10-1 すごいなぁ。x2
金曜日の学校で考えることと言えば、土日の予定というのが定番です。
部活に精を出す人遊びに行く人。
私のように仕事に精を出す人。
基本的には楽しいことや、自分のやりたいことばかり考えます。
しかも昨日はテスト休みでしたから、わずか一日のために学校に来るのは苦行だと言う人だって居ます。
そんな人たちは余計に明日のことについて思いを馳せているでしょう。
中には、現実逃避のためという人もいますけど……。
「今回の平均は44点だったからなー赤点取ったやつは容赦なく追試だぞー」
それだけ言い残して先生が教室を出て行きます。
授業が終わり昼休みに入りましたが、そこら中で悲鳴が上がりました。
この学校の赤点は30点以下からなので、結構な数の追試者が居ますね。私は大丈夫でしたけど。
「あっぶな! あっぶなかった!」
真里も大丈夫だったようです。平均は割ったようですが。
でも一番苦手な数学をクリアしたので大丈夫のようですね。もう苦手科目は残ってませんし。
土日を追試対策に付き合うことにならなくてよかったです。
「何とかしのいだみたいね」
「これも志乃大明神様のおかげでございます」
「手を合わせるのはやめなさい」
「じゃ碧大明神様」
「撫でても御利益はありませんよ」
それに私は何もやってません。
あとご飯が食べにくいです。
「よかった……これでゲームやれるわ」
「(うんうん)」
購買から帰ってきた相田君と西君も安心してます。
ちなみにこの学校には学食が無く、購買しかありません。
なので昼食は持参か購買で買ってくるかのどちらかです。抜け出す人も居ますけど。
「ゲームで思い出した。次会ったらサブクエの儲け渡すから」
「は? なんで金? つかあれからサブクエやったのかよ」
昨日のサブクエストはクエストと同時進行だったので、クエストに専念していた人に申し訳ないということで儲けの一部を渡すことになったんです。
言い出したのは真里です。私も全く異論はありません。
「いや理由はわかったけどいらねーって。俺ら何もやってないし手間かけられたわけでもないし。ポーション渡した程度ならそこまででかい金額でもないだろ」
「(うんうん)」
リード君の言うことももっともです。自分が何もしてないのにお金だけもらうのは気が引けますよ。
ですが『でかい金額』なんですよね……。
「せめてポーションの売り上げだけでももらってあげて。じゃないともっと大きな物渡すって言い始めるわよ」
「なんで東まで……何か聞くのが怖くなってきたんだが」
まさか東さんからも後押しがあるとは思わなかったんでしょう。
相田君驚いてますし、西君も首をかしげてます。
昨日別れてからのことを話し終わる頃には、疲れた表情になってましたけど……。
「何で片手間で始めたサブクエで……エスと一緒にレアMOB倒すことになって……そんなレアドロップ入手してんだ……」
「知らないよー話聞いたらこうなっただけだしさー。むしろなんで今まで攻略されなかったのかわかんないってー」
終わってみるとものすごいあっけなく感じますからね。
話をして、ポーションを渡して、魔物を一体倒しただけですから。
ですが……。
「無理もないわよ。あの道具屋、基本的には通常営業してたんだから」
セカ村のアーニャさんの件は宿屋が営業してなかったことから気付きやすかったですが、今回はノナさんがお父さんに代わって営業を続けていたため、他のプレイヤーには気付かれなかったんだと思います。
ギルドの裏という好立地ですが、道具屋は表通りにもあるのでそっちを利用する人が多かったんでしょうね。そちらのほうが店舗も大きかったので。
配達業務もやっていたようですが、状況が状況なので最低限にしていたそうです。その時間はお店は閉めていたようですが、あまり長い時間というわけではありません。
なので私たちが配達中のノナさんを見て、何かおかしいなという疑問を抱かなかったら当分のあいだ気付かれなかった可能性が高いのです。
