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10-2 すごいなぁ。x2


 今日の予定は昨日の続きでで、アイテムをどうするかのか、です。

 まずはそれについてレイチェルさんに相談です。

 武器を作るもよし、売るのもよし、そのまま持ってるのもよしですが、前者二つは相談必須です。

 そのまま持ってるにしてもいざ対処したいときのために、顔を繋いでおこうということです。


 今日からは拠点にログインします。

 バトルデイズは結界石からが近いですし待ち合わせにもぴったりですが、結界石周辺は人が多いので私絡みで何かあってはいけない、ということで当面のあいだ拠点にログインすることになったので。

 待ち合わせには食堂や目立たない路地裏で落ち合います。

 そんなわけで自室から出てリビングに。


「こんにちは……?」


 ……おりて来たら、なにやら危うい雰囲気が漂っていますが……一体どうしたんでしょう?

 根源は……キイさんみたいですね。

 目を閉じたまま置物のように座ってます。

 服は昨日必死の思いで着てもらったチャイナドレス。

 改めて見ても素敵ですね。

 もしかして一日経って恥ずかしさがぶり返したとか、そういうことでしょうか?


 ――それだけではありませんの。


 ぐりちゃん?


 ――こういうときの本当の原因は、男にあると決まっているですの。


 男ですか。今居る男性というと……。


「よぉイオン。昨日なんかあったのか?」


 私より先に来てたにもかかわらず、何があったのか全くわからないと言いたいようなプルストさんです。

 アヤメさんとエリスさんも居ますが、こちらは無言です。

 バルガスさんの姿は見えません。ということは、ぐりちゃんによると犯人はプルストさんということですね。

 またデリカシーに欠けることでも言ったんでしょうか?


「あったといえばありました。レアな魔物を倒してアイテムを手に入れたので。今日はそれについてレイチェルさんに相談しに行くところです」


「そうか。別に大したことでもないな」


 レアな魔物なのに大したことないですか……。

 私もどれくらい凄いのかわからないので、人のこと言えませんけど。


「ところでプルストさん、随分雰囲気が悪いようですが、何かあったんですか?」


 わからないのでストレートに聞いてみます。


「いや俺もわからん。ふつーにログインして、キイが居たから昨日どうだったか聞いただけだぞ」


「それだけですか?」


「おう。つーかその質問もアヤメとエリスからされたんだが」


 その二人は沈黙を保ったままです。

 なんとなくわかりました……。


「プルストさん、キイさんを見ても何も思わなかったんですか?」


「キイを? ……いつものキイだろ?」


 やっぱりです……。

 何かした、ではなく何もしなかったのほうですか……。

 多分ですが、装備を変えたことに何か言われるだろうと身構えてたのに、実際プルストさんが見ても何の反応もなかったので、どうしたらいいのか困ってるんだと思います。

 自分から言うのも恥ずかしいとか、一目でわかるのに気付かないのはどういうことだとか、そんな考えが頭を回ってるんじゃないでしょうか。

 言われる内容は別にしても、何の反応も無いというのはあれこれ考えてしまうと思うので……。


 アヤメさんとエリスさんは敢えて何もしてないんでしょう。あっさり解決させるよりも、まず自分たちで何とかしたほうがいいと。

 けれど来るのは私で最後です。バルガスさんは来るかわかりませんし。

 なのでそれを指摘するのは私の役目なんですね……もう少し早く来るべきでした……。


 ――お姉様、頑張るですの。


 やれるだけやってみます……。


「プルストさん、もう一度聞きます。キイさんを見て、何も思わなかったんですか?」


「お、おぉ。何かやけに力入ってるな。でもそんなこと言われてもな……別に変わらなくないか?」


 あ、まずいです。キイさんぷるぷる震えだしました。


 ――動き出したら何をするかわかりませんの。


 今まで置物のように固まってましたが、一度動き出してしまえばどうなるかわかりません。

 せめて暴力沙汰にはならないと……、


「防具が変わってても中身はいつものキイだろ。今までだって可愛いと綺麗の中間みたいなもんだったし、それが綺麗方向に行っただけだしなぁ、やっぱ何も変わらなくないか?」


