表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/152

10-5 すごいなぁ。x2


 土曜日です。仕事の日です。

 とは言っても仕事は多くありません。テスト休みの日に多少は片付けておいたので。

 でもただ暇してるのはもったいないですからね、前倒しできる仕事もやってしまいます。


 来週来店予定だった常連さんに電話して、よかったら今日来店しませんかと提案、そしたらすぐに来店いただけることになりました。

 急なことを言ったつもりですが、向こうも丁度いいタイミングだったそうです。


 今日の作業内容はタイヤ交換と組み替えです。

 常連さんがどこからか手に入れてきたホイール(タイヤ付き)と新古品のタイヤ。ホイールに付いてたタイヤは古いので捨ててしまって、これまたどこからか手に入れてきた新古品タイヤに組み替えます。

 良いホイールを安く手に入れたはいいけど、タイヤがボロボロで使えないから組み替えてほしいという内容です。


 サイズについてはあらかじめ相談を受けていたので車への取り付けは問題ありません。タイヤ屋さんにも確認しましたので。

 なので特に問題なくタイヤ組み付け完了。特にはみ出すこともなかったので、車両への取り付けも問題ありません。

 あとは空気圧を調整するだけで作業完了です。扁平率35は大変でした……。


 ……なのになんでお父さん寄ってくるんですか。しかもそんな笑顔で。いえ何言い出すか予想つきますけど……。


 『実物見るとやっぱいいですねー』『いやー悩んだ甲斐ありましたよー』『……でもやっぱ気になりません? 車高』『言わないでくださいよーそれ気にしてんですからー。……やっぱ車高下げたほうがいいっすかね?』『当然ですよーこのサイズのホイールインチアップしておいてでノーマル車高って、なんで? って思われるだけですよ絶対』『ですよねーボクもそう思ってたんですよー』『じゃ、どのシャコチョー入れましょうか』『ボクとしてはあのメーカーが……』


 ホイール変えたら車高下げたくなるのが定番とは言え、多分泥沼コース行きですね……。

 お父さん、後は任せました……。

 でもあの常連さん、前に車にお金使いすぎて奥さんからものすごく怒られたって言ってたと思うんですが……。

 どうなっても知りませんよ?




 そんなこんなあって普段より遅くなりましたが仕事は終了。

 午後からはBLFOです。

 昨日は装備が出来上がってなかったので、今日はまず受け取りからです。

 なので……あ、間違えました。いつもの調子で結界石の広場にログインしてしまいました……。

 土曜日だからきっと人多いですよね……でもすぐにログアウトすると余計に注目されそうですし……。

 ……何も無かったようにバトルデイズを目指しましょう。

 気にしないのが一番です。


 で、でも、いくらなんでもこれは見られすぎじゃないですかっ?


 ログインした瞬間から歩き始めましたが、それでもものすごい見られてます……。

 平日よりは多いだろうと思ってましたけど、でも会話を止めてまでこっちを見なくても……。


 ――お姉様だけが原因ではありませんわ。


 ぐりちゃん?


 ――お姉様と同時にいらっしゃった方も原因ですわ。今、横を歩いていますの。


 横?

 言われて視線だけ向けてみれば、なにやら黒い人が私と同じ方向に歩いていました。

 視線しか向けてないのでよくわかりませんが、黒いコートを着てるようです。


 この人と同時にログインして、しかも同じ方向に歩いているから注目されたんですか。

 気温は現実ほど暑くないとはいえ黒いコートの見た目では暑そうに見えますし、夏にコートという違和感からついつい見てしまいますよね……。


 ――それだけではありませんの。


 そうなんですか?


 ――お姉様からは顔も向けないと見えませんの。あとでお話ししますので、今はとにかく歩くのですわ。絶対に止まったり、何かに注目してはダメですの。


 りょ、りょうかいです……。

 気にはなりますがひとまずバトルデイズへ行きましょう。申し訳ありませんが少し隠れさせてほしいです……。




◇◇◇




 な、何でこんなに見られてるのー!?

 そりゃいつもはログインしない時間だけど、だからってそんな注目しなくてもいいでしょ……。

 夏に黒コートが悪いの? これはこう見えても暑くないんだからねっ。見た目は暑苦しいけど……。


 それにしてもいくら土曜日だからってこれはちょっと……足を止めたり会話を止めたり、そこまでして見なくても……あれ、視線の先は私の横?

