10-9 すごいなぁ。x2
寡黙モードとか吹き飛ばして叫んじゃったよ!
だってだってだって学校じゃあんなにいい子だけど地味系でもったいない子がこんな可愛いイオンさんだなんて思いもしないよ!!
何をどうしたらこうなるの!!
このゲームでのキャラクターは多少の修正は加えられるけど、基本的には本人を元にしてるはずなのに!!
あんな優しそうな目元とか、整った輪郭とか…………よく見たら、新さんだ。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! 新さんってこんなに可愛かったのぉぉぉぉぉ!!??」
って私何言ってるの!!
「ごっ、ごめんなさい! あまりに違いすぎて、その……普段の新さんがどうというわけじゃなくて……」
「あの、可愛いかどうかは置いといて普段とはかなり違うと思いますから仕方ありませんよ。少なくとも普段は可愛くありませんし」
全然に気にしてませんと言ってくれる新さん……本当にごめんなさい……。
でも現実ではいつもほったらかしな髪とか間違いなく何もしてない肌だけど、ゲームだから全部綺麗になってる……それだけで本当に別人みたい……。
「違うと言えばロロも違うわね。現実でもゲームでも中身は可愛い系なのに、今は格好いい系なんだから」
レイチェル!?
「本当に格好いいですよね。アイガードを外すまで、格好いいという印象しかありませんでした」
新さん……じゃなかった、イオンさんまで!!
「私が言ったのよ、アイガードを付けてるあいだは寡黙なキャラになったほうがいいって。ハマってたでしょ」
「ものすごくピッタリでした」
「二人とも何を言ってるのぉ!」
「何って、ロロは格好いいって話よ」
「そうですよ。ロロさんは格好いいです」
あぅぅぅぅぅぅ!!
か、からかってるってわかってるはずなのにっ!
でもイオンさんにまでそう言われると、なんだかものすごく恥ずかしいっ!
「しかもアイガードを外すと途端に可愛くなるなんてスゴイですね」
「でしょ。昔っから可愛かったのよーこの子は」
「ふっ、二人ともいい加減にしなさぁぁぁぁぁい!!」
もう我慢できないよ!
「可愛いだの格好いいだの、そういうのは私なんかに言っちゃダメなの!! 特にイオンさんっ、貴方が言うと冗談に聞こえないから!!」
「すいません。でも本心なので……」
「っ~~~~~!!!!」
笑顔なのにどことなく申し訳なさそうなイオンさん。
ああもう、学校でもこうだったんだよね……。
佐々木さんの件で、本当は嫌じゃないの? って聞いたら『そうは見えないかもしれませんけど、本当に嫌じゃないんです。むしろあんなに構ってくれて、私も楽しいんです』って答えが返ってきたときだってこんな表情で……。
うぅぅぅぅぅぅ……本心からこんなこと言われてるってわかると、本当に恥ずかしいよぉ……。
「すごいわねイオンさん。ストレートに言うだけでロロを黙らせるなんて」
レイチェルが変化球ばかり投げるからでしょ……。
「まさか二人にこんな繋がりがあるなんて思わなかったわね。でもどうしてわかったの? 今のロロは現実とは格好から何から結構違ううえに、アイガードで顔もわからなかったのに」
そ、そうだよ。ほとんど話もしなかったのに……。
「そう言われても……なんとなく気になったというか……」
なんとなくって……。
「一体目のブルードライトレントを倒して戻ってきたときにフードが脱げたじゃないですか。そのあと少しだけ笑ってくれましたよね。あれが気になったんです。今思い出すと、先生が小さく笑うときと口元がそっくりだったからですね」
「あのとき? あれだけでよくわかったね……」
ほんの少ししか笑わなかったはずなのに……。
「それに比べて、ロロはわからなかったのね」
う゛っ!