 ……今、プルストさんらしからぬ言葉が聞こえた気がしたんですが。


 ――私にも聞こえましたの……。


 ……もしかして。


「……ちなみにプルストさん、キイさんの“外見”についてはどう思いますか?」


「外見? ああすごいよなーホント綺麗になったよな、最初誰だよって思ったし。それ前にレイチェルが用意した防具だろ? すげー似合ってんのになんで使わなかったんだよもったいない。その足とかもう凶器だろ。視覚的にも。そんな凄いんだから縮こまってないで堂々としてればいいのにな、男からしたらそのほうが見づらいし。綺麗すぎて畏れ多いっつうかでも綺麗だから見たいっつうか。素足じゃなくてニーソなのに凄いもんだな。にしても似合いすぎてマジ見違えた……って、どうしたんだ?」


 キイさん、途中で逃げました……。


 ――あれだけ褒めちぎられれば、無理ありませんの……。


「たまには褒めといたるわー」


「いつもこうだといいんですけどね~」


 二人がプルストさんに声をかけながら、キイさんを追いかけていきます。

 私も追いかけましょう。


「プルストさん、今度タルト差し上げますね」


「少しだけ見直したですの。これからも精進するですの」


 急ぎましょう。でないと私の足では追いつけなくなります。


「……俺、何で褒められたんだ?」




 そわりとすぐに、二人に捕まったキイさんを発見。

 見つけた当初は本当に顔が真っ赤でトマトみたいでした。

 頭の中も混乱してるようで、表情も嬉しそうだったり恥ずかしそうだったり泣きそうだったりの表情が代わる代わる……。

 三人でしばらく話しかけて、何とか落ち着いてもらうことに成功しました。

 最後にパンッ、と両頬を叩いて、ようやくいつものキイさんです。


「じゃーレイチェルのとこ行こっかーっ」


 いつもより元気というか、吹っ切れた感じです。

 もう歩く姿が少しも恥ずかしそうじゃありません。こちらのほうがより素敵に見えます。

 そんなキイさんを見る男性も、どこか遠慮してるか見とれるかのどちらかですね。

 なんとなくキイさんの前に道が開けてる感じさえします。

 プルストさんの堂々としてたほうがいいという意見は大正解だったようです。やっぱり男性の言葉は違いますね。


 それにしてもまさか、“キイさん”という言葉を、外見を抜きにした意味で捉えているとは思いませんでした。

 外見を、と追加してようやくですから、本当に意識してなかったんだと思います。

 ……そういえばクランに入る前、プルストさんからNPCと間違えたことを謝られましたっけ。

 あのときはよくわかりませんでしたが……個人の扱い方というか人格というか、そういう精神的な面で何か思うところがあるのかもしれません。

 キイさんの外見についてあれだけ語れるほど見ておきながら、それらを無意識に除外できるなんて相当根深そうです……。


 ――本人には失礼ですが、そんな難しい問題じゃなくて勘違いしただけだと思いますの。


 ごめんなさい、私もそう思います……。




「お待たせー。ごめんね、いろいろやってたら遅れちゃった」


 そんなことがあってからバトルデイズに着いたんですが、実はここでマリーシャたちと待ち合わせをしてたので少し遅刻です。


「キイさんアヤメさんエリスさんこんにちはっ。別にいいですよー美人を待つのは女の甲斐性ですっ」


「男の、でしょう。それはそうとほとんど待ってませんので気にしないで下さい」


「ありがとねーそれじゃ入ろっか」


 美人と言われても落ち着いてます。本当に吹っ切れたみたいです。

 ここに来るまで結構見られましたが平気そうでしたし、多分もう大丈夫ですよね。

 何にせよ安心しました。


「いらっしゃいませ。ようこそおいでくださいました」


 店内にはいつものレイチェルさん。わざわざ待っててくれたようです。


「おお、今度の美人はメイドのおねーさんだっ」


「ふふ、お褒めいただきありがとうございます」


 優雅に微笑むレイチェルさんを嬉しそうに見るマリーシャ。

 でもマリーシャ、いきなりそれですか……。


「申し訳ありませんが続きは奥の部屋でお願いします。自己紹介もそちらでさせていただきますので」


「はーいっ」