 私も見られてるけど、隣に誰か居たから見られてるんだ。

 多分同時にログインしたように見えて、それで同じ方向に歩いてるから知り合いだとでも思われてるのかな。


 うぅ、私なんかと知り合いだと思われてごめんなさい……。

 書き込みとかされなかったらいいけど……あれだけ見られると無理だよね。

 で、でも多分大丈夫だからっ。どうせ今日も一人で動くから、すぐに誤解も解けるって。


 私フードもかぶってるからほとんど見えないけど、どうも可愛い服着てるみたいだし多分どこかで待ち合わせとかだよね。

 私はバトルデイズに用があるから、ここでお別れだし……ぃ!?

 なんで着いてくるのっ? もうお店に入っちゃうよ、ていうか入っちゃったよっ。


 でも本当にここまでだからねっ。私はレイチェルと話すときはいつも奥の部屋を使うから。

 だから安心して……。


「あら、ロロとイオンさん。すごい組み合わせね。二人は知り合いだったの?」


 レ、レイチェル? 隣の子、知ってるの?


「えっと……知り合いというわけではないんですが、偶然同時にログインして、歩く方向が同じで、ここまで一緒だったというか……」


 横からも聞こえる声も戸惑うような声だし、本当に偶然みたい。


「面白い偶然もあったものね。とにかく奥に行きましょうか。どっちかだけでも、店内で話してると人だかりが出来そうだし」


 こっちの子も? 奥に入れるなんてよっぽどだよね……どんな子なんだろ。

 仕事部屋じゃなく応接室のほうに入って、これでようやく見!?


 何この子! すっごい可愛い!


 優しそうに整った顔立ちに空みたいな色の髪。それに真っ白の翼……。

 すごい……こんな子始めて見た……レイチェルが気に入るのもわかるよ。

 それに見られてたのもわかった……こんな天使みたいな子と、悪魔みたいな私が並んで歩いてたら見るのは当たり前だよ……。

 うぅ……こんな外見で――


「綺麗ですね……」


 ――え?


「すごい綺麗な黒ですね。真っ黒なのに少しだけ光沢もあって……艶やかで素敵です……」


 そういう女の子の視線は、私の翼に注がれてて……。

 ……綺麗? こんなただ、黒いだけの翼が?


「あ、こういうのが濡羽色って言うんでしょうか? 見てると吸い込まれそうですね……」


 濡羽色っ? そ、そういうのは美しい女性のための言葉で私なんかに使っちゃ……。


「もっと言ってあげて。私が褒めても聞いてくれないのよ」


 レイチェル!?


「そうなんですか? こんなに素敵なのに……」


 そ、それはあなたのほうだよっ?

 目を輝かせるように翼を見る姿は可愛いし、でも落ち着いた感じが少し年上に見せて……。

 ゲームだからわからないけど現実でもそういう年頃なんじゃないかな。そういう歳の子って本当にいろんな表情をするから、ものすごく魅力的に見えるんだよね……。


「あ、ごめんなさい。初対面なのにあれこれと……」


 私がずっと黙ってたから怒ったと思ったのかな。

 申し訳なさそうに謝られるけど、全然そんなことないから気にしないでね?