副担任なのに、受け持ちの生徒がわからなかった……。
「仕方ないですよ。副担任とはいえ生徒は他にも大勢居ますし、それにロロさんの言うとおりゲームとは全然違うので。だから全然気にしてませんから」
そう言うイオンさんの笑顔はやっぱり本心に見える……。
うぅ、本当ににごめんなさい……。
「ところで先ほど、レイチェルさん『昔から』って言われましたけど……」
「ええ、私とロロは現実でも知り合いよ。高校までずっと一緒だったわ。だから今回は偶然問題なかったけど、ゲームでリアルネームを出すのはマナー違反だから注意してね。始めたばかりでその辺の意識が薄かったでしょうし、ロロのアイガードを外してもらえる場所もここしか思いつかなかったからでしょうけど」
「あっ、大変失礼しましたっ」
「だ、大丈夫。次から気を付けてくれたらいいから」
慌てて頭を下げるイオンさん。でも気にしないでいいからね。
『何か気になるなぁ』を確認して、『もしかして』がつい口から出ちゃっただけみたいだったし。
悪意も何もないんだから怒ったりしないよ。イオンさんなら一度失敗したら覚えるだろうし。
それにここを選んだのも納得。アイガードを外すから人目のある外は論外だし、二人だけで個室の食堂とかさすがに断るし。
それに私から話題が逸れたから助かったし……。
「じゃあその話はこれでおしまい。話を戻すけど、私は小さい頃からロロと知り合いだったのよ。ちなみにロロの小さい頃は当然可愛かったけど、大人になっても変わらず可愛いのよ。だからついいじりたくなるの」
戻さないでよ!
それに何言ってるの!?
「学校でも可愛いですよ。それにいじりたくなるっていうのも友達が言ってました」
イオンさんまで! それにそんなこと言ったのは誰!
「そうだ友達で思い出した! イオンさん、まさかとは思うけど……」
「はい。昨日の四人もこのゲームですよ」
やっぱりぃ……。
「そのうち二人は、昨日このお店に来てました」
!?
「あの二人ね。あんな可愛い生徒持ってるなんて、早く教えてくれたらよかったのに」
レイチェルも会ってるの!?
可愛いってことは佐々木さんと東さんだよね。
東さんはともかく佐々木さんに知られたら……学校でもあんなに構ってくるのにそれがゲームの中になったら……。
うぅ、きっとレイチェルみたいなのが二人になっちゃうよぉ……。
「もちろん実際に会うまでは秘密にしますから。安心してください」
「よろしくお願いします……」
今はその本心な笑顔が嬉しいです……若干苦笑いだったけど……。
「でもロロさんのやってるゲームがBLFOとは思いませんでした。もっとのんびりしたゲームか、もしこのゲームでも戦闘以外をしてるのかと……」
「それは私もだよ。まさかあのイオンさんが戦闘もやって、しかも飛べるなんて思いもしなかったよ……」
戦ってても前線を佐々木さんに任せて後衛担当とか、そんな風にしか思わないよ。
それがまさか前衛……それとも遊撃? よくわからないけど、とにかくあんな戦い方するなんて考えもしなかった。
それに何回も言うけど空を飛んでるんだよ!?
私も一応背中に付いてるけど、もちろん全然動かせない。
でもイオンさんは本当に自分の体のように動かして、本物の鳥のように空を飛んで……。
私が鳥族を選んだのは目がいいからって理由だけだけど、気持ちよさそうに空を飛んでる姿を見るとやっぱりいいなぁって思っちゃう。
……空を飛べるように、私も頑張ってみようかなぁ……。
「現実の二人は戦闘職とはほど遠いタイプというところは一緒。そのうえゲームでの戦い方は普通とはとても言えない戦い方をしているところも一緒。だけどその戦闘スタイルは固定型と移動型。外見も白い翼と黒い翼という正反対。とことん面白い二人ね」
言われてまじまじと見ちゃったけど……私たち本当に違うよね。
私はその場を動かず遠距離攻撃に徹底。
対してイオンさんは高速で動き回って近接攻撃。
まるで静と動みたい。
外見も正反対。
白い翼に明るい服装のイオンさん。
真っ黒の翼に、真っ黒の服の私。
本当、正反対に思える。
でもなんだろ……いろいろ違うのは間違いないのに、ものすごく似てる気がするんだよね。
それは多分だけど……。
「イオンさんは何でこのゲームで戦ってるの、って……聞いてもいい?」
多分だけど、そこの部分。
生産職とかいろいろできるゲームで、でも戦闘職を選んだ理由。
本当になんとなくだけど、似てる気がする。
「こう言うと危ないように聞こえるかもしれないですけど……楽しかったんです。戦うの」
楽しかった。
「最初はただ飛びたいからってゲームを初めて、飛んでるだけで楽しかったんですけど……ワイバーンと戦ったときですね。大変だったけど、楽しいと感じたんです。だから戦闘もやってみようと思ったんです。もっと楽しくなりたかったので……どうしました?」