 今日は大人数ですからね。店内で話してては間違いなく邪魔になりますので、案内されて接客用らしき部屋に通されます。

 真ん中に長方形のテーブルがあって、横長と一人用のソファーが囲うように配置されてます。

 なんとなくエスの三人と私たち三人で別れて、横長ソファーに座りました。


「では改めまして、ようこそバトルデイズへ。店長のレイチェルと申します。本日はご足労いただき、誠にありがとうございます」


 そう言ってお辞儀されます。やっぱり一つ一つの動作が丁寧ですごく……あれ、なにやらキイさんたちが変なものでも見るような目になってます。


「どしたのレイチェル。作成ミスってテンションおかしくなってる?」


「変なもんでも食ったんやろ」


「それとも~姿を変更できるアイテムでも見つかって~誰かなりすましてるんですか~?」


 ……どうやらいつものレイチェルさんではないということのようですが……。


「何をおっしゃるのやら。私はいつもの私ですよ?」


 変わってませんよと言うレイチェルさんですが……笑顔が少し堅い気がしますね。


「いやー絶対あり得ないでしょ。ようやくあたしがこの装備に変えたのに何の反応もないとか、じゃあ今までのあのヘンタイは誰だったんだって言いたくなるって」


「問答無用で触りまくってヘンタイ的発言で褒めまくるわなー」


「そのあとはスクショ撮りまくるんですよね~ヘンタイ的角度から~」


「あ、あの、お客様? いい加減に……」


 あ、表情が引きつり始めました。


「キャラ作るにもほどがあるってー。そんなデキルメイドさんとか、ナイナイ」


「いつものヘンタイのほうがマシやな。サブイボ出るわ」


「チェンジでお願いします~」


「いい加減に黙りなさーい!」


 決壊しました……。


「いーでしょキャラ作ったって折角制服をメイド服にリニューアルしたんだから! ていうかヘンタイヘンタイ言い過ぎでしょ!? 確かに可愛い子を愛でるために褒めちぎったり多少撮影したりするけど、何かに引っかかるようなことはしてないはずよ!!」


「やっと戻った」


「こうでないとなー」


「落ち着きますね~」


「はっ!!」


 しまった! という顔のレイチェルさん。

 ……何故かそのまま恐る恐るこちらに顔を向けてきました。


「……あ、あのー、イオン様?」


「はい、どうしました?」


 何か聞くのが怖いといった感じですが、どうしたんでしょう?


「……あの、怒ってたりとか……」


 どこかに怒る要素なんてありましたっけ……。

 今までずっと丁寧に対応してもらって、良い商品提案してもらえて、今日はまだ何もありませんし……。


「そんなことありませんよ? 怒る理由もないですし」


 考えてみましたが無いですね。

 でもレイチェルさんまだ不安そうです。


「でも、その……なんだか騙してたいうか……」


 騙してというと……。


「もしかして、キャラを作ってたとかですか?」


「(ビクッ)」


 間違いなさそうです。

 なんだそんなことですか。


「そんなこと気にしてませんよ。接客業の方が内容に合わせて対応するのは当たり前じゃないですか。対応も丁寧でしたし商品も確かでしたし、内容には全く問題ありませでした。感謝しこそすれ怒ったりなんてしません」


 確かに仕事中とプライベートで大きな違いがあれば、それを指して騙してるんじゃないかと言われるのはわかります。

 言ってることが本音ではなく、あくまで利益のための言葉なんだと思われても不思議じゃありませんから。

 でも仕事中にまでプライベートと同じようにすることのほうが無理があると思うのです。

 仕事中だから淑やかに『ありがとうございました』と言って、プライベートでは明るく『ありがとー』と言う。

 別に変なことではないと思います。


 自分も接客業を経験してるから、そう思うのかもしれませんけど。


「ほ、本当ですか? 呆れたりしてませんか?」


「本当です。仕事内容には問題ありませんでしたし、それ以外は仕草や言葉遣いについてですよね。丁寧な対応でしたから、それこそお客様に丁寧な接しようとしてああなっただけじゃないですか。私も家の仕事で一応接客経験があるからわかります」


