10-7 すごいなぁ。x2
遅くなりました……。
や、やっと着いた……。
確かにニデス周辺は強い敵が多いけど、そんなことはどうでもいい。
もうここに来るまでに精神的に疲れちゃったよ……。
新作の武器を受け取って、それからすぐにバトルデイズから出た。
それだけでホント大注目されたんだよっ。
それはそうだよね。鳥族でも有名な人が二人……一応は三人揃ったんだから……。
うぅ、自分で自分を有名って……でもアレコレ言われる程度には知られてるもんね……。
で、でも二人ほどじゃないはず! そこは間違いなく!
それに見ちゃうのは無理ないよ。
ただでさえメグルさんもイオンさんも可愛いのに、それを背中の翼がものすごく引き立ててる。
ゲーム発売当初は良い意味で有名だった鳥族の外見。
すぐに良くない意味で使われるようになったけど……でもこの二人は本当に似合ってる。
イオンさんの翼は鳥族らしさを思わせてくれる、白。
面白くないと言われればそうかもしれないけど、飽きの来ない白が似合うってそれだけでも素敵だと思う。
メグルさんの翼も白いけど、よく見ると少しだけピンクがかってるのがわかる。
ほとんど主張しないほんのりしたピンクだけど、光の加減でとても可愛く見えるんだよね。
それに比べて私のは……。
レイチェルは褒めてくれるしイオンさんもああ言ってくれるけど……でも二人の翼を見るとやっぱり羨ましくなっちゃう。
そして今日は三人で居るから余計にその差がわかりやすい。きっといつも以上にアレコレ言われてるよね……。
うぅ、なんでこんな色にしちゃったんだろ……。
そんな風に視線ダメージを受けながらやってきた街はニデス。一応最前線の街。
一応というのは街の近くに現時点で一番難しいダンジョンと、それに準ずるダンジョンがあることが理由。
本当はもっと難しいとこも見つかってるけど、全く太刀打ちできないから後回しにされてるんだよね。
攻略組でもダンジョン攻略に成功したり失敗したりする、そんな微妙なレベル帯だから最前線って言われてる。
もちろんフィールドの魔物もそれなりに強い。
私も戦えるレベルはあるけど、遠距離専門だから接近されたらかなりマズい。
だから普段なら索敵に神経を張り巡らせるところだけど、今日はイオンさんが居た。
空を飛んで上から見張ってくれたんだよね。もうホント大助かり。
だけど一度も戦わずに進めるわけじゃないから戦闘にだってなる。
たった三人だから当然私だって戦う必要がある。
……はずだったんだけど……。
イオンさんがねっ、見つけた端からどんどん倒してっちゃうのっ!
もちろんそんないっぱい倒したわけじゃないよ? 魔物の少ないルートで進むようにしてたし。
だからどうしても戦う必要がある魔物だけ戦おうって言ってたんだけど、それを全部イオンさんがスパスパ切っちゃうんだよ……もうなんか申し訳なくって……。
メグルさんは『私、いらない子ですかね?』なんて凹んでたけど、私も一緒です……。
街ではひたすら視線に晒されて、フィールドでは何もさせてもらえないままただ歩くだけ……。
もうここに来るまでにいろいろ疲れちゃったよ……。
「さて、なんだか歩いてるだけで着いちゃいましたがココが目的地です!」
気合いを入れ直すようなメグルさんの言葉。わ、私もこれから頑張るもん。
たどり着いたのは話に聞いてた通りの岩場。
そんな場所だけどポツポツと木が生えてるのが見える。
葉っぱほとんど付いてなくてなんだか枯れてるようにも見えるけど、何故か実を付けてる。
ゲームだし、そんな木もあるよね……。
「あの木のどれかに擬態してるんですけど、その中でもさらに擬態してるんですよ」
擬態して、さらに擬態してる?
