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10-6 すごいなぁ。x2


「いらっしゃい。久しぶりにそっちから仕事を持って来たかと思えば、この二人に用があるって一体どれだけ大変な仕事なの?」


 メグルさんがソファーに着いた途端に本題に入るレイチェル。気になるもんね。


「ふっふっふーよくぞ聞いてくださいましたっ」


 大げさなポーズが嫌味に見えなくて可愛いなぁ……。

 鳥族だっていうのは聞いてたけど、どうして私以外の人はこんなに可愛い人ばかりなの……。


「とある街のとある職人さんによる伝説のスペシャルパフェを作成するため、最高の食材が必要になったのです!」


 パフェって、お菓子の素材ってこと?

 でも私魔物専門だよ? お肉とかばっかりだけど、パフェなんかに使えるのかな。


「大体誰の話かわかったしそういうことなら私から協力したいけど、でもどうしてこの二人なの? それに今まではそんな手間は必要なかったわよね。高かっただけで」


 あれだけで大体わかるんだ。でもパフェかぁ、そういうの最近食べて……あれ? 今レイチェル、高かっただけって……あーっ! レイチェルそのパフェ食べたことあるんだ! ずるいっ、私には内緒で一人だけ!

 いいもん! この仕事こなして私だって食べるもん!

 ……お金が足りたらだけど……。


「私も大体わかりましたので是非協力させてください。早く食べてみたかったんですよね」


 イオンさんはまだなんだね。二人でレイチェルの分まで食べてしまおうねっ。


「二人ともご存知でしたかーやりますねー。で問題の素材なんですけど、相手はトレント系なんですよ」


 トレント。私はあまり相手にしないけど戦ったことはある。

 木がそのまま魔物になったような外見で、レベルが低いのは移動速度も遅くて大したことない。遠距離攻撃が使えたらはっきり言ってザコ。

 でも上位のはちょっと厄介。根っこを虫の足みたいに動かして結構速く移動するし、振り回すだけだった枝を今度は伸ばしてくるから攻撃範囲も広い。


 今はまだ居ないけど、魔法耐性をもったのが出てきたら結構大変になると思う。

 私の武器は見た目はあんなだけど魔法攻撃だから……。

 でもトレント系なら納得。目当ての素材は果物とかかな?


「以前はNPCが販売してたんでそれをそのまま買ってたらしいんですけど、最近仕入れなくなったみたいなんですよね。それでうちに入手して欲しいって依頼が来て、たどり着いたのがその魔物なんです」


 そのNPC、なんでそんな素材を売ってるの……。


「どうも時期によって生態が違うらしいんですよ。夏の時期は攻撃してくるけど、それ以外の時期は大人しくて簡単に採取できるみたいなんです。でも今の時期のほうが味はいいらしいんですよね」


 食材には旬があるもんね。……魔物にも旬があるのかな……。


「それで問題なのはですね、その魔物を倒さずに、実だけを採取しないといけないんですよ」


 た、倒さずに?

 ドロップじゃダメなのかな。


「随分面倒ね。ドロップじゃ手に入らないの?」


「そこそこレアな魔物なんで検証できるほど数が居ないんですよね。しかも結構強いし。受けた依頼はあくまで素材の採取なんで、検証よりも入手が優先ですからねー」


 そういうことなら仕方ないよね。狩り尽くしたけどドロップしませんでした、リポップ待ちです。なんて依頼人には言えないし。確実に手に入れる方法を選ぶのは当たり前だよね。


「そういうことね。それで魔物の特徴は? それが二人を選ぶ理由なんでしょ?」


 そこが問題だよね。

 結構強いってことは、倒せないってわけじゃない。でも私たちに話が来たのは、素材を手に入れることは出来なかったって事だろうし。


「それがですね……」


 テレビ司会者みたいに溜めなくても……。


「めちゃくちゃ逃げ足が速いんです!」


 ……逃げ足?