言葉の途中でつい吹き出しちゃった。
突然笑い出したら何だと思うよね……。
「ご、ごめんなさい笑ったりして。イオンさんの言ったことが変だったんじゃないの。でもそこまで似てるとは思わなくて……」
やっぱり似てた。ていうかある意味似すぎだよ。
「私もね、ワイバーンを倒したときに戦うのが面白いなって思って、それで積極的に戦うようになったの」
私の言葉に驚いた表情のイオンさん。
驚くよね。私もここまで似てるなんて思わなかったよ。
「元々このゲームを始めたのはレイチェルに誘われたからっていうのもあるけど、私の慌てやすいところを直したいって思ったからなの」
小さい頃から高校まで一緒だったレイチェル。
でも大学からは別れてしまって、それでも休みの度に会ってたけど、お互い就職してからはそれも無くなった。
レイチェル、遠くに引っ越しちゃったし。
会えないねって電話で話してたら、ゲームなら会えるよって言われて、それで私もVRゲームをプレイすることになった。
ゲームは戦ったり作ったり、いろいろできるRPG。
レイチェルは初めっからお店をするつもりだったからそこに誘われたけど、私不器用だからそれは断った。
だから素材を取ってきたりでサポートしようと思って、戦闘職を選んだ。
何より学校で『もっと落ち着きを覚えろ』なんて言われてたこともあって、『敵に囲まれる状況でも冷静に対応できるようになれば、少しは落ち着くのかな』なんて、今思えば馬鹿みたいな考えが後押ししたから。
でも軽い気持ちで選んだ鳥族という種族がネックになった。
鳥族は弱いって思われてるから(実際そうだったし……)パーティにも入れてもらえず、なかなか戦闘に慣れなかった。
そんな上手くいってない頃、学校でネチネチ言われたこともあってついレイチェルに愚痴ったら、数日後には私用の武器を用意してくれた。
本当に嬉しかった。
嬉しかったけど、武器を見たときは不安だった。
映画とかドラマでしか見たことないような、大きな銃。
まともに扱えるなんて思いもしなかった。
だけど手に持ってみると嫌な感じはしなくて、狙ってみると不思議と落ち着いて……。
そんな武器を持ったことで、一応戦えるようになった私。
その日は、ちょっとした失敗からワイバーンの出現地域に入り込んでしまった。
でも目を鍛えてたからワイバーンに気付かれる前に、私が先に発見できたのがよかった。
そこで本当なら逃げることを考えるはずなんだけど……何故かその日は、戦うほうを選んでた。
後で指摘されてようやく気付いたから、本当に無意識だったみたい。
私は逃げることなんか少しも考えないまま武器の射程ギリギリまで距離を開けて、狙いを定め、そして撃った。
一発目で眉間に命中したけど、それでも倒れず向かってきたワイバーン。
二発、三発と近づいてくるワイバーンに当てたけど倒れず、最後は転がるように攻撃を避けながら何発も撃って、ようやく倒せた。
倒したらものすごい安心した。助かったって思った。
でも、もう一回やってみたいとも思った。
慎重に狙いを定め、それこそ針の穴を通すように一発一発撃ち込んでいく自分。
ワイバーンが近づいているのに、怖いのに落ち着いている自分。
攻撃をされながら、もうダメだと思っているのに狙いを付けようとする自分。
それを思い返すと、自分でもよくわからない衝動に襲われた。
よくわからないけど、でもその感情は決して不快じゃなかったし、そのときの自分は実に晴れやかな気分だった。
だからそれからも戦うことを続けて、少し経ってようやく気付いた。
「あのときは楽しかったんだ、って。私も戦うのは楽しいから、だから戦ってるの。……一応、当初の目的も兼ねて」
学校のほうはうまくいってないけどね、と付け加える。
昨日も慌てちゃったばかりだしね……。
「本当に、いろいろ似てて面白いですね」
「貴方たち、実は生き別れの姉妹だったりするの?」
「そんなわけないよっ」
驚きながらも笑ってくれるイオンさんと、わざとらしく空気を変えようとするレイチェル。
レイチェルは真面目な話はすぐ切り上げたがるから。
私だって得意じゃないけど……でもイオンさんには平気で話せた。
有り得ないけど本当に生き別れの家族みたいな感じ……でもないか。むしろ家族にこんなこと話すほうが恥ずかしいよ……。
「でもロロさん、全く効果が出てないわけではないと思いますよ。少なくとも去年より良くなってますし」
「そうなのっ。去年より授業計画も進行具合もずっと良くなってるって、学年主任に褒められたんだからっ」
だからそれ以外も上手くやれるはずだって、いろいろ言われてるけど……。
「それって、ただ単に仕事に慣れただけじゃないの?」
「違うのっ、ゲームのおかげなの!」
私がそう思うんだからそうだもん!