「えっと……木に擬態した魔物が居て、その魔物に擬態した魔物が今回の目標。ということですか?」
「そのとーりっ! 普通のはドライトレント。ターゲットはブルードライトレントって言います」
や、ややこしい……。
「見かけは全く一緒なんですけど、実の色だけ違うんですよ。ターゲットの実は名前の通り青いです。でも攻撃してみるまでわからないんですよね。擬態してるうちは鑑定でもドライトレントって表示されるんで」
言われてみて見ると、確かに実は赤いのばかり。
そんなところまで厄介なの……。
「鑑定以外で魔物と普通の木を見分ける方法もないんですか?」
「そっちはあります。どこかに木の洞があるんですよ。普通の木には全く無いので」
洞かぁ……あ、あった。でも結構居るなぁ、だから探すのが大変なんだね。
でも擬態ってどうやってるんだろ。魔法とか使ってるんだったらそれが見えないかな……えーっと…………。
「居た」
「だからまず洞を探して歩いて、ってはや! さすがロロさんですねーここからでも洞が見えるんですか」
視力には少し自信あるから、これくらいは見えるもんね。
鳥って目がいいのは知ってたから、このゲームでは目を鍛えようって思ってた。
そうしたら早く魔物に気付けるし、先に気付けば先手を取れる。戦術とかよくわからないけど、でも先手を取れるっててすごく重要だと思ったから。
種族特性もあってすぐに慣れて、視界のスキルレベルも上がってかなり遠くまで見えるようになった。
結局索敵にはそこまで役に立たなかったんだけどね……洞窟とか森の中では、視線を隠す物が多かったし……だから役立たず扱いされて……って今はそんなことどうでもいいの!
それより。
「じゃ見つけた魔物に一発当ててもらって、当たりが出たら……」
「アレ」
「……あれ?」
指をさして見つけた魔物を教える。
注意して見たらあの木の実だけ、なんか変。だからアレ。
「……もしかして、ブルードライトレントですか?」
「多分」
確信はないけど……。
「多分でもいいじゃないですか。それから試してみましょうよ」
練習なんですし、と明るく言うイオンさん。
疑うよりまずやってみようって言ってくれるなんて、やっぱりいい子だなぁ……。
こういう子の期待には応えたくなるよね。
外れたらごめんなさい。でも全力でフォローするから。
「私はあそこから攻撃する。動けないから、任せる」
「わかりました。あの実は枝ごと落としてよかったんですよね?」
「え? ああはい、プレイヤーが落とすのは何故か大丈夫なんです。防御力高いんで枝落とすの大変かもしれませんが、落ちたら私が回収しとくんで……」
「いえ、ロロさんが動けないならそちらのフォローをしてあげてください。回収も私だけで大丈夫なので」
「動き回られると狙いにくい」
「アッハイ。スイマセン……(私、本当にいらない子……?)」
少しだけ打ち合わせして狙撃ポイントに移動。イオンさんは既に空の上。
武器の威力は最低に設定。倒しちゃダメだし、攻撃を当て続けるだけでいいからね。
体勢も整えて準備完了。
あとは私の攻撃を合図に作戦開始。
引き金を引けば、すぐに始まる。
その前に、深呼吸を一つ。
……よし。
スコープ越しに狙いを定めると、冷静な自分に切り替わっていくのがわかる。
……始めよう。
私は、一切の躊躇なく引き金を引いた。
◇◇◇
ドンッ、と大きな音が響いたかと思うと、魔物が突然仰け反りました。
ロロさんの武器は、なんと大きな銃です。
ここに来るまでにもその形だけは見ていましたが、実際撃っているのを見ると全然違って見えますね。
そうそう、ニデスからの道中もすごかったんですよ。
私はいつも通り空から魔物を探してました。
多少は魔物を見つけたんですが、実はほとんどロロさんが先に見つけてたんです。
どうもものすごく遠くまで見えるみたいなんですよね。私はロロさんから方向を合図されて、魔物を倒しただけでした。
横からでは見えにくい、岩の影やくぼみに隠れた魔物は私のほうが早かったですが、それ以外は全部ロロさんです。
私も多少は遠くまで見えるようになったと思いましたが、ロロさんの足下にも及びませんでした。
見つけたロロさんが先に攻撃しなかったのかと思われるかもしれませんが、勝手に攻撃しては違う魔物が寄ってくる可能性があるので、魔物を見つけたら合図するということにしてたんです。
なので倒すのは私が担当しました。あのままだと何もさせてもらえなかったと思うので……。
それに今の魔物もですね。
攻撃を受けて仰け反った魔物は、その洞が大きくなって顔のようになりました。
そしてその魔物に付いている実は、赤から青へ。
擬態していると区別が付かないと言われましたが……ロロさん、見ただけで見破りましたよ。