アーニャさんの場合は気付いてからが大変だとしたら、今回は気付くまでが大変なサブクエストだったということですね。
「それにサブクエの報酬なんて本当にピンキリなんだから。今回が幸運すぎただけよ」
東さんの言う通りです。
それにメタルイーターはクエスト中でなければ出会わない魔物というわけではありませんから、偶然誰かが倒してしまうことだってあったはずです。
それが倒されず生き残っていて、しかもあんなに成長していたのはものすごい幸運だったと思います。
「ラッキーで入ったお金なんだからもらってよ。幸運のお裾分けってことでさ」
「まぁ、そういうことならそれくらいの金はもらっても……」
二人から説得されてひとまず納得したようです。
よかったです。ポーションの代金だけなので金額は大きくありませんが、私たちだけ儲けすぎるのもなんだか申し訳なかったので……。
「ちょ、ちょっとっ、さっきから何話してるの!」
慌てたような声に顔を向ければ、そこには驚いた表情の黒田先生。
何の話と言われても、ゲームの話ですが……。
「お金がどうとかなんて、一体どうしたんですかぁ!」
『お金』『もらってよ』『それくらいの金』……。
そこだけ聞くと誤解する要素しかありませんね。
黒田先生が慌てるのも無理ないです。
「先生落ち着いて下さい。これはVRゲームの話です」
「ぶいあー……る?」
「そうです。昨日このメンバーでVRゲームで遊んでいてゲーム内のお金を手に入れたんですが、それの分配が足りなかったので追加を渡す話をしてたんです」
きょとんとする先生にあくまで冷静に説明する東さん。
すぐに理解したようで顔が赤くなっていく黒田先生。
「く、詳しく聞きもせず怒鳴ってごめんなさい……」
そのまま縮こまるように頭を下げられました。
「別にいいよーともちゃんせんせー。怒鳴るっていうか可愛かったしー」
その下げた頭を撫でながら真里が慰め(?)ます。
いつもならすぐに抵抗しますが、今は申し訳なさが先に立ってるのかされるがままです。
「そうですよ先生。誤解されるような言い方をしてた私たちが悪いんですから。それに言葉だって誰かを責めるようなものではありませんでしたし、本当に気にしないで下さい」
「あー、変な言い方してすんません」
「すいません」
「誰も気にしてませんから頭を上げて下さい。でないと真里の手が止まりませんから」
みんなで慰めていると、ようやくおずおずと頭を上げてくれました。
「本当にごめんなさい。慌てないように気をつけなきゃって思ってるんだけど……」
「先生になって二年目なんですから、まだこれからですよ」
「そうだよーともちゃん頑張ってるってー」
真里の言う通り、黒田先生の授業はわかりやすいって人気です。
そのせいで授業速度が遅くて、テスト前に詰め込むこともありましたが……。
でもそれこそまだ二年目なんですから仕方ないと思います。すくなくとも去年よりは良くなってると思いますし、東さんの言う通りこれからです。
「うぅっ、みんなありがとう……でもともちゃんはやめて……」
「それがなかったらくろちゃんじゃないよー」
「くろちゃんもやめてっ。もう……」
仕方がないなぁという感じで笑ってくれました。
先生という職業は大変らしいですからね。休み時間くらい楽しくしてもらいたいです。
「でもどうしたのせんせー。昼休みにこっち来るって珍しいよね」
「うちのクラスだけじゃないんだけど、全体的に平均点が低かったみたいだから……少し気になって」
見回しながら言う先生につられて周囲を見てみれば……平気な人とそうでない人の落差が激しいですね……。
魂が抜けたように天井見てる人とか、泣きそうになりながら友人に断りの電話入れてる人が居る一方で、追試のない者だけで遊びに行く予定立ててる人とか、『これ一気飲み出来たら勉強教えてやっから!』などと言ってメッ○ール(肌で暖めてたので温そうです)を押しつけてる人とか……。
本当に両極端です……。
「それでクラスを見に来たら珍しいメンバーで集まってるから、どうしたのかなって」
珍しいですか?