「何でもいいじゃないですか。ロロさんは仕事が上手くいくようになって、ゲームも楽しい。悪いことなんてないんですから」
「だよねっ!」
つい反応しちゃったけど……そうだよね、私ゲームやってるの楽しいんだよね。
いろいろ言われるけど、でも好きだと思えるし戦うのは楽しい。
だったら変に悩んでないで、もっと楽しんだほうがいいよね。
それこそ、悪いことなんて何も無いんだしっ。
「ねぇイオンさん。今度時間あったら、また一緒に狩りに行こうよ」
「私からもお願いします。ロロさんと一緒に戦うのはとても楽しかったので」
そう言うイオンさんの笑顔はやっぱり素敵で、本心からの言葉なんだなぁと素直に思えた。
私も今は自然に笑えてるんじゃないかな。
だって、このゲームやっぱり楽しいしっ。
◇◇◇
「ところでレイチェル、【M82A2ラシキナニカ】だけど」
「どうだった?」
「威力は凄いし肩に乗せるからいろんな方向に打ちやすいけど、グリップだけじゃ精密射撃が難しいからやっぱりバイポッドが欲しいよ」
「なるほどね。無理言ってでも付けさせましょうか、ダメなら外せば良いんだし。他には何かある?」
「細かい調整はして欲しいけど、一番大きな問題が……」
「無理よ」
「まだ何も言ってないよっ」
「弾は安くならないわよ」
「わかってるなら何とかしてよっ。【SVDカモシレナイナニカ】の五倍の値段なんて聞いてないよ!」
「魔石も五倍使ってるから、そりゃね」
「使いすぎだよ! それにどうして威力調節機能がないの!」
「威力重視で作ったんだから下げちゃダメでしょ」
「下げても十分威力あるよ!」
「増幅能力も上がってるからね、凄い威力でしょ」
「凄すぎるよ! もうちょっとでイオンさん巻き込むところだったんだからっ」
「大丈夫よ」
「何が!」
「貴方が外すわけないでしょ。ロロ」
「……もぅ」
「あぁそれと(相変わらずちょろいわね)」
「何?」
「【P220ノヨウナナニカ】を置いていってくれって言ってたわよ。素材が余ったから、ステンレスフレームに改造するとか何とか」
「……それって、また弾代が上がったりとか……」
「形は一緒みたいだし、大丈夫じゃないかしら」
「それならいいかな」
「9パラがどうとか45ACPがどうとか聞こえたけど、私も銃は詳しくないから」
「……本当に大丈夫?」
「さぁ?」
2/14誤字修正、若干表現を修正しました。
内容に変更はありません。
真にバレてはいけない人はイオンではないわけで……。
Q:9パラと45ACPって何?
A:弾の名前。『9x19mmパラベラム弾』と『.45ACP弾』のこと。どっちがどう違うとかはwikiとか軍事系サイトをご覧ください。
ちなみに値段が高いのは『.45ACP弾』。(グアム野外射撃場、2014年時点の弾薬価格の場合)
Q:銃器ネタわかんないからもういいよ。
A:次話から戻りますので……。