私も空から見比べてましたが、違いなんてさっぱりわかりませんでした。
ただ遠くが見えるだけじゃなく、何か別の物も見えてるのかもしれないですね。
そんなものすごい目を持ってるロロさんですが、今撃っている場所から魔物まで、多分二、三百メートルくらいありますよ。
高いところが狙いやすいんでしょうね。最初に魔物を見つけた位置より遠いのに一発で命中させました。
ゲームの中で一番の攻撃範囲と言われたのもよくわかります。
本当にすごいですね、ロロさん……。
――感心してる場合ではありませんの。
そ、そうですね。私も動きましょう。
魔物の外見は枯れ木ですが、何故か枝には実が沢山付いています。
枝ごと落としていいとメグルさんは言ってたので、適当に切って落としましょう
防御力が高いと言ってたので、枝を切り落とすのは難しいはずです。
なので目一杯加速しつつ、既に逃げ始めてる魔物の進行方向から相対するように飛び込みます。
魔物が私を叩き落とそうと枝を伸ばしてきますが……それごと切っちゃえばいいですよね。
避けるのも大丈夫そうですし、もし当たってもぐりちゃんブーストつきのウィンドアーマーも発動してるので多少当たっても問題ないはずです。
少しだけ角度を変えて、左右から迫ってくる枝の左を避け右を切り落とします。
攻撃を受けてギギィッ! っと、悲鳴を上げ、一瞬動きを止める魔物。
無事枝を切り落とすことが出来ましたので、一旦着地して素材の回収にかかります。
道中でも思いましたが、槍を改造したおかげでより切れ味が上がって今まで以上に使いやすくなりました。
それに合成の効果も出てますね。攻撃の瞬間魔物が弾かれ、少しだけですが動きを止めました。
今回行った改造は、強化を二つ、合成を一つです。
強化はそのまま基本性能のアップですね、攻撃力が上がりました。
合成ではメタルイーターの素材を合成。特殊効果に『衝撃攻撃』が追加されました。
これは攻撃が命中した魔物に衝撃が伝わり、相手を弾いて少しだけ動きを止めるというものです。
私が飛び去るまでに反撃される可能性を少しでも減らす、非常に嬉しい効果です。
防具もほとんど同じですね。強化を二つに合成を一つ。
合成もメタルイーターの素材を使って、こちらは『衝撃耐性』が追加されました。
攻撃とは逆に、体勢を崩されにくくなる効果があります。
こちらもものすごく助かります。
ちなみにメタルイーターの素材はレイチェルさんも初めてでしたが、『値引きするから一個試させて!』と言われてその場で実験し始めたんです。
どこからか集まってきた職人さんたちと楽しそうに実験してました。マリーシャは『マッドな集団だー!』と、何故か一緒に楽しそうにしてましたっけ。
何かに熱中してる姿はいいですよね。迷惑をかけなければ、ですけど。
うちの父ももう少し抑えてくれたら……っと、回収終わりました。
すぐに飛び立ちますが……やっぱり逃げてばかりの魔物なので結構距離を離されてますね。
急いで追いかけ、ようとしたところでロロさんの攻撃が命中。
方向転換してこちらに向かってきました。
……もしかして、魔物を誘導してくれてますか?
私も一応ロロさんから離れすぎないようにと正面から攻撃しましたが、ロロさんの位置からでも出来るんですか。
相手は走り回ってるうえに、ロロさんはその場を動かないのに……本当にすごいですね。
私も負けていられません。
今度は横から切って、ロロさんの方向へ。
次の方向は大きい岩が多いので、あっちの方向へ。
それから次は……。
……集中して繰り返してたら、もう枝が無くなりましたね。
次で最後です。
先ほどまでと同じように枝を切り落として、素材を……あれ、魔物の様子がおかしいですね。
なにやら今にも暴れ出しそうな……。
……あ、そういえば実を全部落としたら攻撃してくるんでしたっけ。
ま、まずいですよ。素材を回収しようとつい着地してしまいました。
魔物はすぐそこなので、そこで暴れ出したら……。
――早く逃げるですのー!
慌てて飛ぼうと助走しますがそれより速く魔物が向かってきます。
根っこの足を全速で動かして、そのまま私に突っ込むように――
ドガンッ!
私に体当たりする寸前で魔物が吹き飛び、そのまま消えていきました。
……もしかしてロロさんですか?
ロロさんのほうを見れば先ほどまでの地面に伏せた体勢ではなく、膝立ちで銃を構えてます。
ここからではよく見えませんが……先ほどまでの銃とは違う物に見えますね。
あの魔物を一撃で倒してしまうなんて……。
目もすごいし攻撃は正確で威力もすごくて……ロロさんどれだけすごいんですか……。
――素直に尊敬しますの。
魔物も倒れたので、今度はぐりちゃんも感心してます。
本当にロロさんすごいです……こんな風に考えるの、今日何回目でしょう?