「女子の三人はともかく、男子の二人も一緒なんてなかったよね。少し話すくらいなら去年も見てたけど、一緒にご飯食べてるなんて見たことなかったから」
「言われてみればそうだねー」
そういえば話の流れで自然と一緒に食べてました。
言われてみれば珍しいです。
「だから何かあったのかなーって思ったんだけど、まさかVRゲームとは思わなくて。新さんが居るから余計に」
「私ですか?」
突然名指しされました。でもVRゲームと私ってそんなに変でしょうか?
「気を悪くしたらごめんなさいね? でも去年の佐々木さんからの猛アタックを躱してた新さんのイメージが強くて……そういう娯楽と結びつかなかったっていうか……」
「「「「あ~」」」」
そう言われると自分でも納得です。今でも娯楽とはあまり縁が無いと思ってますし。
VRゲーム、というかBLFOは、どちらかというと現実世界の延長みたいなものだと思ってます。
あっちの世界とこっちの世界を混同しているつもりはないんですが、どっちも一つの世界で、今の私には二つの生活があるというか。
娯楽というより、遊んでばかりの別の生活を楽しんでるという感じで……そ、そういうのを娯楽って言うんですっけ。
空を飛んで、美味しいもの食べて、魔物と戦って……。
私、実は結構遊び人だったんでしょうか……。
い、いえ。魔物と戦うのは冒険者の仕事です。遊んでばかりではありません。定職に就いてますっ。
……なんでもしていい仕事って、フリーターとあまり変わらないような気がしますが……。
と、とはいえこれは黙っておきましょう。今そんなこと言うと先生に心配かけます。
「いつものように真里に誘われて始めることにしたんですけど、実際ゲームを見たらものすごい面白そうで、やってみたら大好きになってしまったんです。ここまで好きになるなんて私でも思いませんでした」
嘘は言ってないですよね?
「そうなんですかぁ。新さんも佐々木さんも良かったですね。いいもの見つかって」
「今じゃバラ色人生でーっす」
抱きついてくる真里を見る先生は安心したような表情です。
去年は心配かけましたからね。
何度も誘ってくる真里に対して、何度も断る私。
何か理由でもあるの? と心配されてしまったんですよね……その節はお手数おかけしました……。
「でもゲームのやり過ぎはダメですよ? VRは特に時間泥棒だから。東さんが付いてるから大丈夫だとは思うけど」
「普段から言ってますしテスト前は没収しますので、安心して下さい」
「ヒドいんですよー碧はテスト前でもやってるのに私だけー」
「あ、遊ぶのも大事ですけど、勉強を疎かにするほどログインしてはダメですよ?」
まさか私がそこまでしてるとは思わなかったんでしょうね。先生驚いてます。
「大丈夫です。確かにテスト二日前までプレイしてましたけど、むしろ点数は上がりましたので」
「それならいい……のかな?」
いわゆるストレス発散とか、テスト後の楽しみとか、そういう効果もあってモチベーションが上がったんだと思います。
家で勉強したのは週末の土日だけでしたが、ものすごく効率よく勉強できました。
まだよくわかりませんが、私の場合は適度に遊んだほうがいのかもしれません。
「ちなみに先生はどんなゲームをやってるんですか?」
「えっ、私?」
なんとなく気になったので聞いてみます。
他のゲームをするつもりはありませんが、先生がどんなゲームを選んだのかは気になったので。
「さっき『ログイン』と言われたので、慣れてるのかなぁと」
ゲームを遊んだことない人はあまりログインとは言わないんじゃないのかなと。私も最初はログインとは言いませんでしたが、開始時の文字を見ているうちに自然と使うようになりました。
「時間泥棒とも言ってたよね。しかもなんとなく実感こもってそうだし」
真里が付け加えます。そこも気になってましたので、頷いて後押しします。
「なんで二人ともそんな鋭いの……」
「この二人をセットにすると、たまに恐ろしい能力を発揮するので」
恐ろしいほどでしたか……。
「別に秘密なわけじゃないからいいけど……」
その言葉の途中で呼び出しの放送が入りました。
しかも黒田先生です。
「あーっ、今日提出のプリントまとめるの忘れてたー!」
ごめんねー、っという言葉だけ残して慌てて帰っていきました。
先生、廊下を走ると怒られますよ。
慌てない先生を見るのは、まだまだ先になりそうです……。
◇◇◇
あぁ……今日も疲れたぁ……。
そりゃプリントまとめるの忘れてた私が悪いですよぅ……でもそれを注意する時間があるなら先にプリントまとめさせてくれたっていいでしょ……。
テストも終わって今日は早く帰れると思ったのに、もうこんな時間だよ……。
ねちねち注意して、来週に伸ばして『あげました』なんて恩着せがましいこと言って、いつまでも居残らず速やかに帰るように、なーんて言い残して一番に帰ってくし……。
うぅぅぅぅぅぅぅ…………。
あーーーーーーもうっ!!