 首を振るだけでしか答えられないけど……。


「本当に怒ってないから大丈夫よ。ロロは人見知りするから、あまり喋らないの」


 人前ではあまり喋るなって言ったのはレイチェルでしょっ。

 確かに自分から喋るのは得意なほうじゃないから、黙ってるほうがいい具合に話が進むけど……。

 学校で生徒や他の先生と話してるときはそうでもないのに、なんでもない会話って何か苦手なんだよね。

 普段話してる人とでも、何の話題も理由も無かったら会話が途切れちゃうし。


 それに一番は今みたいな戦闘スタイルになって、いろいろ質問されてからかな。

 自分から喋って説明しても、『あの命中率は他に秘密があるだろ!』とか言って信じてくれないことが多かったし。

 でも基本黙ってて『はい』か『いいえ』くらいしか言わなかったら何故か信じてくれて……。

 それから寡黙な人ってことになっちゃったし。都合がいいから乗っかることにしたんだけど……もう、ホントどうしてこうなったの……。


「とにかく座って。二人を見てるだけでも飽きないけど、話が進まないから」


「すいません、つい……」


「わかるからいいわよ」


 二人してこっちを見て微笑まないでっ。もぅ……。


「私が簡単に紹介をしてしまうわね。この子はロロ。ソロで活動してるプレイヤーで、ちょっと特殊な装備を使う関係からうちのお得意さんなの」


「ロロ。よろしく」


 一応自分でも名乗るけどぶっきらぼうに聞こえるよね……。

 紹介されたのに合わせて軽く会釈もしておく。そうしたら可愛く微笑んで返してくれたよ……こんな言い方なのに丁寧な子だなぁ。


「ロロも知ってるだろうけどイオンさんよ。公式イベントより前からうちを利用してもらってるの」


「はじめまして、イオンと言います」


 後半はわかったけど……何で私が知ってること前提なの?


「……ロロ、貴方最近ログインしてなかったけど、もしかしてBBSも見てないの?」


 うん、と頷く。

 未読が溜まっちゃってどれから読んでいいかわからないから、重要なことだけレイチェルに聞けばいいかなって思って。昨日は忙しそうだったから聞けなかったし。


「……詳しいことはこないだの公式イベントについて調べればわかるから、簡単に説明するわね。イオンさんはBLFOで初めて、飛行に成功したプレイヤーなのよ」


 ひこー…………って?


「空を飛んだと言えばわかりやすいかしら」


 え……………………えぇーーーーーーーーーーーーっ!!!!

 うそうそうそ!! ホントに空を飛んだのーーーーーー!!??


「事実よ。公式ベントで大勢のプレイヤーが見てる前でやってみせたのだから、疑いようがないわ」


 で、でもこのゲームでは飛べないって! 私もだけど翼は動かせないし……ふぁっ!?


「あの、この場で飛んでみせることは出来ませんけど……」


 そんな言葉を控えめに言いながら、イオンさんは背中の翼を広げてくれた。

 もうそれだけで言葉が出ないよ……本当に綺麗だもん……。


「すごいわね……」


 レイチェルも見とれてる……そうだよね、畳まれた翼は見慣れてるかもしれないけど、やっぱり広げてる翼は全然違うもん……。


「なのでレイチェルさんは嘘を言ってませんので……」


 今度は閉じながらの言葉。

 自分を信じろじゃなくて、レイチェルを信じろってこと?

 丁寧なだけじゃなくて優しい子だよ……。


「それから肩に乗ってる子はグリーンさん、イオンさんの契約精霊よ」


「グリーンと申しますわ。どうぞよろしくですの」


 えっ、精霊っ?

 なんで肩にぬいぐるみがって思ってたけど、まさか精霊なんて思わないよ……。

 飛んだり精霊連れてたり、鳥族でもすごい人は居るんだなぁ……。


「二人にまとめて状況説明すると、ロロもイオンもいろんな意味で有名プレイヤーなの。特にイオンさんは今が話題の盛り。店内でのんびり話してるだけで大変なことになるから、悪いけど二人まとめて引っ張り込んだの」


 無理ないよ……こんなに可愛いのに空も飛べるなんて……。

 しかもこないだの公式ベントってリレーだったよね。空を飛べたらきっと大活躍だったんじゃないかな?