戦い方は随分違いますが、いろいろ見習わなければいけませんね。
最後の実も回収したので、一旦戻ります。
一応入手は出来ましたが失敗もありましたし。
できれば、もう一度練習させて欲しいです……。
◇◇◇
イオンさんすごいなぁ……もう何回目かわかんないけど、すごいなぁ。
大量に枝を伸ばしてきて避けるとこないって思える攻撃もなんでもないように避けちゃうし。
それどころかその枝もまとめて切ってたよね、丁度いいやってくらいに。
枝を落として素材を回収、それからもう一度飛ぶまではさすがに時間かかってたから結構距離を離されるけど、でもすぐ追いついちゃうし。一体どれだけ速く飛べるの。
それに私が狙いやすいように、逃げる方向をコントロールしてくれてた。
危ないのに何回も正面から飛び込んでるんだよ? 私だって逃げる方向を考えて中心を狙うんじゃなく少しずらして撃ってたけど、でもそれは安全なところに居るから出来るのに。
だから最後は間に合ってよかったよ……。
最後の枝を落としたときも、ついさっきまでの調子で地面におりちゃったイオンさん。
私も忘れてたんだよね、実が無くなったら攻撃してくるって。
慌てて【M82A2ラシキナニカ】を取り出してマガジンを押し込んで、弾薬を装填。
バイポッドが無いから膝立ちで構えてすぐに照準、即座に発射。
威力を上げるために作ったと言ってたけど、本当にすごい威力。
魔物、吹っ飛んだと思ったら真っ二つになってて、下だけその場に残ってたよ……。
これならワイバーンも一発で倒せるかもしれないけど……でもこれじゃ正確な狙いをつけるのが難しいから急所を狙えない。
体に来る反動は思ったほどじゃないから撃つのは問題ないけど、衝撃が大きいから照準がかなりブレる。
あと肩に乗せるから角度を付けて撃ちやすいけど、やっぱり伏せ撃ち用にバイポッドが欲しい。そのほうが細かな狙いを付けやすいし。
昨日は付けてって言ったら『美しいシルエットが崩れる!』とか言ってたけど、シルエットで魔物が倒せたら苦労しないよ。
『魔改造、好きでしょ?』って言えば付けてくれるらしいから、絶対に付けてもらおっと。
何にせよイオンさんが無事でよかったよ。折角素材が手に入ったのに、やられちゃもったいないもんね。
ひとまず一体練習できたし、もう少しくらい……あれ、イオンさんそんなに急いで戻ってくるなんてどうしたんだろ……うわぁ!
私をかすめるほどギリギリにイオンさんが飛んで行って、風でフードがめくれた。
フードがめくれて周りが見えてようやくわかった。イオンさんは私に迫っていた魔物を攻撃するために、あんな近くを飛んでいったみたい。
って、魔物?
慌てて見回したら、何かジャガイモに足が生えたような魔物がいっぱい居る!
メグルさんも二本のダガーで忙しそうに戦ってる……そういえば、さっき魔物が来てるから気をつけてって言われた気が……。
私、また集中しすぎたの……? 少し上手くいったと思ったらこれだよ……。
だからイオンさん急いで戻ってきたんだ……って考え事してる場合じゃないよっ。
遠距離専門だけど、何も出来ないわけじゃないんだからねっ。
腰のホルスターから【P220ノヨウナナニカ】を引っ張り出して近いのから撃っていく。
接近戦でも使いやすいようにって作ってもらった、威力は低めの拳銃。
だけどこれもしっかり弾代がかかるんだからねっ、だから早く倒れてよー!
イオンさんも居たからすぐに全部倒せたけど、案外強かった。
ジャガイモなのに……。
というわけで拳銃も出ました。
Q:なんでP220?
A:自衛隊でも使ってるから。それだけ。
Q:M82A2にバイポッドなんて付けていいと思ってんの? バカなの?
A:ジュラシ○クパークⅢにバイポッド付きのM82A2出てたよ! でもM82って発射時に銃身が後退するのに、銃身にバイポッド付けたらマズいような……制作陣、適当に付けた?
Q:やっぱダメじゃん。
A:そこは職人さんに頑張ってもらって、問題ない位置に付けてもらうと言うことで……。
Q:鉄仮面勝手に外すなよ。また付けるぞ。
A:ごめんなさい許してください勘弁してください……。