いいもん仕事終わったもん! 私だって帰っちゃうもん! 帰ったら私だって美味しいご飯食べるもん!
今の時間だったら値引きされてるんだからね! 値引きシールが付いてると美味しくなるんだからねっ!
うぅ……こういうときお酒飲めたらスッキリするのかなぁ……でも私全然飲めないし……。
いいもんお子ちゃまで。帰ったらご飯食べてゲームするもん。明日はお休みだから夜更かししちゃうもん。
ゲームと言えば新さん、本当に楽しそうだったなぁ……。
去年は佐々木さんが無理矢理誘ってるんじゃないかとか、新さん顔には出さないけど本気で嫌がってるんじゃないかとか、何か家庭の事情でもあるのかとか考えたっけ。
どうもそういうのじゃなかったみたいだけど。
ただ単にわかりにくいだけだったんだよね。顔に出ないしペースも変わらないけど、嫌なことを無理矢理隠してるんじゃなくて、本当にどうとも思ってないだけだったり。
そういうとこ、新さんのことよーく見てたらなんとなくわかってきた。
同じような笑い方でも、あまり話をしない人だと店員さんのゼロ円スマイルみたいなんだけど、相手が佐々木さんだと全然違う。
なんて言っていいのかわからないけど……花が咲いたでもないし、光ってるでもないし……でも自然に笑ってると思う。
楽しいことだったら普通の子みたいに楽しい顔するんだよね。
それに気付いたら、佐々木さん絡みだと結構笑ってるってわかった。
そんな新さんがゲームの話をしてるのは本当に楽しそうだったんだよね。佐々木さん絡みとはいえ、今でも嫌なことは平気で断るから本当に楽しいみたい。
そういえばゲームのタイトル教えてなかったっけ。また時間があるときに教えてあげないと。
でも私も新さんがどんなゲームやってるのか気になるなぁ。あの新さんがあそこまで楽しそうにするなんて、ものすごく気になる。
それに比べて私のゲームは……面白いし嫌いじゃないんだけど……今のままプレイしていてもいいのかなぁ、なんて考えちゃうんだよね……。
はぁ。
うん、帰ろ。こんなところにいつまでも残ってるから暗くなるんだよ。帰ってご飯食べよ。
他のゲームだってタダじゃないんだから、今のゲーム、もう少し続けてみよ。
最近ログインしてなかったし、何か変わったことあるかもしれないよね。
そういえば公式イベントとかあったっけ。絶対出ないけど。
あ、先に葉子にメール入れとこっと。
まだ残ってたはずだけど、無くなったら困るもんね。
先生はどんなゲームやってるんでしょうねー(棒
今話は中盤から視点がころころ切り替わります。
ですが何人ものあいだで視点パスするわけではないので、今のところ明記はしないつもりです。
『わかりにくいから明記して!』という意見が多かったら明記しますので、ご指摘お願いいたします。
Q:なんでそんな書き方なの? 懲りてないの?
A:迷走中……それは人生で一度は訪れることになる、巨大な迷路なのさ……あ、痛いっ、ゴメンナサイッ、ハンマー投げないで!