 うぅ、つくづく私なんかと一緒にされてごめんなさい……。


「すいません、お手数おかけします……」


「お店としてはものすごい宣伝効果だから、むしろありがたいわよ」


 恐縮するイオンさんにドンとこいなレイチェル。

 本当に迷惑だったらもっとおざなりな対応だから、本気で気に入ってるみたい。


「さっ、用件に入りましょうか。イオンさんは装備の引き渡しね。悪いけどそこの試着室で着てみてもらえない? 改造ついでに細部を調整したから」


「わかりました、お借りしますね」


 そう言って部屋の隅にあるカーテンで区切られたスペースに向かうイオンさん。

 今の服がいつもの装備じゃなかったんだ……そ、そうだよね。いくらなんでもあんな普通の服じゃないよね。

 やっぱり装備だともっとすごいんだろうなぁ……。


「お待たせしました」


 あれ、思ったより大人しめ。

 もうちょっとファンタジーっぽくひらひらカラフルかと思ってたんだけど、全然そんなことない。

 ワイシャツにズボン、それとさっきは付けてなかった髪留め。

 男子生徒を見慣れてるから一瞬そんな風に見えちゃった。学校だったら裾はズボンに入れなさいって注意するけど。

 でもよく見ると襟や裾に細かな刺繍がしてあって、学生服と違ってどことなくクラシックな感じがする。 

 シンプルだけど似合ってる。やっぱりレイチェルの仕事はすごいなぁ。


「調整したのは刺繍を少し直したのと襟と裾の形、あとウェストの絞りを若干変えたくらいだけど、どこか変なところはある?」


 それって細部じゃないよね……どれだけ本気なの……。


「特に変な感じはありませんけど……すいません、そこまで調整していただいて……」


「もともと調整するつもりだったから気にしないで。話聞いたけど、試着とか嫌いなんでしょ? だから今後もこうやって預かったときは、さりげなーく調整しておくから。あ、趣味だから気にしないでねっ」


 レイチェルの顔がすっごい満足そう。好きでやってるから大変だとか少しも思ってないパターンだよ……。


「改造は予定通りのはずだけど、一応実戦でも試してみて。どこか変なところがあったら言ってね。イオンさんの装備はこれくらいかな……はーい」


 区切りの良いところでノックが聞こえた。ノックの音が静かだから、あの職人さんじゃないはず。


「失礼します。店長、ご指名でお客様です。一応待ってもらってますが……」


「あ、私はもう行きますね。すいませんお忙しいところ」


「ゴメンね気をつかわせて。また来てねー」


 二人の用事は終わったらしく、イオンさんはそのまま部屋から出て行った。

 私も急ぎの用じゃ無いし、別室で待っててもいいかな。


「あ、お客様はロロさん関係で相談があるそうなので、このままのほうがいいかもです」


 ソファーから腰を上げたらそんな言葉が聞こえてきたんだけど、私?


「ロロ関係? 相手は?」


「よろずやのメグルさんです。何でも仕事をお願いしたいとか」


 何でも屋クラン、よろずやのメグルさん。私は会ったことないけど、レイチェルは素材関係で何度も依頼を出してたよね。

 私は魔物専門だから薬草採取とか人数が必要な物は苦手だし。


「メグルなら大丈夫かな。ロロもいいよね?」


 頷く私を見てメグルさんを呼びに行くメイドさん。可愛いなぁ……。


「着てみる?」


 無理無理無理!

 即座にぶんぶん首を振って拒否した。でないと本当に着せようとするんだもん……。


「そこまで嫌がらなくてもいいのに。まぁそのことはまた今度ね」


 ノックが聞こえたのでそこで話は中断してくれた。

 今度なんてありません!


「こんにちはーお久しぶりでーす。ロロさんは初めましてーよろずやのメグルと言いまーっす」


 開いたドアから元気に入ってくるメグルさん。

 ……と、何故かイオンさん。帰ったんじゃなかったの?


「なんでも私にもお願いしたい仕事だったそうなので、付いてきてしまいました……」


 イオンさんは少し恥ずかしそうな表情。

 さよならした直後にまた会いに来るって、ちょっと恥ずかしいよね……。




すれ違うだけで終わらせたりしませんよ?



Q:タイヤって車からはみ出しちゃダメなの?

A:はみ出すと車検に通りません。気を付けましょう。


Q:でも思いっきりはみ出した車走ってるけど?

A:はみ出していい部分と駄目な部分があります。詳しくはタイヤ屋さんへ。


Q:扁平率って何?

A:タイヤの幅に対する高さの割合。数字が小さいほど『薄い』タイヤになって、組み付けるのが大変になる。


Q:泥沼って何?

A:ローダウン→ホイール→エアロ→マフラー→内装→スピーカー、等々。一個変えたら次々変えたくなる現象のこと。終わりは無い。


Q:奥さんに怒られるって何?

A:泥沼にはまった旦那に奥さんがリミットブレイクする自然現象のこと。車に興味ない奥さんを持った旦那さんの永遠の課題。家族旅行などを行うとリミットゲージが減少するため若干時間を稼ぐことが可能だが根本的解決にはならない。そして場合によってはお店のスタッフも怒られる。こっちまで巻き込まないでください……。


Q:ついにこの私様に対する突っ込みが来たんだけど、堂々名乗るべきだよね?

A:ググりもせずに聞いてばっかの教えて君のくせに、そんな偉ぶっても威厳なんか微塵も……待って! アーク溶接じゃ人の口は閉じれないから! くっつかないから!


Q:じゃあ頭全体を箱で覆ってやればいいんだな?

A:それなんて鉄仮面……だから待ってやめーーーーー


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