きめにカットされたバナナ。

 なんでもないバナナかと思えば、口に入れた途端に広がるバナナの香り。

 チョコレートと絡まった二つの味はお互いを引き立てあい、新しい甘さをもたらしつつアイスで冷え切った口を優しく癒やしてくれます。


 そして次に現れたのはチョコレートムース。

 口に入れて感じるのは、何よりもその甘さ。

 アイスで感じたカカオの風味よりも甘さを引き立てられ、また一つ新しい顔を見せられたかのようです。


 夢に浮かされたようにスプーンを進め、突然現れたのは生クリーム。

 予期せぬその味に、一気に現実に引き戻されました。

 ですがそれは甘い夢を壊されたわけではありません。

 控えられた甘さの生クリームは口に広がるチョコレートの味を優しく洗い流し、最後に向けて居住まいを正してくれたのです。


 そう、最後です。

 一番下に敷き詰められたチョコレートアイスは、今度はほんのりビターな味。

 強すぎない苦みがゆっくりと舌に広がり、気が付けば消えていくその様はまるでお別れのようで。


 気が付けば、手の中には空になった器だけ。

 そのまま、しばらくぼぉっと余韻に浸っていました。


 それは私だけではなく他の二人も同様です。

 まるで幸せな夢を見ていたかのように、何をするでもなく幸福な気分のまま。


 やがて思い出したようにコーヒーをグリーンに、精霊さん用にカフェオレを、そして私も自分のカップにコーヒーを入れ一口。

 三人で満足そうな吐息を漏らし、そのままゆったりとした時間を過ごしました。


 誰も何も喋らないのに、そこに流れる幸せな空気。

 もうしばらく、このままでいたいです……。




今話はここまでです。

幕間が一つ入って次話になります。


幕間は多分明日投稿しますが、次話は結構時間かかりそうですごめんなさい……。

目標は一ヶ月以内……。


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