 だから気にしないで下さいと、手を取ってしっかりと伝えます。

 むしろどんなときでも接客モードと変わらない人が居たら、その人は大丈夫なのかと心配になります。

 だって家族や友人にもそんな対応ということですよ? 仲のいい人とか、特別な人は居ないのかなと思ってしまいます。


 ……私ですか? 喋り方はほとんど変わってませんが、お客様とそれ以外では結構違います。父に対してはかなり適当なことも多いですし。

 見積もり出しといてと言われても、忙しいから自分でやって下さいと突き返すことも実は結構ありますし、トイレ掃除を忘れてたら私だって怒ります。


 あまりに酷かったときには、寝てるあいだに車のキーシリンダーASSYを取り外して乗れないようにしたこともありました。そしたらすぐに謝られましたが。

 少し違うかもしれませんが、私だってお客様とそれ以外では対応は違います。


 話がずれました。

 とにかく仕事でキャラを作るのは悪いことだとは思いません。

 もちろん、仕事内容がしっかりしてればの話ですが。


 その点レイチェルさんの仕事内容は全く問題ありません。むしろ最高でした。

 仕事は完璧なうえに仕草でも楽しませてくれる。

 接客業の鏡だと思います。


「イオンさんありがとうございます!!」


 握った手をぶんぶん振って喜んでもらえました。

 調子を戻してもらえて良かったです。


「あーイオンの前ではキャラ作ってたから隠したかったのね。先に言ってくれたらよかったのに」


「イオンさんも来るなんて聞いてなかったから仕方ないでしょ。それに忙しいときにメール入れるからそこまで気が回らなかったのよ」


 昨日はタイミング悪かったんですね。


「それにしても皆さん仲がいいんですね。店員と常連と言うより、同じパーティかクランみたいです」


 レイチェルさんと知り合いと言われましたが、ここまでとは思いませんでした。


「あながち間違ってないよ。レイチェルがお店持つ前は、結構パーティ組んでたしね」


 それででしたか。


「キイたちは当時から強かったからサポート役としてでも同行できれば結構美味しかったんだけど、無茶苦茶するから私以外誰も付いて行けなかったのよね」


「むしろあそこまで張り付いてくるのに生産職っていうほうがおかしい」


「戦うメイドさんっていいでしょ」


「あのころはただの素材マニアだったでしょーが」


 メイド服をアピールするようにターンするレイチェルさんに、容赦なく突っ込みを入れるキイさん。

 本当に気安い間柄のようです。


「とにかくバレちゃしょうがない。改めてバトルデイズ店長のレイチェルよ。生産系なら何でも相談に乗るから気軽に言ってね。特に可愛い装備なら任せなさい!」


 先ほどまでのお淑やかな雰囲気はどこへやら。腰に手を当て堂々名乗るレイチェルさんでした。



2/1 誤字修正しました。


今後はレイチェルさんを書きやすくなるので一安心(ぇ


それと今回のことでプルストさんは『女性の服を褒める』試練を突破しました。内容はともかくとして。

そのうちいいことあるでしょう。(確定)

なのでバールと風魔手裏剣とダートは彼に受けてもらうということで。……ダメ?ですよねー。



Q:キーシリンダーASSYって何?

A:エンジンをかけるときに鍵を差す穴のこと。鍵はスペアを作れるけど、穴のほうは難しいのでイオンはこっちを外してます。


最近は鍵を持ってるだけでエンジンをかけられるプッシュスタートも増えましたね。そんな車に乗る前は楽でいいなぁと思いつつ、乗ると“エンジンをかける”という実感が薄くて物足りなく感じるジレンマ。

難しいものです。


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