「攻撃するまでは逃げないんですけど、一撃当てたら本気ダッシュで逃げまくるんですよ。場所は岩場で動きにくいし、逃げられないように囲んでも攻撃力高いからいつまでも足止めできないし。そんな状況で追いついて素材採取してーなんて、不可能じゃないけど難易度高過ぎなんですよ」


 そっか、イオンさんだったら足場が悪くても関係ないもんね。空を飛べるんだから。

 ……でもそれなら私はいらないんじゃないかな?


「しかもほどほどにダメージ入れ続けないと、逃げるのやめて自分から実を捨てちゃうんですよ。で、実を全部捨てたら向こうから突撃してくるんです。ちなみに自分で落とした実は何故かすぐに腐っちゃいます」


 逃げるのは実を捨てる時間稼ぎなのね……。

 ダメージ入れたら逃げる、逃げてるあいだは実を捨てない。足を止めたら実を捨てるから、そうさせないように攻撃し続けないといけない……。

 スタンピードホースの逆なだけかと思ったら、かなり面倒な魔物だね。


「今まではどうしてたの?」


「一発当てると同時に枝へ向けて全力攻撃。落ちた枝に実が付いてれば素材採取成功。あとはそのまま倒すだけですねー。走り回られるとまともに狙えないんで」


 運任せのうえに一度しかチャンスが無いから数が揃わないんだね。


「面倒な魔物ね。最近そういうのが増えてきた気がするわ」


「アカデミアはようやくゲーム中盤に入ってきたからじゃないかって言ってましたね。ただ敵が強くなってくだけじゃなくて、知恵と技術が必要になってきた証拠だって」


 他のゲームは詳しくないけど、なんとなくわかる。

 ただ強くなっていくだけじゃ同じことばかりしてる感じで、面白くなくなっちゃうもんね。


「なるほどね。まぁ状況はわかった。ロロの遠距離攻撃でダメージを入れ続け、そのあいだにイオンさんが枝を攻撃して素材を採取、ということね。この二人に目を付けた理由がわかったわ」


 私も納得。


「作戦はわかりましたけど……ロロさんの攻撃ってそんなに遠くまで届くんですか? 相手が走り回ると遠くまで行ってしまう可能性もあると思うんですが……」


 疑う、というよりはただ疑問に思ったような言葉のイオンさん。

 私のこと知らなかったみたいだし、攻撃方法も知ってるはずないよね。


「ロロの攻撃範囲はBLFOで間違いなくナンバーワンよ。なにせ動かない標的での最高記録は千二百メートルだから」


「せ、千二百ですかっ。ロロさん、格好いいうえに戦闘もすごいんですね……」


 そ、そんな尊敬のまなざしで見ないでっ。

 でもこんな可愛い子に褒めてもらうのは少しいい気分……イオンさん、裏表なさそうだし。


「そんなわけで是非二人にお願いしたいんです。報酬はもちろん出しますし、指定の素材以外は二人の物にしてもらって構わないので」


 そして伝えられた報酬は……結構高い。こんなにいいのかな。

 でもそれなら私は大丈夫。レイチェルがいいって言えばなんだけど

 私が今日ここに来たのは、いつもやってるレイチェルからの素材採取を受けに来たのと、昨日のアレのテストの続きが目的だから。


「ロロ自身がやりたいならそっちを優先してくれて構わないわよ。今のところ急ぎで必要な素材は無いから」


 そういうことならやってもいいかな。パフェも食べてみたいし、仕事終わったら教えてもらおうっと。


「引き受ける」


「思ったより可愛い声ですねありがとうございまーっす」


 か、かわいくないもん。


「私も引き受けさせてください。期待に応えられるかわかりませんが……」


 パフェは楽しみだけど、失敗は怖いもんね……しかも指名されての依頼なんて余計に。

 私はレイチェルからいろいろ言われるからそこそこ慣れてる気はするけど、それでも他の人からの依頼はやっぱり緊張する。


「でも二人だけ? サポート役は居ないの?」


 レイチェルが確認するけど、そうだよね。二人だけじゃ何かあったときのリカバリーが出来ないかもしれないし。


「もちろん居ますよーその辺はうちのクランから出します。でも人数揃うのはちょっと先になりそうなんですよねー」


 やっぱり居るんだ。でも他の依頼だってあるだろうし、すぐは無理だよね。


「なのでもし時間あったらなんですけど、これから少し下見に行ってみません?」


 下見?


「ロロさんって普段は夜遅い時間しかログインしてないじゃないですか。なので今日来たのは、仕事のお願いと時間のすりあわせが目的だったんですよ」


 クランのリーダーだけあって、ちゃんとそういう段取りとか根回しするんだなぁ……。

 私も普段の仕事で出来ればいいんだけど、上手くいかないことがあるんだよね……。


「さっきも言いましたけど割とレアな魔物なんであまり失敗したくないし、一日無駄にしても練習の日を作ろうと思ってたんですよ。でもこれから行けるなら、そんな日を作らなくてもいいかなーって」


 今日これからっていうのはただの思いつきかもしれないけど無駄はないよね。下見だから失敗してもいいし、それなら人数揃ってなくてもいいし。


「特に練習したいのはイオンさんとロロさんの連携かなって思ってたんで、二人が揃ってるのを逃すのはもったいないと思ってしまいまして……いかがですか?」


 最後は可愛さを消して真面目そうに聞いてくるメグルさん。

 レイチェルはこっち優先していいって言ってたし、行ってみようかな。


「行く」


「私も行きます。ぶっつけ本番より練習があるのは助かります」


 イオンさん安心してる。私も安心してる……。


「やったーありがとうございまーっす! それじゃ私が案内するんで早速行きましょう!」


 え、メグルさんが付いてくるの? クランの誰かとかじゃなくて?


「メグルさんが案内してくれるんですか?」


「今日空いてるの私だけなんで。そうじゃなくても交代して私が案内しますけどねっ」


 どうしてわざわざ?


「だって鳥族最強のお二人が揃ってるんですよっ!? 私も一応鳥族の端くれなのに、ご一緒しないわけありませんよ!」


 さ、最強なんて言いすぎだと思うけど……。


「わかるわ。最強かどうかは置いといても、鳥族三美人が集まるなんて私だって付いていきたいわよ」


 三美人!?

 二人はともかく私を入れないでよ!


「あ、あの……いろいろ言い過ぎだと思うんですけど……その……頑張ります……」


 イオンさんものすごい恥ずかしそう……私も恥ずかしいよ……。

 と、とりあえず逃げるに限るよね、こういうときはっ。

 早速行こうってことだし、すぐに部屋から……。


「ロロはちょっと待って、昨日のアレ渡すから」


 出たいんだからストップかけないでよっ。

 って昨日のアレ? まだ未完成なんじゃないの?


「徹夜で作ったって言ってたわ。ほぼ完成版だって言ってたから、あとは実戦テストしてからの調整よ。マガジンは一個だけフル装填してあるから、大事に使ってね」


 あ、あれからもう完成させたの?

 頑張りすぎだよ……もう……。

 イオンさんがアレなんだろう? って不思議そうな顔してる……こんな人と私が一緒に戦うのって、本当にいいのかな……。

 うぅ、イオンさんもメグルさんもごめんなさい……。


 で、でも折角受けた仕事なんだから頑張ろうっと。

 失敗したらいつまでも私に付き合わせることになるし。

 それはいくらなんでも申し訳ないよ。他にやりたいことだってあるはずだし。


 よしっ、頑張って一発成功目指そう。今日は練習だけど、本番のつもりで頑張ろう。

 そしたら、パフェだってすぐに食べられるしね。

 私、頑張っちゃうよーっ。




◇◇◇




 装備を受け取って部屋から出ようとしたら、そこに居たのはなんとメグルさん。

 お客さんはメグルさんだったんですね、なんて話しかけたら、私にも話があるということだったので部屋に戻ることに。

 すぐ戻るのって、なんか恥ずかしいです……。


 部屋に戻って聞いた話は素材採取の依頼でした。

 スペシャルパフェの素材、というと多分リンジーさんですよね。

 スペシャルなだけあって準備に時間がかかって当たり前すねとしか思ってませんでしたが、素材が手に入らなかったんですね。

 そういう仕事であれば喜んでお手伝いします。


 それにマリーシャは今日はログインしない予定ですからね。

 装備が出来上がってないというのもありますが、今日はテストお疲れ様ということでクラスの人と遊びに行くと言ってましたので。カラオケが予定に入ってるので私は辞退しました……。

 シーラさんも何か予定があるそうでログインしないらしく、実は私の午後の予定は装備を受け取るだけでした。

 なので予定も問題ありません。


 目的の素材は魔物からの採取ということでした。

 トレント系、というのは木の姿をした魔物ですよね。先日のクエスト最中に、話に出たのでわかります。

 街道の木の下で待ち合わせしましたが、擬態してる場合もあるから注意してと言われたからです。


 そんな木の魔物を倒さないようにダメージを与えつつ、私が素材を採取。

 大変そうですが頑張りましょう。パフェのためです。

 それに今日は練習ですからね。気を抜くつもりはありませんが、力む必要もありません。


 でも……ロロさんと一緒に練習するので、知らずに力が入ってしまうかもしれません。

 横目では黒い格好だなぁとしか思いませんでしたが、正面から見たらものすごい格好いいんですよっ。

 スーツみたいにカッチリした黒の上下に黒のフード付きコート。それにサングラス……ではなくアイガードって言うんでしょうか?

 スポーツのときの着けるような顔のラインに沿ったようなメガネで、サイズは少し大きめのうえ目元が見ないほどレンズが濃いです。

 それからフードに隠れててよくわかりませんでしたが、髪も黒いので本当に全身が黒です。


 それに何より、背中の翼です。


 真っ黒なんですよっ。それもすごく綺麗な黒ですっ。


 車のボディーみたいな輝くような黒ではなく、落ち着いた黒。

 僅かな光沢が光の加減によって微妙に見え方が変わり、気が付けば目で追ってしまう素敵な黒です。

 黒い髪、黒い翼、黒い装備。

 映画に出てくる黒服の怖い人みたいです。


 ですが怖い印象を受けないのは、見かけだけでなくロロさん自身が格好いいからだと思います。

 必要最低限しか喋らないのでとてもクールに見える受け答え。

 さらにアイガードを付けているため表情はよくわかりませんが、それでも話の最中はほとんど表情を変えないようでした。

 私が飛べるって聞いたときも少ししか表情が変わりませんでしたし、魔物の話では全然動きませんでしたし。


 さらにさらにそれが女性のようなんですよっ。

 コートとアイガードで最初はわかりませんでした。身長は私と同じくらいでしたが小柄な男性の可能性もありましたし。

 ですが聞こえた声は女性の声でしたから間違いありません。

 寡黙で冷静で実力もある、綺麗で格好いい女性。

 素敵ですね……私なんかがこんなすごい人と仕事させてもらっていいんでしょうか……。


 ああいえ、あまり自分を卑下するのはいけません。

 折角メグルさんが作戦を考えて私を選んでくれたんです。

 そして私は話を聞いて納得して仕事を受けました。

 であれば、あとは目標を達成するように頑張るだけです。

 変なこと考えるよりも、成功させることだけを考えましょう。


 だったら練習だからと気を抜かず、全力でするべきですね。

 私一人でする仕事ではないんですから、何度も失敗しては迷惑になるだけです。

 すぐに成功したらパフェだってすぐに食べられます。

 私も頑張りましょう。



2/6 誤字修正しました。


多分、この状況を一番楽しんだのはレイチェルさん。

レイチェル『今気付いたけどあんな可愛い子ばかりに囲まれてた私ってまさしく天国だったわね。もっと引き止めればよかったわ……』



Q:車のボディーって何であんなテカテカしてるの?

(;´皿`):色の層だけじゃなくてクリア層とかメタリック層とかパール層とかで何層にもなってるから(のはず)。塗装が剥げて色だけの層になるとあまり光らない。小さな傷を消したいからってコンパウンド系のワックスで磨きすぎると逆に剥げて色あせするので、ほどほどにどうぞ。


(;´皿`):それよりこれ外していい?

Q:ダメ。


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